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みずほは楽天、三井住友はSBI、三菱UFJはauカブコムと提携するも、それぞれに「課題と悩み」

財界オンライン 2023年12月11日 15時30分

「ネット、デジタルの世界に人がどんどん流れていっている」─みずほフィナンシャルグループ社長の木原正裕氏は、こう危機感を示す。みずほは楽天証券に追加出資、持ち株比率を19.99%から49%にまで高めた。ネット証券の持つ集客力を、自らの力とするためだ。そしてここに来て、3メガバンクのネット証券戦略は色が分かれつつある。「資産形成」の時代を迎える今、その成否は─。


「新NISA」の開始が1つのきっかけに…

「メガバンクの中で、ネット証券に一定のフックをかけられたのは、みずほだけ。ここを進化させていく」と話すのは、みずほフィナンシャルグループ社長の木原正裕氏。

 2023年9月、みずほフィナンシャルグループは、グループのみずほ証券を通じて、楽天証券に対して約870億円を出資、持ち株比率を49%まで高めることを打ち出した。

 みずほは、22年10月に約800億円を投じて19.99%を取得しており、追加出資となる。この時は「高値掴み」を指摘する声も強かったが、ある市場関係者は「今回は割安に取得したと言えるのではないか」と指摘。

 今、岸田政権は「資産運用立国」を掲げ、24年からは「新NISA」がスタートするなど、国民の間でこれまでにないくらい「資産形成」への関心が高まっている。

 この動きの中で、各金融機関が口座を獲得すべく動く。木原氏によると、みずほ証券は昨年月間5000口座の獲得だったところ、足元では月8000~9000というペースで口座数が増えているのに対し、SBI証券や楽天証券は60000~70000という桁違いのペースで増加中。

「稼働している口座数も、ネット証券は圧倒的。ネット、デジタルの世界に流れていっているのが今の状況。それを我々として掴んでいきたい」と木原氏。

 楽天証券の顧客の一部富裕層の中には、対面による資産形成アドバイスへのニーズも出てきており、そこに対して、みずほのプラットフォームでサービスを提供することで「WIN・WINの関係をつくることができるのではないか」(木原氏)

 この追加出資の背景には当然、楽天グループ自体の苦境もある。モバイル事業での赤字が続く中、〝虎の子〟の金融事業会社を上場し、資金調達を進める戦略だった。23年4月には楽天銀行が上場し、楽天Gは一部株式の売却で約700億円を調達。

 続いて、楽天証券の持ち株会社・楽天証券ホールディングスの上場を23年7月に申請、23年内の上場を見通していたが、そのシナリオはみずほによる追加出資によって、延期となった。みずほによる追加出資額は、上場で調達するはずだった資金額に近い。24年、25年に合計約8000億円の社債償還が迫るだけに、楽天Gとしては背に腹は代えられない状況。

 みずほとしては、最初の出資は少々高値でも、他のメガに楽天証券を取られないようにするためのもの、追加出資は関係深化と、将来起き得る様々なシナリオを睨んでのものと言える。

 ただ、「みずほと楽天証券では顧客層が全く違う。楽天から入った人が、みずほに向かうかというと疑問」(前出の市場関係者)という声もある。両社を融合させられる一手を見出せるかが、みずほに問われている。

 注目されるのは、今後の残る2メガバンクのネット証券戦略。三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は、モバイルアプリ「Olive」を通じて、銀行口座、カード決済、ファイナンス、オンライン証券、オンライン保険などの機能を顧客に提供している。

 このアプリには、SBIホールディングスとの包括提携を生かしてSBI証券が参画。ただ、SMFGが「資産運用のメインサービス」と位置づけているのに対し、SBI証券は「オープンアライアンス」を強調するなど温度差がある。

 SBI証券は口座数で日本一だが、楽天証券のような「経済圏」を持たないため、顧客獲得のための「間口」はいくらでも欲しいというのが本当のところではないかと見られている。SBIの北尾吉孝氏と直接交渉し、信頼関係を築いたSMFG社長の太田純氏が亡くなっただけに、今後この提携を深化させられるかが問われる。

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の亀澤宏規氏は「我々のネット証券戦略のコアは、auカブコム証券」と発言した。

 auカブコム証券は旧カブドットコム証券で、MUFGの子会社ではあるが、持ち株比率は51%、残り49%はKDDI傘下のauフィナンシャルグループが保有している。

 ただ、ある市場関係者は「ネット証券戦略のコアがauカブコム証券では弱い。今、まさに戦略を練り直しているところではないか」と推測する。

 auカブコム証券の口座数は23年10月時点で約160万口座と、SBI、楽天の2強だけでなく、3位のマネックス証券(約220万口座)にも水を開けられている。しかもマネックス証券は、MUFGとも提携関係にあるNTTドコモの子会社となり、再成長を期している。

 マネックスグループ社長の清明祐子氏が旧三和銀行出身だということもあり、一時MUFGが買収に動くのではという観測が流れたが、マネックスが持つ暗号資産(仮想通貨)大手のコインチェックの存在が足枷になった可能性も指摘されている。

 資産形成の時代を迎えつつある中、メガのみならず金融機関同士の競争は激化している。混戦・流動化状況の中で、どこがどう抜け出てくるか─。

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