転換期をどう生きる?
時代の転換期には、プラスとマイナスの現象が併存する。当然、混乱も起きるし、利害の対立も生まれる。その中をどう生き抜くかという課題。
脱デフレを図ろうと日本銀行が異次元金融緩和に乗り出したのが2013年。黒田東彦・前総裁の時に超緩和策がスタートしたわけだが、それから10年余が経ち、局面が変わった。植田和男・現総裁はその大金融緩和策に終止符を打つ役目を担う。
〝金利のない時代〟から〝金利のある時代〟への転換─。
植田総裁は、YCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)やマイナス金利といった金融政策を近々止め、金利の付く時代へ移行を図る。
しかし、金利が急激に押し上がると、国債価格の下落や株価を押し下げるといった動きにつながる。そこで、緩やかな金利上昇を目指すということになる。
「金利が上がるにしても、時間をかけて当面は1%までを許容範囲として動くのではないか」というのが大方の市場の反応。
植田総裁の市場との〝対話〟も今までのところ、うまく噛み合っているのだと思う。
金利の付く時代を迎えて
金利の付く時代に入ると、世の中はどう変わるのか─。
まず、直接影響を受けるのは、金融事業の関係者である。これまでの金利ゼロの時代には構造改革を推し進め、「無駄なものの削減や事業ポートフォリオの見直しで、ユニオンバンクの売却などもやってきた」と語るのは三菱UFJフィナンシャル・グループ社長の亀澤宏規さん(1961年11月生まれ)。
金利ゼロ下では金利収益がないので、「収益の多様化」ということで、手数料収入や顧客の相談にソリューションを提供するといったことで、収益確保を図ってきた。
また他にも、日本は金利がゼロだが、海外は金利が付いているので、海外の投資銀行部門で収益をあげるという戦略。
同グループは、リーマン・ショック時(2008)に、米国の有力投資銀行、モルガン・スタンレーが苦境に陥った際、1兆円近い出資を行った。支援的側面があり、下手をすれば世界金融恐慌を招くという局面での支援でもあった。
結果的に、このモルガン・スタンレーへの出資(出資比率23%)という決断は、三菱UFJフィナンシャル・グループ収益力向上に貢献することになった。
〝つなぐ〟ことの意味
先人の決断を受けて、自ら現在の事業経営にどうつなげていくか─。この〝つなぐ〟ということが実に難しい。単純に、従来の枠をつなぐだけでは、息切れする。なぜなら時代は動き、経営環境は変化しているからだ。
時代環境にそぐわない部分は捨象しなければならないし、適応している部分はさらに伸ばしていくなどの変化対応が望まれる。
三菱UFJの場合は、15年余前のトップ、永易克典氏(1947―2021)がモルガン・スタンレーへの出資を決断。その後、平野信行氏(1951年生まれ)が両社の関係強化を推進した。
こうした先人の事績を受け継いでの亀澤さんのこれからの事業展開ということになる。
「総合金融グループとして、資産運用立国に貢献しないといけないし、皆さんの資産所得を倍増させていくことにも貢献したい。これは責務だと思っています」と亀澤さん。
同グループの預かり資産運用残高は約100兆円。これを倍増させたいという。同グループは今、銀行、信託、証券の3つのメイン事業を抱えるが、現在は子会社になっている三菱UFJ信託銀行の資産運用会社を〝昇格〟させて、「第4の柱にする」(亀澤さん)考え。
今年4月、資産運用会社として新しい出発を図る。
〝つなぐ〟の精神で
新しい時代にどう対応するか?
「これから金利がある世界になると、今までほとんどなかった調達コストが出てくるので、お客様が事業でちゃんと儲けないといけない。よりリスクが高まるので、われわれがどれ位のソリューションを提供できるのかが問われます」
亀澤さんは、顧客との関係性の中で、自分たちの使命を語る。
「金利もある意味、正常化するので良いことですが、そこにリスクもありますよと。同時に、逆にチャンスもありますということをお伝えしていくことが求められます」
自分たちが顧客に選ばれないこともあるわけで、「われわれも非常に試される時代」ということだ。
つなぐ機能の進化─。「これは次の中期経営計画のキーワードです」と亀澤さん。
世の中は今、分断・分裂が進む。
「分散化というか、多様化、お客様のニーズも多様化し、働く場所もバラバラになっている。ニーズ全体がバラバラになってきていますが、それはデジタルで対応できるようになってきたし、その人のニーズに合わせたサービスをやっていきたい。スマホはその典型で、瞬時につながれる」
亀澤さんは、「金融はもともと、つなぐことが基本。資本家と企業、預金者とローンを借りたい人をつなぐ。そして、今の世代と将来の世代をつなぐことをやっていきたい」と語る。
分断の時代にあって、「つなぐ存在」になろうという亀澤さんの思いである。
食と農業の改革へ
日本は人口減だが、世界レベルで見ると、人口の爆発が続く。
地球人口は現在の約80億人から、2050年には100億人に達する。人口が1.3倍に増えるのに対し、食料需要は「1.7倍から1.8倍になると言われています」と語るのは、食産業・農産業の改革を志しているZEROCOの楠本修二郎さん(1964生まれ)。
楠本さんは東京・渋谷に本拠を置く『カフェ・カンパニー』社長でもある。東京・大阪・名古屋といった大都市の駅ビルなどで、『Wired Café』(ワイアード・カフェ)を展開。Wired、つまり、つながりをキーワードにしたカフェレストランの経営。「人、モノ、言葉がすべてつながる場を提供していきたい」というのが楠本さんの経営。
その楠本さんが、冷蔵、冷凍でない、ゼロ(ZERO)度での〝食の保存〟を提唱している。
「冷蔵庫でもなし、冷凍庫でもない、食料保存のための第三の道という言い方をしています。これは人類がこれまで到達していない技術なんです」と楠本さん。
おいしさをキープしながら、食産業の維持発展につながるテクノロジーを生かすということ。
農業、漁業の在庫が持てるということで、楠本さんのもとには農業、漁業関係者から外食、流通、物流など食に関わる有志が参集している。
食や農業に横串を刺すというか、インテグレーター的役割を担う発想が起業家の間で生まれつつある。日本再生につながる発想が随所で生まれている。
時代の転換期には、プラスとマイナスの現象が併存する。当然、混乱も起きるし、利害の対立も生まれる。その中をどう生き抜くかという課題。
脱デフレを図ろうと日本銀行が異次元金融緩和に乗り出したのが2013年。黒田東彦・前総裁の時に超緩和策がスタートしたわけだが、それから10年余が経ち、局面が変わった。植田和男・現総裁はその大金融緩和策に終止符を打つ役目を担う。
〝金利のない時代〟から〝金利のある時代〟への転換─。
植田総裁は、YCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)やマイナス金利といった金融政策を近々止め、金利の付く時代へ移行を図る。
しかし、金利が急激に押し上がると、国債価格の下落や株価を押し下げるといった動きにつながる。そこで、緩やかな金利上昇を目指すということになる。
「金利が上がるにしても、時間をかけて当面は1%までを許容範囲として動くのではないか」というのが大方の市場の反応。
植田総裁の市場との〝対話〟も今までのところ、うまく噛み合っているのだと思う。
金利の付く時代を迎えて
金利の付く時代に入ると、世の中はどう変わるのか─。
まず、直接影響を受けるのは、金融事業の関係者である。これまでの金利ゼロの時代には構造改革を推し進め、「無駄なものの削減や事業ポートフォリオの見直しで、ユニオンバンクの売却などもやってきた」と語るのは三菱UFJフィナンシャル・グループ社長の亀澤宏規さん(1961年11月生まれ)。
金利ゼロ下では金利収益がないので、「収益の多様化」ということで、手数料収入や顧客の相談にソリューションを提供するといったことで、収益確保を図ってきた。
また他にも、日本は金利がゼロだが、海外は金利が付いているので、海外の投資銀行部門で収益をあげるという戦略。
同グループは、リーマン・ショック時(2008)に、米国の有力投資銀行、モルガン・スタンレーが苦境に陥った際、1兆円近い出資を行った。支援的側面があり、下手をすれば世界金融恐慌を招くという局面での支援でもあった。
結果的に、このモルガン・スタンレーへの出資(出資比率23%)という決断は、三菱UFJフィナンシャル・グループ収益力向上に貢献することになった。
〝つなぐ〟ことの意味
先人の決断を受けて、自ら現在の事業経営にどうつなげていくか─。この〝つなぐ〟ということが実に難しい。単純に、従来の枠をつなぐだけでは、息切れする。なぜなら時代は動き、経営環境は変化しているからだ。
時代環境にそぐわない部分は捨象しなければならないし、適応している部分はさらに伸ばしていくなどの変化対応が望まれる。
三菱UFJの場合は、15年余前のトップ、永易克典氏(1947―2021)がモルガン・スタンレーへの出資を決断。その後、平野信行氏(1951年生まれ)が両社の関係強化を推進した。
こうした先人の事績を受け継いでの亀澤さんのこれからの事業展開ということになる。
「総合金融グループとして、資産運用立国に貢献しないといけないし、皆さんの資産所得を倍増させていくことにも貢献したい。これは責務だと思っています」と亀澤さん。
同グループの預かり資産運用残高は約100兆円。これを倍増させたいという。同グループは今、銀行、信託、証券の3つのメイン事業を抱えるが、現在は子会社になっている三菱UFJ信託銀行の資産運用会社を〝昇格〟させて、「第4の柱にする」(亀澤さん)考え。
今年4月、資産運用会社として新しい出発を図る。
〝つなぐ〟の精神で
新しい時代にどう対応するか?
「これから金利がある世界になると、今までほとんどなかった調達コストが出てくるので、お客様が事業でちゃんと儲けないといけない。よりリスクが高まるので、われわれがどれ位のソリューションを提供できるのかが問われます」
亀澤さんは、顧客との関係性の中で、自分たちの使命を語る。
「金利もある意味、正常化するので良いことですが、そこにリスクもありますよと。同時に、逆にチャンスもありますということをお伝えしていくことが求められます」
自分たちが顧客に選ばれないこともあるわけで、「われわれも非常に試される時代」ということだ。
つなぐ機能の進化─。「これは次の中期経営計画のキーワードです」と亀澤さん。
世の中は今、分断・分裂が進む。
「分散化というか、多様化、お客様のニーズも多様化し、働く場所もバラバラになっている。ニーズ全体がバラバラになってきていますが、それはデジタルで対応できるようになってきたし、その人のニーズに合わせたサービスをやっていきたい。スマホはその典型で、瞬時につながれる」
亀澤さんは、「金融はもともと、つなぐことが基本。資本家と企業、預金者とローンを借りたい人をつなぐ。そして、今の世代と将来の世代をつなぐことをやっていきたい」と語る。
分断の時代にあって、「つなぐ存在」になろうという亀澤さんの思いである。
食と農業の改革へ
日本は人口減だが、世界レベルで見ると、人口の爆発が続く。
地球人口は現在の約80億人から、2050年には100億人に達する。人口が1.3倍に増えるのに対し、食料需要は「1.7倍から1.8倍になると言われています」と語るのは、食産業・農産業の改革を志しているZEROCOの楠本修二郎さん(1964生まれ)。
楠本さんは東京・渋谷に本拠を置く『カフェ・カンパニー』社長でもある。東京・大阪・名古屋といった大都市の駅ビルなどで、『Wired Café』(ワイアード・カフェ)を展開。Wired、つまり、つながりをキーワードにしたカフェレストランの経営。「人、モノ、言葉がすべてつながる場を提供していきたい」というのが楠本さんの経営。
その楠本さんが、冷蔵、冷凍でない、ゼロ(ZERO)度での〝食の保存〟を提唱している。
「冷蔵庫でもなし、冷凍庫でもない、食料保存のための第三の道という言い方をしています。これは人類がこれまで到達していない技術なんです」と楠本さん。
おいしさをキープしながら、食産業の維持発展につながるテクノロジーを生かすということ。
農業、漁業の在庫が持てるということで、楠本さんのもとには農業、漁業関係者から外食、流通、物流など食に関わる有志が参集している。
食や農業に横串を刺すというか、インテグレーター的役割を担う発想が起業家の間で生まれつつある。日本再生につながる発想が随所で生まれている。