ウクライナは難しい局面に
─ ロシアによるウクライナ侵攻は早くも2年が経ち、米国では秋の大統領選挙に向けた予備選挙が各地で始まっています。こうした世界の動向をどのように受け止めていますか。
森本 国際秩序の混乱と迷走が一層、深まっています。世界中で混乱が見られ、国連は機能していません。
ウクライナ戦争の戦況は膠着状態ですが、兵員数も装備量もやや、ロシアが有利な状況です。ロシアの兵員は現在30万人で、さらに30万人を動員しようとしています。また、さらに約45万人以上を徴用しようとしていますが、その約4割を獄中にいる罪人から賄おうとしています。罪人は戦闘に加わるなら、任務を果たした後で免罪にして給料も出すということで、徴用に応じるようです。
BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏が直言「個人消費低迷の真犯人」
ロシアがキーウ(ウクライナの首都)付近に撃ち込んでいるミサイルは北朝鮮から供与された短距離弾道ミサイルです。また、あまり質は良くないようですが、弾薬も100万発供与したと言われ、ロシアは非常に助かっている。プーチン大統領は再選後に訪朝すると言われているのですが、北朝鮮がロシアから見返りに何をもらっているか分かりません。
─ 小麦などの食料もあるんですか。
森本 食料やお金より、むしろ、偵察衛星のような衛星技術やミサイル技術ではないかという説もあります。
一方で、ウクライナからは3万人弱の兵が国外に逃げています。これは腐敗によるものでしょう。ウクライナ軍のザルジーニ総司令官は国民からの人望があり、ゼレンスキー大統領には批判的で、二人の関係がギクシャクしていると言われていました。次期大統領選挙の際には、ゼレンスキー大統領にとって最大の政敵になるからとも言われています。2月8日の報道によると、同総司令官の辞任とシルスキー陸軍司令官の採用が公表されたところです。
─ 肝心のウクライナの内部が分裂すると、先行きが懸念されます。ウクライナの大統領選挙はどうなりますか。
森本 本来なら5月に任期が切れるんですが、ゼレンスキー大統領は選挙ができる状態ではないと言って選挙時期を明言していない。
一方、ヨーロッパの国々には、それは民主主義のルールに反するので、任期が来たら選挙すべきだという意見がある。ゼレンスキー大統領にとっては難しい選択です。米国では共和党陣営の反対もあり、支援法案が成立しない。ヨーロッパ各国の支援も概ね止まっていますから、ウクライナは兵員も弾薬も不足という状態で、このところ、ゼレンスキー大統領はドローンの増産とドローン部隊編成に努力しているところです。
─ イスラエルとハマスの闘争はどうなりますか。
森本 どうにもなりません。イスラエルはハマスの司令官を拘束するまで作戦を続け、ガザ南部のラファに捜索の手を広げています。これが終わらなければ一時停戦にも応じません。
─ 人質はまだどれくらいいるのですか。
森本 136人だと思います。ブリンケン米国務長官は何度も、イスラエルに行って説得していますが、イスラエルは応じません。
─ しかし、フーシー派などの攻撃も続いていますね。
森本 ハマスがイスラエルと戦っている限りは、フーシー派やイラク・シリアの親イラン勢力も、彼らを支援せざるを得ない。米国なども、これに対して戦闘の拡大を抑止する必要がある。しかし、イランが本格的な攻撃をする段階にはないと思います。
トランプ氏が再び大統領になったら…
─ 米国の支援は、「もしトラ(もしトランプ氏が米大統領選で勝てば)」から「ほぼトラ(ほぼトランプ氏が勝つだろう)」になるとどうなるのですか。米国では支援疲れという声も大きいですが。
森本 トランプ前大統領が復活したら、ウクライナ支援をやめる動きが強まるかもしれません。その代わりにヨーロッパ同盟国に防衛費を増やさせて、NATO(北大西洋条約機構)にもっと関与させ、米国はゆっくりとウクライナから手を引こうとするでしょう。中東はそういうわけにはいかないと思いますが。いずれにしても、最近まで、「もしトラ」と言われていたのが、今では「ほぼトラ」と言われるようになりました。
少なくとも予備選挙はそうなるでしょう。本選挙はまだわかりませんが。
─ では、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合にどういうことが想定されますか。
森本 予測されることは、第一に、約200万人になる不法移民を米国から追い出す。第二は、米国の重要インフラ建設に投資する中国企業を排除する。
第三は、世界貿易機関(WTO)における中国の最恵国待遇(MFN)を撤廃する。第四は、中国から米国への輸入関税を30%から大幅に引き上げるという見方があります。ともかくバイデン大統領のやってきたことを否定するでしょうから、パリ協定(地球温暖化対策の国際枠組み)、IPEF(インド太平洋経済枠組み)からも脱退するという懸念もあります。
もっとも、パリ協定は2020年にトランプ大統領が離脱し、21年1月にバイデン政権が発足直後に復帰したという経緯があります。
ただ、「Quad(クアッド=日米豪印4カ国の戦略対話)」はトランプ大統領時代につくったものなので、これは止めないだろうと思います。
─ こうした国際間の枠組みの大半を壊すとなると、これは米国自身がリーダー国であるということを放棄することになりませんか。
森本 トランプ氏は恐らく、別の方法でリーダーシップをとろうと考えているのだと思います。とにかく、トランプ氏が再び大統領になったら、米国は自国の国益追求をさらに重視し、現在の国際秩序はどんでん返しのようなことが起こるでしょう。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・熊野英生の提言「消費は良いのか、悪いのか?」
米国にはスイングステート(大統領選のたびに勝利政党が変わりやすい激戦州)が7州くらいありますが、現時点では、これらの州はいずれもトランプ氏有利です。
現在、共和党の候補者選びである予備選挙において、トランプ氏が圧勝しそうな勢いです。すでにデサンティス氏が選挙戦から離脱し、ヘイリー元国連大使が最後まで続けられるのかどうか、また、誰が副大統領候補になるのかも注目されます。
一方の民主党もバイデン大統領は高齢で前回と違って非白人や若者に人気が無いし、かといって副大統領のハリス氏も人気が無い。今回の大統領選挙は混乱すると思います。
─ ロシアによるウクライナ侵攻は早くも2年が経ち、米国では秋の大統領選挙に向けた予備選挙が各地で始まっています。こうした世界の動向をどのように受け止めていますか。
森本 国際秩序の混乱と迷走が一層、深まっています。世界中で混乱が見られ、国連は機能していません。
ウクライナ戦争の戦況は膠着状態ですが、兵員数も装備量もやや、ロシアが有利な状況です。ロシアの兵員は現在30万人で、さらに30万人を動員しようとしています。また、さらに約45万人以上を徴用しようとしていますが、その約4割を獄中にいる罪人から賄おうとしています。罪人は戦闘に加わるなら、任務を果たした後で免罪にして給料も出すということで、徴用に応じるようです。
BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏が直言「個人消費低迷の真犯人」
ロシアがキーウ(ウクライナの首都)付近に撃ち込んでいるミサイルは北朝鮮から供与された短距離弾道ミサイルです。また、あまり質は良くないようですが、弾薬も100万発供与したと言われ、ロシアは非常に助かっている。プーチン大統領は再選後に訪朝すると言われているのですが、北朝鮮がロシアから見返りに何をもらっているか分かりません。
─ 小麦などの食料もあるんですか。
森本 食料やお金より、むしろ、偵察衛星のような衛星技術やミサイル技術ではないかという説もあります。
一方で、ウクライナからは3万人弱の兵が国外に逃げています。これは腐敗によるものでしょう。ウクライナ軍のザルジーニ総司令官は国民からの人望があり、ゼレンスキー大統領には批判的で、二人の関係がギクシャクしていると言われていました。次期大統領選挙の際には、ゼレンスキー大統領にとって最大の政敵になるからとも言われています。2月8日の報道によると、同総司令官の辞任とシルスキー陸軍司令官の採用が公表されたところです。
─ 肝心のウクライナの内部が分裂すると、先行きが懸念されます。ウクライナの大統領選挙はどうなりますか。
森本 本来なら5月に任期が切れるんですが、ゼレンスキー大統領は選挙ができる状態ではないと言って選挙時期を明言していない。
一方、ヨーロッパの国々には、それは民主主義のルールに反するので、任期が来たら選挙すべきだという意見がある。ゼレンスキー大統領にとっては難しい選択です。米国では共和党陣営の反対もあり、支援法案が成立しない。ヨーロッパ各国の支援も概ね止まっていますから、ウクライナは兵員も弾薬も不足という状態で、このところ、ゼレンスキー大統領はドローンの増産とドローン部隊編成に努力しているところです。
─ イスラエルとハマスの闘争はどうなりますか。
森本 どうにもなりません。イスラエルはハマスの司令官を拘束するまで作戦を続け、ガザ南部のラファに捜索の手を広げています。これが終わらなければ一時停戦にも応じません。
─ 人質はまだどれくらいいるのですか。
森本 136人だと思います。ブリンケン米国務長官は何度も、イスラエルに行って説得していますが、イスラエルは応じません。
─ しかし、フーシー派などの攻撃も続いていますね。
森本 ハマスがイスラエルと戦っている限りは、フーシー派やイラク・シリアの親イラン勢力も、彼らを支援せざるを得ない。米国なども、これに対して戦闘の拡大を抑止する必要がある。しかし、イランが本格的な攻撃をする段階にはないと思います。
トランプ氏が再び大統領になったら…
─ 米国の支援は、「もしトラ(もしトランプ氏が米大統領選で勝てば)」から「ほぼトラ(ほぼトランプ氏が勝つだろう)」になるとどうなるのですか。米国では支援疲れという声も大きいですが。
森本 トランプ前大統領が復活したら、ウクライナ支援をやめる動きが強まるかもしれません。その代わりにヨーロッパ同盟国に防衛費を増やさせて、NATO(北大西洋条約機構)にもっと関与させ、米国はゆっくりとウクライナから手を引こうとするでしょう。中東はそういうわけにはいかないと思いますが。いずれにしても、最近まで、「もしトラ」と言われていたのが、今では「ほぼトラ」と言われるようになりました。
少なくとも予備選挙はそうなるでしょう。本選挙はまだわかりませんが。
─ では、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合にどういうことが想定されますか。
森本 予測されることは、第一に、約200万人になる不法移民を米国から追い出す。第二は、米国の重要インフラ建設に投資する中国企業を排除する。
第三は、世界貿易機関(WTO)における中国の最恵国待遇(MFN)を撤廃する。第四は、中国から米国への輸入関税を30%から大幅に引き上げるという見方があります。ともかくバイデン大統領のやってきたことを否定するでしょうから、パリ協定(地球温暖化対策の国際枠組み)、IPEF(インド太平洋経済枠組み)からも脱退するという懸念もあります。
もっとも、パリ協定は2020年にトランプ大統領が離脱し、21年1月にバイデン政権が発足直後に復帰したという経緯があります。
ただ、「Quad(クアッド=日米豪印4カ国の戦略対話)」はトランプ大統領時代につくったものなので、これは止めないだろうと思います。
─ こうした国際間の枠組みの大半を壊すとなると、これは米国自身がリーダー国であるということを放棄することになりませんか。
森本 トランプ氏は恐らく、別の方法でリーダーシップをとろうと考えているのだと思います。とにかく、トランプ氏が再び大統領になったら、米国は自国の国益追求をさらに重視し、現在の国際秩序はどんでん返しのようなことが起こるでしょう。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・熊野英生の提言「消費は良いのか、悪いのか?」
米国にはスイングステート(大統領選のたびに勝利政党が変わりやすい激戦州)が7州くらいありますが、現時点では、これらの州はいずれもトランプ氏有利です。
現在、共和党の候補者選びである予備選挙において、トランプ氏が圧勝しそうな勢いです。すでにデサンティス氏が選挙戦から離脱し、ヘイリー元国連大使が最後まで続けられるのかどうか、また、誰が副大統領候補になるのかも注目されます。
一方の民主党もバイデン大統領は高齢で前回と違って非白人や若者に人気が無いし、かといって副大統領のハリス氏も人気が無い。今回の大統領選挙は混乱すると思います。