「当社の財産は人」と昭和産業社長・塚越英行氏が今注力するのは社員の能力開発。同社は製粉業界で日清製粉、ニップンに次いで3位の座にあるが、他の2社と違って小麦粉以外に大豆、菜種、トウモロコシと計4つの穀物を扱っているのが特徴であり強み。自分たちの強さとして『製粉×製油×糖質×飼料』の掛け合わせでのトータル提案ができること。その強さを発揮する同氏の社員能力掘り起こし戦略とは。
価格以外での差別化
日本の食卓を主食物として支える小麦。
食糧安定供給の面から、製粉企業には政府が決めた原料価格で小麦が売り渡される仕組みとなっている。現在売上高(23年3月期)では日清製粉グループが7986億円、ニップンが3655億円、昭和産業が3350億円と、2位と3位の差は約300億円。続く日東富士製粉を含めた大手4社が市場全体シェアの8割を占める。
製粉業界は原料価格が決まっている以上、当然それ以外での付加価値での差別化での競争となる。上位3社の特徴をおおまかに記すと、日清製粉は高技術による高品質な小麦の安定供給、ニップンは冷凍食品や中食などの食料品、昭和産業は多種類の穀物を扱うこととプレミックス粉に注力、といった強みがある。
コロナ禍では外食業界の落ち込み、ウクライナ戦争によるエネルギーコストの上昇と物価高で小麦の値段は上がり、価格転嫁では利益をカバーできないほど苦しい3年余りであった(関係者)。この状況に対し、各社は省人化によるコストカットや工場の集約、新しい生活様式に合った新商品の投入、海外事業の強化などあらゆる努力でコロナ禍を凌いできた。
そんな中、これまでの組織体制を大きく変えるとして、創業87年以来の組織改編に踏み切ったのが昭和産業。同業他社では単体物を扱う会社が大半の中、4つの穀物を扱う同社ならではの強みを最大限に活かす新たな戦略。
「他社が真似できない、持っていない武器を磨く」と社長の塚越英行氏は語る。
同社の特徴は小麦、大豆、菜種、トウモロコシの4つの穀物を扱っていること。これらをまとめた穀物総量の取扱量は日本一をうたう。これまではこの4つの事業の足し算で経営が成り立っていたが、「製粉×製油×糖質×飼料」の掛け合わせでのトータル提案を可能とする営業組織へと再構築する。製粉は製粉担当が、製油は製油担当といったように、プロダクト別で担当が分かれていたところを、顧客別にするというのだ。
例えば従来はパン屋一つに対し、製粉担当、糖類担当、製油担当が別個で営業に出向いて提案していたが、今後は担当となった1人が4つの穀物をトータル提案できるようにする。これにより全体を視野に入れた相談ができ、それ自体を付加価値とするねらい。顧客側も砂糖は砂糖会社から、油は油専門会社から直接取引していたものをまとめて昭和産業から仕入れができることによって、包括的な課題解決につながり双方の〝タイパ〟もよくなる。
しかし当然、今まで小麦だけを売っていた営業担当に油も糖類も提案させるというのは、多くの勉強を要し社員の負担は確実に増大する。社内では賛否両論あったが、戦える武器を身に付けるためには覚悟が必要と判断。社内の合意を経て決定した。
組み合わせ提案によるソリューション
先述の戦略を実行するため、社員の教育をどうするかが最大の問題であった。組織改編に先だって、外食に特化した部署にソリューション営業部をつくりテスト運用を実施。教育プログラムとしてeラーニングで自前制作し、事前に勉強できる環境を整え、試験も行った。
結果として1年でその部署の売上は2倍に跳ね、その後の半年で1.4倍にまで成長。現在は他部署でも同様に組織改編を進め、販売力を強化している最中だ。
商品ではなく、人・組織という切り口での変革にでた昭和産業─。「堅実で真面目な人が多い企業文化で社員の成長が見込めるからこそ、この組織改編が可能だと考えている」と塚越氏。同氏は新卒で銀行に就職し、若いうちから経営者と接することで自然と経営感覚を学び、財務や法務などの知識も一通り修得。その後同社に転職してからは営業畑で顧客対応に尽力し、2023年4月社長に就任。伸びる社員を「相手の目線に立って、お客さんが何に困っているかという切り口で仕事をする人」だと話す。「顧客の課題解決は簡単ではないからこそここに挑戦していく」と長年現場で課題解決をしてきた塚越氏が打ち出すのは、穀物ソリューション・カンパニーとしての新たな企業価値。
競合他社と扱う原料が同じものであるだけに何で戦うか。塚越氏は「人だ」と言い切り、「弊社の持つ穀物の組み合わせによる顧客の課題解決が、他社と違うレベルでできればそれこそが企業価値となる。相手が認めてくれるソリューションをひねりだす」と新たな経営の方向性を示した。
商品の美味しさという点ではある意味限界点を迎えている日本の食品業界。美味しさとは違う角度での付加価値で、新たな勝負をかける塚越氏の変革は始まったばかりである。
価格以外での差別化
日本の食卓を主食物として支える小麦。
食糧安定供給の面から、製粉企業には政府が決めた原料価格で小麦が売り渡される仕組みとなっている。現在売上高(23年3月期)では日清製粉グループが7986億円、ニップンが3655億円、昭和産業が3350億円と、2位と3位の差は約300億円。続く日東富士製粉を含めた大手4社が市場全体シェアの8割を占める。
製粉業界は原料価格が決まっている以上、当然それ以外での付加価値での差別化での競争となる。上位3社の特徴をおおまかに記すと、日清製粉は高技術による高品質な小麦の安定供給、ニップンは冷凍食品や中食などの食料品、昭和産業は多種類の穀物を扱うこととプレミックス粉に注力、といった強みがある。
コロナ禍では外食業界の落ち込み、ウクライナ戦争によるエネルギーコストの上昇と物価高で小麦の値段は上がり、価格転嫁では利益をカバーできないほど苦しい3年余りであった(関係者)。この状況に対し、各社は省人化によるコストカットや工場の集約、新しい生活様式に合った新商品の投入、海外事業の強化などあらゆる努力でコロナ禍を凌いできた。
そんな中、これまでの組織体制を大きく変えるとして、創業87年以来の組織改編に踏み切ったのが昭和産業。同業他社では単体物を扱う会社が大半の中、4つの穀物を扱う同社ならではの強みを最大限に活かす新たな戦略。
「他社が真似できない、持っていない武器を磨く」と社長の塚越英行氏は語る。
同社の特徴は小麦、大豆、菜種、トウモロコシの4つの穀物を扱っていること。これらをまとめた穀物総量の取扱量は日本一をうたう。これまではこの4つの事業の足し算で経営が成り立っていたが、「製粉×製油×糖質×飼料」の掛け合わせでのトータル提案を可能とする営業組織へと再構築する。製粉は製粉担当が、製油は製油担当といったように、プロダクト別で担当が分かれていたところを、顧客別にするというのだ。
例えば従来はパン屋一つに対し、製粉担当、糖類担当、製油担当が別個で営業に出向いて提案していたが、今後は担当となった1人が4つの穀物をトータル提案できるようにする。これにより全体を視野に入れた相談ができ、それ自体を付加価値とするねらい。顧客側も砂糖は砂糖会社から、油は油専門会社から直接取引していたものをまとめて昭和産業から仕入れができることによって、包括的な課題解決につながり双方の〝タイパ〟もよくなる。
しかし当然、今まで小麦だけを売っていた営業担当に油も糖類も提案させるというのは、多くの勉強を要し社員の負担は確実に増大する。社内では賛否両論あったが、戦える武器を身に付けるためには覚悟が必要と判断。社内の合意を経て決定した。
組み合わせ提案によるソリューション
先述の戦略を実行するため、社員の教育をどうするかが最大の問題であった。組織改編に先だって、外食に特化した部署にソリューション営業部をつくりテスト運用を実施。教育プログラムとしてeラーニングで自前制作し、事前に勉強できる環境を整え、試験も行った。
結果として1年でその部署の売上は2倍に跳ね、その後の半年で1.4倍にまで成長。現在は他部署でも同様に組織改編を進め、販売力を強化している最中だ。
商品ではなく、人・組織という切り口での変革にでた昭和産業─。「堅実で真面目な人が多い企業文化で社員の成長が見込めるからこそ、この組織改編が可能だと考えている」と塚越氏。同氏は新卒で銀行に就職し、若いうちから経営者と接することで自然と経営感覚を学び、財務や法務などの知識も一通り修得。その後同社に転職してからは営業畑で顧客対応に尽力し、2023年4月社長に就任。伸びる社員を「相手の目線に立って、お客さんが何に困っているかという切り口で仕事をする人」だと話す。「顧客の課題解決は簡単ではないからこそここに挑戦していく」と長年現場で課題解決をしてきた塚越氏が打ち出すのは、穀物ソリューション・カンパニーとしての新たな企業価値。
競合他社と扱う原料が同じものであるだけに何で戦うか。塚越氏は「人だ」と言い切り、「弊社の持つ穀物の組み合わせによる顧客の課題解決が、他社と違うレベルでできればそれこそが企業価値となる。相手が認めてくれるソリューションをひねりだす」と新たな経営の方向性を示した。
商品の美味しさという点ではある意味限界点を迎えている日本の食品業界。美味しさとは違う角度での付加価値で、新たな勝負をかける塚越氏の変革は始まったばかりである。