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BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏の提言「経済安全保障は日本への関心を再び高めるか」

財界オンライン 2023年9月9日 18時0分

経済安全保障の問題は、グローバル・サプライチェーンへの悪影響を通じて、一般に日本の産業界に追加的コストをもたらすと考えられるが、中長期的にプラスに働く可能性もゼロではない。

 四半世紀にわたり、日本が停滞してきた理由の一つは、グローバル経済において速いスピードで拡大を続ける中国経済への関心の高まりと、その逆である日本への関心の低下が背景にあった。もちろん、中国への関心が高まったのは、中国経済が高い成長を続けたことの結果であり、日本経済への関心が低下したのは、日本経済が停滞を続けたことの結果である。

 ただ、組織論の分野で活躍しノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンが論じた通り、人々の関心の総量は限られ、それが実体経済への影響を増幅する。

 このアテンション・エコノミー(関心の経済学)の文脈では、世界の企業経営者や投資家からの日本経済に対する関心の低下は、日本が置かれた不利な立場をより強化したと見られる。日本国内でも、経営者の国内市場への関心は低下し、海外でのビジネス拡大ばかりが追求された。経済産業省や日本銀行は、日本企業が稼ぐ方法を変えたのであって、国内で稼ごうとも、海外で稼ごうとも、変わらないと説明してきた。人口減少で国内売上げの増加が期待できない日本に拘るより、成長の著しい中国など、海外でビジネスを拡大し、収益を上げることを推奨したように見える。

 しかし、海外での利益拡大は、国内での支出拡大にはつながっておらず、むしろ「合成の誤謬」を強めるだけではないか、筆者は疑問に思ってきた。高齢化の進む国内の需要構造の変化に適合する努力を怠り、かつての日本で利益を上げることができていた古いビジネスモデルを単に新興国に適用しているだけの企業も少なくないと警鐘をならしてきた。

 ただ、筆者自身、人々の中国など海外市場への強い関心と、日本市場への無関心を逆転させるための説得的なアイデアを持ち合わせていなかったのも、また事実だ。しかし、想定していなかったことだが、経済安全保障の観点から、半導体の製造など、日本における立地を増やす動きが近年見られる。経済安全保障の視点は、言わば「悪い均衡」から抜け出せない日本に大きな転機をもたらす可能性がある。

 ただ、日本に生産拠点の立地を増やそうにも、少子高齢化による人手不足によって、困難と考える人も少なくない。確かに人手は絶対的に不足している。とはいえ、多くの製造工程の現場は既に無人工場化されており、ロボティクスやAIでの対応が進み、限られた人手で対応されている。

 同時に、国内の生産現場を稼働させることは、新たな知の発見を可能とし、イノベーションによって日本の生産性を向上させる。それとともに、巡り巡って、国内での支出を増加させると考えられる。

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