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サントリーホールディングス・新浪剛史社長「酒類と飲料を融合した“RTD”で世界一を目指す!」

財界オンライン 2024年3月19日 18時0分

ローソン会長からサントリーホールディングス社長に転じて10年目を迎えた新浪剛史氏。グローバルに活躍する〝人財〟が増えたことに加え、酒類と飲料(ソフトドリンク)の両方の事業を擁する強みを生かし、「米国市場でトップを目指す」と説く。一方で経済同友会代表幹事として「共助資本主義」という概念を打ち出し、企業と社会起業家などとの結びつきを重要視する。新浪氏が見据える次のサントリーの姿、そして日本企業が目指すべき企業像とは。

新浪剛史・経済同友会代表幹事(サントリーホールディングス社長)に直撃! 日本の立ち位置をどう測り、舵取りをどう進めるか?

10年経って嬉しかったこと

 ─ 2014年にサントリーホールディングス社長に就任して10年になります。この10年をどう振り返りますか。

 新浪 10年前に当時の社長である佐治信忠会長が私を招聘したのは、サントリーを「グローバルな会社」にしたいという強い想いがあったからです。それから10年間、ビームのサントリーへの統合という難問に挑み、「サントリーの創業精神を植え付ける統合が完了した」と言えるところまで辿り着きました。そしてその苦労の過程で、グローバルで活躍できる人財が育ってきたこと。これが私にとって何より嬉しいことです。

 今、長期にわたる海外赴任から戻ってきた社員たちが本社で主要なポジションに就き、その下でまた多くの人財が育ってきています。若い人たちが新たなチャンスを掴もうと、自ら手を挙げて海外に飛び出していくことも全く珍しくなくなってきました。世界に触れ、世界に挑む人財の層が厚くなってきているのを実感します。「グローバルな会社」を目指し、佐治会長と二人三脚でやってきたことがようやく成果として実ってきました。

 昨年は過去最高の業績を達成することができました。もちろん、業績の追求は経営者の使命であり、好業績は喜ばしいことです。しかし一方で、その好業績が、将来の企業価値を切り売りして実現するような一時的なものであってはいけません。好業績そのものよりも重要なことは、それを生み出す経営基盤を形づくることです。その最たるものが人財でしょう。その人財がしっかりと育ってきています。

 ─ 海外でも人づくりに手応えを感じていますか。

 新浪 どの国や地域で働く人でも、サントリーファミリーの一員として、我々の理念や想いを共有してもらいたいと考え、教育研修プログラムなども強化しました。その結果、海外でもサントリーが大好きだという人財がとても増えてきました。「人間の生命(いのち)の輝き」をめざすという弊社の企業理念が世界に通用し、支持されるものであることが分かったことは大変心強く思いました。世界中のサントリーグループの社員全員が一緒になって、1つの目標を目指そうとしています。

 そのような中、グローバルで目指すのは、RTD(栓を開けたらすぐ気軽に飲めるお酒)市場での世界一です。RTDという商品は、非常にローカル色が強いという特性があります。それぞれ地域のニーズに合った商品にしていかなければ、お客様に受け入れられません。

 サントリーのグローバルに共有する価値観や強みを発揮しつつ、同時にそれぞれの地域の文化に根差した商品をつくり出していく。そのためには、ローカルで働く人たちにしっかりサントリーの価値観を共有してもらう必要がありました。その土台ができたからこそ挑戦できると判断したのです。


RTDで米国市場を狙う

 ─ グローバルとローカルそれぞれの力が必要だというわけですね。

 新浪 その通りです。加えて、もう1つの「両立」がRTDには必要です。お酒と飲料(ソフトドリンク)の二本足です。私たちは、世界中でスピリッツ(蒸溜酒)事業を手掛けています。飲料を手掛けるサントリー食品インターナショナルもあります。この2社が想いを一つにして一緒に動くことが重要です。

 世界を見ると、飲料業界では米コカ・コーラ、酒類業界では英ディアジオという金メダルの会社があります。しかし、それぞれスピリッツ分野、そしてソフトドリンクのノウハウはありません。しかし、サントリーの場合、グループの同じ価値観や文化の中にこの2つの事業と会社があります。これらを組み合わせ、相乗効果を発揮させていこうというのがRTDのグローバル展開の挑戦です。

 いま我々のスピリッツ分野の売上は世界第3位です。この分野で我々が1位になるためには相当なストレッチが求められます。しかし、RTDは我々自身の強みを生かしていけば、世界一に十分に手が届きます。その成否は米国市場やアジア・オセアニア市場をいかに拡大できるかにかかっています。

 特に重要なのが米国ですが、今までビームサントリーの経営を通じて、市場を切り拓いてきました。その経験は必ずや将来の糧になるはずです。米国市場を席巻できれば、RTDで金メダルを獲ることが見えてきます。今年は、その挑戦の始まりの年です。

 ─ あくまでも狙うのは金メダルですね?

 新浪 金メダルを獲ることが重要です。そして、我々にはそのポテンシャルがあると信じています。

 ─ サントリーの強さは融合するという力になりますか。

 新浪 はい。サントリーの強さというのは、組織の垣根を超えていく点で、「ONE SUNTORY One Family」という表現をしています。ビールを担当していた人に、次は飲料をやってもらうなどのように、社員はよく業務をローテーションします。

 人財がそのローテーションの中で経験を積み、自らを磨いていくことを期待しています。ここだけを見ると、つまりジョブ型ではありません。一方で、デジタル部門など専門的なスキルが求められる部署ではジョブ型も採用しています。

 弊社の人事制度はハイブリッドと言えるでしょう。ただ、最も重要なのは、ローテーション型であれ、ジョブ型であれ、その根底には皆が同じ方向を向いて働ける〝やってみなはれ〟の創業精神が土台としてあるということです。その対象は日本人だけではありません。海外の人たちもその一員です。

 ─ RTD以外で大きな挑戦となる分野はありますか。

 新浪 ウエルネス部門です。セサミンなどの健康食品を手掛けている会社で、今後アジアを中心に事業を拡大していこうと思っています。



常に面白そうな道を歩んできた

 ─ 新浪さんの経営者人生を振り返ってみると挑戦の連続だったと言えそうです。

 新浪 私は常に挑戦だが、まさに〝おもろい〟道を選んできました。三菱商事でローソンに行くときも出向で良かったのですが、あえて退職しました。だからこそ改革に立ち向かい、多くの革新的なことができ、大成功に導くことができました。そしてサントリーに。メーカーも初めてでしたし、オーナー企業も初めてでした。でも、まずは挑戦してみようと。そういう人生を歩んできました。

 もちろん、経営者として、舵を取る会社や業界を変えるということは容易なことではありませんでした。しかし、しばらくして、サントリーという会社の〝徳〟というか、その奥にある真の優しさがあることに魅了されました。苦境に陥ったときには必ず助けてくれる。「何をやっているんだ」と突き放すのではなく、本当にありがたいですね。そして佐治会長から私自身にも「言いたいことを言ってこい。正論は大切だ」と発破を掛けられています。

 ─ 経済同友会の取り組みについても、同じスタンスですか。

 新浪 はい。日本のために正論を発信して欲しいと。例えば政策提言は実効性が高いだけでなく、どう実現していくかまで一緒に考えていく必要があります。社会に実装するためには、世の中の人たちが納得するような説得力がなければなりません。

 そうしたメッセージや提言を出していくためには、我々自身がもっと勉強しなければなりません。ですから、同友会の各委員会の委員長は各領域の専門家と呼べる経営者にお願いしました。参加している委員も勉強になり、提言だけでなく、自分の会社の経営にも活かすことができるような活動を続けていれば結果として日本の産業が活性化していきます。社会はもちろん、何より自分たち自身を変えていく。同友会をそういう場にしていきたいと考えています。


共助資本主義で

 ─ その中で新浪さんが強調したいことは何ですか。

 新浪 企業の価値を上げるためには、ぜひ社会起業家との接点を持って下さいと言っています。それができると、国が担う「公助」や自身の力による「自助」だけでない、「共助」の世界を企業の力も使いながら形成でき、私たちの社会をもっと強靭にしていくことができます。

 そうして社会にとってなくてはならない存在になっていくことで、結果として長期的に企業自身も一層のレジリエンス(しなやかな強靭性)を獲得することができるようになるのです。

 そのためには、社会起業家やNPO・NGOといったシビル・ソサエティ(市民社会)の方々と一緒になって社会の課題を解決していくことが大切になります。「公助」だけで社会の課題のすべてを解決できないことは明らかですから。そうした取り組みを続ければ、企業のリスクプレミアムを低減し、結果として企業の価値も上がっていきます。私はこの循環を「共助資本主義」と呼んでいます。

 ─ その言葉は代表幹事就任時から訴えていますね。

 新浪 はい。経済社会は時代と共に変わってきています。同友会もその変化に合わせながら、社会をもっと豊かでもっと良いものにしていくために力を尽くしていく必要があります。

 最も大きなテーマは、日本社会が次に何を目指すかですね。令和の新しい資本主義のモデルが求められています。過去の金融資本主義のように、勝者と敗者が隔絶していくようなシステムでは、豊かで安定した社会を維持することが難しいのは明らかです。昭和や平成とは異なる社会環境にある今こそ、令和の時代のモデルを考えていかなければなりません。


賃上げの機運を醸成するために

 ─ 足下の話も伺います。賃上げが話題になっていてサントリーでも計画していますね。

 新浪 これから労働組合との交渉もありますが、ベアを含めて7%程度を実現していきたい。これは継続的にやりたいし、やれる企業になっていきたいと思っています。それを前提に社員にモチベーションを上げてもらい、生産性を向上させて下さいと。

 そのために、生成AIを活用するなど、新たなチャレンジをいくつも始めています。

 ─ 日本の場合、大企業は賃上げができても中小企業は難しいという声を聞きます。

 新浪 経済三団体連名で「パートナーシップ構築宣言」を推進しているのは、まさにその通りだという認識からです。一昨年、下請け企業からの価格転嫁協議に応じない大企業名を公正取引委員会が公表し、その後もフォローアップが行われています。こうした取り組みをどんどんやるべきだと思います。

 会社の名誉や評判に傷がつかないよう、日本の大手企業が動くことに繋がりますので。本来このような方法は決して良いとは言えませんが、次第に人手不足がより深刻になり、価格転嫁を許諾する世の中になっていくでしょう。

 CPI(消費者物指数)が上がった分は自動的に価格に転嫁できるようにしていくぐらいのことが重要です。当たり前のようにやっていくべきだと考えます。そういう循環を作っていくことで、長く苦しめられたデフレを脱却して、日本経済は成長のエンジンに再点火できると思っています。

 まず、成長を取り戻す。同時に、その再成長の先にどんなモデルを描くかを考える。日本はいま、久々に、そんなわくわくするような挑戦ができるチャンスを迎えているのだと思います。(了)

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