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三菱UFJフィナンシャル・グループ社長・亀澤宏規「金融とデジタルの力で、分断の時代に『つなぐ』存在になっていく!」

財界オンライン 2024年2月6日 7時0分

「これまで培ってきた力が試される時代になる」─亀澤氏はこう話す。近年「マイナス金利」などで苦しんできた銀行業界だが、三菱UFJフィナンシャル・グループは3期連続純利益1兆円と「稼ぐ力」が高まる。地道なコスト削減や、顧客へのソリューション提供による手数料獲得といった取り組みが実を結んだ形。個人金融資産2100兆円のうち半分が「眠っている」状況の中、いかに資産運用を活性化させるか─。


安定的に「1兆円」を稼げる企業に

 ─ この数年、日本銀行によるマイナス金利やコロナ禍など、銀行にとって厳しい外部環境が続いた中で「稼ぐ力」をキーワードに3期連続で純利益1兆円の見通しですね。

 亀澤 元々は3年前、3年後に安定的に1兆円を稼げる会社になろうと取り組みを始めました。1年目から1兆円を超えるなど3期連続となり、安定的に稼げる会社となりました。

 要因は2つあり、1つ目は収益の多様化です。金利収益がなくなりましたから、手数料収入の確保やお客様へのソリューション提供などに取り組みました。

 2つ目は構造改革です。経費の削減や、米MUFGユニオンバンクの売却など事業ポートフォリオの見直しを進めたことが功を奏しました。自助努力に加え、海外で金利が上がってきたことを追い風として享受することができたのです。

 ─ 投資先のうち、米モルガン・スタンレーとの提携効果はかなり大きいと言えますか。

 亀澤 はい。モルガン・スタンレーは非常に高い収益を上げており、良い投資ができていると言えます。当社の海外投資銀行部門をモルガン・スタンレーに任せる形になっており、彼らが上げた利益の23%を我々は配当で得ることができます。

 また、彼らがM&A(企業の合併・買収)案件に取り組む際、我々が一緒になってファイナンスを手掛けることができるようになっていますから、普通だと入れないディールに入ることができるなど、大きな効果が出ています。

 ─ 預金量は約200兆円とかなり増加していますね。

 亀澤 コロナ禍でかなり増加したのですが、ある意味で信用・信頼の証ですからありがたいですね。今後、金利が上昇してくると、預金がパワーになります。


「資産運用立国」に向け
果たすべき役割は?

 ─ 今、日本政府は「資産運用立国」を目指して取り組んでいますが、ここでどのような役割を果たしていきますか。

 亀澤 国を挙げて、国民の皆さんの資産所得を倍増させようという取り組みになっていますが、我々はそこに向けて運用商品の開発、販売、管理など様々な機能を提供しています。

 総合金融グループとして資産運用立国に貢献しないといけないと考えていますし、皆さんの資産所得倍増に貢献したい。これは責務だと思っています。

 足元で資産運用残高は約100兆円ですが、これを2029年度末までに200兆円に倍増させたい。今、MUFGの下には銀行、信託、証券がありますが、ここに今は信託の子会社である三菱UFJアセットマネジメント(MUAM)を24年4月に直下にして「第4の柱」として力を入れていきます。

 ─ これまでデフレ下で有効活用されていなかった約2100兆円の活用を図るということですね。

 亀澤 ええ。預金が投資に移るところも我々がお手伝いするなど、できれば当社の運用力をご評価いただき、証券会社から商品を買っていただくといった形で、MUFGの中で投資資金が回っていくことも期待しています。

 象徴的なのが「eMAXIS Slim(イーマクシス スリム)」という商品です。23年4月に純資産総額が4兆円に達したのですが、その後約3カ月で5兆円を突破するなど、爆発的に売れているんです。

 ─ この要因をどう見ていますか。

 亀澤 グローバルな商品に投資する投資信託の中で手数料が日本一安く、預金者が初めて運用する時の投信として選びやすいのだと見ています。今、ブロガーが選ぶ投信でナンバーワンになっているんです。24年から「新NISA(少額投資非課税制度)」が始まっていますが、この商品は大きな武器になります。

 ─ 改めて、「金利が付く時代」が近付いてきていますが、金融グループとして果たす役割をどう考えますか。

 亀澤 銀行の役割はますます大きくなります。ただ、大きく何かが変わるのではなく、今までやってきたことが試されるのだと思います。

 金利がない世界では、単純な貸出よりも、お客様の経営課題に関して、どのようなアドバイスができるかという力が必要でした。例えばお客様の買収やM&A(企業の合併・買収)の提案、ガバナンスの強化、脱炭素に向けた取り組みといった課題に対して対話をし、そこにアドバイスをすることで手数料をいただくといった取り組みを進めてきました。

 今後、金利がある世界になると、今までほとんどなかった調達コストが出てきますから、お客様は事業で利益を出すための事業力を強化しないといけません。よりリスクが高まりますから、そこに我々がどういったソリューションを提供できるか。そして金融の正常化は良いことですが、そこにはリスクも、チャンスもあることをお伝えしていく。この役割が求められるので、まさに力が試されます。

 ─ これまで培ってきた力が試される。ある意味で面白い時代になるとも言えますね。

 亀澤 当社の業績で言えば、営業純益が14年のマイナス金利導入以降、下落を続けていたのですが、先程お話した収益の多様化などもあり、マイナス金利前のレベルに戻ったのです。

 ここから金融が正常化すると、金利収入も加わりますし、これまで培ったお客様との関係もあり、非常に面白い時代を迎えると言えます。ただ、当社がお客様に選ばれない可能性もあります。「あなた方の提案よりも、他社の提案の方が良い」と言われることもあるかもしれませんから、面白いけれども非常に力が試される。やりがいがあります。

 ─ お金のやり取りだけでなくソリューションが重要ということですが、ある意味で「つなぐ」というのは今後のキーワードになりますね。

 亀澤 おっしゃった「つなぐ」は次の中期経営計画のキーワードです。世界的な分断が進み、お客様のニーズは多様化し、働き方も働く場所もバラバラになっている今ですが、そうした状況にデジタルで対応できるようになっています。

 パーソナライズ、つまり1人ひとりに合わせたサービスを提供できるということです。分散、多様化していますが、実は瞬時につながることができるのです。金融は元々、「つなぐ」仕事です。投資家と企業、預金者とローンを借りたい人をつなぐ。今の世代と将来世代、そして国を超えてつないでいく。

 なぜ、我々がつなげるかというと、信用・信頼があるからだと思っています。お金やデータといった大切な資産を預けていただけている存在だと。金融とデジタルの力を使って、分断の時代に「つなぐ」存在になろうというのが次の中計の骨子です。


「黒子」となって銀行機能を提供

 ─ デジタル時代を迎えたというのは、亀澤さんが登場された背景にもあると思いますが、社長就任後の4年間の取り組みをどう振り返りますか。

 亀澤 自社のデジタル化の中で、コスト削減や粗利を増やすといった取り組みを進めてきましたが、3年間で2000億円ほどの効果が出る見込みです。

 また、「顧客DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼んでいますが、お客様のDXをサポートする仕事にも取り組んできました。

 一例が「BaaS」(Banking as a Service=銀行が提供する機能やサービスを、様々な企業が自社サービスに組み込んで利用できるようにする仕組み)です。我々はバンキングが得意ですから「黒子」になってお客様のアプリの中に入っていく。

 例えば、小売りの企業さんがアプリを作ったとして、その中では決済が必ず発生します。その決済を我々が裏側から提供することでお客様のDXが進む。バンキングはコンプライアンスや決済にミスがないようにするといったことが必要ですから、非常に難しい仕事です。これを我々が黒子として提供する仕事を進めているんです。

 ─ その意味で、金融業の姿は大きく変わってきたと。

 亀澤 目に見える部分と見えない部分、その両方を我々は担っており、活動する範囲が広がっています。銀行はフィンテックなどに攻め込まれているイメージがあると思いますが、フィンテック事業が伸びれば伸びるほど、裏側にいる我々の決済の仕事も伸びていくのです。

 ─ インフラとしての役割を果たしていると。

 亀澤 インフラであると共に、私は「プラットフォーマー」だと考えています。

 ─ 長年培ったノウハウなど総合的な力が問われますから、一朝一夕には真似できませんね。

 亀澤 ここの部分は他の人では担えないと思っています。


顧客の挑戦と共に「事業リスク」を取る

 ─ 日本には再生という課題があります。ここにはどのように関わっていきますか。

 亀澤 日本全体のことで言えば、24年はようやくデフレから脱却する年になると思います。日本経済が緩やかに回復する中で、我々の責務は非常に大きいと思っていますから、そこでできることは何でもやらないといけないという思いがあります。

 個人と法人とがありますが、個人は先程お話した資産運用、法人は金利のある世界でリスクを取っていただくためにサポートするのが我々の役割です。

 我々が鍛え続けてきたソリューション力をさらに磨き上げて、お客様がリスクを取りやすくすると同時に、場合によっては我々もリスクを一部取ろうと。

 これまでは銀行として、あまりリスクを取ってきませんでしたが、「事業共創投資」を始めています。例えば、次世代半導体の国産化を目指す会社・ラピダスに投資しました。難しい事業に挑戦しているお客様がおられるのであれば、そのリスクの一部を一緒に取ろうと。

 ─ 銀行法の改正など、銀行グループの事業の幅が広がったことも背景にありますか。

 亀澤 これはイエスでありノーなのですが、わかりやすく言えば、その通りです。銀行法改正による規制緩和で、付随業務の範囲が広がり、柔軟性が高まっています。

 この時にできた「銀行業高度化等会社」を設立して、宇宙開発を手掛ける企業や、デジタル広告事業に投資をするなど事業リスクを取っています。

 個人のお金を預金から、ある程度投資に回してもらう時に、もちろん海外に流れる部分もありますが、日本国内にリスクマネーとして戻ってくると、企業の設備投資資金も個人の資産運用から出ていくという流れをつくることができます。預金を投資に回すことで、日本全体のリスクテイクが進むのではないかと思います。次の中計の3年間は、攻めの姿勢で成長を取り込んでいきたいと思います。

 ─ 改めて、大学院で数学を専攻していた亀澤さんが、金融の道を選んだのはなぜですか。

 亀澤 数学は物事の構造を理解する学問ですから、抽象化や構造理解が大切です。かっこいい言葉で言えば本質を理解することが大事なんです。

 日本という国全体に貢献したいと考えた時に、金融、中でも銀行は経済の血流であるお金の流れで日本経済をつくっていますから、その構造を理解したいと思ったんです。この構造、本質を、変化する時代に合わせて少しでも定義していければ、貢献できるのではないかと。そこに非常に魅力を感じましたね。

 ─ 当時は理系から銀行に入るのは珍しかったのでは?

 亀澤 特に私は大学院まで行っていましたから。担当教官からは「大学院まで行ったのに、なぜ残らないのか」と言われました。当時、学部では7人いた学生の中から2人しか大学院に進めなかったからです。ただ、私は先程お話したように日本に貢献したいと思ったんです。

 21年に当社のパーパスを「世界が進むチカラになる。」としました。私自身としては、会社に入った時の思いを言語化したものですが、大企業に入るとどうしてもみんな最初の思いを忘れてしまいます。私だけでなく、みんないろいろな思いで会社に入ったと思いますから、それを思い出して欲しいという願いも込めています。

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