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世界連邦運動協会会長・大橋光夫の訴え「地政学リスクが高まる今、日本の被爆から始まった『世界連邦運動』を世界的運動に」

財界オンライン 2023年11月28日 11時30分

第二次世界大戦が終結した翌年、アインシュタイン、オッペンハイマーといった原子力爆弾開発にかかわった科学者、日本からはノーベル賞受賞者の湯川秀樹といったメンバーが支持者となって、始まったのが「世界連邦運動」。文字通り、世界を1つの政府にしようという構想。「世界から紛争をなくそうという運動」とは世界連邦運動協会会長を務める大橋光夫氏。世界で争いが頻発する中、この構想の持つ意味とは。


世界で危機的状況が現実のものになる中で

 ─ 今、世界ではロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの紛争、そして中国による台湾有事の恐れと、危機的状況を迎えています。大橋さんは現状をどう見ていますか。

 大橋 いま起きているのは世界及び人類全体の問題です。ロシアとウクライナ、イスラエルとハマス、さらに言えば中国寄りに動く北朝鮮と、全て最後は「核」の問題に行き着きます。

 現在の核兵器は10年前とは規模が違うので、本当に使用する国が出てきたら、人類は破滅します。そのような危機的な状況に世界は置かれているのです。

 ─ このような状況の中、大橋さんは世界連邦運動協会という団体の会長を務めていますね。どういうことを目指しているか、聞かせて下さい。

 大橋 そもそも、人類は250万年前にアフリカで誕生したと言われています。だとすれば、世界各地の人類は全て血がつながっているのです。従って世界連邦は、文字通り、世界全体を1つの連邦にしてしまおうという構想です。世界の国々が互いに独立を保ちながら、地球規模の問題を扱う、1つの民主的な政府をつくろうという考え方です。紛争は多くの場合、隣国との間で起きますが、こうした事態をなくしていきましょうという運動です。

 ─ この運動はいつ頃から始まったのですか。

 大橋 第2次世界大戦末期に遡ります。当時、アメリカにはアルバート・アインシュタイン、ロバート・オッペンハイマーという2人のユダヤ人科学者がいましたが、彼らはアメリカに貢献するために原子力爆弾開発「マンハッタン計画」に関わっていました。

 大戦末期、ドイツが核兵器を開発中だという情報がもたらされたこともあり、開発を急いだ結果、原爆が完成した。これを、沖縄戦で多大な被害を被ったにもかかわらず降伏しない日本に落とそうというのがアメリカの考えでした。これにアインシュタイン、オッペンハイマーの2人はサインをし、結果、広島、長崎に原爆が落とされました。

 ─ 時のアメリカ大統領はフランクリン・ルーズベルトですね。国際連合設立の提唱者ですから、非常に皮肉な状況でしたね。

 大橋 そうです。日本に原爆を落としたわけですが、その威力たるや、つくった本人達が考えるよりも数十倍も大きな被害、殺傷能力がありました。この現実を知り、アインシュタインもオッペンハイマーも原爆の開発から手を引きます。

 大戦末期に、戦争の惨禍を繰り返さないようにと国際連合が創設されたものの、その終戦後に、アインシュタインやオッペンハイマーといった核物理学者の支持も得ながら、1946年ルクセンブルクに世界各国の有識者が集まり、2度と核兵器を使わない、あるいは開発しない世界をつくろうということで、現在の世界連邦運動につながる「世界連邦政府のための世界運動」を組織したのです。それから間もなくして、1949年にノーベル物理学賞を受賞する湯川秀樹もこの運動に加わります。

 ─ 核兵器開発を主導したオッペンハイマーも支持し、世界的物理学者であるアインシュタイン、湯川秀樹が参加していることに意味がありますね。

 大橋 そうです。岸田文雄首相は、首相就任前の2020年に『核兵器のない世界へ』(日経BP)という著書を出版されています。

 足元で、岸田政権の支持率は下落し、不支持率の方が高いなどと報じられています。ただ、核兵器のない世界は日本の問題ではなく世界、地球の問題です。私は「核兵器のない世界へ」とまで本に書いた岸田首相を評価しています。


「我々は日本人である前に地球人なのだ」という思い

 ─ 大橋さんはどんな経緯で世界連邦運動協会の会長に就くことになったのですか。

 大橋 私の前任の会長が、海部俊樹元首相だったのですが、22年にご病気で亡くなられて以降、会長は空席でした。ただやはり、会長が不在だと、活動の動きは鈍くなることから、関係者は後任の必要性を痛感していたようです。

 実は、この世界連邦運動にかかわる組織は世界中にあります。そこに日本としても参加しているということですが、残念ながら、世界連邦運動に関する各国の組織は個別では動いていても、世界全体で共同で活動しようという意識にやや欠けているように見えます。

 ─ 日本は実際に核を落とされている国ですから、他の国以上の思いがありそうですね。

 大橋 そうです。その意味では、世界の中でも熱心な国だと思います。これを、世界全体の運動として、さらに強力なものにしていくこと。世界連邦が夢ではなく、実現可能性のあるところまで行けば、地球と人類は救われると言っても過言ではありません。

 私自身、『私の履歴書』(日本経済新聞社)や、他の新聞にも掲載した記事を集めて制作した『我ら地球人』という題名の冊子を出していますが、この時に私自身の思いとして「我々は日本人である前に地球人なのだ」ということを考えていましたから、それを題名にしました。

 もう1つ、妻は女性の集まりの中で、世界連邦の実現以外に将来、地球と人類が繁栄する術はないという考え方について頻繁に話し合っていたのです。そうした中で妻は亡くなるわけですが、亡くなった日が9月21日で、国連が定めた国際平和の日だったのです。

 ─ 会長就任にあたっては、こうした様々なご縁があったと。

 大橋 ええ。お声がけがあったのも、書いたものその他をご覧になって、私が世界連邦に対して強い関心を持っているだろうと思われたのだと思います。

 ただ、私自身、この年齢でこのような重い役割をお引き受けすることは随分迷いました。ただ、妻の活動もあり、「私がやっていたことなんだから、引き継いでやって下さい」と言われているような気がしてお引き受けをし、今に至っています。


人類はいつ、どこで生まれたか?

 ─ 長年にわたる世界連邦の構想ですが、どのような形で実現の可能性を高めていくかが課題だと思います。

 大橋 おっしゃる通り、この構想をどうやって実現するかというところに持っていかないと、話だけで終わってしまっては意味がありません。

 ─ 日本は岸田首相が広島でのサミット開催を実現するなど世界との連携を深めている一方、日米同盟の中で軍事的に米国の傘の下で守られているという現実があります。

 大橋 本当に難しい問題だと思います。しかし核の問題は地球で最大の問題だと思います。

 遡ると、地球上に人類がいつ誕生したか。様々な学説がありますが、地球が約46億年前、人類は約250万年前に生まれたと言われています。

 しかもアフリカで生まれ、そこから世界中に広がっていきました。ということは、どう考えてもアフリカ人も、アメリカ人も、ユダヤ人も、日本人も、みんな同じ血がつながっているはずです。

 ですから、そもそも戦争をして、隣国との間に勝手に線を引いて、陣地を増やしたり減らしたりと言って喧嘩をしている場合ではないのです。人類の歴史を振り返ると、今の地球人は愚かだと言わざるを得ません。

 ─ 難しい問題ですが、解決につながりそうな考え方はありますか。

 大橋 例えば日本の例です。戦国時代、自らの領地を守るために争いを繰り広げていましたが、徳川家康が出てきて軍事的にも政治的にも全体を抑え込んだわけです。この時に初めて、日本という国が生まれたのだと思うのです。

 その意味で、この事例を世界、地球に拡大すればいいのではないかと思います。国境線を引いて争うのが当たり前ではないのです。特に日本はそういう性格を持った国です。

 その意味からも、本当に地球を、そして人類を守るために、今の世界連邦運動は重要だと考えています。

 ─ この世界連邦運動は本部組織のようなものはあるのですか。

 大橋 本部があるといっても、各国の団体が加盟する国際事務局のような組織といえ、世界全体でまとまって活動するような仕組みにはなってはいません。とはいえ、国連の経済社会理事会に参加できる資格を持つ国連から認定されたNGO(カテゴリー2:特殊諮問資格)ではあります。加盟団体は28カ国にありネットワークはしていますが、自律分散的な組織といえます。言ってみれば、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も、こうした考えを持って取り組んでおられますが、一向に広がらない。

 また、日本に世界連邦運動にかかわる団体は6団体あり、世界連邦運動協会は、そのうちの1つです。また、各自治体では「世界連邦宣言」を出しているところがあります。

 こうした活動をある程度束ねる形で、世界連邦の日本推進協議会が年1回理事会を開きます。そして歴代、世界連邦運動協会の会長が、日本推進協議会の会長を兼ねています。

 各団体は、組織的に1つの方針、活動の下にというわけではなく、各団体がそれぞれの理念や考えの下に活動をしています。これは世界も同様です。

 ─ 政治は、どうしても足元で起きている課題に引っ張られますが、世界連邦運動は根本の問題ですね。

 大橋 あまりに大きな問題ではありますが、この問題を解決しない限り、地球、人類の破滅が起こり得るのではないかと思っています。


台湾と日本との友好関係を踏まえて

 ─ 振り返って、活動の始まりは原爆の悲惨さだったわけですが、そのきっかけは戦争ですね。その意味では、なぜ国は戦争を起こすのかという問いに立ち返る必要がありますね。

 大橋 やはり、領土の拡大が一番の根本にあると思います。領土を拡大することで、そこから生まれる生産物なり何なりを、自分の国のものとして自由に使うことができる。

 奇しくも、いま私は日本台湾交流協会の会長を務めています。私自身は台湾有事に関わる立場ではありませんが、通常の台湾と日本との関係の中で、漁業問題などについての様々な協定があります。それらは私が調印して初めて、実行に移されるという立場ではあります。

 ─ 10月10日には「双十節」(中華民国の建国記念日)がありましたね。

 大橋 私も祝賀式典で挨拶をさせていただきましたが、世界中で、隣同士でこれほど仲のいい関係は日本と台湾が一番だと思います。このことに誇り、自信を持って、全世界に素晴らしさを発信していくこと。それを全世界の人達が理解すれば、世の中から戦争がなくなることにつながるのではないかという思いを持っています。

 ─ 世界連邦運動は非常に大きな構想ですから日本の政治、経済の関係者を動かす必要がありますね。

 大橋 そう思います。ただ世界でも共通しているかもしれませんが、今は政治家も経営者も、実務的なリアルの話に集中する傾向が強く、このような世界的な課題に対する発言が少なくなっているように感じます。

 ただ、世界連邦運動は、政界では超党派での取り組みになっていますし、経済人の中にも意識のある方はおられます。

 ─ 大橋さんの祖父は首相を務めた濱口雄幸ですが、1930年(昭和5年)のロンドン海軍軍縮条約を締結後、国内で批判を受け、銃撃され、間もなく亡くなりましたね。日本の進路を考えて、やるべき事をやるという信念の政治家だったと思います。

 大橋 世界連邦運動は非常にスケールが大きく、実現も容易ではありませんが、ただ世界のため、人類の繁栄のため、もちろん日本のためになる構想ですから、これからも取り組んでいき、国連の改革も含め、世界的活動として少しでも実現の方向へ働きかけたいと思っています。

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