GDPが世界4位に転落
日本は、2023年のGDP(国内総生産)をドイツに抜かれて世界4位に転落する─とIMF(国際通貨基金)が10月に発表。
今年の日本の名目GDPは4兆2308億ドル(約630兆円、前年比0.2%減)の見通し。
一方、ドイツは4兆4298億ドル(約660兆円、前年比8.4%増)の見通し。
欧州はインフレ基調で、統計の数字もその分、〝水ぶくれ〟しているという要因もある。日本は円安が続き、ドル表示のGDP数値がその分、以前より〝減額〟されるという要因もあるだろうが、やはり過去30年間、成長してこなかったことのツケが今、現われたのだと思う。
世界のGDPランキングでは、新興国の中で成長著しいインドが5位に付けており、間もなくインドにも抜かれるという見通し。
日本の存在感が低下しており、一抹の寂しさを感じる。1968年(昭和43年)、筆者が大学3年の時に、日本は当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜き、米国に次ぐ自由世界第2位の座に就いた。
当時は、学園紛争が盛んで、大学のキャンパスは荒れぎみだったが、「日本にも勢いがついてきた」という高揚感を感じたものだ。
2010年(平成22年)、中国に抜かれ世界3位になった日本は、今度はG7(主要先進7カ国)の仲間、ドイツに抜かれるという凋落傾向。
確かに、人口減、少子化・高齢化という逆境の中で、そう簡単に成長できるわけではないけれども、何とか、打てる手を打っていきたいものだ。
再び、成長を目指すには
要は、日本の成長力、潜在力をどう掘り起こしていくかということである。
日本生産性本部会長の茂木友三郎さん(キッコーマン名誉会長)は、日本が成長を止めたままできている事に、「これは非常に残念なこと」として、次のように語る。
「経済全体も成長せず、賃金も上がらず、ずっとやってきたわけですが、ここで方向転換しないと」
原材料価格の製品価格への転嫁は、欧米は比較的スムーズに行く。しかるに日本はなかなかそうはいかないという彼我の違いもある。
日本企業は、値上げをすると、競争相手に出し抜かれるという恐怖心がまず走る。値下げは、消費者にとって恩恵だが、原材料コストが上がり続けている中で、そうした値下げ一辺倒の戦略は長続きしない。
どこかで息切れするし、場合によっては廃業に追い込まれることもある。では、どうするか?
「日本は低物価原理主義から脱却する時。知恵を使って競争する。価格を下げるのではなくてね」
茂木さんは『ユニクロ』の例をあげながら、「ユニクロの場合はコストを下げているわけですね。コストを下げて、成果が上がったものは価格を下げていく。利益を重視した生産性アップです」と語り、利益無視の価格競争をするのが、「一番いけない」と語る。
大事なのは生産性を上げることである(トップレポート参照)。
リーダーと世論の関係
リーダーと世論の関係はどうあるべきか─。これは、永遠の課題と言っていい。
いま岸田文雄首相が支持率低迷に悩まされている。政権が掲げる所得税減税も旗色が悪い。
折しも、衆議院の解散が話題になっているときだけに、「有権者の歓心を買おうとしている」と選挙目当ての措置という批判もある。
新聞社の世論調査でも、「所得税減税は適切ではない」との回答が65%にのぼるという報道もある。
世論の変化も実に早い。今春の主要先進国首脳会議(G7広島サミット)などでは、岸田外交の評価が高まり、国民の支持率も50%台を回復。しかし、それが低迷し始め、ここへ来て30%台前半と〝警戒ライン〟に近づいてきた。
支持率が低下したのはなぜか?
国外に目を向けると、ウクライナ危機が長引き、パレスチナ危機が重なって、戦火が他所にも拡大するのではないかという懸念。
国内にあっては、インバウンド(訪日観光客)の増加で、航空、小売業などの関連業界は活気づいてきたものの、円安で輸入物価は上がり、賃上げが物価上昇に追いつかないという生活者の〝潜在的不満〟が高まりつつある。
側近不在が原因?
「官邸に、政策を的確に打ち出していく側近がいない。政策がまずいというより、まず党内の政治力学を的確に読み、まとめ上げるような力のある側近がいない」と、側近不在が今回の混乱を招いているとの政治関係者の分析もある。
権力闘争の常として、合従連衡を図る政界操縦術も必要で、その戦略・戦術を練る側近も確かに必要であろう。
しかし、もっと肝腎な事は、首相と国民との対話であり、その対話の中で、国民の心に響く首相の情報発信ではないのか。
国家戦略を担う志とは
政治と行政との連携も弱い。
バブル崩壊後、有力官庁の事務次官を務めた官僚OBが語る。
「政治を志す人も、また役所で働こうと思う者も、国家戦略を担うという気持ちを持っているはず。政治家と官僚は長期的展望に立って、国家戦略をつくりあげるという方向は一致しているはず。その連携が今、取れていない」
なぜ今、そうなのか?
戦後しばらく、政管官庁と言われる省庁を中心に官僚主導の国づくりが続いた。その後、少し世の中が沈滞し、「政治主導でいこう」という声が高まる。
中曽根康弘政権時の行革、3公社民営化、小泉純一郎政権は郵政民営化を掲げた。そして第2次安倍晋三政権からは官邸主導の政治が続く。その政治主導にもマイナス面がある。
「官邸にばかり目を向ける官僚もいる」と件の次官経験者。国民のために働く、本筋の仕事をしていくことが大事で、政治、官僚双方に反省すべき時である。
政治の大道を!
国民との対話不足は、所得税減税案に対して、それを必要と感じていない層が〝65%〟もいることにも表れている。
税収が増えて、その還元を図るといっても、日本の財政はいまだ赤字。2023年度一般会計予算を見ても、総額は114兆3812億円(当初予算)。歳入のうち、国債が占めるのは35兆円で、全体の3割以上。赤字額が3割以上なのに、減税について、国民も、「そうじゃないのではないか」という疑問を持っているということ。
本筋の道を行くというか、物ごとの本質を見極めていかないと、多くの国民に見放されてしまう。
金利上昇もヒタヒタと押し寄せてきており、財政の健全化にも国民は思いを致しているということではないか。岸田首相には、政治の本道を歩いて行ってほしい。〝聞く耳〟を持つ首相だけに、そう期待したいものだ。
日本は、2023年のGDP(国内総生産)をドイツに抜かれて世界4位に転落する─とIMF(国際通貨基金)が10月に発表。
今年の日本の名目GDPは4兆2308億ドル(約630兆円、前年比0.2%減)の見通し。
一方、ドイツは4兆4298億ドル(約660兆円、前年比8.4%増)の見通し。
欧州はインフレ基調で、統計の数字もその分、〝水ぶくれ〟しているという要因もある。日本は円安が続き、ドル表示のGDP数値がその分、以前より〝減額〟されるという要因もあるだろうが、やはり過去30年間、成長してこなかったことのツケが今、現われたのだと思う。
世界のGDPランキングでは、新興国の中で成長著しいインドが5位に付けており、間もなくインドにも抜かれるという見通し。
日本の存在感が低下しており、一抹の寂しさを感じる。1968年(昭和43年)、筆者が大学3年の時に、日本は当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜き、米国に次ぐ自由世界第2位の座に就いた。
当時は、学園紛争が盛んで、大学のキャンパスは荒れぎみだったが、「日本にも勢いがついてきた」という高揚感を感じたものだ。
2010年(平成22年)、中国に抜かれ世界3位になった日本は、今度はG7(主要先進7カ国)の仲間、ドイツに抜かれるという凋落傾向。
確かに、人口減、少子化・高齢化という逆境の中で、そう簡単に成長できるわけではないけれども、何とか、打てる手を打っていきたいものだ。
再び、成長を目指すには
要は、日本の成長力、潜在力をどう掘り起こしていくかということである。
日本生産性本部会長の茂木友三郎さん(キッコーマン名誉会長)は、日本が成長を止めたままできている事に、「これは非常に残念なこと」として、次のように語る。
「経済全体も成長せず、賃金も上がらず、ずっとやってきたわけですが、ここで方向転換しないと」
原材料価格の製品価格への転嫁は、欧米は比較的スムーズに行く。しかるに日本はなかなかそうはいかないという彼我の違いもある。
日本企業は、値上げをすると、競争相手に出し抜かれるという恐怖心がまず走る。値下げは、消費者にとって恩恵だが、原材料コストが上がり続けている中で、そうした値下げ一辺倒の戦略は長続きしない。
どこかで息切れするし、場合によっては廃業に追い込まれることもある。では、どうするか?
「日本は低物価原理主義から脱却する時。知恵を使って競争する。価格を下げるのではなくてね」
茂木さんは『ユニクロ』の例をあげながら、「ユニクロの場合はコストを下げているわけですね。コストを下げて、成果が上がったものは価格を下げていく。利益を重視した生産性アップです」と語り、利益無視の価格競争をするのが、「一番いけない」と語る。
大事なのは生産性を上げることである(トップレポート参照)。
リーダーと世論の関係
リーダーと世論の関係はどうあるべきか─。これは、永遠の課題と言っていい。
いま岸田文雄首相が支持率低迷に悩まされている。政権が掲げる所得税減税も旗色が悪い。
折しも、衆議院の解散が話題になっているときだけに、「有権者の歓心を買おうとしている」と選挙目当ての措置という批判もある。
新聞社の世論調査でも、「所得税減税は適切ではない」との回答が65%にのぼるという報道もある。
世論の変化も実に早い。今春の主要先進国首脳会議(G7広島サミット)などでは、岸田外交の評価が高まり、国民の支持率も50%台を回復。しかし、それが低迷し始め、ここへ来て30%台前半と〝警戒ライン〟に近づいてきた。
支持率が低下したのはなぜか?
国外に目を向けると、ウクライナ危機が長引き、パレスチナ危機が重なって、戦火が他所にも拡大するのではないかという懸念。
国内にあっては、インバウンド(訪日観光客)の増加で、航空、小売業などの関連業界は活気づいてきたものの、円安で輸入物価は上がり、賃上げが物価上昇に追いつかないという生活者の〝潜在的不満〟が高まりつつある。
側近不在が原因?
「官邸に、政策を的確に打ち出していく側近がいない。政策がまずいというより、まず党内の政治力学を的確に読み、まとめ上げるような力のある側近がいない」と、側近不在が今回の混乱を招いているとの政治関係者の分析もある。
権力闘争の常として、合従連衡を図る政界操縦術も必要で、その戦略・戦術を練る側近も確かに必要であろう。
しかし、もっと肝腎な事は、首相と国民との対話であり、その対話の中で、国民の心に響く首相の情報発信ではないのか。
国家戦略を担う志とは
政治と行政との連携も弱い。
バブル崩壊後、有力官庁の事務次官を務めた官僚OBが語る。
「政治を志す人も、また役所で働こうと思う者も、国家戦略を担うという気持ちを持っているはず。政治家と官僚は長期的展望に立って、国家戦略をつくりあげるという方向は一致しているはず。その連携が今、取れていない」
なぜ今、そうなのか?
戦後しばらく、政管官庁と言われる省庁を中心に官僚主導の国づくりが続いた。その後、少し世の中が沈滞し、「政治主導でいこう」という声が高まる。
中曽根康弘政権時の行革、3公社民営化、小泉純一郎政権は郵政民営化を掲げた。そして第2次安倍晋三政権からは官邸主導の政治が続く。その政治主導にもマイナス面がある。
「官邸にばかり目を向ける官僚もいる」と件の次官経験者。国民のために働く、本筋の仕事をしていくことが大事で、政治、官僚双方に反省すべき時である。
政治の大道を!
国民との対話不足は、所得税減税案に対して、それを必要と感じていない層が〝65%〟もいることにも表れている。
税収が増えて、その還元を図るといっても、日本の財政はいまだ赤字。2023年度一般会計予算を見ても、総額は114兆3812億円(当初予算)。歳入のうち、国債が占めるのは35兆円で、全体の3割以上。赤字額が3割以上なのに、減税について、国民も、「そうじゃないのではないか」という疑問を持っているということ。
本筋の道を行くというか、物ごとの本質を見極めていかないと、多くの国民に見放されてしまう。
金利上昇もヒタヒタと押し寄せてきており、財政の健全化にも国民は思いを致しているということではないか。岸田首相には、政治の本道を歩いて行ってほしい。〝聞く耳〟を持つ首相だけに、そう期待したいものだ。