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【待機児童ゼロ、高校生までの医療費助成を実現】東京都武蔵野市長・松下玲子に直撃!

財界オンライン 2023年9月10日 18時0分

「あなたの老後を支えるのが生まれてくる子どもたち。そこを理解して皆で子育て支援をやっていきましょう」と呼びかけるのは東京都武蔵野市長の松下玲子氏。同市は4年連続で待機児童ゼロを実現し、18歳までの人口も右肩上がりを続ける。「市民福祉の向上のために」という志の下、市長選に打って出た松下氏は就任時から子育て支援に取り組んできた。「子ども子育て応援宣言のまち」というスローガンを掲げる同市の取り組みから子育て支援策の現場の課題を探る。

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市長選挙時から掲げる政策

 ─ 岸田文雄政権が「異次元の少子化対策」を政策の柱のひとつとして打ち出しました。武蔵野市は先んじて「子ども子育て応援宣言のまち」というスローガンを掲げてきましたね。

 松下 政府もやっと子ども政策を大々的に打ち出したなというのが正直な思いです。私は2017年の市長就任時の市長選挙から子ども・子育てを政策の一番に掲げてきました。これに対し、一部の高齢者の方々からご批判を受けたこともありましたが、私はまずはこの政策を優先して実行してきました。

 その結果、21年4月から段階的に「高校生等医療費助成事業」として、市内の高校生の保険診療にかかる医療費の自己負担分を市が助成し、生後から高校生(18歳)まで自己負担なし、所得制限なしの制度を整えました。また、保育施設の整備等により20年度から4年連続で待機児童ゼロを達成しています。

 ─ 2期目の松下さんが市長に立候補しようとした経緯を聞かせてください。

 松下 私は市長になる以前、都議会議員を2期8年務めました。3期目の都議選に挑戦をして落選。武蔵野市の議席は1人区で激戦区でした。2回挑戦して2回とも落選でした。家族からも「2回落選したら、もう諦めて次の道に行った方がいい」とも言われたのですが、支援者や市民の方から「市長選に出てくれないか」と声がかかりました。

 実は最初はお断りしました。自分は議員向きで、市長には向いていないと思っていたからです。また、市長と議員は違うと。議員は問題意識を持って活動し、政策提言をしますが、市長は職員や組織のマネジメントもしなければなりません。

 ─ まさにトップとしての役割になりますね。

 松下 ええ。武蔵野市の職員は約1000人おり、会計年度任用職員も入れれば1500人ほどの組織です。そのトップになるということは、マネジメントという仕事も入ってくる。

 それは難しいと思っていたのですが、先ほど申し上げたように支援者や市民の方々からの後押しがあり、市長への立候補を決意しました。


都議会議員中に妊娠・出産

 ─ その決断の背景とは。

 松下 議員よりも市長の方がより政策実現ができるからです。政策提言をして相手の反応を待っているだけではなく、自分で実行できる。これは強みではないかと思いました。

 私自身、約15年前の都議会議員のときに、都議会議員としては初めて任期中に妊娠・出産をしました。子どもを持たれている議員の方はいらっしゃいましたけど、任期中に妊娠・出産したのは私が初めてだったのです。そのときに、周産期医療の課題を肌身で感じました。

 出産できる病院、産院が減っているという課題や救急車の妊婦たらい回し死亡事故などが当時はありました。

 さらには未受診妊婦の課題や保育園の待機児童などの課題をじかに経験しながら、自分もその立場で議員となり、市長として活動するのはすごく意義があると。これは当事者であるからこそと思うのです。

 ─ それが行動の背景にあったということですね。

 松下 ええ。私自身、子どもを産んで、子育てと仕事を両立する中で、例えば仕事中に保育園から電話があり、子どもが熱を出したので迎えにいくこともありました。会議の予定が入っていても早退せざるを得ませんでした。

 こういった当事者だからこそ分かる病児・病後児保育の充実や保育園の待機児童をゼロにするといった政策こそ、絶対にやらなければと思って市長になりました。

 ─ 冒頭で高齢者からは批判の声が上がったと。

 松下 はい。支援者の中には高齢者の方々もいらっしゃいました。そういった方々からは最初は怒られました。「子ども・子育てを訴えても票になるとは思えない」と。だから「高齢者支援だけをやっていればいい」と何人からも言われたのです。

 街頭演説をしているときには、独身の女性に「私は独身で結婚もしていませんし、子どももいません。あなたの政策には腹が立ちます」とも言われました。そこで私はこう言ったのです。「そうですか。でも、そんなあなたさまの老後はどなたが面倒を見るのですか」と。

 結婚していない、子どもがいないという個人のライフスタイルは選択肢があってしかるべきだと思いますし、いろいろな生き方があります。しかし、そういった方々も、いずれは年をとり、誰かに介護の世話になるわけです。誰かが産んで育てた人があなたの老後を見ることになるんですよとお話ししました。

 いま、あなたが子育てしていないから子育て支援にお金を使うなと思うかもしれませんけれども、そんなあなたの老後を支えるのは生まれてくる子どもたち。そこを理解していただいて皆で子ども・子育て支援を支えていきましょうと訴えました。



医療費助成のメリット

 ─ 人口減少の中で、どう社会を支えていくかですね。

 松下 その通りです。一見、子ども・子育て支援とは、子どもを育てる人への支援のように聞こえます。ですから、所得制限などの議論が出てくるのでしょうけれども、それは違います。高齢の方も独身の方も皆で支えないと、労働力人口が確実に減っていく中で社会を成り立たせることができなくなってしまうのです。

 消費者がいなくなれば企業にとってもマイナスです。ですからコロナ禍でも「子育て支援ではなくコロナ対策だけをすればいい」と言われたりもしましたが、私はコロナ禍でも子ども・子育ては大事で、高校生までの医療費無償化を実現しますと宣言し、コツコツここまでやってきました。子どもは未来の大人であり、未来の宝です。

 ─ 人と人との結びつきが薄くなる中で、武蔵野市は人のつながりやぬくもりを大事にしていくということですね。

 松下 はい。市民皆で支え合い、高校生までの医療費助成も東京都よりも先駆けて始めました。いろいろな意見がありましたが、医療費助成の意義を丁寧に粘り強く説明し、理解を求めました。

 子どもの間の医療費を社会全体で支えようという制度です。今は子どもを育てている親が負担している部分を皆で負担しよう。子どもが18歳になり、支援は終わり、そして、その子どもも今度は大人になるので、次は支える側になりましょうと。

 さらに私がこだわったのは所得制限や一部自己負担をなくした点です。病気やけがのリスクは本人の努力とは無関係です。どんなに健康に気を付けているアスリートだって、病気になったりします。本人の不摂生などではなく、努力とは無関係でけがや病気をするので、そのときには治療に専念するために、金銭的な部分は心配いらないよと。

 ─ 社会保障が何のためにあり、どんな考え方で運営されているのかを知るべきだと。

 松下 日本の社会保障制度は貯蓄型ではなく仕送り型です。いま年金を受給している方々は、かつて自分が払っていた年金を受け取っているわけではありません。今の現役世代が負担している年金をそのまま受け取っているだけなのです。まさに仕送り型なのです。

 そして、その仕送りをしている人たちがいなくなれば、今の日本の社会保障制度は破綻してしまうのは当然です。だからこそ、国も焦って「異次元の少子化対策」と言い出した。もっと思い切ってやろうというメッセージだと受け取っています。  ─ もう1つの待機児童ゼロはどう実現したのですか。

 松下 この議論も大変でした。総論賛成各論反対の方もいます。仕事と子育ての両立、または介護と子育ての両立という観点からも大事だけれども、うちの隣にはつくらないでねと。前市長の時代に市有地に保育園をつくろうとしたら反対の声が上がり頓挫しました。

 しかし私は絶対につくると。結果的に良い保育園ができました。市内でも高級住宅街とも言われている地域の市有地につくったのですが、保育園ができると地価が下がると近隣の方々から最後まで反対の声が上がっていましたが、とにかく交渉しながら理解を求め、最後は私の決断で実行しました。


インフラ再整備にも注力

 ─ その実行力で2期目はどんな政策を進めますか。

 松下 1期目と同じ子ども・子育て支援は継続していきます。加えて、老朽化した公共施設やインフラの再整備の二本立てで政策を実行していきます。武蔵野市は昨年、市制施行75周年を迎えました。早い段階で上下水道を整備して学校などを造り、まちづくりを進めてきたので、様々な施設が耐用年数の60年を迎える節目に当たっています。

 ですから、計画的な建て替えが必要ですし、維持管理も重要です。公共施設はしっかりと維持管理しないと、市民の生命が脅かされます。日頃のメンテナンスと適切な維持管理が非常に大切なのです。これは見えにくいのですが、決して手を緩める部分ではありません。

 特に道路や地下に埋設されている下水道管、水道管は、企業の力もお借りしながら進めていきます。ただ、人件費や資材費が非常に高騰しており、発注しても落札されないという難しさを痛感しています。公共事業なので法外な金額を提示することはできませんが、計画的な改修や維持管理を着実に進めていこうと思います。

 ─ 武蔵野市の人口の増減はどんな状況なのですか。

 松下 実は武蔵野市の人口は増えているのです。約15万人で微増を続けています。武蔵野市は土地の利用も見直していません。高層マンションがどんどんできるわけではないのですが、生活しやすいということで人口が増え続けているのです。

 私が就任してから6年間、子どもの数も1000人以上増えました。ですから、市としては人口増に対応した取り組みをし、市民サービスが低下しないようにしていかなければならないと思っています。

 ─ 武蔵野市は若者を中心に人気のある吉祥寺などを抱えています。その魅力とは。

 松下 1つは商業地域と住宅街が近接したコンパクトなまちと都心へのアクセスの良さです。市内にはJR中央線の駅が吉祥寺、三鷹、武蔵境と3駅ありますし、吉祥寺には井の頭線と京王線も走っています。三鷹駅はJR総武線の始発駅でもあり、東京メトロの東西線も走っています。

 そしてもう1つが緑です。これは意識しています。緑は市民の共有財産という認識の下、緑を大切にする街路樹や公園の整備、さらには武蔵野市には農地もあり、生産者の皆さまのお力を借りながら都市農地も保全しているところです。

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