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「給油地点から生活プラットフォームへ」ENEOS・齊藤猛の事業構造変革論

財界オンライン 2023年8月3日 18時0分

脱炭素社会の実現に貢献する地域づくりを

「この4月から、静岡・清水に次世代エネルギー供給プラットフォームの建設を始めた。太陽光で発電した電気や水素などのエネルギーを、地域住民の皆さんに供給させていただき、脱炭素社会の実現に貢献する地域づくりを推進していく」

 こう語るのは、ENEOSホールディングス社長の齊藤猛氏。

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 ENEOSが既存の製油所やサービスステーション(ガソリンスタンド、以下「SS」)を活用した、新たなビジネスモデルの構築を急いでいる。

 その一つが、清水製油所跡地を活用した「清水プロジェクト」。同社は静岡県、清水市とそれぞれ提携しており、製油所の跡地に太陽光発電設備や大型蓄電池、水電解型水素ステーションなどを設置。再生可能エネルギー由来の電力や水素(グリーン水素)を製造・供給する。

 現地で発電した地産の再エネの有効活用を図るのが目的で、災害時や停電時には自立的にエネルギー供給を行うことにより、地域の防災、減災にも貢献できるという。

 同社がこうした取り組みを進めるのは、急速に進む脱炭素化の流れに対応することや、石油製品の需要が徐々に減少していく中で、閉鎖した製油所などの有効活用を図る狙いがある。すでに同社は静岡に社員を常駐させ、様々な構想を計画中だ。

 現在は、土壌汚染の調査や津波対策、コスト負担などを考慮しながら、静岡市などとの協議を進めているところ。

「再エネ由来の電力および水素を製造し、災害時に電気や水素を供給したり、FCバス(燃料電池バス)やFCV(燃料電池車)への水素供給を検討している。海の近くで広大な敷地があることを活かし、自治体と企業が組んで地域を盛り上げていくことができれば」(齊藤氏)

 同社は、20年に大阪製油所(大阪府)を停止させ、22年には根岸製油所(神奈川県)の一部の装置を廃止。和歌山製油所(和歌山県)も精製・物流機能を停止する考えで、遊休地をどう活用していくかは大きな課題。将来的に遊休地を新たなエネルギー供給拠点として再生し、他の企業を誘致して新たな街づくりを実現することができれば、エネルギー会社ならではの新たなビジネスモデルの創出につながるかもしれない。



エリアによって求められる需要は違う

 もう一つ、大きな課題がSSの活用法。国内石油元売り首位のENEOSは日本全国に1万2千超のSSがある。それも大都市からへき地まで、郊外にも繁華街にも拠点があることは同社にとって大きな強みだ。

 しかし、今後は国内の人口減少・市場縮小や脱炭素化の流れの中でガソリン需要が減少。同社は2040年までに19年比でガソリン需要が半減するとの見通しを示しており、SSの存在価値を再定義。ガソリンの給油所からEV(電気自動車)の充電拠点へ変更するだけでなく、地域特性に応じた新たな生活プラットフォームへ生まれ変わらせようとしている。

「今後、モビリティサービスを増やしていくことで、SSはカーリースやカーシェアなど、車を所有しない人たちのための車ビジネスの拠点にもなり、中古車販売の拠点にもなる。また、過疎エリアなどにおいては、宅配やハウスクリーニングなど、ライフサポートサービスの拠点にもなり得る」(齊藤氏)

 2021年度には、具体的な実証実験を行った。ENEOSは三井不動産と連携し、千葉・柏の葉でオンライン診療の実証を実施。ボックス型の専用無人ブースを設置し、遠隔地の医師をオンラインでつなぎ、来場者が健康相談サービスを受けられるようにした。現在は、今後のさらなる実証可能性を検討している。

 また、ENEOSはSSを配送拠点として活用するため、今春、三菱商事との共同出資会社「Life Hub Network」を設立。全国1万2千超のSSを荷物の一時保管や最終配送拠点として活用することで、最終配送拠点から配送先までの区間(ラストワンマイル)を短縮し、配送の効率化を目指そうとしている。

ガソリンスタンドを配送拠点に ENEOSと三菱商事が新会社

 物流業界ではEC(電子商取引)市場の拡大に伴い、消費者向けの宅配荷物が増加。ラストワンマイルにおける効率的なサービスの需要が高まっている。

 一方で「2024年問題(時間外労働の規制強化によりトラック運転手の不足が懸念される)」に代表されるように、運転手の人手不足や長時間労働が深刻化するなど、課題が多い。

 このため、両社は全国に展開するSS拠点に着目。SSを荷物の配送拠点として活用することで、大型倉庫から送付先への直接配送に比べて必要な走行距離が削減されることから、運転手の負担や配送コストの低減につなげようという試みだ。

「三菱商事との取り組みは、トラックの運転手さんの人手不足や長時間労働が深刻化していることの解決の一助になればと考えている。エリアによって求められるサービスが違うので、地域の方々の利便性を高めるためのサービスを組み合わせて、SSを新たな生活プラットフォームとして活用していく」と語る齊藤氏。

 石油の需要減少への対応や製油所やSSの活用をいかに図るかは喫緊の課題。新たな拠点の活用法を見出すため、試行錯誤を続ける同社である。

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