Infoseek 楽天

帝国データバンク情報統括部長・藤井俊「ゼロゼロ融資が返済できない企業の倒産や、 倒産予備軍がさらに増加する可能性がある」

財界オンライン 2023年10月13日 18時0分

建設業の倒産増に歯止めがかからない

 ─ 足元で企業の倒産件数が増えています。帝国データバンクの調査では、今年8月まで16カ月連続で倒産件数が増加しているとのことですが、藤井さんは現状をどのように分析していますか。

 藤井 8月の倒産件数は742件となり、前年同月比で5割の大幅増を記録しました。2000年以降で3番目の増加率となっていて、16カ月連続で前年同月を上回りました。これは、リーマン・ショック前後の2008年6月から09年8月の連続増加期間(15カ月)を超える数字です。ですから、記録上は100年に一度と言われたリーマン・ショック並みの状況になっているということですね。

 一番大きな原因として考えられるのは、実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」を借りたものの、返済がままならず、経営の行き詰まった中小企業が急増しているということだと思います。

「設備投資100兆円と資金不足」ニッセイ基礎研究所・矢嶋康次の提言

 ─ ゼロゼロ融資はコロナ禍で、売り上げが減った企業に実質無利子・無担保で融資する仕組みでしたね。

 藤井 はい。その融資を借りた企業の多くが元金の返済期限を迎えるということで、支払うことが困難な企業が最終的に事業継続を断念する事例が増えているのだと思います。

 もっとも、こうした企業はコロナ前から厳しい経営を強いられていたところも多いです。例えば、最近倒産した飲食店の中には、コロナ禍の特例措置として猶予されていた社会保険料の納付や、雇用調整助成金などの各種コロナ支援策が終わったタイミングでお手上げになる企業も多い。だから、もらえるうちは支援金をもらって事業を続けてきたけど、業況が変わらず、倒産に至ったということだと思います。

 ─ ということは、言葉は悪いですが、つぶれるべくしてつぶれたということですかね。

 藤井 そういうことになります。コロナが無ければ経営破綻していた企業が3年遅れで出てきたということだと思います。

 もう一つは、エネルギー価格などの物価高に加え、人手不足問題やそれに伴う人件費負担の増加が重荷となり、事業継続を断念する中小企業が増加してきたこともあるでしょう。

 昨今、飲食やホテル、旅館などで人手不足が深刻化しているのですが、これらの業種に共通しているのは、コロナ禍で店やホテルを開けたり、閉めたりするような状態が続いていたため、雇用調整助成金をもらいつつも、働く人たちにとっては全然収入が安定しないということで退職してしまう。だから、コロナが収束した今でも人手が足りずに商売を続けられない企業も多いのだと思います。

 ─ 人手不足は本当に深刻になってきましたね。

 藤井 そう思います。業種別にみると、倒産した企業はサービス業、建設業、小売業が多く、特に顕著なのが建設業の倒産。建設業の倒産増に歯止めがかからない状態です。

 建設業の人手不足は本当に深刻です。鉄骨や木材などの建設資材価格の上昇が止まらず、コストの増加が経営を圧迫してきたことも大きいです。


倒産予備軍の増加を示唆する「代位弁済件数」

 ─ そうなると、ゼロゼロ融資の返済や人手不足による倒産などは今後もしばらく続きそうですか。

 藤井 そうでしょうね。それとよく見ておかなければならないのが、全国信用保証協会連合会が毎月公表している「代位弁済件数」です。

 ゼロゼロ融資は信用保証協会の保証付きでお金が出ているため、仮に貸し倒れが発生しても保証協会が代位弁済という仕組みで、返済を肩代わりしています。ある企業が返済に行き詰まって倒産しても、金融機関にとってのリスクは小さいという仕組みなのですが、この代位弁済の件数が増加しています。

 今年7月の代位弁済件数は増勢基調を強めており、3746件となり、前年同月(2383件)を大きく上回りました。代位弁済件数の増加は資金繰り難に直面した、いわゆる倒産予備軍の増加を示唆しており、企業倒産がさらに増加するシナリオも考えられると思います。

 ─ なるほど。倒産予備軍が増えている。

 藤井 ええ。ですから、今後は収益力が回復せずにゼロゼロ融資が返済できない企業の倒産や、今から年末にかけて資金繰りが厳しくなる企業がさらに増加する可能性がありますね。

 ─ これは難しい問題ですね。結局、資金力や体力のある大企業はまだいいとしても、日本の99%を占める中小企業をどうするか? という話ですね。

 藤井 仰る通りです。中小企業が人手不足だから人を採用しようと思っても、賃金が低ければ、いくら募集をかけても人は来てくれません。当然、賃金を上げるためには生産性を向上して、収益を上げなければなりません。ところが、まだ大企業から値上げを認めてもらえないため、なかなか中小企業は価格転嫁できないわけです。

 この他、人手不足や賃金、生産性向上、円安など、企業を取り巻く課題は沢山あります。企業はそうした課題を一つひとつクリアして、従業員から選ばれる企業にしなければならない。

 最近はエンゲージメント(働きがい)などと言われますが、企業は単に資金力を付けるだけでなく、賃金も含めた働き方改革など、待遇面の改善も必要なのだと思います。

大和総研副理事長・熊谷亮丸に直撃! 岸田政権が目指す「新しい資本主義」のポイントとは?

この記事の関連ニュース