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小川啓之・コマツ社長 「世界市場は欧州や中国が低迷だが米国は堅調。市場を良く見て対応していく」

財界オンライン 2024年2月21日 18時0分

「世界中のどこの生産拠点から、どこの市場にも部品や製品を届けることができる『グローバルクロスソーシング』で対応していく」─。こう強調するのは海外売上高比率が9割のコマツ社長の小川啓之氏。米国は堅調な推移が見られる一方、欧州や中国は不調という不透明な環境が続く。その中で「価格改善、固定費の改善、成長戦略の3つをキーワードにグローバル全体で成長していきたい」と話す小川氏。同氏が見据える新たな成長戦略とは?

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一般建機と鉱山建機で明暗

 ─ まずは2023年の総括から聞かせてください。

 小川 価格改善、いわゆる値上げがうまく浸透しました。それから為替の影響です。当社にとって円安は相当影響します。見た目上は業績が良く見えるのですが、現実問題としては22年度第3四半期あたりから一般建機の需要はマイナス基調になってきており、その傾向はより顕著になってきています。

 一方で、地中にある鉱物や石炭などの資源を採掘する鉱山建機のマイニング事業は、ある程度高いレベルで安定していますので堅調です。23年度のマイニングの需要は、対前年比でゼロから10%増と見込んでいます。第3四半期累計では同12%増です。全体的に言えば一般建機の需要は減少しているものの、マイニングの需要は比較的堅調という感じです。

 ─ コロナは建機業界にどんなインパクトを与えましたか。

 小川 コロナ禍では需要が一気に落ちましたので厳しかったです。ただ、21年からはその影響もほぼなくなり、需要が急激に回復しました。

 その後は半導体不足やサプライチェーン混乱等の問題が出てきましたが、我々が従来からやっている、世界中のどこの生産拠点からでも、各地域へ柔軟に製品を届けることができる「グローバルクロスソーシング」によって着実に需要を取り込んできました。

 また、地政学的なリスクが高まっている中で、部品調達についても一極からのみ調達するのではなく、二極・三極とソーシングを多様化して対応しています。23年になってサプライチェーンの問題はほぼ終息し、需要に供給が追い付いてきたこともあり、生産能力の問題も解消されています。

 ─ 全産業界的に価格の改定が進んでいますね。

 小川 当社も原材料高騰などの影響を受け、21年から23年で2000億円のコストアップを余儀なくされました。それに対して、23年度末までに2700億円の値上げをしようと。

 23年度第2四半期あたりから、過去のコストアップ分を値上げでカバーできる状況になり、同四半期以降は、値上げした分は全て利益につながる形になっています。

 ただ、先ほど申し上げましたように、21年と22年は需要に対して供給が追いつかないという状況だったので、比較的値上げしやすかった環境にありましたが、23年は値上げを受け入れていただきにくい状況もあります。それでも23年は大体4%、金額にして約1200億円の値上げをしようと。順調に進んでいます。

 ─ 値上げができるのは製品の中身が変わってきたから?

 小川 需要に対して供給が追いつかなかったのが一番大きな要因です。もちろん新製品を出し、既存の製品に付加価値を付ける取り組みもしています。


堅調な米国、不調が続く欧州

 ─ 売上高の9割が海外です。米中対立やロシアのウクライナ侵攻の影響はありますか。

 小川 最も売上高の規模が大きいのが米国ですが、市場は比較的堅調です。当然、金利の上昇やインフレの影響もあり、北米の住宅着工件数は一時期の180万戸から現在は140万戸くらいに落ちています。ただ、ここから急激に落ちることはないかなと。

 加えて、未着工の住宅の受注残が住宅着工件数の倍くらいあると聞いています。ですから、住宅建設向け需要は非常に底堅い。それからインフラ・エネルギー関連向けの需要が堅調ですので、大きな不安要素はありません。

 ─ 欧州はどうですか。

 小川 かなり悪いです。エネルギーは高騰し、金利も上がってインフレです。ロシアのウクライナ侵攻もあり、足元でもかなり受注が落ち込んできています。主要市場であるドイツやイギリス等で需要が減少しています。米国でも欧州でも24年は引き続き価格改善をきっちりやっていくことが非常に重要なポイントだと思っています。

 ─ 大事な年ですね。

 小川 ええ。24年度は今の中期経営計画の最終年度です。中計で掲げる成長性や利益性などの経営目標の達成に向けて仕上げの年となります。

 需要環境が厳しくなるという見方がある中、建機自体の稼働率はグローバルで見ても高いです。我々は「コムトラックス」という稼働を見るシステムを持っているのですが、それを見ても結構機械が動いています。ですから、部品・サービスの売上げは引き続き安定して伸びると思っています。

 ─ マイニングの領域で注目している指標とは。

 小川 マイニングは資源価格変動の影響を受けることが多いです。一番資源を使う中国の景気がこのまま悪い状況で続くと、資源価格も落ちてきます。当社の中国市場の売上比率は全体の2%ですから経営に及ぼす影響はほとんどありませんが、中国の景気が世界経済に及ぼす影響は大きいので、中国の行方は注視していかなければなりません。

 中国は20年度時点で大体30万台の総需要がありましたが、今は10万台を切って7万~8万台です。不動産の問題に対して中国政府が約1兆元の特別国債を発行しましたが、現実に工事需要が増えるといった傾向は全く見えません。ですから24年もこの状況が続くのではないかと見ています。



重要性が増す生産拠点のアジア

 ─ 社長就任から5年が経ちました。その間、グローバル経営で心してきたこととは。

 小川 中計で掲げる成長戦略3本柱「イノベーションによる成長の加速」「稼ぐ力の最大化」「レジリエントな企業体質の構築」を進めています。

 収益体質の強化には、「価格改善」「構造改革による固定費の改善」「成長戦略」のグローバル展開が重要です。コマツの場合は、マトリックス組織を組んでおり、横軸に地域、縦軸に機能を置き、グローバル戦略は本社の機能別組織が策定し、各地域はその実行に責任を持って当たっています。

 日本の本社が各地域に方針をしっかりと伝えて、それをベースに地域ごとの中計にブレークダウンして活動していくのです。ですから、地域とのコミュニケーションが非常に重要になります。

 ─ コミュニケーションにおける工夫はありますか。

 小川 年に1回、主管者会議を行っています。石川県にあるコマツの研修センタに世界中の主管者、つまりは地域のトップを務める主要な管理者を集めるのです。3日間、研修センタで日本側からは経営方針を表明し、各地域側からは中計による重点活動の進捗等を発表しています。

 ─ 中計の成長戦略とは、どのようなものになりますか。

 小川 「ソリューション」と「プロダクト」の2軸でレベルを上げていくことです。

 例えば、ソリューションは「スマートコンストラクション」のように、建設生産プロセスのあらゆるデータをICTで有機的につなぐことで、測量から検査まで現場の全てを「見える化」し、お客様の施工を最適化するようなプラットフォームを開発しています。

 一方でプロダクトは自動化、遠隔操作化、自律化や電動化です。こういった領域で付加価値を高めていく。この両軸でビジネスを動かしていこうということが我々の成長戦略の最も重要なところになります。

 ─ その中で新興国の成長をどう取り込んでいきますか。

 小川 中計でも我々にとっての成長市場はインドを含むアジアとアフリカです。これらの地域は今後も成長していく主流になると位置付けています。

 ─ 市場としての日本はどう捉えているのですか。

 小川 残念ながら日本は労働人口がどんどん減っていき、大きな成長は難しいですし、コスト競争力もありません。鋼材価格も21年比で今は約1.6倍です。日本は資源がない国なので、外から買ってくるしかありませんが、今は円安ですからさらに厳しくなっています。

 当社は海外が売上高の90%を占める会社ですから、やはりコストの一番安いところで生産するというのが重要になります。

 コスト競争力やソーシングの条件を考えると、やはりアジアは重要な拠点となります。また、成長戦略において、アフリカも重点地域と考えています。

 将来、市場としてアフリカが大きくジャンプアップするのは間違いありません。ただ、インフラやサプライヤーの体制づくりといった課題もあるので、アフリカに生産拠点をつくるのは、まだまだ時間がかかります。


「2ラインモデル戦略」で東南アジア市場を攻略へ

 ─ アジアの中でも中央アジアに可能性はありますか。

 小川 ロシアのウクライナ侵攻により、現在ロシアの生産法人では生産を休止しており、日本からロシアへの機械や部品の輸出も停止しています。もともとロシアは800億~1000億円の売上高の市場でしたが、今はほぼゼロになっています。

 そういう中で、我々が注目しているのがCIS諸国です。特にカザフスタンには注目しています。昨年8月に「コマツセントラルアジア」というマーケティング会社を設立し、CIS諸国への販売を強化しています。

 カザフスタンは資源国で需要も大体5000台です。ロシアへの輸出が減った分、カザフスタンなどのCIS諸国の方に少し視点を動かしています。

 このCIS諸国向けの製品については中国で生産したものを輸出しようと。なぜなら中国から陸送することができるからです。中国はまだまだコスト競争力が高く、圧倒的に材料が安い。電力料金も鋼材価格、石炭価格もそうです。

 先ほど申し上げたように、今は中国市場の需要が落ち込んでおり、圧倒的に生産能力が過剰になっています。我々は、その余剰分を「グローバルクロスソーシング」で活用しています。

 ─ 世界中に拠点があるからこそ展開できる戦略ですね。

 小川 そうですね。中国の建機メーカーも生産能力の余剰があり、需要が落ち込んでいる中国国内ではなく、ロシアやアジアにどんどん輸出して影響力を強めています。

 もちろん我々も手を打っており、例えば、20トンクラスの油圧ショベルについては、従来のハイエンドのお客様向けの機械に加え、「2ラインモデル戦略」として都市土木などの軽負荷作業で使われるミドルエンドのお客様向けに新しい機械を開発し、インドネシアなどの東南アジアで展開しています。

 インドネシアでは3~4ポイントのシェアを高めることができました。現在20カ国以上に同機種を導入しており、今後も導入拡大していこうと思っています。

(次回に続く)

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