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大坪会会長/青淵学園理事長・大坪修氏が語る「医療と福祉を通じて社会に奉仕するためには臨床・教育・研究の3本柱で」

財界オンライン 2023年10月24日 18時0分

「医は仁術と昔から言われている。その心は、忠(まごころ)と恕(おもいやり)」─。「論語」を引き合いにこう強調するのは大坪会会長の大坪修氏。大坪氏は人工臓器移植の専門で中空線維膜型人工肺「エクモ」の開発者である。同会は「三軒茶屋病院」をはじめ、17カ所の病院を運営し、介護老人保健施設や老人ホームも展開。さらには看護系コメディカル大学の「東都大学」を運営する青淵学園の理事長として医療人材も輩出。同大学では沼津に農学部の新設を申請中。コロナ禍で活躍したエクモの開発者でもある大坪氏の医療に対する思いとは?

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深谷、幕張、沼津にキャンパス

 ─ 大坪会は1970年に「三軒茶屋クリニック(現三軒茶屋病院)」を開設して以来、複数の病院等を運営すると共に、2009年には埼玉県深谷市に看護系大学の「東都医療大学(現東都大学)」を開学するなど、医療人材づくりにも力を入れていますね。まずは大学を運営する「青淵(せいえん)学園」の由来を聞かせてください。

 大坪 深谷は渋沢栄一の生誕の地であり、渋沢栄一の雅号を頂き学園名としました。09年の大学開学当初は「ヒューマンケア学部看護学科」からなる看護系の単科大学だったのですが、首都圏の人口増加による看護職者不足に対して18年には千葉の幕張新都心に「幕張ヒューマンケア学部看護学科」を開設しました。

 また同年に地域の保健・医療・福祉の担い手として管理栄養士を養成する「管理栄養学部管理栄養学科」を深谷に開設。翌年には幕張に「幕張ヒューマンケア学部理学療法学科、臨床工学科」も開設してリハビリを提供できる人材を送り出しています。

 中でも看護職者の人材不足は地方でも深刻で、21年には静岡の沼津市に「沼津ヒューマンケア学部看護学科」を新たに開設しました。

 ─ 新たな人材づくりの方向性についてどう考えますか。

 大坪 実はいま沼津キャンパスで農学部の開設を国に申請中です。ロシアのウクライナ侵攻で食糧の安定確保が大変重要になりました。それは国の方針としても示されています。また地元からの要望もありました。沼津はビニールハウスでの果樹園などが盛んなので是非とも農学部を作って欲しいと。

 ─ 食の安全保障ですね。

 大坪 ええ。沼津は立地的にも昔からお茶や果物の一大生産地ですし、果樹園などのビニールハウスも多く企業の野菜工場もあります。そこで日陰であっても人工太陽で栽培できるような野菜を育てる水耕栽培、あるいは砂の上での栽培など新しい農業をやっていきたいと思っているんです。

 かつて士農工商と言われ、農民は二番目に位置付けられていました。しかし実際は泥仕事ばかりで3Kのきつい・汚い・給料が安いイメージが強かったように思います。しかしこれからの農業はそうではないと。イメージとしてはネクタイをしていてもできる農業です。

 温度や湿度、水量、野菜に応じた肥料の量などを全てITで管理できる農業です。もっと言えば土がなくても野菜が栽培、さらには野菜の成長も早くして短期間で収穫できるような農業にも取り組んでいこうと思っています。


医療機関などの経営は3本柱で

 ─ 看護などを手がけていた青淵学園が農業にもつながる理由とは何なのですか。

 大坪 古来医食同源の言葉があるように東洋医学では薬草園が必要で、現代ではどちらも遺伝子操作が当たり前になって来ると思います。野菜も品種改良が進んでいますね。試験管や顕微鏡を見ながら実験室で様々な工夫をして生産性の高い野菜を作ったりしているわけですから、そこは共通点になります。

 さらに沼津は海も近いので、水産業も絡んでくるかもしれませんし、富士山の麓にありますから林業も可能性があります。また牧畜業も行われていますから意外と様々な業界からの要求に対応できるのではないかと思っているところです。

 ─ 親和性があるわけですね。東都大学の学生数は?

 大坪 約1700人です。他にも姉妹校としての専門学校があります。深谷の「深谷大里看護専門学校」です。その専門学校とも大学が連携しています。それから沼津には「静岡東都医療専門学校」があり、理学療法士、柔道整復師や鍼灸師を育てているのですが、同校とも一緒に協力し合っているところです。

 ─ 大坪さんが大学運営までやろうと思ったきっかけは。

 大坪 単なる事業としての病院経営ではなく、やる以上は先進医療、患者ファーストの良い医療ができる人を育てる事にも力を入れていきたい、大学や病院で臨床・教育・研究の3本の柱が必要です。病院には高度の先進医療と優秀なスタッフとしての教育の場が必要だと思うのです。更に、新しい事を勉強する、間違っていた事は学び直す研究の場も必要です。

 したがって病院には教育と研究の場の大学を必要としていたわけです。その中でまだなかったのが大学院や農学部だったわけです。農学部は研究が非常に大事になりますからね。

 ─ その中の臨床についてお聞きします。コロナ禍での病院の対応については、どのように振り返りますか。

 大坪 コロナの感染が拡大した際、自分達のやりたいことをどんどん手を挙げてやってもらうようにしました。大坪会は予防医学としてドック検診、企業巡回健診もしていましたので、国からの要望を受けて関東地方の患者さんに対しても様々な対応をしていきました。

 また、製薬会社とはワクチン製造に向けて現状分析や数万人のコロナ抗体の有無などを調べるお手伝いもしました。治療薬品として福島医大プロジェクトでは、コロナIgA抗体によるスプレーが開発され、サプリメントとして使うようにその開発に協力しました。

 それから東都大学臨床教授で画像診断の名医の鈴木先生が、武漢で開発されたコロナ肺炎のCT画像のAI診断ソフトの評価を行いました。90%以上の信頼性があると評価し、厚労省の認可も得ました。AIによる診断の正解率がここまで高くなれば、医師によっては強力な補助になるのではないかと期待しているところです。



皆が嫌がることを引き受ける

 ─ 医療機関でも大学でも臨床のみならず、研究などの面でも貢献したのですね。

 大坪 ええ。他にも大坪会グループには「健康医学協会」という健康診断や人間ドックといった二次健診を手掛ける一般財団法人があり、検診車も30台近く持っていますので、出張健診し受検者のコロナ抗体の有無も調べたりしましたね。全国で年間200万人に及ぶ巡回健診を行っており、勤労者や住民、学生などの健康管理に寄与してきました。

 東京都板橋区に「労働保健協会」があり、そこで板橋区のコールセンター業務を引き受けました。10人の看護師達が身を粉にして年間4万3千件に及ぶ対応をしました。

 ─ コロナ感染拡大当初、患者を受け入れない病院が出て来たりましたが。

 大坪 我々の「三軒茶屋病院」「東都文京病院」「東和病院」は東京都内でもいち早く患者さんの受入れを表明しました。透析医会の災害時ネットワークがあり、12年前の東日本大震災と同様に今回のコロナに感染した透析患者を他の施設からも受け入れました。そして「上野病院」は台東区民のワクチン接種を行いました。

 そもそも大坪会は医療と福祉を通じて社会に奉仕する事を理念としています。国内は高齢化問題を含めて複雑化し、病院だけでは不十分で、社会福祉も含めた総合的な観点で対応できるシステムが求められます。ゆりかごから墓場までではなく、生前より墓場までの対応が必要です。そこで社会のニーズに合わせて様々な施設を増やしてきたのです。

 その結果、病院は17カ所、診療所は5カ所、訪問看護ステーションは5カ所、介護老人保健施設は9カ所、特別養護老人ホームは3カ所、地域包括支援センターは5カ所、訪問介護事業所2カ所になりました。

 ですから大坪会は予防医学、総合病院、専門病院、中間施設としての介護老人保健施設、デイケア、在宅医療としての在宅介護支援センター、訪問看護・介護、老人ホームなど、医療と福祉に総合的に取り組んでいるのです。そして大坪会は皆が嫌がるものでも引き受けるというポリシーを貫いています。それが地域医療を守ることにつながるからです。


日本初のエクモの開発者として

 ─ 大坪さんは世界初の中空線維膜型人工肺のエクモを開発しましたね。コロナでもエクモがたくさんの人々の命を救いました。

 大坪 そうですね。エクモの研究開発は1970年代から始めました。私が東京大学医科学研究所の講師だったときに、他学部のメンバーも集め研究チームを組織し、人工臓器開発を進めました。

 当時、日本では数少ない医師、獣医師、工学士、栄養士、薬剤師、メーカー連携のチームワークで理研より年間1000万円の予算で人工臓器移植の研究を行いました。世界で最初の中空線維膜型人工肺を始め、コンニャクマンナンコーティング活性炭服薬剤、吸着式肝補助器、超音波メス、携帯型透析装置、自動腹膜潅流装置等を開発しました。

 米国で透析のダイアライザーとして中空線維が開発され、これを人工肺に使えるのではないかと考え、1960年代に動物実験でその有効性を証明しました。当時人工肺は、レコード盤状ステンレス30枚を並べたものを血のプールに半分沈め、回転させ空気にさらすことにより血に酸素を送り込む方式でした。

 中空線維膜型人工肺は100分の1以下の非常に小型な物で、学会発表にはテルモのスタッフも共同研究者として発表しています。これを製品化したのはテルモです。テルモと体内に埋め込み型の人工腎臓という共同研究をずっとやっていたのです。

 ─ そういった企業との縁もあったのですね。大坪さんのこれまでの人生経験を通じて、学生達にはどのような言葉を投げかけているのですか。

 大坪 人間共同体社会にあっては、どんな人でもお互いに必要としているという自己認識が必要です。お互い信頼し、貢献し合う共同体意識を持つことが大切だと思っています。ここで大切なことは共同体の単位です。共同体は家族、会社のレベルから政治、経済、宗教、言語、文化で構築された団体、国家などいろいろあります。

 人類の共同体国家の歴史は戦争の歴史で、アメリカファーストのトランプ氏はメキシコとの国境に高い塀を築き、プーチン氏は第二次世界大戦の傀儡・満州帝国を真似し、ウクライナ侵略戦争です。しかも原子力爆弾の使用すらちらつかせる有様です。

 このように人間は第二のプロメテウスの火、原子力で生物どころか地球環境をも破壊しかねない状況です。正しい共同体意識とは生きとし生ける生物は無論、地球、宇宙の過去・現在・未来を含む全ての共同体意識を示します。一人ひとりが正しい共同体意識を持つべきです。

 地球環境汚染予防は誰にでもでき効果も目に見えるが、誰もがやらなければ効果がありません。政治の問題は簡単にはいかないと思いますが、運命共同体の言葉があるように地球という舟の中、呉越同舟の国々が争っている、さあどうするか。私たちに課せられた問題です。

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