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モンスターラボHD・鮄川宏樹のDX支援ビジネス 「ネットとパソコンがあれば、どこでも仕事ができる!」

財界オンライン 2023年7月26日 7時0分

クボタの故障診断アプリを開発

 世界各地の建築現場や農業の現場に建設機械や農業機械を提供しているクボタ。海外にも多くの販売拠点を抱えているが、米国では、ある課題を抱えていた。建設機械の修理対応だ。現地の担当者のスキルや知識によってはマニュアルでは不十分なケースがあった。担当者のスキルや知識に左右されずに故障の原因究明ができ、機械の使用できない期間(ダウンタイム)を削減できるソリューションを求めていたのだ。

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 そこで開発されたのが故障診断アプリ「KubotaDiagnostics」。このアプリでは故障原因を診断した上で、具体的な内部の故障箇所をスマートフォンの画面越しに視覚的に表示できる。これによって経験が浅い技術者の修理対応時間を約3割から最大で8割削減できた。このアプリを開発したのが大企業や自治体のDXを支援するデジタルコンサルティング事業を主力とするモンスターラボグループだ。

 同社は「家庭教師のトライ」とスマホアプリ「TryIT」も開発。いつでも無料で映像授業を視聴できるサービスを展開することで、家庭教師が不足する地方のユーザーや経済的な理由で家庭教師を雇えないユーザーでも教育サービスを受けられるようにした。

「DXの事例は世界中にあるし、当社のエンジニア・デザイナー・コンサルタントも世界中にいる。彼らの能力や知見を活かし、DXや新規事業の構想から、それを具体的なプロジェクトに落とし込んで戦略を立て、プロダクトをローンチし、その後も顧客のフィードバックを得ながらブラッシュアップしていく。各領域の専門家が結集し、〝アジャイル〟という小さくスピーディーに作って改善活動を繰り返せる体制が我々の強みだ」─。このようにモンスターラボHD社長の鮄川氏は語る。

 全産業でDXが声高に叫ばれる中、日本におけるDXのための人材が不足している点が深刻な課題になっている。2030年には約60万人のIT人材が不足すると見込まれる。しかし海外を見渡すと若くて優秀なエンジニアはたくさんいる。

 コロナ禍前から業界が抱えるこの課題に対し、海外のIT人材を積極的に採用してきたのがモンスターラボグループだ。鮄川氏は「顧客の体験やビジネスをデジタルの力で変革することを支援していく」と話す。

 同社は06年に創業し、14年からグローバル展開を開始した。デンマークの会社のM&Aを経てイギリスに進出。ドイツやオランダにも市場を拡大し、中東にも進出した。北米ではニューヨークの会社を買収後、開発拠点をコロンビアに作った。欧州では開発拠点をチェコやウクライナ、ポーランドに構える。



世界中にエンジニアやデザイナーを抱えて

 現在は世界20カ国・33拠点を構え、世界中にエンジニア・デザイナー・コンサルタントなどを抱える。同社の全従業員約1500人のうち、日本以外のグローバルの従業員は1200人を超える。そして22年12月期の売上高143億円のうちの半分は海外だ。一方で国内では顧客の8割以上が大手企業や上場企業のDXになる。

 要は、世界中にIT人材を抱えることで、各拠点の得意領域を集約したアジャイル開発で顧客のニーズに合った最適なソリューションを提供できるようにしているのだ。いわば世界中のIT人材が持っている技術やスキルの〝いいとこどり〟だ。国をまたぐグローバル化でもある。

 冒頭のクボタの事例では、ユーザーとサービスや商品の接点の作り込みにおいて開発実績が豊富な日本でこれを実践し、故障診断のニーズが最も高かった米国で運用開始と効果を検証。グローバル市場において知見を持ち、スピーディーにシステム開発ができるベトナムで構築した。3拠点での分業で高品質なアプリを開発したのだ。

「インターネットとパソコンさえあれば、世界中どこからでも仕事ができる」と鮄川氏。同社はパレスチナのガザ地区にもチームを持っている。「パレスチナはアラビア語圏。中東のサウジアラビアやUAEなどの仕事を受ける際の開発拠点になる」と話す。

 海外企業を買収して失敗したケースは大手企業にも多い。鮄川氏はどのような経営の舵取りを行っているのか。「重要なのは対話。買収した当社が買収先をコントロールするのではなく、サポートするという姿勢を示す。日本のやり方を押し付けない」。そのため鮄川氏自らが海外の拠点を回る日々を送る。

 鮄川氏がこのような経営スタイルを考えたのは2社目のベンチャー企業にいた2000年代前半。神戸大学卒業後にPw Cコンサルティングに入社。その後、ベンチャー企業を経験したのだが、「受託開発を始めて中国でIT開発拠点を設立したとき、国内のエンジニア不足が深刻になっていくと感じた」。

 さらに鮄川氏は「グローバル企業であるからこそ地方創生の役にも立てる」と語る。同氏は21年に出身地である島根県出雲市のチーフデジタルオフィサー(CDO)補佐官を兼務し、現市長の補佐官として行政や地域のDXにも取り組んでいる。

 一方で国内に目を向けると、地方創生に寄与した象徴的な出来事がある。ロシアのウクライナ侵攻を機に、ロシアで会社を経営している鮄川氏の友人がロシア人やウクライナ人の社員を含めて出雲市に会社ごと移転したのだ。「デジタル業務であればグローバルな企業と人材を同時に集めることができる」(同)。

 DX支援は大手からベンチャーまで、あらゆる企業が様々な切り口で手掛ける競争領域。その中で、グローバルな知見をフル活用するモンスターラボグループの独自戦略が今後も試される。

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