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ボルテックス社長兼CEO・宮沢文彦「オフィスビルを借りるだけでなく、『買う』という発想があっていい。不動産を活用した社会課題解決を」

財界オンライン 2024年3月13日 15時0分

「東京の不動産所有権が人の手から離れていくところを民主化し、分断や富の偏在を防ぐというのが我々のパーパス(存在意義)」─宮沢氏はこう話す。不動産の世界でオフィスの「区分所有」という概念を浸透させたボルテックス。今はオフィスだけでなく、様々なアセットの小口化や海外展開も検討中。コロナ禍を経てオフィスのあり方に変化もある中、今後の成長戦略は─。


不動産保有がスタンダードに

 ─ 不動産を巡ってはコロナ後のオフィスのあり方や金利動向を巡って、様々な見方があります。どう見ていますか。

 宮沢 不動産業全般の状況は悪くありません。少子化、それほど強くない景気など、あまりいい状態とは言えない中、オフィスビルの売買マーケットは非常に堅調です。

 世の中の資金が現金、株式、債券に代わるオルタナティブ投資、現物投資にシフトしたがっていますから、不動産の保有がスタンダードになってきている印象です。

 バブル崩壊、リーマンショック以降、企業はノンアセットがスタンダードだった時期がありましたが、内部留保、現金、固定資産が蓄積されたことで、少しずつ東京の不動産に関心を向けるようになっています。

 ─ 海外投資家の日本への関心は?

 宮沢 ありますね。我々のお客様ではアジア圏の法人が中心です。彼らは実需で日本での拠点として使うという購入者です。足元で新築の物件を売り出した時、1フロアはアジア圏の法人が入るケースが多いですね。

 ─ 日本では資産運用への関心が高まっていますが、不動産に向かっていますか。

 宮沢 我々のお客様は国内の同族系企業が多いのですが、彼らは経営者、法人オーナーという個人、資産管理会社と、多くの場合1つの会社で3つの属性を持っています。この方々の不動産への関心は高いですね。

 今は法人のみならず、個人の不動産に対する関心が高まり、案件の小口化も進んでいますから、接する機会が増えてきています。市場が広がってきたことを実感しています。

 ─ 先程、コロナ禍の話もありましたが、生き方・働き方が変わる中、オフィスの先行きをどう見ていますか。

 宮沢 コロナ前、空室率は2%を切っていましたが、これはかなりタイトな状況でした。足元で6%程度というのも高いとは言えず、相当タイトな需給バランスだと思います。

 ただ、空室率が上がり出すと、ビルオーナーは賃料設定に対して弱気になります。それによってじわりと空室率が下がってきているわけですが、おそらく5%台に入ったあたりで、賃料設定を強気に転換してくると思います。すでに賃料の下落はほぼ止まっている状況です。


ビル賃貸業の持つ「安定性」に着目して

 ─ 改めて、宮沢さんが起業した時、どういう存在を目指そうと考えていましたか。

 宮沢 起業する時には「会社はどうあるべきか」、「自分が顧客だったら何を求めるか」を考えていました。

 自分が顧客として企業に要求するのは、第1に「存続」です。非常に高いクオリティのサービスを、未来永劫提供し続ける存在です。倒産したから終わりましたではお客様は困ってしまう。規模の拡大は顧客サイドからはあまり関心がなく、それよりも良いサービス、高い付加価値を提供し続けて欲しいということだと思うのです。

 私は証券営業をしてきた中で、世の中でどういう企業が強いか、企業価値を伸ばしているかを見聞きしましたし、上場企業であれば時価総額、非上場企業であれば純資産や含み益といった企業価値がどのように増えていくのか、いろいろ調べました。

 その中で非上場、同族系、少人数、国内という企業で実質的企業価値が1000億円以上に達した会社の数は多くありません。しかし、ビル賃貸事業者は到達しているケースがあります。

 当社も、保有物件金額、固定試算で600億円超ありますが、その約3分の2は不動産保有が作り上げたものです。そして、我々の売上高の9割を占める「区分所有オフィスⓇ」の分譲事業は、3分の1くらいなのです。

 ─ 不動産保有の価値は非常に大きいと。

 宮沢 ええ。ただ、ビルを所有しているオーナーは、代替わりの時にファンドなどに売却することが多い。また、不動産デベロッパーの再開発に地権者として協力して、フロアの一部を数百億円単位で保有していることもあります。しかし、名前は出てこないんです。ですから今はビル保有については大手の寡占状態になっていっています。

 それでも22年の時点で企業価値の大きさ、100年以上続く企業の業種のナンバーワンはビル賃貸業です。安定度、強さは全事業の中でもトップレベルと言っていい。

 土地の所有権は、江戸時代であれば江戸幕府が持っていた。それが近代国家、民主化すると所有権が分散していきました。住宅地、マンションであれば分譲されますが、商業地はどうしても大手が寡占してしまう。

 ですから、日本企業が東京でビジネスをしようという時、およそ9割が借りるという選択肢しかありません。これは歪で、放っておけば反民主的な富の偏在が起きてしまう。米国を見ても、一部の富裕層が富のほとんどを所有していることで分断を生んでしまっています。

 ─ ボルテックスは、日本で不動産所有の民主化をしたいということですね。

 宮沢 そうです。東京の不動産所有権が人の手から離れていくところを民主化し、分断や富の偏在を防ぐというのが我々のパーパス(存在意義)です。

 この30年間、日本ではビル賃貸事業を不動産投資と勘違いして忌み嫌う傾向がありましたが、今の時代は本業以外で、それに連動しない収益部門を持たなければ本業周りのリスクを受けてしまうという新しい経営の考え方が求められています。

 この新常識を、我々は「100年企業戦略」という言葉とともに打ち出してきているのです。


「優れたロジックは本質に近い」

 ─ 少し振り返って、宮沢さんの来歴に触れたいのですが、証券業界を志望した理由は何でしたか。

 宮沢 当時「金融ビッグバン」が行われて、業界間の垣根が低くなっていたことと、金融デリバティブが急速に浸透していたことが背景にありました。特にデリバティブには非常に面白みを感じましたね。

 様々なストラテジーを学んだ結果、「投資は逆張りだ」というのが、投資に対する私の解釈でした。ただ、有価証券の逆張りは、皆が目を光らせていますから難しいです。個別指標がたくさんあり、割安になると目立ちやすい。ですからプロ投資家やコンピューターの方が早く見つけてしまい、個人投資家や優秀な営業マンでは遅いのです。

 また、証券営業として提案するのは金融商品ですが、お客様の投資対象は不動産、絵画、映画制作、原野など幅広いのです。その中で「パワーがあるな」と感じたのが不動産でした。

 ─ そうして不動産業界に飛び込んだと。

 宮沢 はい。不動産業界に入る前後に感じたのは、金融商品は好みではなく儲かるか儲からないか、割安か割高かというところだけ見ます。ただ、不動産は好みで見る人が多いので割安、割高が生まれやすいということです。それは例えば、新築マンション、中古マンションの価格に如実に表れるのです。非常に面白い市場だと思いましたね。

 さらに不動産は融資を使いますが、銀行の融資姿勢が割安、割高に輪をかけるのです。人気がなく、取引されないものには融資も出ず、叩き売りされやすい。好みと融資姿勢で割安が生まれるに違いないから、これを商売にすべしと思ったのです。

 ただ、私は商業系のものをやった方がいいと思っていましたが、当時所属していた会社はレジデンスしか手掛けていませんでした。私はこのマーケットは絶対必要だと思っていましたから譲らず、最後は追い出されるような形で仲間と独立して、ボルテックスを創業したのです。

 ─ これは一大決断でしたね。そうして「区分所有オフィス」という概念で事業を始めたわけですが最初、受け入れてもらえましたか。

 宮沢 概念としては受け入れてくれるのですが、行動としては怖いからやらない、実績のない会社の提案には乗れないという人がほとんどでした。厳しい状況でしたが食べていくことはできるという状態が10年ほど続きましたね。

 この我慢する力は、我々の強みでもあります。普通は売れなければ諦める人が多いと思いますが、我々は諦めずにやり続けてきた。それはロジックとして優れているという確信があったからです。優れているロジックは本質に近い可能性が高い。

 ─ その時のロジックはどういうものでしたか。

 宮沢 多くの人はマンションの分譲された1室を買い、1棟では買いません。また、ビルの使用形態も賃貸で部分的使用ですが、所有になった時になぜ1棟なのか?ということです。これを分けて所有するというニーズはあるはずだと。1人で50億円のビルは所有できないので、10人で5億円ずつ所有しましょうという共同所有、シェアビジネスのような考え方です。

 レジデンスは他社が手掛けており、そこだけでは独自性はありません。前の会社を追い出されてまでやっているのだから、自分なりの「逆張り」を立証しようという思いもありました。食べるためだけにイージーな商売をしてもしょうがないと思ったのです。

 また、「逆張り」の投資で怖いのはデフォルトです。金融商品はデフォルトしてしまうので逆張りは難しく、そのギリギリを見抜くのがテクニックです。一方不動産はデフォルトがないというか、価値はゼロになりません。ゼロ価値がないのだから、割安になっているものが損するはずがないという鉄のような信念がありましたから、負けることはないと思いましたね。

 ─ 本質的なものを追求し続けて、ここまで来たということですね。

 宮沢 そうですね。自分の中にいろいろな価値観はありますが、会社では言葉として「パーパス」や「アイデンティティ」という言葉で表現しています。


あらゆるアセットを「小口化」できる

 ─ 創業から20年以上が経ちますが手応えはありますか。

 宮沢 まだまだですね。不動産業で750億円レベルは、まだ何もやらせてもらっていないと言っていい。数千億円の会社にならなければ、大手とは戦えません。今後10年前後で、1兆円をうかがえるところまで持っていきたいと思っています。

 そのために、今の事業をベースとして、その周辺を拡大しようと考えています。不動産の商材を区分化していくわけですが、そのサイズを大きくしていくとともに、自社開発にも力を入れていきます。

 さらに、オフィス以外のアセットタイプを増やしていきます。例えばホテル、物流倉庫、飲食店舗、テーマパークなど、様々なアセットの展開と小口化ができると思います。

 ─ 海外市場への展開はどう見ていますか。

 宮沢 東京に限っていえば、中古ビルは5000~6000棟ですから物理的限界があります。ですから商材を増やし、開発をするわけですが、場合によっては日本以外ということになります。それを試すために自己投資、共同投資で今、ハワイ、ニューヨークを手掛けている他、今後中東でも投資をしようと考えています。

 また、商材の多様化という意味では、軽井沢で超高級別荘事業を手掛けています。昨秋、軽井沢にその第1号物件が完成しました。今後はシリーズ化し、タイムシェア(別荘などのリゾート物件を1週間単位で購入し、所有できる権利)としての展開を予定しています。1つの物件を12人ほどの投資家で保有するイメージです。10億円の別荘を1人で所有するのは難しくても、共同所有であれば1人1億円に満たない額で所有できます。

 ─ 日本の少子高齢化は課題ですが、これに対応したビジネスの可能性は?

 宮沢 先程の富の偏在もそうですが、少子高齢化による地方の疲弊は解決していきたいテーマですね。不動産小口化商品やお客様への提案力で何かお手伝いができるのではないかと。

 例えば、今の高齢者施設は利用権の販売が主流ですが、もっと投資家のために相続対策の一環になるような高齢者レジデンスについては研究中です。

 今後も「マス」に照準を合わせるのではなく「希少性」を狙っていきます。我々はどうやったら儲けられるかという発想ではなく、「何をやるべきか」から入りますから、やるべきものを正しく見つければ、利益が出ないはずはないという考え方で事業を進めているのです。

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