Infoseek 楽天

【社名変更の日本工営】ID&Eホールディングス・新屋浩明社長の「まちづくり」構想力

財界オンライン 2023年7月13日 7時0分

「ますます世の中が複雑化する中で、まちづくりへのトータルソリューションの提案が求められている」─。このように語るのはID&Eホールディングス(HD)社長・新屋浩明氏だ。国内外の社会資本整備を数多く手掛けてきた日本工営。そんな同社は創業77年を経て新社名のHD体制に移行した。様々なプロジェクトに当たって日本工営に声がかかるのは創業以来引き継がれてきた海外での経験値がある。

【マテハン世界首位】ダイフク社長・下代博「機械にできることは機械に任せ、人にしかできない仕事は人が担う時代になった」

JFEの製鉄所跡地の再開発

「ダムを1つ造るにしても、発電された電気を使う住民がその下流域に住む。それに伴って道路や橋、トンネルも必要になる。あるいは鉄道を敷設しなければならない。そうした全体感の伴うまちづくりを行うことが建設コンサルタントの真の役割だ」─。インフラ整備や都市計画に関する計画・設計を手掛ける建設コンサルタント業で国内最大手のID&EHD社長の新屋氏はこう強調する。

 ダムや鉄道など大規模インフラの計画や設計、従来の交通サービスに自動運転やAIなどのテクノロジーを掛け合わせ、MaaSに組み込んだスマートシティ……。国や地方自治体、海外政府機関による社会資本整備をはじめ、民間企業の再開発、電力会社の変電所や発電所の新設や改修など、大規模なプロジェクトには必ずと言っていいほど「日本工営」の名が加わる。

 例えば、高炉等設備休止後の土地利用転換を進めるJFEスチール東日本製鉄所。日本工営はJFEホールディングス(HD)の傍に寄り添ってサポートする「インハウスコンサル」として参画し、200ヘクタールにわたる広大な扇島地区の土地活用について検討を進めている。「港湾の新たな整備の方向性や近隣の羽田空港との相乗効果など、効果的かつ多面的で多様性のある土地活用を提案していくためのアイデア出しを行っているところだ」と新屋氏は語る。

 これまでのプロジェクトでは与えられた1つの課題に対する解決策を提示すれば良かったが、「今はSDGsの流れが企業に複合的なソリューションを求めるようになっている。JFEHDの将来価値の向上にも寄与する必要がある」と新屋氏。

 日本工営は発注者と一緒になって、どう社会資本整備を行うべきかのアイデアを提供する企業。同社には国土交通省からのダムや河川、農村、交通の整備、更には防衛省からの防衛施設整備業務などを行う「コンサルティング」、土木と建築領域に跨る技術で都市の総合的なプロデュースを行う「都市空間」、電気設備の製造・工事やエネルギーマネジメントを手掛ける「エネルギー」の3事業がある。

 では、なぜ社会資本整備を行う際に、日本工営に声がかかるのか。新屋氏は「新たな社会課題に対する解決策を提案することに対する経験値があるからだ」と答える。現在進行中の再開発や社会資本整備は「1企業で全てを行うことは難しい時代になっている」(同)。

 仮にビルを壊して新たな市街地を造ろうとしても、エネルギーマネジメントやMaaSの実装など、不動産会社やゼネコン1社で全てを担うことはできない。無論、建設コンサルもそうだ。しかし、過去に実践したという経験値を持っていれば、「都市機能の集約を図りながら拠点間ネットワークを構築することで、賑わい創出と渋滞解消を同時解決する」といった地域課題解決の最適解を提案できる。



海外での経験を〝逆輸入〟

 日本工営はこの経験値を実は海外で積み重ねてきた。新屋氏は「創業以来、当社は水資源開発・電源開発に始まり、結果的にまちづくりに貢献する事業を担ってきた」と繰り返す。

 大正末期、創業者である久保田豊氏は当時世界最大級のダム「水豊発電所」をはじめとする数々の朝鮮半島の電源開発の指揮・監督にあたった。このとき久保田氏は単なるダム建設に留まらず、建設に従事する人々が建設現場に通い、建設に必要な材料を運ぶための道路や鉄道を整備した。そのことによりダム完成後の下流域に産業立地が進み、まちづくりにもつながった。

 その後、日本工営を創業し、戦後焼け野原になった日本の国土の復興に尽力した久保田氏だが、その想いは再び海外に向く。54年に海外進出第1号としてビルマ(現ミャンマー)の発電プロジェクトを手掛けたのだ。それが現在の日本工営のグローバル化へとつながる。今では世界160の国と地域での実績を持つ。

「日本の法規制などで難しい取り組みは海外で実践し、そこで経験を積んできた。結果として当社は社会課題に対して新たなソリューションを創出する企業グループになっている」(同)。要は海外で培った経験やノウハウを日本に〝逆輸入〟しているのだ。

 今年4月には「ウクライナ復興支援室」を新設。現在は破壊された都市基盤の本格的な復旧・復興に向けた基本計画を策定する業務を実施し、ウクライナの復旧・復興支援につなげていく考えだ。

 そして日本工営は7月3日に持株会社「ID&Eホールディングス」を発足させた。HD化は2年前に新屋氏が社長就任時に宣言した取り組みだ。「土木・建築・エネルギーなどのノウハウを融合させ、より複雑化した社会課題を解決できるようにしたい」と狙いを話す。

 一方で国内の建設コンサル業界は約500社がひしめき合う業界。トップの日本工営のシェアは1割ほど。「世界規模で見れば30位前後であり、更なる成長が必要」と新屋氏。「志を同じくする企業と共創し、企業価値を高めていきたい」と語る。

 ますます複雑化する世の中で、複合的な課題を一挙に解決する包括的なまちづくりの提案が建設コンサルに求められている。

この記事の関連ニュース