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清明祐子・マネックスグループ社長CEO 「NTTドコモとの提携で、投資をより生活に身近な存在に」

財界オンライン 2024年3月6日 18時0分

「『貯蓄から投資へ』ではなく『消費や生活と資産形成』という形にしていきたい」─こう話す清明氏。2023年10月に通信大手・NTTドコモと提携、マネックス証券を同社の子会社とする決断をした。その狙いは、生活に密着したサービスを展開し、約9600万会員を持つドコモとともに「投資を生活に身近なものにしていきたい」というもの。イオン銀行との提携を含め、清明氏が目指すものとは。

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何かが起きる前提で機動的に動く

 ─ 2024年は年初から株価が高い状況が続いています。どう見ていますか。

 清明 23年の当社の株価のチャートも非常に綺麗な右肩上がりで、日経平均も同じように一本調子で上昇をしてきました。24年に入って早々の能登半島地震と航空機の事故で大発会の時には「どうかな?」と思いましたが、足元までの株価の状況はいいと思っています。

 24年は日本が本当に変わることができるのかが問われる年だと思いますから、株価の上では幸先がいいと思います。

 ─ 世界を見ると地政学リスクも高い状況が続きます。経営者の立場でどう見ますか。

 清明 地政学リスクもそうですし、不安定なこと、予期せねことは今に始まったことではなく必ず起きます。私としては予想するよりは、何かが起こる前提で機動的に動く、変化についていくことが、経営において必要になってきていると思っています。今の時代、やはりスピードが重要だと感じます。

 今の時代に戦争が起きることを誰が予想できたでしょうか。ですから、リスクを予想することに時間をかけるよりは、何かが起きる前提を持っておくことが大事なのだと思います。

 技術の変化もそうです。生成AI(人工知能)の進化が取り沙汰されていますが、AIの研究は長い間続けられてきました。その前提があると、技術の進化がいつ起きてもおかしくありません。それが出てきた時に、早くキャッチアップしてビジネスに取り込むのか、または取り込まないかをいち早く決めて動くことが求められます。

 日本も、動かなかった30年から、ようやく動き始めています。その変化の激しい時に、波をどう乗り切るかが非常に大事です。


日本の底力を世界に発信する時

 ─ 清明さんは若い世代で変化を乗り切っていこうという発信をしてきましたね。

 清明 ええ。世代交代も大きなテーマだということは、様々な場所で申し上げています。

 例えば近年、女性の活躍が叫ばれていますが、世代が一世代でも代わってくると、おそらくこのような議論はなくなるのだと思います。今の若い世代はあまり男性、女性で区別する意識を持っていないのではないかと。

 また、生まれた時から生活の中にインターネットがある世代は最初から効率的です。情報収集をする時に一生懸命調べて、書いてという世代と、タイピングするだけでグローバルな情報にアクセスできる世代とでは情報を得るスピードが全く違っています。

 そうすると働き方も自ずと効率的になっていくと。世代が代わると価値観も当然変わりますし、男性、女性を意識することなく、本当の意味でのダイバーシティ(多様性)を実現する意味でも世代交代は大事です。

 ─ 日本が再び成長するために何が必要だと考えますか。

 清明 日本国民は皆さん真面目です。その持てる力、企業の力を含めてもっと出していけば、さらに成長ができるはずです。

 それを非生産的なことをして効率性を落としたり、付加価値の追求よりも管理や前例踏襲することに時間をかけてしまうと、新しいアイデアも出てきません。

 底力はあるはずですから、今後は経営者も含め、もう少し先を見る方向に持っていく。元々モノづくりの国ですから技術もありますし、教育レベルも高い。もっと日本から世界に出していけるものはあるはずです。

 デフレの時代は守りの姿勢が強かったですが、これからはインフレの時代ですからカギは成長です。そうした力を開放していくことを政府も企業もやっていかなければなりません。

 ─ 規制改革はなかなか進んでいませんね。

 清明 例えば、中国では最初は規制がなく、問題が起きた後から取り締まっています。日本は先に規制があり、それを守ることから始めてしまう。今後はその「箱」から出て、自ら新しいルールをつくる方向を目指す必要があります。今の若い世代は、背中を押して上げたら、いろいろな発想を出してくれるはずです。


「次の時代をつくるのは新しい世代だ」

 ─ 清明さんは社会人人生を三和銀行(現・三菱UFJ銀行)からスタートしていますが、金融を選んだ動機は?

 清明 銀行は自分自身のキャリアプランにおける可能性を狭めず、広げてくれる会社だと思ったんです。

 ─ 01年の入行ですから、日本の金融危機の最中でしたね。

 清明 もう混乱が始まっていましたね。入行した翌年にはUFJ銀行になるなど、銀行の統合も進んでいきました。ただ、そのことをあまりネガティブに捉えていませんでした。

 変化がないと成長はないと思っているんです。会社も人間も同じことをしていると必ず誰かが追いつき、追い越していきますから、変化し続けることが必要です。

 私は小さい頃から、好奇心が旺盛なタイプで、多くの習い事をしては「極めたな」と思ったら次のことに取り組んでいました。いろいろなものを吸収しながら自分をアップデートすることが好きなんです。そうしたことが銀行に入ればできるのではないかと思っていました。

 ─ 23年10月にNTTドコモと提携し、マネックス証券を連結から切り離す決断をしましたね。清明さんが主導した取引だと聞いていますが改めて、決断の背景を聞かせて下さい。

 清明 この話がうまくいったのは、両社のタイミングがちょうど合ったということですが、松本(大・マネックスグループ会長)は交渉も含めて、お相手との場に出たことはありません。基本的に、私とチームで交渉を進めてきました。

 私が松本のことをすごいなと思ったのは、祖業であるマネックス証券の株式を半分売却し、連結から外すという決断に対し「ノー」と言わなかったということです。

 マネックスは、広く多くの人にマネックス証券を利用してもらい、投資をしてもらって人々に豊かな生活をしてもらうという「投資の民主化」を理念に始まった会社です。

 ドコモとの提携で、この理念が実現できるのではないかと考え、創業者である松本は、この提携をいいものだと判断したと。実際、「会社が成長するし、理念の実現にもつながる。マネックスらしさが残るのであればいいのではないか」と言ってくれました。こういうことを言える創業者がいるというのは本当に恵まれているなと感じました。

 ─ 23年6月に、その松本さんからCEOを託されたわけですね。

 清明 松本は「次の時代をつくるのは若い世代だ」として、私にバトンを渡してくれたのですが、そうした発想をする人も少ないのではないかと思っているんです。松本自身がまだ60歳ですから、全然元気ですし、まだまだできるけれども、未来をつくるのは若い世代だと。私自身、そうした発想が好きで、マネックスにお世話になって15年が経ちました。

 ドコモとの提携は、単に我々の理念を成し遂げるためだけではなく、金融界を変える、変革できるのではないかという話ですから、非常に大きな意味があると思っています。


NTTドコモと提携した理由は?

 ─ 新しい金融をつくっていこうという時に、ドコモをパートナーに選んだ理由は?

 清明 ドコモは通信会社というより、生活に密着した「プラットフォーマー」だと思っています。

 通信からスタートしているのでキャリアのイメージが大きいかもしれませんが、今は「d払い」や「dカード」などのペイメントサービスやポイントサービスを手掛け、人々が毎日触れ、生活、経済を支える事業を進めておられます。携帯電話もその1つと言えます。そして「dメニュー」などのコンテンツも手掛けています。

 私達は投資の民主化を目指していますが、「貯蓄から投資へ」は金融から金融であり、お金を銀行に置くか、証券に置くかという話だと思うんです。

 そうではなく「消費や生活と資産形成」という形にしていきたいんです。それが政府が掲げている資産所得倍増プランが目指すものだと思っています。生活の中にどれだけ資産形成を組み入れていただけるかが、今の日本では非常に大きいと。ですからドコモは、携帯の会社ではなく、日々の生活を支えておられる方々と捉えました。

 ─ 日本の個人金融資産が2100兆円ある中で、現金・預金が1100兆円。この活用が問われます。

 清明 ええ。NISAの口座も、まだ約2000万口座しかありません。一方、ドコモには約9600万の会員がおられます。これを見てもわかるように、まだまだ資産形成を始めておられない方々がたくさんいるということです。

 そうした方々に気軽に、安心して資産形成、投資を始めていただける仕事をしようと思う時に、どうしても証券会社は「外側」の存在なんです。少し敷居が高いとも思われています。銀行サービスの方が生活に近いのだと思います。

 24年1月4日から、イオン銀行との提携も始まっています。イオンのお客様はファミリー層が多いですが、そうした方々のための資産形成を進めていきたいんです。イオンでの消費のそばで「資産形成はどうですか?」という形で生活圏にリーチしていきたい。

 おそらく資産形成をしていかないと年金の問題、長生きリスクが出て来ます。資産寿命が自分の寿命よりも長くないと、安心して暮らしていくことはできません。ですから今の日本に資産形成が必要なんです。

 ─ 投資をより身近な存在にしていこうと。

 清明 資産形成はお金の話というよりは生活の話だからです。日本ではお金の話をすることはタブー視されている面がありますが、生活の話ならばできるのではないかと。皆さんの生活を豊かにするために、マネックス証券のサービスはいかがですか?という世界にしていきたい。

 24年は新NISAも始まり、制度面で政府が後押ししてくれていますが、我々はドコモ、イオン銀行と組ませていただいてもいるので、本当に楽しみです。24年は歴史を変えるスタートの1年だと思っています。

 大きいゴールかもしれませんが、ゴールがなければ、みんながそこに向かうことができません。私達は金融業界を変える変革者なのだと思い込むことが大事かなと思って、取り組んでいます。

 ─ 今後のマネックスグループをどういう会社だと位置づけて運営していきますか。

 清明 私達の強みは多様性があり、テクノロジーを自分達で持っており、そしてグローバルであるということです。金融はインフラというイメージがあると思いますが、私達はサービス業でありたいと思っています。そしてそれをグローバルに展開していきたいのです。

 また、暗号資産を手掛けるコインチェックも傘下に持ちますが、新たなデジタル経済圏が生まれる時のゲートウェイになるかもしれません。

 その意味からも、金融の枠組みを少し超える形で、人々の豊かな生活をグローバルで支えていく集団という形にしていきたいと思っています。

 ─ 今後も他企業との連携は考えていきますか。

 清明 私達はM&Aで大きくなってきた会社です。買収だけではなく提携も含めて、私達の理念に沿うようなゴールを描けるのであれば、いろいろな方々と提携していきたいと思います。

 ─ いずれにしてもスピードが大事ですね。

 清明 大事です。スピードを持って決めて、実現に向けて動く。その繰り返しですね。

 CEOに就くと守りに入りたくなる人もいると思うのですが、私は意外と攻めの人間です。オーガニックな成長だけでなく、みんなと一緒に新しい世界をつくるためのジャンプをしたいんです。

 私達のチームならば非連続な成長を実現できると思って取り組んでいます。

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