「三菱商事はグローバルな企業。ただし、日本に本社を置く企業ですので、日本の成長・復活に向けて、それこそ官民一体でやっていくと。それが使命だと思っています」─。三菱商事社長に就任して2年弱。環境変化の激しい今、変化に対応できない事業は撤退させ、新しい成長の芽となる事業と入れ換える『循環型成長モデル』を実行。業績は、2023年3月期に純利益が史上初の1兆円を超え、今期(24年3月期)は9500億円を見込む。エネルギー転換とデジタル化に対応しての”EX(エネルギートランスフォ―メーション)戦略”と”DX(デジタルトランスフォーメーショ)戦略”に加えて、”未来創造戦略”が『循環型成長モデル』の三本柱。特に”未来創造”では「新産業創出×地域創生」という考え方を中西氏は示し、「地域に新産業を創出することによって、新たな好循環ができる」と語る。地政学リスクや自然災害発生などで先行き不透明感が漂う中、「三菱商事は全産業を俯瞰しており、全産業に接地面を持っています。グループを超えて、新結合して新しい事業を創っていきたい」と中西氏。氏が目指す『共創価値』とは─。
新しい産業を興す循環型成長モデルを!
中西勝也氏(1960年=昭和35年10月生まれ)が社長に就任したのは2022年(令和4年)4月のこと。
コロナ禍の真っ只中で、同年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界中に緊張が高まっていた時。世界に根を張り、グローバル事業を展開する三菱商事のカジ取りをどう進めるかということだが、中西氏は何より経営の基本軸をどこに据えるかということに腐心。
自分たちの強さは何か? と自問自答した時に、それは多様性と総合力であるとし、これからの会社の方向性として、氏は次のように語る。
「グループの総合力強化に努め、社会課題の解決を通じて、共創価値を継続的に創出していきたい」
共創価値(Shared Value)の創出─。最近、価値共創(Co-Creation)ということが言われる。顧客と共に価値を創造するということだが、中西氏は2年前の社長就任以来、この共創価値の創出が大事と訴え続けている。
「はい、正式には、『MC Shared Value(MCSV)』と言っています。MCは三菱コーポレーションで、共創価値のShared Valueと結合させた言葉です」
中西氏は、時代の転換期にあって、自分たちの手がける仕事、業務も変化していると強調。
「三菱商事もトレーディング(商社)がスタートで、事業投資から事業経営へ、バージョンアップしているというか、事業モデルが変わってきているわけですね。トレーディングの手数料を取り、ミドルマンとしての仲介の役割。でも、それだけでは多分先がないということで、事業投資をして、今度は事業経営を始めた。で、その会社を経営してきて、その会社をさらに成長させるのか、中に入ったけど、成長が鈍化するのであれば撤退する。それが、われわれが申し上げている循環型成長モデルの骨子なんです」
同社は資源・エネルギーの開発から物流、小売りのローソンまで幅広く手がける。全産業と接地し、俯瞰する中で生き抜いてきたという歴史。もちろん、長い歴史の中で、厳しい時期、苦境を体験したこともある。
そうした時代の変化を体験しながら、コロナ禍を経ての2023年3月期(前期)は純利益で1兆1806億円と史上初の1兆円超えを達成。今期(2024年3月期)も約9500億円になる見通しで、業績は好調。
しかし、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争は依然続き、スエズ運河もイスラム過激派の台頭で利用しにくくなるなど、地政学リスクは高まる。
「商社と呼ばれたくない」
こうした変化に、三菱商事はどう対応していくのか?
「これだけ全産業を俯瞰しているのであれば、三菱商事は全産業に接地面を持っていると自負しています。このことは(新事業創出が)われわれで出来るということじゃないのかと。そういう意味では、グループを超えて、共創価値をつくり上げていくことができる。多様性を持っているということなんですね」
中西氏は続けて、「例えば、洋上風力でも、再生可能エネルギーでもいいですが、再エネで電気をつくることのみならず、つくった電気をどういうふうに環境価値を評価してくれる人たちと一緒につくり上げていくかとかね。そういう事をこれから考えていく」と例に挙げる。
ソリューション、課題解決をいかに社会に提供していくかが問われる時代である。
「ええ、まさに三菱商事を、いろいろな社会課題の解決策を提供できる会社にしたい。それには、われわれ自身が変わらなければいけない。そういう意味で、共創価値の創出と申し上げています。自分が社長の時にそうした変革をやり遂げたいなと思っています」
中西氏は、商社という言葉を使いたくないとする。商社は英語で言うと、トレーディングハウス、あるいはトレーディングカンパニーだが、これだと貿易会社ということになる。現在の三菱商事の基軸は、もはや商品、商材の輸出入という貿易業務ではない。
資源・非資源に関わらず、自ら事業投資、事業運営し、全産業と〝接地〟している。
「そもそも卸売業のことを商社と言っている。卸売業とは、ミドルマン(仲介者)のことを言うわけですね。事業は今申し上げた通り、変わってきているし、他商社さんもやっていることはそれぞれ違うわけですよ。それを同じ括りにするというのは……」
三菱商事の変遷については後で触れるとして、要はEX(エネルギートランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)で時代が大きく転換しようとしている時に、今さら〝商社〟という古い括りにされたくないという中西氏の心情である。
同社は2022年度からの3カ年計画、『中期経営戦略2024』で、〝循環型成長モデル〟の実行を掲げる。
中西氏が掲げる具体的な戦略はEX、DX、そして、未来創造の3つ。
未来創造というのは、『新産業創出×地域創生』だと言う。その地域に新産業を興し、地域創生を図り、ひいては、日本再生へつなげていきたいとする。
日本政府はDXと共にGX(グリーントランスフォーメーション)を成長戦略に掲げている。2050年までにCO2(二酸化炭素)などの地球温暖化ガスの排出を実質ゼロにする─という方針もそうだ。
三菱商事のEX、DX、そして未来創造は、日本政府の方策と重なる。
「政府が掲げるGX戦略は、われわれも賛同していて、エネルギー分野などで新産業をつくることができれば、国内経済の活性化にもつながるのではないか。特に中小企業はデジタルによる効率化を通じて、もっと生産性を向上することが出来る」と中西氏は語る。
今、海外の資本も日本に向かって流れ始めている。ある投資関係者からも、「2023年の日本全体の名目設備投資額は100兆円にのぼる。今年も100兆円規模が見込めるし、2年連続でこういうことが起きるのは滅多にないこと」と日本株投資に前向きな声が上がる。グローバル化を進めてきた日本企業も、日本再生に注目し始めた。
これまでグローバル化で好業績をあげても、海外で稼いだ金は海外での設備投資に回されるなど、海外で運用されてきた。
企業は海外に拠点をつくり、海外で自己解決するように、海外で資金を回してきた。海外で稼いだ金が日本に還流してきていないというのが実態。
そのような実態をふまえて、「本当にキャッシュフローが日本に還流しているのか?」という問題意識が持たれ始めた。
「はい、DX、EXという世の中の変わり目を迎えて、デジタル、エネルギーの転換点も踏まえて、もう一度日本で未来創造をやろうということなんです」
中西氏は、新産業を創出することによって、「新たな好循環ができる」とし、「消費と成長、貯蓄から投資へという、投資の枠組みも日本で整ってくる」と語る。
世界が混沌とする中で自分たちの役割は?
今、世界中が混沌とした状況にある。ウクライナ戦争、パレスチナ戦争が続き、アジアでもミャンマーの内戦や紛争が多発している。
今年11月の米国大統領選挙でトランプ前大統領が4年ぶりに返り咲くのかどうかで、国際情勢が変わるという見方も多い。
米国も、内向きになり、ウクライナ支援疲れから、同国への支援が弱まると、対ロシア・中国との関係で国際情勢も大きく変わる可能性がある。
「米国を含めて、地政学リスクがいろいろな所にあるので、そういった事もよく見ながら対応していく事が大事」と中西氏。
混沌・混乱が続き、なかなか正解が得られない中で、企業経営のカジ取りをどう進めていくかという時代的テーマである。
本稿の冒頭で触れた通り、自分たちの使命と役割は何か─という中西氏の問いかけである。
『バリュー・クリエイター』(価値の創造者)─。中西氏は自分たちの事をこう定義づける。
世界中がややもすれば、分断・分裂の方向に流れがちだが、何とかして解決策を見出していこうということ。
MCSV(三菱商事の共創価値の創出)という言葉を中西氏は大切にする。
SVとはShared Value。価値を分け合う中で、「クリエイト(創出)する事が大事」と中西氏。Shared Valueには、他者との共存という意味も含まれる。自分たちの強みの〝多様性〟と〝総合力〟を掛け合わせて、共創価値を創出するという考え。
こうした状況下で自分たちの立ち位置とパーパス(存在意義)を考える時、今までのような〝商社〟という言葉では自分たちの事を正確に伝えられないという中西氏の思い。
「イノベーションという言葉は、日本語で言うと新結合。われわれが持つ事業を掛け合わせて、新しいものをつくる。こういう新結合で、イノベーションを起こしたいと思っているんです」。
好きな言葉は『至誠』
産業と産業が結合してイノベーションということだが、事業(企業経営)は人と人のつながりの中で推移していく。
三菱商事は戦後の財閥解体の中で、旧三菱商事が解散となり、その流れをくむ戦後出発の三菱系商社が集まり、1954年(昭和29年)に現在の三菱商事が発足。
新生三菱商事の初代社長に就任した高垣勝次郎は社員を前に、「会社は営利事業ではあるが、利潤追求のために手段を選ばぬという考え方は許されるべきではない」と堂々としたビジネスの大切さを説いた。
戦後の混乱期で、日本がGHQ(連合国軍総司令部)の統治から脱却し、主権を回復(1952年=昭和27年)した後の新生三菱商事の出発。
自分たちの依って立つ基盤は何かという事を考え、日本が敗戦の痛手から再出発を図ろうとする時の高垣氏の気概である。
三菱商事の起源はと言うと、明治維新時の1871年(明治4年)にさかのぼる。旧土佐藩の海運部門が独立した『九十九商会』がそれで、旧藩士の岩崎彌太郎が経営の任に当たった。
その岩崎家の4代目当主、岩崎小彌太は『三綱領』を制定。それには、『所期奉公、処事光明、立業貿易』とある。公(パブリック)に尽くし、透明性を担保し、立業(新事業創造)に向かうという基本は今も変わらない。
時代は変遷し、『不要論』、『冬の時代』といわれる試練もあったが、それを生き抜いてきた。
好きな言葉は何か? という問いに、中西氏は「特にないですね」と断りながらも、『至誠』を挙げる。
「一生懸命やれば、必ず誰かが見ているという意味では至誠」と少しはにかみながらの答え。
「大事なのは、自分で考えること。組織の中なんだけれども、しっかり自分の意見を持つことが大事ですよね。その上で、尽くすということですよね」
イノベーションに向けて、これからも挑戦が続く。
新しい産業を興す循環型成長モデルを!
中西勝也氏(1960年=昭和35年10月生まれ)が社長に就任したのは2022年(令和4年)4月のこと。
コロナ禍の真っ只中で、同年2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり、世界中に緊張が高まっていた時。世界に根を張り、グローバル事業を展開する三菱商事のカジ取りをどう進めるかということだが、中西氏は何より経営の基本軸をどこに据えるかということに腐心。
自分たちの強さは何か? と自問自答した時に、それは多様性と総合力であるとし、これからの会社の方向性として、氏は次のように語る。
「グループの総合力強化に努め、社会課題の解決を通じて、共創価値を継続的に創出していきたい」
共創価値(Shared Value)の創出─。最近、価値共創(Co-Creation)ということが言われる。顧客と共に価値を創造するということだが、中西氏は2年前の社長就任以来、この共創価値の創出が大事と訴え続けている。
「はい、正式には、『MC Shared Value(MCSV)』と言っています。MCは三菱コーポレーションで、共創価値のShared Valueと結合させた言葉です」
中西氏は、時代の転換期にあって、自分たちの手がける仕事、業務も変化していると強調。
「三菱商事もトレーディング(商社)がスタートで、事業投資から事業経営へ、バージョンアップしているというか、事業モデルが変わってきているわけですね。トレーディングの手数料を取り、ミドルマンとしての仲介の役割。でも、それだけでは多分先がないということで、事業投資をして、今度は事業経営を始めた。で、その会社を経営してきて、その会社をさらに成長させるのか、中に入ったけど、成長が鈍化するのであれば撤退する。それが、われわれが申し上げている循環型成長モデルの骨子なんです」
同社は資源・エネルギーの開発から物流、小売りのローソンまで幅広く手がける。全産業と接地し、俯瞰する中で生き抜いてきたという歴史。もちろん、長い歴史の中で、厳しい時期、苦境を体験したこともある。
そうした時代の変化を体験しながら、コロナ禍を経ての2023年3月期(前期)は純利益で1兆1806億円と史上初の1兆円超えを達成。今期(2024年3月期)も約9500億円になる見通しで、業績は好調。
しかし、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争は依然続き、スエズ運河もイスラム過激派の台頭で利用しにくくなるなど、地政学リスクは高まる。
「商社と呼ばれたくない」
こうした変化に、三菱商事はどう対応していくのか?
「これだけ全産業を俯瞰しているのであれば、三菱商事は全産業に接地面を持っていると自負しています。このことは(新事業創出が)われわれで出来るということじゃないのかと。そういう意味では、グループを超えて、共創価値をつくり上げていくことができる。多様性を持っているということなんですね」
中西氏は続けて、「例えば、洋上風力でも、再生可能エネルギーでもいいですが、再エネで電気をつくることのみならず、つくった電気をどういうふうに環境価値を評価してくれる人たちと一緒につくり上げていくかとかね。そういう事をこれから考えていく」と例に挙げる。
ソリューション、課題解決をいかに社会に提供していくかが問われる時代である。
「ええ、まさに三菱商事を、いろいろな社会課題の解決策を提供できる会社にしたい。それには、われわれ自身が変わらなければいけない。そういう意味で、共創価値の創出と申し上げています。自分が社長の時にそうした変革をやり遂げたいなと思っています」
中西氏は、商社という言葉を使いたくないとする。商社は英語で言うと、トレーディングハウス、あるいはトレーディングカンパニーだが、これだと貿易会社ということになる。現在の三菱商事の基軸は、もはや商品、商材の輸出入という貿易業務ではない。
資源・非資源に関わらず、自ら事業投資、事業運営し、全産業と〝接地〟している。
「そもそも卸売業のことを商社と言っている。卸売業とは、ミドルマン(仲介者)のことを言うわけですね。事業は今申し上げた通り、変わってきているし、他商社さんもやっていることはそれぞれ違うわけですよ。それを同じ括りにするというのは……」
三菱商事の変遷については後で触れるとして、要はEX(エネルギートランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)で時代が大きく転換しようとしている時に、今さら〝商社〟という古い括りにされたくないという中西氏の心情である。
同社は2022年度からの3カ年計画、『中期経営戦略2024』で、〝循環型成長モデル〟の実行を掲げる。
中西氏が掲げる具体的な戦略はEX、DX、そして、未来創造の3つ。
未来創造というのは、『新産業創出×地域創生』だと言う。その地域に新産業を興し、地域創生を図り、ひいては、日本再生へつなげていきたいとする。
日本政府はDXと共にGX(グリーントランスフォーメーション)を成長戦略に掲げている。2050年までにCO2(二酸化炭素)などの地球温暖化ガスの排出を実質ゼロにする─という方針もそうだ。
三菱商事のEX、DX、そして未来創造は、日本政府の方策と重なる。
「政府が掲げるGX戦略は、われわれも賛同していて、エネルギー分野などで新産業をつくることができれば、国内経済の活性化にもつながるのではないか。特に中小企業はデジタルによる効率化を通じて、もっと生産性を向上することが出来る」と中西氏は語る。
今、海外の資本も日本に向かって流れ始めている。ある投資関係者からも、「2023年の日本全体の名目設備投資額は100兆円にのぼる。今年も100兆円規模が見込めるし、2年連続でこういうことが起きるのは滅多にないこと」と日本株投資に前向きな声が上がる。グローバル化を進めてきた日本企業も、日本再生に注目し始めた。
これまでグローバル化で好業績をあげても、海外で稼いだ金は海外での設備投資に回されるなど、海外で運用されてきた。
企業は海外に拠点をつくり、海外で自己解決するように、海外で資金を回してきた。海外で稼いだ金が日本に還流してきていないというのが実態。
そのような実態をふまえて、「本当にキャッシュフローが日本に還流しているのか?」という問題意識が持たれ始めた。
「はい、DX、EXという世の中の変わり目を迎えて、デジタル、エネルギーの転換点も踏まえて、もう一度日本で未来創造をやろうということなんです」
中西氏は、新産業を創出することによって、「新たな好循環ができる」とし、「消費と成長、貯蓄から投資へという、投資の枠組みも日本で整ってくる」と語る。
世界が混沌とする中で自分たちの役割は?
今、世界中が混沌とした状況にある。ウクライナ戦争、パレスチナ戦争が続き、アジアでもミャンマーの内戦や紛争が多発している。
今年11月の米国大統領選挙でトランプ前大統領が4年ぶりに返り咲くのかどうかで、国際情勢が変わるという見方も多い。
米国も、内向きになり、ウクライナ支援疲れから、同国への支援が弱まると、対ロシア・中国との関係で国際情勢も大きく変わる可能性がある。
「米国を含めて、地政学リスクがいろいろな所にあるので、そういった事もよく見ながら対応していく事が大事」と中西氏。
混沌・混乱が続き、なかなか正解が得られない中で、企業経営のカジ取りをどう進めていくかという時代的テーマである。
本稿の冒頭で触れた通り、自分たちの使命と役割は何か─という中西氏の問いかけである。
『バリュー・クリエイター』(価値の創造者)─。中西氏は自分たちの事をこう定義づける。
世界中がややもすれば、分断・分裂の方向に流れがちだが、何とかして解決策を見出していこうということ。
MCSV(三菱商事の共創価値の創出)という言葉を中西氏は大切にする。
SVとはShared Value。価値を分け合う中で、「クリエイト(創出)する事が大事」と中西氏。Shared Valueには、他者との共存という意味も含まれる。自分たちの強みの〝多様性〟と〝総合力〟を掛け合わせて、共創価値を創出するという考え。
こうした状況下で自分たちの立ち位置とパーパス(存在意義)を考える時、今までのような〝商社〟という言葉では自分たちの事を正確に伝えられないという中西氏の思い。
「イノベーションという言葉は、日本語で言うと新結合。われわれが持つ事業を掛け合わせて、新しいものをつくる。こういう新結合で、イノベーションを起こしたいと思っているんです」。
好きな言葉は『至誠』
産業と産業が結合してイノベーションということだが、事業(企業経営)は人と人のつながりの中で推移していく。
三菱商事は戦後の財閥解体の中で、旧三菱商事が解散となり、その流れをくむ戦後出発の三菱系商社が集まり、1954年(昭和29年)に現在の三菱商事が発足。
新生三菱商事の初代社長に就任した高垣勝次郎は社員を前に、「会社は営利事業ではあるが、利潤追求のために手段を選ばぬという考え方は許されるべきではない」と堂々としたビジネスの大切さを説いた。
戦後の混乱期で、日本がGHQ(連合国軍総司令部)の統治から脱却し、主権を回復(1952年=昭和27年)した後の新生三菱商事の出発。
自分たちの依って立つ基盤は何かという事を考え、日本が敗戦の痛手から再出発を図ろうとする時の高垣氏の気概である。
三菱商事の起源はと言うと、明治維新時の1871年(明治4年)にさかのぼる。旧土佐藩の海運部門が独立した『九十九商会』がそれで、旧藩士の岩崎彌太郎が経営の任に当たった。
その岩崎家の4代目当主、岩崎小彌太は『三綱領』を制定。それには、『所期奉公、処事光明、立業貿易』とある。公(パブリック)に尽くし、透明性を担保し、立業(新事業創造)に向かうという基本は今も変わらない。
時代は変遷し、『不要論』、『冬の時代』といわれる試練もあったが、それを生き抜いてきた。
好きな言葉は何か? という問いに、中西氏は「特にないですね」と断りながらも、『至誠』を挙げる。
「一生懸命やれば、必ず誰かが見ているという意味では至誠」と少しはにかみながらの答え。
「大事なのは、自分で考えること。組織の中なんだけれども、しっかり自分の意見を持つことが大事ですよね。その上で、尽くすということですよね」
イノベーションに向けて、これからも挑戦が続く。