水産資源の枯渇に
水産資源の枯渇にどう対応していくか─。
今、『秋の味覚』のサンマの姿が漁場から消えてしまい、8月下旬の初荷で1尾5300円強の値が付いたというニュースが話題を呼んだ。
「サンマ、鯖(さば)、それにイカなどが海から消えている」という悲痛な声が漁業から聞かれる。
日本人は歴史的に、タンパク源を水産物に頼ってきた。その水産物が枯渇し、世界中で資源の奪い合いになることが危惧される。
「水産物はこれ以上増えないという強烈な事態に今なっているんです。天然の魚はもうこれ以上伸びないと思いますね」と語るのは水産最大手、マルハニチロ社長の池見賢(まさる)さん。
「資源的に余裕があるのは1割しかない。3割はもう絶滅、6割はもうこれ以上獲ったら危ないよと言われています」
天然資源が減るのならと、養殖も盛んになった。最近は、陸上養殖への試みも各地で進む。
マルハニチロやニッスイなどの水産会社や大手商社をはじめ、建設会社やJR西日本などの鉄道会社の参入も見られる。
「水産物をどう確保していくかはわれわれが一番真剣に考えなければいけないところ」という池見さんに、今後の食料資源確保戦略を聞いた。
建設現場も工夫しながら
それにしても、今夏は暑かった。本来なら避暑地のはずの北海道ですら、35度以上の猛暑日が続き、熱中症による犠牲者も出た。
こうした異常気象は一過性のものではなく、今後も続くとして、どう企業活動あるいは日々の生活で対応していくべきか?
「住宅やマンション建設の現場、特に内装関係の現場では働くにも支障が出ています」とは某住宅メーカートップの話。
体に少しでも異常が感じられたら、すぐに作業を止めて、一息入れるなど工夫をしながらの作業。
また、介護施設などの現場からは、「お年寄りの中には猛暑を感じなくなっている方もおられるので、相当気を遣いながらの日々の仕事です」という声が届く。
各産業領域で、この異常気象にどう対処していくかという共通課題である。
狂気はいつかは消え去る
前述の海の異常だけでなく、異常気象は農作物の収穫にも大きなマイナス影響を及ぼしている。
ロシアのウクライナ侵攻も加わって、小麦などの穀物相場は高騰。昨年も小麦やトウモロコシの価格が急騰したが、こうした穀物危機も当分続く。
『地球の沸騰化』(グテーレス国連事務総長)はわれわれの生活に深刻な影響を与え始めており、各国が手を携えて、対応策、延いては問題解決策を見つけ出していかなければならない時。
しかし、現実には米中対立があり、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)が対峙するなど、対立事案が実に多い。
また、地域紛争や内紛などもあり、地球全体が揺らいでいる。しかし、課題解決への望みを捨ててはならない。狂気は、いつかは消え去る運命にある。人類の英知を信じて、正気を取り戻していくほかはないと思う。
ウナギの養殖に朗報
朗報もある。水産資源の枯渇に関して、ウナギ資源が先細りし、ウナギが食べにくくなっているが、「卵からウナギの成魚まで一気通貫での養殖に成功しました」と語るのは新日本科学社長の永田良一さん(1958年=昭和33年8月生まれ)。
永田さんは本誌で、「弘法大師の教え『大欲に生きる』に支えられて」を連載しておられる。
鹿児島生まれの永田さんの趣味は釣り。自身で所有する小型船で鹿児島港から硫黄島附近まで行くというから、釣りというより、漁を楽しんでいる。
医師の資格も持ち、科学的探究心の強い永田さんは、「シラス(ウナギの稚魚)が細ってきていて…」という知り合いの漁協関係者の相談をきっかけに、シラスの研究に着手。シラス漁が盛んな沖永良部(おきのえらぶ)島を拠点に、約10年にわたって研究を続けてきた。
ウナギの稚魚はシラスだが、そのシラスになる前に、〝レプトセファルス〟という仔魚の段階がある。
「ええ、レプトセファルスから半年経ってシラスウナギになり、10か月位経つと、食べられるウナギになります」
仔魚のレプトセファルスから、シラスに生育するまでの生存率は非常に低く、これをいかに高めるかが研究の重要項目だった。
「卵を孵化させ、レプトセファルスにして、それをシラスに育てていく。わたしたちの開発した養殖の技術では、この段階の生存率は50%から60%という高いものです」と永田さん。
永田さんはこの10年間に約10億円の研究資金を投じて、このシラス養殖技術をつくりあげた。
ウナギが成魚になるまでには、他の魚に喰われてしまうなど多くの試練がある。「ウナギの気持ちになって、研究してきました」と語る永田さんの笑顔がすばらしい。
精神文化を今一度
「日本の精神文化の深さ。これを今の世代は学んでこなかったということですよ。でも、若い人たちの間で、今また勉強したいという声も出始めています。で、わたしたちがやろうとしているのは、寺子屋教育と大学改革なんです」
こう語るのは、『一般社団法人世界のための日本のこころセンター』代表理事の土居征夫さん。
明治5年(1872年)に『学制領布』が出され、明治国家の学制改革が進められた。それまで、日本全国に約2万カ所あったという寺子屋教育は廃止された。
「近代化を急ぐ明治新政府が科学技術を導入しながら、そのために行った教育改革も分かりますが、寺子屋教育がなくなった影響は大きい」と土居さん。
日本は江戸期でも、心学の石田梅岩の私塾や寺子屋が武士階級も含めて、庶民の教育の場としての役割を果たしてきた。
「私塾の先に藩校もあるんですが、寺子屋教育には徳育というか、精神教育が入っていた。精神教育も、上から目線で教えるのではなく、子供たちが気づく機会があったんです。それで親も参加し、地域社会も参加している。先生がいて、本当に子供たちは社会の中で学ぶと。単に、先生が教科書で教え込む世界ではなかったんですよ」
深い精神が忘れられて、次に育ってきたリーダーたちが、「頭でっかちになってしまった。特に昭和以降はですね」と土居さん。
環境激変下をどう生き抜くか?
「知識とか論理ではなくて、人間性、徳育、そして直感、感性、情緒など統合智が必要です。そうでなければイノベーションも生まれない」と土居さんは語る。
生き甲斐、働き甲斐を含めて、「人」という問題にどう向き合うかというテーマである。
水産資源の枯渇にどう対応していくか─。
今、『秋の味覚』のサンマの姿が漁場から消えてしまい、8月下旬の初荷で1尾5300円強の値が付いたというニュースが話題を呼んだ。
「サンマ、鯖(さば)、それにイカなどが海から消えている」という悲痛な声が漁業から聞かれる。
日本人は歴史的に、タンパク源を水産物に頼ってきた。その水産物が枯渇し、世界中で資源の奪い合いになることが危惧される。
「水産物はこれ以上増えないという強烈な事態に今なっているんです。天然の魚はもうこれ以上伸びないと思いますね」と語るのは水産最大手、マルハニチロ社長の池見賢(まさる)さん。
「資源的に余裕があるのは1割しかない。3割はもう絶滅、6割はもうこれ以上獲ったら危ないよと言われています」
天然資源が減るのならと、養殖も盛んになった。最近は、陸上養殖への試みも各地で進む。
マルハニチロやニッスイなどの水産会社や大手商社をはじめ、建設会社やJR西日本などの鉄道会社の参入も見られる。
「水産物をどう確保していくかはわれわれが一番真剣に考えなければいけないところ」という池見さんに、今後の食料資源確保戦略を聞いた。
建設現場も工夫しながら
それにしても、今夏は暑かった。本来なら避暑地のはずの北海道ですら、35度以上の猛暑日が続き、熱中症による犠牲者も出た。
こうした異常気象は一過性のものではなく、今後も続くとして、どう企業活動あるいは日々の生活で対応していくべきか?
「住宅やマンション建設の現場、特に内装関係の現場では働くにも支障が出ています」とは某住宅メーカートップの話。
体に少しでも異常が感じられたら、すぐに作業を止めて、一息入れるなど工夫をしながらの作業。
また、介護施設などの現場からは、「お年寄りの中には猛暑を感じなくなっている方もおられるので、相当気を遣いながらの日々の仕事です」という声が届く。
各産業領域で、この異常気象にどう対処していくかという共通課題である。
狂気はいつかは消え去る
前述の海の異常だけでなく、異常気象は農作物の収穫にも大きなマイナス影響を及ぼしている。
ロシアのウクライナ侵攻も加わって、小麦などの穀物相場は高騰。昨年も小麦やトウモロコシの価格が急騰したが、こうした穀物危機も当分続く。
『地球の沸騰化』(グテーレス国連事務総長)はわれわれの生活に深刻な影響を与え始めており、各国が手を携えて、対応策、延いては問題解決策を見つけ出していかなければならない時。
しかし、現実には米中対立があり、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)が対峙するなど、対立事案が実に多い。
また、地域紛争や内紛などもあり、地球全体が揺らいでいる。しかし、課題解決への望みを捨ててはならない。狂気は、いつかは消え去る運命にある。人類の英知を信じて、正気を取り戻していくほかはないと思う。
ウナギの養殖に朗報
朗報もある。水産資源の枯渇に関して、ウナギ資源が先細りし、ウナギが食べにくくなっているが、「卵からウナギの成魚まで一気通貫での養殖に成功しました」と語るのは新日本科学社長の永田良一さん(1958年=昭和33年8月生まれ)。
永田さんは本誌で、「弘法大師の教え『大欲に生きる』に支えられて」を連載しておられる。
鹿児島生まれの永田さんの趣味は釣り。自身で所有する小型船で鹿児島港から硫黄島附近まで行くというから、釣りというより、漁を楽しんでいる。
医師の資格も持ち、科学的探究心の強い永田さんは、「シラス(ウナギの稚魚)が細ってきていて…」という知り合いの漁協関係者の相談をきっかけに、シラスの研究に着手。シラス漁が盛んな沖永良部(おきのえらぶ)島を拠点に、約10年にわたって研究を続けてきた。
ウナギの稚魚はシラスだが、そのシラスになる前に、〝レプトセファルス〟という仔魚の段階がある。
「ええ、レプトセファルスから半年経ってシラスウナギになり、10か月位経つと、食べられるウナギになります」
仔魚のレプトセファルスから、シラスに生育するまでの生存率は非常に低く、これをいかに高めるかが研究の重要項目だった。
「卵を孵化させ、レプトセファルスにして、それをシラスに育てていく。わたしたちの開発した養殖の技術では、この段階の生存率は50%から60%という高いものです」と永田さん。
永田さんはこの10年間に約10億円の研究資金を投じて、このシラス養殖技術をつくりあげた。
ウナギが成魚になるまでには、他の魚に喰われてしまうなど多くの試練がある。「ウナギの気持ちになって、研究してきました」と語る永田さんの笑顔がすばらしい。
精神文化を今一度
「日本の精神文化の深さ。これを今の世代は学んでこなかったということですよ。でも、若い人たちの間で、今また勉強したいという声も出始めています。で、わたしたちがやろうとしているのは、寺子屋教育と大学改革なんです」
こう語るのは、『一般社団法人世界のための日本のこころセンター』代表理事の土居征夫さん。
明治5年(1872年)に『学制領布』が出され、明治国家の学制改革が進められた。それまで、日本全国に約2万カ所あったという寺子屋教育は廃止された。
「近代化を急ぐ明治新政府が科学技術を導入しながら、そのために行った教育改革も分かりますが、寺子屋教育がなくなった影響は大きい」と土居さん。
日本は江戸期でも、心学の石田梅岩の私塾や寺子屋が武士階級も含めて、庶民の教育の場としての役割を果たしてきた。
「私塾の先に藩校もあるんですが、寺子屋教育には徳育というか、精神教育が入っていた。精神教育も、上から目線で教えるのではなく、子供たちが気づく機会があったんです。それで親も参加し、地域社会も参加している。先生がいて、本当に子供たちは社会の中で学ぶと。単に、先生が教科書で教え込む世界ではなかったんですよ」
深い精神が忘れられて、次に育ってきたリーダーたちが、「頭でっかちになってしまった。特に昭和以降はですね」と土居さん。
環境激変下をどう生き抜くか?
「知識とか論理ではなくて、人間性、徳育、そして直感、感性、情緒など統合智が必要です。そうでなければイノベーションも生まれない」と土居さんは語る。
生き甲斐、働き甲斐を含めて、「人」という問題にどう向き合うかというテーマである。