岸田内閣の苦悩が続いている。内閣支持率が続落する中、首相・岸田文雄はマイナンバーカード問題などへの対応に奔走しており、秋に衆院解散に踏み切れるかどうかも急速に不透明感を増した。「ポスト岸田」への動きは乏しいものの、国民の信頼回復には、肝心の経済再生に向けた政策立案と実行が欠かせない。岸田は政権再浮揚に向けた正念場を迎えている。
【政界】勢いづく日本維新の会 野党第一党を狙うが失速の懸念も
「悪いトレンドに」
「何が起こっても全て自民党が悪い、岸田政権が悪いというトレンドに入っている。衆院解散はかなり厳しくなっているのではないか」─。日本維新の会代表の馬場伸幸が8月14日のBS11番組収録で示した観測は、永田町の直近の空気を表していた。
洋上風力発電を巡る企業からの資金提供問題で、衆院議員会館にある元外務政務官・秋本真利の事務所を東京地検特捜部が捜索したのが8月4日。秋本は自民を離党したが、またも「政治とカネ」が政権を直撃した格好だ。7月末には、自民党女性局によるフランス研修の際、参院議員・松川るいらが「エッフェル塔」のポーズで撮った写真が、「社員旅行か」「浮かれすぎだ」と猛反発を招いた。
不始末続きの中、内閣支持率も続落している。8月14日発表のNHK世論調査では、前月比5ポイント減の33%と、岸田政権では最低水準に落ち込んだ(不支持率は4ポイント増の45%)。他社の調査もトレンドはほぼ同じで、支持率が2割台に下落した調査結果もある。
5月のG7広島サミットによる政権浮揚効果を受け、6月に衆院解散の可能性が真剣に取り沙汰された頃の高揚が、まるでウソのような低空飛行である。「遅くとも秋には解散があるはず」という当時からの既定路線も、かなり怪しい雲行きになってきた。自民党からも「今年の解散は無理ではないか」との声が上がり始めている。まさに政治の一寸先は闇だ。
支持率低迷の「主犯」としてやり玉に挙がるのは、相変わらずマイナンバーカードである。昨秋、デジタル相・河野太郎が「2024年秋に健康保険証を廃止してマイナカードに一本化する」と表明した際、これほど祟りのようにつきまとう問題になるとは、首相官邸も予想していなかっただろう。当時の世論調査では賛否が拮抗していたが、今は保険証廃止の延期・撤回論が多数派になった。
日本のデジタル化の遅れが、国民の利便性向上や行政・企業活動の効率化を妨げているという危機意識が、マイナ政策の根底にある。ただ、マイナカードを急速に普及させようと、病院通いに不可欠な保険証の機能を持たせ、ポイント付与を大盤振る舞いした結果、マイナカードは国民に身近な存在になってきた。その分、不備が起きれば反発も大きくなるのは当然の成り行きとも言える。
11月末の意味は?
状況を重く見て、保険証廃止の延期に一時傾いた岸田に対して、マイナ推進派の河野だけでなく厚生労働省も反対した。
政権の再浮揚を期そうとした8月4日の記者会見で、岸田が発表できたのは、既存の保険証の代わりとなる「資格確認書」の有効期限延長などにとどまった。保険証の廃止時期は当面維持され、これまでの取り組みに「瑕疵はなかった」と訴える岸田はいかにも苦しげだった。
その4日後、岸田はさらりと重要な発言をしている。マイナンバーのひも付けに関する総点検の中間報告が発表された日のことだ。
「11月末までに(マイナンバーの)個別データの点検を実施してください」。この日開かれた政府の総点検本部で、岸田は河野らにそう指示した。6月に総点検実施を表明して以降、「秋まで」とぼかしてきた完了時期を初めて明言したのだ。
秋の臨時国会の日程は、9月下旬から12月上旬くらいの幅で検討されることが多い。しかし、11月末まで総点検が続けば、衆院解散の判断も制約されかねない。総点検の完了前に解散すれば「マイナンバー問題を置き去りにした」、点検結果を発表した後であれば「政権がこれだけミスを起こした」と、いずれも野党に争点化の材料を与えてしまう可能性がある。立憲民主党は保険証廃止の延期法案を臨時国会に提出し、追及を強める構えだ。
結果論になるが、6月に解散に踏み切らなかったのは「大義がない」(自民党幹部)こと以上に、岸田の好判断だった。7月23日説もあった投開票日をマイナンバー問題が直撃し、与党は思わぬ苦戦を強いられていたかもしれない。
危機管理が不可欠
結局、岸田は通常国会を延長せず、6月21日に閉会させた。本来なら、そこから秋までは政権批判の熱を冷ます期間としたかったはずだ。
17年、森友・加計学園問題に苦しんだ安倍政権は、通常国会後の7~9月の間に支持率をある程度回復させてから、秋の衆院解散に踏み切っている。野党が国会審議という追及の場を失い、新たな批判材料が出てこなくなったことが大きかった。ところが今回は、国会閉会後もマイナンバーのトラブルが絶えず、支持率も回復に至っていない。
新たな火種が生まれそうな予兆もある。中小企業の社員や家族らが入る全国健康保険協会(協会けんぽ)が、加入者の1%にあたる約40万人について、「マイナンバーと公的医療保険情報のひも付けができていない」と明らかにした。加入者が協会けんぽにマイナンバーを通知していないことが要因で、マイナ保険証で病院を受診できない状態になっていたという。
総点検の中間報告では、マイナ保険証に他人の情報がひも付けられたケースが累計8000件あまりだった。協会けんぽの件は事情が異なるが、規模のケタが違う。
そもそも、マイナンバーは国民の様々な情報とひも付いている。何が起きても「政権が悪い」と言われるような泥沼にはまらないためにも、岸田のリーダーシップと危機管理が問われる局面だ。
国際会議が多数セットされる秋の外交シーズンが本格化すれば、「G7広島サミットのような支持率回復につながる」との期待感が政府内にはある。ただし、日本開催のサミットは別格であり、秋によほど大きな外交上の成果を上げない限り、国民への訴求力は限定的なものとなるかもしれない。
外交に自負がある岸田にとっても、政権浮揚の王道はやはり経済政策であろう。物価高騰の中、国民生活を改善する真の方策を岸田が講じられるかどうかがカギとなる。
7月末には、中央最低賃金審議会が最低賃金を全国加重平均で初の時給1000円超えとする引き上げを答申した。各都道府県の審議の結果、全国平均は1004円となった。最低賃金引き上げは岸田が「最重要課題の一つ」と位置付けていた。
岸田は8月10日に追加策を打ち出している。パート労働者の年収が一定額に達すると社会保険料の負担が生じて手取りが減る「年収106万円の壁」について、手取りが減らないようにする企業への助成制度を「最低賃金が発効する10月から適用する」と述べた。
しかし、物価の急激な上昇に賃金が追いつかない現状では、政権が期待したほどのインパクトを国民に与えていない。8月22日、岸田は自民、公明両党の政調会長に対し、高騰が続くガソリン価格対策を改めて検討するよう求めた。
9月中にも新たな大型経済対策を打ち出す方針だ。政権の目玉政策である子ども予算も含めて、抜本的な政策強化を決断すべき段階に来ている。
挽回へなお「余裕」も
一般メディアでは支持率低下が指摘されるが、霞が関では岸田内閣の足取りを振り返って防衛費の増額や「防衛装備移転3原則」の見直し、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出など「いつの間にか決定している」という評価がある。「淡々と物事を決めている」というわけだ。
岸田自身、喜怒哀楽をあまり表に出さない性格だが、旧統一教会問題などによる昨年後半の逆風を乗り越えた経験も自信につながっているようだ。周辺には「支持率は下がる時も、また上がる時もある」と楽観的に語る。
自民党内に自身を脅かす勢力が依然として見当たらないことも、岸田にある種の余裕をもたらしている。最大派閥・安倍派は8月のお盆明け、会長代理の塩谷立を中心とする集団指導体制とする方向でようやくまとまった。同派の後見人である元首相の森喜朗が、地元紙のインタビューに内幕の一部を明かしている。
それによると、塩谷と同じ会長代理の下村博文が森のもとを訪れ、同派会長への就任を希望した。下村は「今までのご無礼をお許しください」と土下座したが、森は突っぱねたという。その森の思惑通り、塩谷を「座長」とし、政調会長の萩生田光一、経済産業相の西村康稔ら「5人衆」による常任幹事会が置かれることになりそうだ。
それでも安倍派は、故・安倍晋三に代わるリーダー争いが続くと目されている。下村という不満分子も抱え、当面は秋の内閣改造・党役員人事でポストを確保し、自派の求心力低下を防ぐことに専念せざるを得ない。
森に対しては、かつての参院のドン・青木幹雄が、茂木派の小渕優子を重用してほしいと「遺言」したという。森は早稲田大の先輩である青木に頭が上がらない関係だった。
小渕は一昨年秋の岸田政権発足時にも党4役入りが取り沙汰されたことがあり、6月の青木の急逝を機に再び注目を集めている。茂木派のトップである幹事長の茂木敏允は、生前の青木と折り合いが悪かったこともあり、小渕の処遇を岸田がどう判断するかは気になるところだろう。
「ポスト岸田」をうかがう茂木だが、この秋の内閣改造・党役員人事では幹事長続投を希望している。そして茂木をバックアップする副総裁の麻生太郎は、「石原伸晃になるな」と茂木に言い含めている。2012年の自民党総裁選で、当時の総裁・谷垣禎一に弓を引く形で出馬した幹事長・石原の二の舞は避けろという意味だ。
石原は「平成の明智光秀」と揶揄されて総裁選に敗れ、一気に評価を落とした。「茂木は時が来るまでは岸田を支えることが望ましい」と麻生は考えているようだ。岸田と前回総裁選で争った麻生派の河野も、マイナンバー問題の担当閣僚として矢面に立たされ、苦しい立場にある。
こうした情勢下で、岸田にはまだ政権基盤を再構築する猶予がある。そのためには何より、長期的な視野に立った政策実現により、日本のリーダーとしての重責を果たすことが求められている。(敬称略)
【政界】勢いづく日本維新の会 野党第一党を狙うが失速の懸念も
「悪いトレンドに」
「何が起こっても全て自民党が悪い、岸田政権が悪いというトレンドに入っている。衆院解散はかなり厳しくなっているのではないか」─。日本維新の会代表の馬場伸幸が8月14日のBS11番組収録で示した観測は、永田町の直近の空気を表していた。
洋上風力発電を巡る企業からの資金提供問題で、衆院議員会館にある元外務政務官・秋本真利の事務所を東京地検特捜部が捜索したのが8月4日。秋本は自民を離党したが、またも「政治とカネ」が政権を直撃した格好だ。7月末には、自民党女性局によるフランス研修の際、参院議員・松川るいらが「エッフェル塔」のポーズで撮った写真が、「社員旅行か」「浮かれすぎだ」と猛反発を招いた。
不始末続きの中、内閣支持率も続落している。8月14日発表のNHK世論調査では、前月比5ポイント減の33%と、岸田政権では最低水準に落ち込んだ(不支持率は4ポイント増の45%)。他社の調査もトレンドはほぼ同じで、支持率が2割台に下落した調査結果もある。
5月のG7広島サミットによる政権浮揚効果を受け、6月に衆院解散の可能性が真剣に取り沙汰された頃の高揚が、まるでウソのような低空飛行である。「遅くとも秋には解散があるはず」という当時からの既定路線も、かなり怪しい雲行きになってきた。自民党からも「今年の解散は無理ではないか」との声が上がり始めている。まさに政治の一寸先は闇だ。
支持率低迷の「主犯」としてやり玉に挙がるのは、相変わらずマイナンバーカードである。昨秋、デジタル相・河野太郎が「2024年秋に健康保険証を廃止してマイナカードに一本化する」と表明した際、これほど祟りのようにつきまとう問題になるとは、首相官邸も予想していなかっただろう。当時の世論調査では賛否が拮抗していたが、今は保険証廃止の延期・撤回論が多数派になった。
日本のデジタル化の遅れが、国民の利便性向上や行政・企業活動の効率化を妨げているという危機意識が、マイナ政策の根底にある。ただ、マイナカードを急速に普及させようと、病院通いに不可欠な保険証の機能を持たせ、ポイント付与を大盤振る舞いした結果、マイナカードは国民に身近な存在になってきた。その分、不備が起きれば反発も大きくなるのは当然の成り行きとも言える。
11月末の意味は?
状況を重く見て、保険証廃止の延期に一時傾いた岸田に対して、マイナ推進派の河野だけでなく厚生労働省も反対した。
政権の再浮揚を期そうとした8月4日の記者会見で、岸田が発表できたのは、既存の保険証の代わりとなる「資格確認書」の有効期限延長などにとどまった。保険証の廃止時期は当面維持され、これまでの取り組みに「瑕疵はなかった」と訴える岸田はいかにも苦しげだった。
その4日後、岸田はさらりと重要な発言をしている。マイナンバーのひも付けに関する総点検の中間報告が発表された日のことだ。
「11月末までに(マイナンバーの)個別データの点検を実施してください」。この日開かれた政府の総点検本部で、岸田は河野らにそう指示した。6月に総点検実施を表明して以降、「秋まで」とぼかしてきた完了時期を初めて明言したのだ。
秋の臨時国会の日程は、9月下旬から12月上旬くらいの幅で検討されることが多い。しかし、11月末まで総点検が続けば、衆院解散の判断も制約されかねない。総点検の完了前に解散すれば「マイナンバー問題を置き去りにした」、点検結果を発表した後であれば「政権がこれだけミスを起こした」と、いずれも野党に争点化の材料を与えてしまう可能性がある。立憲民主党は保険証廃止の延期法案を臨時国会に提出し、追及を強める構えだ。
結果論になるが、6月に解散に踏み切らなかったのは「大義がない」(自民党幹部)こと以上に、岸田の好判断だった。7月23日説もあった投開票日をマイナンバー問題が直撃し、与党は思わぬ苦戦を強いられていたかもしれない。
危機管理が不可欠
結局、岸田は通常国会を延長せず、6月21日に閉会させた。本来なら、そこから秋までは政権批判の熱を冷ます期間としたかったはずだ。
17年、森友・加計学園問題に苦しんだ安倍政権は、通常国会後の7~9月の間に支持率をある程度回復させてから、秋の衆院解散に踏み切っている。野党が国会審議という追及の場を失い、新たな批判材料が出てこなくなったことが大きかった。ところが今回は、国会閉会後もマイナンバーのトラブルが絶えず、支持率も回復に至っていない。
新たな火種が生まれそうな予兆もある。中小企業の社員や家族らが入る全国健康保険協会(協会けんぽ)が、加入者の1%にあたる約40万人について、「マイナンバーと公的医療保険情報のひも付けができていない」と明らかにした。加入者が協会けんぽにマイナンバーを通知していないことが要因で、マイナ保険証で病院を受診できない状態になっていたという。
総点検の中間報告では、マイナ保険証に他人の情報がひも付けられたケースが累計8000件あまりだった。協会けんぽの件は事情が異なるが、規模のケタが違う。
そもそも、マイナンバーは国民の様々な情報とひも付いている。何が起きても「政権が悪い」と言われるような泥沼にはまらないためにも、岸田のリーダーシップと危機管理が問われる局面だ。
国際会議が多数セットされる秋の外交シーズンが本格化すれば、「G7広島サミットのような支持率回復につながる」との期待感が政府内にはある。ただし、日本開催のサミットは別格であり、秋によほど大きな外交上の成果を上げない限り、国民への訴求力は限定的なものとなるかもしれない。
外交に自負がある岸田にとっても、政権浮揚の王道はやはり経済政策であろう。物価高騰の中、国民生活を改善する真の方策を岸田が講じられるかどうかがカギとなる。
7月末には、中央最低賃金審議会が最低賃金を全国加重平均で初の時給1000円超えとする引き上げを答申した。各都道府県の審議の結果、全国平均は1004円となった。最低賃金引き上げは岸田が「最重要課題の一つ」と位置付けていた。
岸田は8月10日に追加策を打ち出している。パート労働者の年収が一定額に達すると社会保険料の負担が生じて手取りが減る「年収106万円の壁」について、手取りが減らないようにする企業への助成制度を「最低賃金が発効する10月から適用する」と述べた。
しかし、物価の急激な上昇に賃金が追いつかない現状では、政権が期待したほどのインパクトを国民に与えていない。8月22日、岸田は自民、公明両党の政調会長に対し、高騰が続くガソリン価格対策を改めて検討するよう求めた。
9月中にも新たな大型経済対策を打ち出す方針だ。政権の目玉政策である子ども予算も含めて、抜本的な政策強化を決断すべき段階に来ている。
挽回へなお「余裕」も
一般メディアでは支持率低下が指摘されるが、霞が関では岸田内閣の足取りを振り返って防衛費の増額や「防衛装備移転3原則」の見直し、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出など「いつの間にか決定している」という評価がある。「淡々と物事を決めている」というわけだ。
岸田自身、喜怒哀楽をあまり表に出さない性格だが、旧統一教会問題などによる昨年後半の逆風を乗り越えた経験も自信につながっているようだ。周辺には「支持率は下がる時も、また上がる時もある」と楽観的に語る。
自民党内に自身を脅かす勢力が依然として見当たらないことも、岸田にある種の余裕をもたらしている。最大派閥・安倍派は8月のお盆明け、会長代理の塩谷立を中心とする集団指導体制とする方向でようやくまとまった。同派の後見人である元首相の森喜朗が、地元紙のインタビューに内幕の一部を明かしている。
それによると、塩谷と同じ会長代理の下村博文が森のもとを訪れ、同派会長への就任を希望した。下村は「今までのご無礼をお許しください」と土下座したが、森は突っぱねたという。その森の思惑通り、塩谷を「座長」とし、政調会長の萩生田光一、経済産業相の西村康稔ら「5人衆」による常任幹事会が置かれることになりそうだ。
それでも安倍派は、故・安倍晋三に代わるリーダー争いが続くと目されている。下村という不満分子も抱え、当面は秋の内閣改造・党役員人事でポストを確保し、自派の求心力低下を防ぐことに専念せざるを得ない。
森に対しては、かつての参院のドン・青木幹雄が、茂木派の小渕優子を重用してほしいと「遺言」したという。森は早稲田大の先輩である青木に頭が上がらない関係だった。
小渕は一昨年秋の岸田政権発足時にも党4役入りが取り沙汰されたことがあり、6月の青木の急逝を機に再び注目を集めている。茂木派のトップである幹事長の茂木敏允は、生前の青木と折り合いが悪かったこともあり、小渕の処遇を岸田がどう判断するかは気になるところだろう。
「ポスト岸田」をうかがう茂木だが、この秋の内閣改造・党役員人事では幹事長続投を希望している。そして茂木をバックアップする副総裁の麻生太郎は、「石原伸晃になるな」と茂木に言い含めている。2012年の自民党総裁選で、当時の総裁・谷垣禎一に弓を引く形で出馬した幹事長・石原の二の舞は避けろという意味だ。
石原は「平成の明智光秀」と揶揄されて総裁選に敗れ、一気に評価を落とした。「茂木は時が来るまでは岸田を支えることが望ましい」と麻生は考えているようだ。岸田と前回総裁選で争った麻生派の河野も、マイナンバー問題の担当閣僚として矢面に立たされ、苦しい立場にある。
こうした情勢下で、岸田にはまだ政権基盤を再構築する猶予がある。そのためには何より、長期的な視野に立った政策実現により、日本のリーダーとしての重責を果たすことが求められている。(敬称略)