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《日本最大級の石油・天然ガス開発企業》INPEX・上田隆之の「天然ガスは移行期の重要なエネルギー」

財界オンライン 2024年2月7日 7時0分

総事業費約4兆円の巨大プロジェクトを豪州で主導

「2つの戦争を通じて、それまではほぼ脱炭素へのトランジション(移行)一辺倒だった議論が、世界的にエネルギーセキュリティが大事だという流れになってきた。最近、〝(安定供給・低価格・環境配慮が同時には成り立たない)トリレンマ〟という言葉が出ているが、やはり、エネルギーのセキュリティとトランジションのバランスをいかに取るかが大事なのだと思う」

 こう語るのは、INPEX社長の上田隆之氏。

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 ウクライナ戦争やイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突などにより、世界でエネルギー安全保障を巡る不透明感が増している。長期的には脱炭素を目指しつつも、各国が足元のエネルギー確保を優先。天然ガスの需要が急増しており、日本最大級の石油・天然ガス開発企業・INPEXの役割が高まっている。

 同社は2006年に帝国石油と国際石油開発が合併し、国際石油開発帝石として発足。21年にINPEXへ社名変更した。

 現在、売上高(23年12月期予想は2兆1550億円)の約9割は海外。豪州やUAE(アラブ首長国連邦)を中心に石油や天然ガスなどの開発を手掛け、近年は石油に比べて、燃焼時にCO2(二酸化炭素)排出量が7割ほどになる天然ガスへのシフトを進めてきた。

 そんな同社の屋台骨を支えるのは、2018年から操業を始めた『豪州イクシスLNGプロジェクト』。LNG(液化天然ガス)の年間生産能力は約890万トン。日本の年間LNG輸入量の1割強に相当する量で、40年に渡って生産を続けることができる巨大プロジェクトだ。

 今年1月には東京ガスが保有する権益の約1.575%を取得することで合意。INPEXの権益保有比率は67.82%へ増加した。総事業費は約4兆円。同社は日本企業初のオペレーター(操業主体)をつとめ、ここで生産されたLNGの7割超を日本の買主へ輸出している。

「プラントの定期メンテナンスシャットダウンを行いつつ、イクシスはずっと安定生産できている。あれだけの巨大なプロジェクトを成功裏に導いた経験は大きい。オペレーターになったことで、当社に対する信頼が上がったし、内外の評価も高い。収益も向上し、配当を増やすこともできた」(上田氏)

 22年度の純利益(4610億円)の約7割はイクシスによるもの。イクシスが稼働する前後の同社の18年度の年間配当は18円。それが23年度予想は74円に増配しており、それだけイクシスの利益貢献が大きい。



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 そして、次に控えるのが、インドネシアでの『アバディLNGプロジェクト』。アバディはインドネシア語で〝永遠〟を意味する言葉で、LNGの年間生産量は950万トン規模を想定。イクシス以上に巨大なプロジェクトで、イクシスでの経験を活かして、2030年前後の生産開始を目指している。

 もっとも、同事業は本来であれば2020年代後半に生産を開始している予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の発生で作業中断を余儀なくされ、その後、共同出資していた英シェルが撤退した。

 同プロジェクトはINPEXが65%、シェルが35%を出資していたが、昨夏にシェルの持ち分全てをインドネシアの国営石油会社プルタミナとマレーシアの国営石油会社ペトロナスが取得。新たなパートナーを得て、巨大プロジェクトがようやく動き出そうとしている。

「イクシス頼みの一本足打法が二本足になるということで、会社としての安定性は増すし、利益貢献も期待できる。ここで生産したLNGは日本向けに加え、日本よりもLNGの需要が大きい、アジア向けが相当大きな比重を占めることになるだろう。需要確保という点で考えても、アジアのパートナーと組めて良かったと思う」(上田氏)

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 ただ、天然ガスは石油に比べてCO2排出量が約7割程度になるとはいえ、CO2を排出するのは事実。長期的な脱炭素対応は不可欠で、同社が上流事業で手掛けようとしているのが、CO2を回収して貯留する「CCS」や、それに利用を加えた「CCUS」などの活用。イクシスもアバディもこうした技術を組み合わせることによって、掘削時に排出されるCO2を実質的にゼロにしようとしている。

 INPEXは2022年から30年度までの9年間に、3.8~4.4兆円の成長投資を予定している。大半は主力の石油・天然ガスで、最大約1兆円を再生可能エネルギーなどのゼロエミッション分野に投資予定。既存の石油・天然ガス事業でも前述したCCSやCCUSによってクリーン化を進めながら、水素やアンモニアの製造、再エネ分野を開拓していく計画だ。

「当社はずっと天然ガスを扱ってきたので、天然ガスをベースに水素をつくっていくことも考えている。もちろん、水素やアンモニア、再エネなどの技術開発やコストを下げる努力は最大限やっていくが、そう簡単には実現できない。やはり、天然ガスはエネルギートランジションの過程における重要なエネルギー。アジアにおける天然ガスの需要は根強く、しばらくはトランジション期間のエネルギーの主役の座を占めるのではないか」(上田氏)



水素・アンモニアのファーストムーバーに

 冒頭で触れたように、ウクライナやイスラエル・ハマス2つの戦争によって、エネルギー業界を取り巻く環境は一変した。

 ウクライナ戦争が始まって以降、フランスや英国など、欧州は原子力回帰を宣言。米国では、石油メジャーのエクソンモービルがシェール大手パイオニア・ナチュラル・リソーシズを約600億ドル(約8.8兆円)で、シェブロンが石油会社ヘスを530億ドル(約7.8兆円)で買収すると、相次ぎ発表。中長期的な脱炭素への移行は必須だが、各国とも足元のエネルギー確保に奔走している。

 脱炭素を目指すのは当然だが、化石燃料はCO2を排出し、再エネは天候に左右されやすく、原子力は放射性廃棄物処理問題が付きまとう。脱炭素と安定供給の両立をいかに図るかは、世界のエネルギー業界にとって最大の課題だ。

 そうした中、無資源国・日本にとって、CO2削減に貢献できる天然ガスの果たす役割はまだまだ大きく、INPEXに求められる責任や役割も大きい。

「天然ガスの需要は一定期間続くと思う。天然ガスは安定供給が重要なので、〝ラストリゾート(最後の手段)〟として最後に皆からあてにされる会社になりたいし、水素・アンモニアでは〝ファーストムーバー(先行者)〟として最先端をいく会社になりたい」と語る上田氏。

 脱炭素とエネルギーの安定供給の両立をいかに図っていくか。上田氏の挑戦は続く。

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