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住友不動産『金利が付く時代』の不動産経営戦略 リスクを見極めながら攻めの経営

財界オンライン 2023年8月29日 18時0分

日本の不動産業界の先行きを巡って期待と不安が交錯している。足元ではオフィスもマンションも堅調だが、大型ビルの相次ぐ竣工で空室率上昇が懸念され、都心マンション価格の高騰は消費者離れの懸念を招いている。さらに先々は日本の金利の行方が注視されている。「金利が上がらないというシナリオで楽観視はできない」と住友不動産副社長の尾台賀幸(よしゆき)氏。リスクの多い時代にどう備えているのか─。

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大型ビルの竣工相次ぐ中・・・

「オフィスには、かなり人が戻っている。テナントさんの引き合いでも『借り増し』が増えている」と話すのは住友不動産副社長の尾台賀幸氏。

 この3年余のコロナ禍でリモートワークなどが浸透し、一部の企業ではオフィスを縮小するところも出た。だが、今になって縮小したオフィスの「借り戻し」や「借り増し」が増加。

「オフィスが『知的生産拠点』だと再認識した企業が多い」と尾台氏。新たなビルが建った際には、拠点を集約、拡張移転をする動きも出ている。「『オフィスはどうなる』という時期も一時あったが、ようやく実需が盛り上がってきて、先行きに明るさが見えてきた」(尾台氏)

 ただ、住友不動産を含め、各社が大型複合ビルを完成させていることもあり、「オフィス空室率が高まるのでは?」という懸念の声もある。どう見るのか。

 これに対し「東京のオフィスマーケットは世界最大」と尾台氏は言う。世界の主要都市のオフィスストックを比較すると、英ロンドンが約600万坪、米ニューヨークが約1300万坪に対し、東京は約1800万坪。

 例えば、今年6月開業した住友不動産の「東京三田ガーデンタワー」の総貸室面積は約3万7000坪。この規模のビルが複数建ったとしても、東京のオフィスストックに占める割合は非常に小さいという考え方。

 尾台氏は2年に渡って、世界中のオフィス市場を見て回ってきたが、その上で「多くの方々は東京の大きさをご存知ない。大型ビルが何棟かできたくらいでフラつくマーケットではない」という結論に至った。

 従来、東京のオフィスというと丸の内、大手町、新宿、品川、渋谷などの開発が進んできたが、住友不動産は「オフィス適地」を広げつつある。そのきっかけとなったのが東京・高田馬場駅南側に建つ住友不動産新宿ガーデンタワー(新宿区大久保)。

 オフィスイメージがない街での開発だったが、事業計画を大幅に上回る家賃でテナントが埋まった。これを契機に池袋や中野などにエリアを拡大。

 オフィス適地を拡大しながら、東京23区を中心にビルを開発し、安定的に家賃を積み上げていくという住友不動産の戦略は、今後も変わらないということ。

 一方、マンションは販売自体は堅調ではあるものの、特に首都圏において価格高騰が顕著。「正直、『まだ上がるか』という状況」と尾台氏も言う。不動産経済研究所によると、2023年1―6月の東京23区内の新築マンション平均価格は前年同期比で60%上昇し、1億2960万円となった。1億円超えは73年の調査開始以降初めて。

「今はよくても、いずれ頭打ちになる時期が来る。そこに備えて、何をすべきかなのかという議論を毎月のようにしている」

 価格が1億円を超えるマンションは「億ション」と呼ばれて特別視されてきたが、今や東京23区では当たり前の光景に。新築の価格が高いため、中古物件の仲介を手掛ける住友不動産販売への引き合いも強い。

 バブル期と違って、不動産価値の評価手法は高度化。現在の価格は裏付けあってのことだが「常に慎重な態度で臨む必要がある。『バブルではないけど調子に乗るな』と戒めている」


金利上昇リスクにどう備える?

 23年7月、日本銀行がYCC(長短金利操作)政策を修正した。総裁が植田和男氏に交代して以降、正常化、つまり「金利が付く時代」へ踏み出すという観測が強い。

 金利上昇の可能性が出てくると、決まって不動産会社の株価が下がる。不動産開発における資金調達の金利が上がったり、消費者が支払う住宅ローン金利が上がって、購入を手控えたりという動きが懸念されるから。

 住友不動産は前期末時点で約3兆9000億円の有利子負債があるが「4兆円近い借金がある会社として、『金利が上がらない』というシナリオで楽観視してはいられない」と尾台氏。

 そのため、保守的な財務運営を展開。期間10年の長期借入比率は前期末時点で95%、固定金利比率は86%となっている。自己資本比率も10年前の15%から、ほぼ倍増の28%となった。

 シミュレーションだが、金利が0.5%上昇した時の業績影響は毎年20億円程度の利払い増。これは現在の賃貸事業の売上高約4000億円の0.5%。

 違う見方をすると、金利が上がるということは経済成長にもつながる。「金利上昇は短期的には住宅ローンに響くが、中長期的には金利が上がらない市場で不動産開発をするのか?ということにもなる。緩やかなインフレは望ましい。金利は上がるものだという前提で手を打つ」

 国内で手を打ちながら、一方で中長期の成長を見据えて海外の開拓も進める。その市場として選んだのはインド。

 前述のように尾台氏が2年間、海外を見た中で模索したのが「東京のような仕事ができる市場」。自前で土地を買い、長期保有で管理運営し、賃料を得て、その資金で再投資するモデル。

 インドは土地取得が難しい国だが、インド最大の経済都市・ムンバイで2件の官有地をオフィスビル用地として取得。合計約8万坪、約2000億円の投資規模となるオフィスビルを開発中。まずは5000億円をインドに投資し、国内経常利益約3000億円の1割、300億円を海外事業で稼ぐという目標。

「地政学、エネルギーなど様々な課題がある国だが、右肩上がりで成長するのは間違いない」として、リスクを睨みながら、長期での成長を目指す。

 国内外にリスクがある今だが、状況を慎重に見極めながら、投資を進めていく覚悟を見せる。

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