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三井不動産「神宮外苑再開発」の将来像、「誰もが自由に憩える場所に」

財界オンライン 2023年12月20日 20時0分

「ご批判に対して、いろいろな発信をしてきたが、まだまだ十分でなかったのだろうと思っている」─三井不動産ビルディング本部長の鈴木眞吾氏はこう話す。三井不動産が事業者代表を務める「神宮外苑地区まちづくり計画」は、一部から「樹木を伐採するな」、「高層ビルは景観を損なう」といった批判にさらされている。だが、いま以上に緑を増やし、多くの人が憩えるスペースを確保する開発だとして理解を得たい考え。この再開発が描く将来像は─。

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なぜ、この再開発は批判にさらされているのか?

「今、明治神宮再開発に対して、様々な方からご意見をいただいている。特にネガティブなご意見やご批判をいただいていることに対して、このプロジェクトの正しい事実、将来に向けて目指すべき事柄について、十分発信しきれていなかったと考えている」と話すのは、三井不動産取締役常務執行役員ビルディング本部長の鈴木眞吾氏。

 現在、東京都港区で「神宮外苑地区まちづくり」が進行中。事業者は三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の4社。

 この計画では築97年の神宮球場、築76年の秩父宮ラグビー場の段階的建て替え、現在以上に公開空地などの広場、緑地を拡充することなどが柱。2024年に新築工事着工、全体完成は2036年を予定している。

 だが今、このプロジェクトは一部から強い批判にさらされている。音楽家の故・坂本龍一氏、作家の村上春樹氏といった著名人が反対の声を挙げた他、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関である国際記念物遺跡会議(イコモス)は神宮外苑が「再開発により差し迫った脅威にさらされている」として「ヘリテージ・アラート」(緊急要請)を出し、計画の撤回を要求。

 こうした批判に対して、事業者代表の三井不動産としては「開発には大義、意義がしっかりあると確信している」と強調。

 なぜ、こういう事態になっているのか?

「ご批判に対して、いろいろな発信をしてきたが、まだまだ十分でなかったのだろうと思っている。発信のやり方、中身、我々の思いを含めて、ご理解を深めていただけるように考えていく必要がある」と鈴木氏。

 すれ違いの要因の1つは「樹木」の扱いに対する誤解が挙げられる。例えば、神宮外苑を象徴する「イチョウ並木」が伐採されるのではないか? といった情報に接して、再開発を批判している人が散見される。

 これに対しては「4列のイチョウ並木は保存をし、今までと同じような形で景観も含めて維持していくことは、揺るぎないファクトとして改めてお伝えしていきたい」と鈴木氏。

 また、再開発に伴い、外苑内の樹木を一部伐採することに対する批判も根強いが、現時点では1904本の樹木のうち、保存886本、移植275本(移植検討樹木19本を含む)、伐採743本という計画。ここに新植する樹木を加え、本数は1998本に増加。これによって緑地面積の割合は25%から30%に増える。

 再開発批判の主軸が「樹木」であることを考えても、実際に伐採する樹木の規模はどれくらいなのか、その結果、どういう見え方になるのかについて発信することも重要。

 高さ15メートル、20メートルといった高木が多く伐採されるのではないか?という批判もある。「高木の伐採は一定量で、それ以外は例えば、テニスコートの目隠しに使われている木や、オフィスビルの外構にある小さな木も含めて本数を公表している」と鈴木氏。将来、外苑の緑がどうなっているかについての、さらにわかりやすい発信を検討中。

 実際に今、三井不動産は外苑内の樹木1本1本について健康状態などの調査を進めており、その調査結果に基づいて健康状態のよくない木を伐採するといったことを考えている。自然林でも間伐しなければ健康状態は悪化するし、庭木でも剪定しなければ木の健康は保たれない。

「一般の方々にも『なるほど』と思っていただけるような発信を心がけていきたい」(鈴木氏)


意外にも少なかった「憩いの場」

 再開発の大きなキーワードは「スポーツ」。前述の通り、現状の神宮球場、秩父宮ラグビー場はそれぞれ老朽化が進む。これらの施設を段階的に建て替え、「22世紀も『スポーツの聖地』であるために機能を更新することが不可欠」(鈴木氏)。

 例えば、現状の神宮球場は場外の歩行者動線スペース、場内のコンコースともに狭い。プロ野球の試合や花火など、大規模なイベントの際には「人溜まり」ができてしまう構造で、安全面に課題を抱えていた。

 だが、現在の場所で建て替えようと思っても、周囲を2本の道路と隣地に囲まれており、外周スペースがほとんどない。現在不足しているバリアフリー機能などを増設し、歩行者動線などを確保するのは困難だった。そこで、現在の秩父宮ラグビー場、明治神宮外苑テニスクラブがある場所に移転、新築する。

 そして秩父宮ラグビー場も老朽化が進む。こちらは現在の第2球場の場所に移転、新築。ラグビーを中心に、様々なスポーツ、文化イベントを開催する「屋根付き」の全天候型施設に生まれ変わる予定。そしてこれらを段階的建て替えにすることで、競技開催への影響を抑えることを目指している。

 意外だが、現在の神宮外苑はスポーツ施設が密集した状態。緑道などもないため全体の回遊性に乏しく、憩いの場となる広場もない。「閉鎖的」な空間になっていることは否めない。再開発では今回、第2球場をなくすため、その分のスペースを緑の広場とし、「誰もが自由に憩えて、行き来ができる空間をつくることで、神宮外苑の魅力が増していくのではないか」(鈴木氏)。

 そして、この回遊性や広場の確保は「災害への備え」にもつながる。2011年には東日本大震災が東京をも襲ったが、整備される新たな施設とも連携し、「広域防災拠点」としての機能を高めることも、この再開発の大きな目的の1つ。


外苑再開発における明治神宮の事情

 元々、この開発の経緯はどういうものだったか。この神宮外苑地区では、13年6月に地区計画が策定されているが、三井不動産は地区計画区域内に位置する「青山OMスクエア」(08年7月竣工、日本オラクル等が入居)の権利者だった。

 その後、15年4月に東京都と関係権利者6者(明治神宮、JSC、高度技術社会推進協会=TEPIA、伊藤忠、日本オラクル、三井不動産)で「神宮外苑まちづくりに係る基本覚書」を締結し、ここから開発計画の検討が本格的に始まった。

 三井不動産はこれ以降、地権者の同意も得て、再開発の代表施行者となって地権者とともに東京都のまちづくり指針を踏まえながら「神宮外苑地区公園まちづくり計画」を策定。22年3月に都市計画決定告示、23年2月には施行認可を受けた。

 今回の再開発では伊藤忠の本社ビルの建て替えが行われ、地上38階の新たなオフィスとなる。それ以外に地上40階でオフィス、商業施設が入る複合棟A、地上18階でサービスアパートメント、室内球技場などが入る複合棟Bも整備。

 これらの施設に対しても「公園の景観が損なわれる」という批判の声が一部にある。ただ、ビルは国道246号やオリンピック通り沿いに建つ。公園の真ん中にビルを建てるわけではない。「全体の中で適正な位置、ボリューム配分を、我々なりに練りに練って今回の計画に至っている」(同)

 今回、伊藤忠本社以外に建つビル、そして神宮球場、秩父宮ラグビー場の移転・新築は明治神宮にとって重要なプロジェクト。なぜなら、明治神宮は「神宮内苑」を護持し続けるために、外苑の活用によって得られる収入を必要としているから。

 明治神宮は、神宮球場などスポーツ施設の運営、ブライダル施設の明治記念館、内苑のお賽銭、ご祈祷などを収入源としている。このうち、神宮球場からの収入が6~7割を占めると言われている。

 明治神宮には明治天皇と昭憲皇太后が祀られている。神宮内苑は創建時に「永遠の杜」を目指し、日本各地から集めた10万本の樹木が植林された人工林となっている。明治神宮では20年に鎮座100年を迎えたが、「次の100年」に向けて明治神宮全体、内苑の「緑」を護持し続ける必要があるのだ。

 前述のように、神宮球場を段階的な建て替えにするのも、収入が失われる時期を短くするため。また、オフィスビルについても神宮球場、秩父宮ラグビー場の新築で使わなかった容積率を明治神宮が伊藤忠、三井不動産に譲ることで、その対価として開発の負担を軽減しているという意味がある。

 今回の再開発は公的な補助金に拠らない、民間主導の事業。その民間の事業者が連携して公共空間を維持管理するためにも、施設を更新し、事業全体として必要な収益を、持続的に確保していくことが重要。

 施設が完成した後も、防災やイベント、公共空間の維持などに向け、事業者間で連携して「タウンマネジメント」に取り組んでいく方針だ。


地道な活動で理解と共感を広げる

 その意味で改めて、三井不動産を始めとする事業者に求められるのは「情報発信」だと言える。

 すでに、再開発プロジェクトのサイトでは質問フォームを設け、23年11月末時点で300件を超える質問に回答している。

 違った観点では、23年11月に「親子でどんぐりを拾おう!」というイベントを開催。神宮外苑に落ちているどんぐりを拾って、それを植えて、苗木に育て、それを神宮外苑に新たに植えていく外苑の自然に親しみ、知ってもらうための取り組み。

 また、23年10月には、外苑に新たな緑をつくるための賛助金を募集する「献木プログラム」も始めている。こうした地道な取り組みによって、再開発に関心のある人達の理解や共感を広げようとしている。

 また、この地は鈴木氏の言葉にあったように、世界に誇れる「スポーツの聖地」。その評価に耐えうる「ハード」を整備することが求められる。そして三井不動産は、これまで進めてきた再開発でそこに「ソフト」も融合させてきた。

 この両輪によって「行きたくなる街、行きたくなる施設をつくるのが、我々の街づくりにおける『一丁目一番地』。ハードとソフトを組み合わせて、未来に向けた街づくりを進めたいという思いを強く持ち、再開発に取り組んでいる」

 三井不動産は、これまで多くの再開発を手掛けてきたが、その過程では開発の将来像がうまく伝わらずに批判を受けた案件もあった。だが、「大きな開発になればなるほど将来がイメージしづらい。しかし、できてみると『こんなにいい街づくりだったのか』と思っていただけるケースが多い。神宮外苑再開発も完成後には『いい街づくりだね』と思っていただけるのではないか」と鈴木氏は強調。

 コロナ禍を経て、我々は「リアル」の良さ、感動を再認識したが、スポーツはその最たるもの。神宮外苑開発がスポーツ、さらにはエンターテインメントで人々に感動を与えるものになるかは、これからの世間との「対話」にもかかっている。

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