「健康」の代名詞となっている昆布と豆。この2つを主力製品とするのが「フジッコ」だ。コロナ禍を経て食品業界では健康ニーズが以前より強くなっている中、同社はその両製品のシェアでトップ。馴染みのある商品を数多く持つ同社だが、原材料の価格高騰などの煽りを受ける。それでも健康という軸を堅持し、食の安全・安心を徹底するフジッコ。その経営思想の根底には六十余年前の創業の精神があった。
コロナ明けの外食需要を喚起 ビール各社が業務用に活路
「3なし」から始まる
「収益性が高く、生産性も高い『スター商品』を数多く世に出し、全国に広めていく。その際、創業以来の〝健康〟という軸は決してブレることはない」─。〝ふじっ子のおまーめさんっ〟のフレーズが耳に残るCMで知られるフジッコ社長の福井正一氏は、こう意気込みを語る。
フジッコといえば日本人が親しんできた数々のロングセラー商品がある。「ふじっ子(塩こんぶ)」「おまめさん」「ふじっ子煮」「純とろ」……。中でも1976年から発売している「おまめさん」シリーズを中心に、豆製品の同社の国内シェアは4割程。祖業の昆布製品では50%を占める。
昆布は健康的な素材の代名詞のような存在だ。身体に必要な様々なミネラルを含み、カルシウムは牛乳の6倍とも言われる。一方の大豆はタンパク質やビタミンなどの栄養素をバランス良く含み、食物繊維も豊富に含まれている。フジッコはこの昆布と豆という日本の伝統的な健康食材を主力商品にしている。
しかし、これらの素材には難点がある。他の食材と比べて調理に手間がかかるという点だ。昆布で言えば、海で採られた昆布をそのまま使う家庭はほとんどない。必ず加工という工程が求められる食材だ。フジッコは家庭の主婦ではできない工程を代行しているとも言える。
例えば「純とろ」。北海道を中心にフジッコの社員が厳選して買い付けた昆布をチップ状にカットし、プレス機で押し固める。四角い塊になった昆布を一定時間寝かすと、カチカチの状態になる。それを特殊な機械にセットし、カンナがけのように断面を削っていくのだ。その厚みは髪の毛の5分の1、約0.02ミリ。削り出す刀の調整は限られたベテランしかできない職人技だという。さらに豆製品は「煮る」という作業から主婦を解放している。
フジッコの商品のうち、10年以上続いている製品数は148製品中94製品にのぼる。ロングセラーの商品こそ同社が定義する「スター商品」だ。福井氏は商品づくりにおける同社のポリシーについて「類似商品が数多くある中で、当社の差別化のポイントになるのは原料だ。仕入れは直接、目で見て、直接、舌で確認している。あえて原材料の枠を狭めている」という。
フジッコが食の安全・安心に貪欲なのは歴史からも窺える。1973年に食品業界で広く使われていた人工甘味料のサッカリンの不使用を達成。自社で残留農薬検査や放射性物質検査、遺伝子組換え検査を導入するなど、厳しい安全検査を商品づくりで実施してきた。この姿勢は同社の成り立ちに起因する。
同社の創業は1960年。前身の「富士昆布」を福井氏の父で学校の教師だった山岸八郎氏が子どもたちに健康に良い食べ物を食べさせたいという思いで立ち上げた。日本は高度成長期。洋食が増える中でも日本の伝統食である昆布に目を付けた。
ただ、当時は神戸市にできたばかり。福井氏はよく「3なし」という山岸氏の言葉を聞いたという。それは「名もない」「金もない」「地位や名誉もない」ということ。「だからこそ、原料で差別化するしかなかった」(同)。それが安全・安心につながる。
そして、昆布製品が量り売りだった時代にパック詰めを考案。全国に広がり始めていたスーパーマーケットの広域流通のニーズに応えた。「最初は無料で良いから店頭に置いて欲しいと頼み、売切れば問屋に発注がくる。その積み重ねを続けて東京にも進出できた」(同)
さらにメインターゲットである女性の生活の変化を捉え、家庭で作らなくなっていた昆布や豆の煮物を簡単に食べられるパック商品として商品化し、それらがヒット。現在はおかず事業のスター商品として「おばんざい小鉢」が成長を続けている。
「ナタデココ」や「カスピ海ヨーグルト」を日本に紹介
そんなフジッコにはもう1つ、健康的な食材を日本に根付かせてきたという側面がある。代表例が「ナタデココ」。フィリピンで伝統的に食べられていた低カロリーなナタデココをいち早く商品化したのは同社だ。
また、グルジア(現ジョージア)の長寿村で食べられていたヨーグルトを「カスピ海ヨーグルト」としてヒットさせたのもフジッコ。「ヨーグルトの菌を発見して日本に持ち帰ってきた教授から依頼され、採算度外視で商品化した」と振り返る。
そんなフジッコだが、諸資材の高騰・エネルギー費用の増加という逆風に直面している。2022年3月期の売上高は550億円、営業利益は31億円、23年3月期は減収減益を余儀なくされた。安全・安心に妥協がない分、コストがかさんでいる状況とも言える。
福井氏は「スター商品の物量を高め、(商品やサービスを販売した際に直接得られる)限界利益を高めていく」方針を示す。そのためにもピーク時に450~460種類あった商品数も270~280種類に絞り、利益率の改善につなげていく。
また、健康にフォーカスした新規事業であるダイズライス事業にも注力していく考え。大豆タンパク質の商品の中から、ご飯の代替となる大豆商品を開発し、食べることで健康になり、肌も綺麗になる点を売りにする。
福井氏はフジッコを「紅クラゲのような存在にしたい」と語る。紅クラゲとは若返りを繰り返しながら数を増やす不老不死の象徴だ。「健康」を軸とした「スター商品」で競争の熾烈な食品業界での生き残りを図る。
コロナ明けの外食需要を喚起 ビール各社が業務用に活路
「3なし」から始まる
「収益性が高く、生産性も高い『スター商品』を数多く世に出し、全国に広めていく。その際、創業以来の〝健康〟という軸は決してブレることはない」─。〝ふじっ子のおまーめさんっ〟のフレーズが耳に残るCMで知られるフジッコ社長の福井正一氏は、こう意気込みを語る。
フジッコといえば日本人が親しんできた数々のロングセラー商品がある。「ふじっ子(塩こんぶ)」「おまめさん」「ふじっ子煮」「純とろ」……。中でも1976年から発売している「おまめさん」シリーズを中心に、豆製品の同社の国内シェアは4割程。祖業の昆布製品では50%を占める。
昆布は健康的な素材の代名詞のような存在だ。身体に必要な様々なミネラルを含み、カルシウムは牛乳の6倍とも言われる。一方の大豆はタンパク質やビタミンなどの栄養素をバランス良く含み、食物繊維も豊富に含まれている。フジッコはこの昆布と豆という日本の伝統的な健康食材を主力商品にしている。
しかし、これらの素材には難点がある。他の食材と比べて調理に手間がかかるという点だ。昆布で言えば、海で採られた昆布をそのまま使う家庭はほとんどない。必ず加工という工程が求められる食材だ。フジッコは家庭の主婦ではできない工程を代行しているとも言える。
例えば「純とろ」。北海道を中心にフジッコの社員が厳選して買い付けた昆布をチップ状にカットし、プレス機で押し固める。四角い塊になった昆布を一定時間寝かすと、カチカチの状態になる。それを特殊な機械にセットし、カンナがけのように断面を削っていくのだ。その厚みは髪の毛の5分の1、約0.02ミリ。削り出す刀の調整は限られたベテランしかできない職人技だという。さらに豆製品は「煮る」という作業から主婦を解放している。
フジッコの商品のうち、10年以上続いている製品数は148製品中94製品にのぼる。ロングセラーの商品こそ同社が定義する「スター商品」だ。福井氏は商品づくりにおける同社のポリシーについて「類似商品が数多くある中で、当社の差別化のポイントになるのは原料だ。仕入れは直接、目で見て、直接、舌で確認している。あえて原材料の枠を狭めている」という。
フジッコが食の安全・安心に貪欲なのは歴史からも窺える。1973年に食品業界で広く使われていた人工甘味料のサッカリンの不使用を達成。自社で残留農薬検査や放射性物質検査、遺伝子組換え検査を導入するなど、厳しい安全検査を商品づくりで実施してきた。この姿勢は同社の成り立ちに起因する。
同社の創業は1960年。前身の「富士昆布」を福井氏の父で学校の教師だった山岸八郎氏が子どもたちに健康に良い食べ物を食べさせたいという思いで立ち上げた。日本は高度成長期。洋食が増える中でも日本の伝統食である昆布に目を付けた。
ただ、当時は神戸市にできたばかり。福井氏はよく「3なし」という山岸氏の言葉を聞いたという。それは「名もない」「金もない」「地位や名誉もない」ということ。「だからこそ、原料で差別化するしかなかった」(同)。それが安全・安心につながる。
そして、昆布製品が量り売りだった時代にパック詰めを考案。全国に広がり始めていたスーパーマーケットの広域流通のニーズに応えた。「最初は無料で良いから店頭に置いて欲しいと頼み、売切れば問屋に発注がくる。その積み重ねを続けて東京にも進出できた」(同)
さらにメインターゲットである女性の生活の変化を捉え、家庭で作らなくなっていた昆布や豆の煮物を簡単に食べられるパック商品として商品化し、それらがヒット。現在はおかず事業のスター商品として「おばんざい小鉢」が成長を続けている。
「ナタデココ」や「カスピ海ヨーグルト」を日本に紹介
そんなフジッコにはもう1つ、健康的な食材を日本に根付かせてきたという側面がある。代表例が「ナタデココ」。フィリピンで伝統的に食べられていた低カロリーなナタデココをいち早く商品化したのは同社だ。
また、グルジア(現ジョージア)の長寿村で食べられていたヨーグルトを「カスピ海ヨーグルト」としてヒットさせたのもフジッコ。「ヨーグルトの菌を発見して日本に持ち帰ってきた教授から依頼され、採算度外視で商品化した」と振り返る。
そんなフジッコだが、諸資材の高騰・エネルギー費用の増加という逆風に直面している。2022年3月期の売上高は550億円、営業利益は31億円、23年3月期は減収減益を余儀なくされた。安全・安心に妥協がない分、コストがかさんでいる状況とも言える。
福井氏は「スター商品の物量を高め、(商品やサービスを販売した際に直接得られる)限界利益を高めていく」方針を示す。そのためにもピーク時に450~460種類あった商品数も270~280種類に絞り、利益率の改善につなげていく。
また、健康にフォーカスした新規事業であるダイズライス事業にも注力していく考え。大豆タンパク質の商品の中から、ご飯の代替となる大豆商品を開発し、食べることで健康になり、肌も綺麗になる点を売りにする。
福井氏はフジッコを「紅クラゲのような存在にしたい」と語る。紅クラゲとは若返りを繰り返しながら数を増やす不老不死の象徴だ。「健康」を軸とした「スター商品」で競争の熾烈な食品業界での生き残りを図る。