「地球温暖化が進んだら生活できない。日本ではまだ実感がないかもしれないが、ここ2~3年ヨーロッパでは高速道路で火事が起きている─」と地球環境への危機感を訴えるのは、ミドリムシを使用した様々な商品開発を行うユーグレナ社長の出雲充氏。同社の環境に配慮したバイオ燃料の本格市場流通に向け、1400億円規模の巨大工場をマレーシアに建設する計画が、いま仕上げの最終段階にきている。
地球環境のためにマレーシアでバイオ燃料工場を建設
地球はもはや「温暖化」ではなく、「沸騰化」であると国連のアントニオ・グテーレス事務総長が言うように、世界各地で起こっている異常気象や災害が報道されている。NASA(アメリカ航空宇宙局)は今年8月14日、2023年8月の世界平均気温は1880年以降から現在までで記録上最も暑い月であったと発表。
この沸騰化によって世界各地で起こる、山火事、洪水、ハリケーン─。それによる生態系への影響はじわじわと進み、経済にも大きな打撃を与える。地球の生態系は全てが繋がっているため、全ての国が環境問題に真剣に取り組まなければこの状況は止められないであろう。
「ヨーロッパに行くと、熱波がすごいです。山火事の火が高速道路まで来て、火事が起きているんですよ。日本では高速道路が火事なんて想像がつかないかと思いますが、事態は深刻」とユーグレナ社長・出雲氏は訴える。
その地球の状況を少しでも良くするため、現在ユーグレナが進めているのは、バイオ燃料の市場流通拡大に向けたマレーシアでの石油工場建設プロジェクト。PETORONAS社(マレーシア)・ENI社(イタリア)・ユーグレナ社の3カ国3社共同プロジェクトであり、ユーグレナは30%のシェアを目標に2023年中に最終合意をする見込み。
同社では、使用済の食用油とユーグレナ油脂等を原料としてバイオ燃料(以下SAF)の開発を行ってきた。2018年に神奈川県・鶴見に実証プラントを完成。このSAFを使用し、2019年から公用車、バス、船、鉄道、飛行機を運航させることに一歩ずつ成功してきた。
今年6月には調布と伊豆諸島を結ぶ定期旅客便を飛ばし、航空自衛隊機にも使用され、着実に実用化が進んでいる。いずれも運航には従来の燃料と同じく全く問題はない。
ただ、一番の問題は現在の石油と比べコストが2倍ほど高い点。このコストをいかに下げられるか。
このSAF工場で大量生産をし、コストを下げて売ることができればSAFの流通も拡大し、日本においてもGX(グリーントランスフォーメーション)は大きく前進する。
しかしコロナ禍に入り、プロジェクトは大変難航。巨大な石油工場を3カ国で建設するという規模が大きい話となるため、オンラインのみではなかなか進められなかった。現在はマレーシアに集まり、急ピッチでコミュニケーションを取りながら最終仕上げを行っている最中。
「日本では2025年がターニングポイント。それは、日本での労働人口がミレニアム世代とZ世代の人口が過半数になる時期。この世代は、SDGs(持続可能な開発目標)、地球環境問題、デジタルに関心が高い世代のため、企業サービスや商品を選ぶ際にも重視されるようになる。2025年までにDX(デジタルトランスフォーメンション)、GXが強い企業に変化しておかないといけない。SAFを使えば運び方までサステナブルになる。この意義は大変大きいと考えている」と語る出雲氏。
なぜ拠点がマレーシアなのか?
同社は工場プロジェクト以外にも、2023年5月マレーシアに「熱帯バイオマス技術研究所」もつくり、現地の研究者とユーグレナなどの微細藻類をはじめとしたバイオ燃料の研究開発推進をしている。
「マレーシアは地政学的にも絶好の場所。輸出するにも西にはインド、ヨーロッパがあり、東には中国、日本がある。また、とにかく若い人が多く、勉強熱心で優秀な人も現地で採用できる。まさに日本の高度経済成長期の頃と似ている。米中対立の国際情勢の中で、マレーシアは日本に対しても友好的であり、最高のパートナー」と出雲氏。
1973年にベトナム戦争が終結してからASEAN(東南アジア諸国連合)と日本の友好協力は今年で50周年。また、1982年からマハティール元首相が「LOOK EAST」政策で戦後日本の復興をお手本にしてきた背景があり、日本とは友好関係の土台がある。
「ASEANの全体人口は約8億人で、これから可能性のある場所。若者が多くデジタルが得意、グリーンに関心もある。そこでアジアナンバーワンの石油会社になれば、次世代バイオ燃料という意味では結果的に世界一にもなれる」とマレーシアに活路を見出す同氏。
赤字脱却の鍵となる工場稼働
同社は、主軸のヘルス事業が好調で今期(2023年12月)売上高450億円と予想しているが、バイオ燃料事業への設備投資等により、ここ4年で130億円の営業赤字が積み重なっているのも事実。
「このコロナ禍は特に、工場を抱えるわれわれは本当に大変であった。マレーシアでのSAF工場が稼働していけば、売上増収が見込めるため黒字転換となるという中長期の展望がある」出雲氏は続ける。「主力事業のみでやっていくのであれば黒字にはなる。しかし、バイオ燃料の工場を楽しみにしている皆の期待に応えるために、わたしは踏ん張る」。
この姿勢に対し、時価総額は1072億円、業種内では47位中5位と、市場の評価は高い。創業からSDGsに取り組んできた出雲氏の一貫した信念に、今後も期待が高まる。
地球環境のためにマレーシアでバイオ燃料工場を建設
地球はもはや「温暖化」ではなく、「沸騰化」であると国連のアントニオ・グテーレス事務総長が言うように、世界各地で起こっている異常気象や災害が報道されている。NASA(アメリカ航空宇宙局)は今年8月14日、2023年8月の世界平均気温は1880年以降から現在までで記録上最も暑い月であったと発表。
この沸騰化によって世界各地で起こる、山火事、洪水、ハリケーン─。それによる生態系への影響はじわじわと進み、経済にも大きな打撃を与える。地球の生態系は全てが繋がっているため、全ての国が環境問題に真剣に取り組まなければこの状況は止められないであろう。
「ヨーロッパに行くと、熱波がすごいです。山火事の火が高速道路まで来て、火事が起きているんですよ。日本では高速道路が火事なんて想像がつかないかと思いますが、事態は深刻」とユーグレナ社長・出雲氏は訴える。
その地球の状況を少しでも良くするため、現在ユーグレナが進めているのは、バイオ燃料の市場流通拡大に向けたマレーシアでの石油工場建設プロジェクト。PETORONAS社(マレーシア)・ENI社(イタリア)・ユーグレナ社の3カ国3社共同プロジェクトであり、ユーグレナは30%のシェアを目標に2023年中に最終合意をする見込み。
同社では、使用済の食用油とユーグレナ油脂等を原料としてバイオ燃料(以下SAF)の開発を行ってきた。2018年に神奈川県・鶴見に実証プラントを完成。このSAFを使用し、2019年から公用車、バス、船、鉄道、飛行機を運航させることに一歩ずつ成功してきた。
今年6月には調布と伊豆諸島を結ぶ定期旅客便を飛ばし、航空自衛隊機にも使用され、着実に実用化が進んでいる。いずれも運航には従来の燃料と同じく全く問題はない。
ただ、一番の問題は現在の石油と比べコストが2倍ほど高い点。このコストをいかに下げられるか。
このSAF工場で大量生産をし、コストを下げて売ることができればSAFの流通も拡大し、日本においてもGX(グリーントランスフォーメーション)は大きく前進する。
しかしコロナ禍に入り、プロジェクトは大変難航。巨大な石油工場を3カ国で建設するという規模が大きい話となるため、オンラインのみではなかなか進められなかった。現在はマレーシアに集まり、急ピッチでコミュニケーションを取りながら最終仕上げを行っている最中。
「日本では2025年がターニングポイント。それは、日本での労働人口がミレニアム世代とZ世代の人口が過半数になる時期。この世代は、SDGs(持続可能な開発目標)、地球環境問題、デジタルに関心が高い世代のため、企業サービスや商品を選ぶ際にも重視されるようになる。2025年までにDX(デジタルトランスフォーメンション)、GXが強い企業に変化しておかないといけない。SAFを使えば運び方までサステナブルになる。この意義は大変大きいと考えている」と語る出雲氏。
なぜ拠点がマレーシアなのか?
同社は工場プロジェクト以外にも、2023年5月マレーシアに「熱帯バイオマス技術研究所」もつくり、現地の研究者とユーグレナなどの微細藻類をはじめとしたバイオ燃料の研究開発推進をしている。
「マレーシアは地政学的にも絶好の場所。輸出するにも西にはインド、ヨーロッパがあり、東には中国、日本がある。また、とにかく若い人が多く、勉強熱心で優秀な人も現地で採用できる。まさに日本の高度経済成長期の頃と似ている。米中対立の国際情勢の中で、マレーシアは日本に対しても友好的であり、最高のパートナー」と出雲氏。
1973年にベトナム戦争が終結してからASEAN(東南アジア諸国連合)と日本の友好協力は今年で50周年。また、1982年からマハティール元首相が「LOOK EAST」政策で戦後日本の復興をお手本にしてきた背景があり、日本とは友好関係の土台がある。
「ASEANの全体人口は約8億人で、これから可能性のある場所。若者が多くデジタルが得意、グリーンに関心もある。そこでアジアナンバーワンの石油会社になれば、次世代バイオ燃料という意味では結果的に世界一にもなれる」とマレーシアに活路を見出す同氏。
赤字脱却の鍵となる工場稼働
同社は、主軸のヘルス事業が好調で今期(2023年12月)売上高450億円と予想しているが、バイオ燃料事業への設備投資等により、ここ4年で130億円の営業赤字が積み重なっているのも事実。
「このコロナ禍は特に、工場を抱えるわれわれは本当に大変であった。マレーシアでのSAF工場が稼働していけば、売上増収が見込めるため黒字転換となるという中長期の展望がある」出雲氏は続ける。「主力事業のみでやっていくのであれば黒字にはなる。しかし、バイオ燃料の工場を楽しみにしている皆の期待に応えるために、わたしは踏ん張る」。
この姿勢に対し、時価総額は1072億円、業種内では47位中5位と、市場の評価は高い。創業からSDGsに取り組んできた出雲氏の一貫した信念に、今後も期待が高まる。