『人種の色と地の境我が立つ前に差別無し』─。これは拓殖大学校歌の一節である。校歌が制定されたのは1919年第一次世界大戦が終焉した後で、当時の欧米列強の植民地主義が盛んだった頃。その時アジア諸国や新興国の自立と協調の精神を謳った。作詞者の宮原民平氏は日本で最初にイスラム世界に飛び込んだ人とされる。イスラム研究をはじめ国際関係論で拓殖大学が存在感を示しているのは、そうした歴史と伝統による。これからの国際人育成を岡戸理事長に聞いた。
単なるグローバル人材ではなく真の国際人育成を
─ 1900年に学校が創設されてから今年125周年を迎えますね。今時代の変化の中で拓殖大学の建学の理念を教えてくれませんか。
岡戸 仰る通り、長い歴史と伝統がある学校です。創立100周年のときには上皇、上皇后両陛下に足を運んでいただきました。大変名誉なことであると思っております。
創立者桂太郎(第2代台湾総督、第11代、13代、15代内閣総理大臣)が国のために、社会のために動く人材を輩出するという目的で創立した大学です。
─ 混沌とした世界情勢が続いていますが、拓殖大学のビジョン、理念を聞かせてください。
岡戸 125年という長い歴史と伝統の中で建学の理念が形づくられてきました。校歌にもいろいろな形で拓大スピリッツや生き方が脈々と歌われています。
もちろん、国際大学のパイオニアとして求められているのは、国際人を育成するということはあります。ただ、われわれとしては単なるグローバル人材ではなく、やはりそこには拓大としての拓大スピリッツを兼ね備えた真の国際人育成を目指し、それを拓殖人材と呼んでいます。
そこには、建学の理念でうたっているような積極進取の気概を持って、積極的に開拓していく力を持った人材づくりに力を入れています。
─ 創立期に学長をつとめた後藤新平、新渡戸稲造(学監)という教育者がおられましたね。
岡戸 はい。この積極進取という理念は、もともと1900年に台湾協会学校としてスタートしたこともあり、海外で活躍できる人材の教育が根付いています。国際人養成という意味では、これからも先頭を切って続けていかなければいけないと思います。特に、拓殖大学の場合は台湾問題から始まったということもありますので、やはりアジアとの交流がまず、一つの大きなターゲットになっています。
─ 拓大の歴史から見ても、世のため公のためという意識がとても強いですよね。
岡戸 ええ。拓大の本当に凄いなと思う点は、1919年にできた校歌です。校歌といっても、他の大学にある校歌とはちょっと違って、拓大生はこうあるべきだというところを自分で歌うような内容の歌なのです。
一番から『嗚呼輝ける雄渾の姿ぞ 我の精神なる』と。これはアジアを謳った歌ですが、やはり雄々しく、凛々しい使命感みたいなものも含んだものです。我々はそういった拓大生なんだぞという気概を示しています。
三番で『人種の色と地の境我が立つ前に差別無し』と出てくるのですが、これはやはり1919年当時、第一次世界大戦が終わった時で世界は欧米列強による全盛期でした。そしてアジアの国々が植民地として苦しんでおりました。いわゆるヨーロッパの帝国主義、植民地政策があった中で、われわれはそうではなくアジア各地の人々を幸せにしたいんだと。
拓大の意識としては、人種差別はなく自律を目指しているのが特徴だといって、現地の人たちと一緒になってアジアの自立と繁栄、そういうものを築き上げていくんだと。一緒になって汗を流すんだと。そういう内容の校歌ですので、本当に素晴らしいものです。
─ 『膏雨ひとしく湿さば磽确やがて花咲かむ』という歌詞がその部分を表している歌詞ですね。
岡戸 そうなんです。じっくり一生懸命に物事に取り組めば、どんな不毛の地であっても、ここには花が咲く、立派な土地になっていくんだという思いですね。その次に『使命は崇し青年の力あふるる海の外』と続きますので、自分たちの力で開拓していくのだという気概ですね。
─ 『人種の色と知の境 我が立つ前に差別無し』には新渡戸先生が言われた思想を反映しているのですね。
岡戸 ええ。先が見えない中で、自分で考えて、自分で行動を起こす。で、新しいものをどんどん作っていくというような気概がいま求められていると思っています。
─ 岡戸理事長自身もスペインに10年留学して、柔道を教えられていましたね。
岡戸 はい。柔道を教えながら、オビエド大学に留学していました。学生時代にも、たまたまシンガポール研修会というのがあって。それまでは日本のことしかわからなかったわけですが、海外に出て、その時にシンガポール、マレーシア、香港に寄ったのですが、やはり文化、人の考え方、言語、食べ物、環境の違いを経験して、凄くショックを受けました。これからの世界というのは、国際的な視野を持たないとやっていけないなというのは、その時に凄く感じました。
─ 今、拓大は5学部と大学院を抱えて、茗荷谷と八王子に2つキャンパスがありますね。
岡戸 文京キャンパスには政経学部と商学部2つの学部、八王子国際キャンパスには、外国語学部、国際学部、工学部の3つの学部があります。
特徴としては、文京キャンパスは都心型で、八王子のほうは国際キャンパスという形で、32万坪、東京ドーム23個分の広大な土地があるというそれぞれのキャンパスの特徴があります。
あれだけのゆったりとした環境がありますから、スポーツ施設ですとか、凄く充実した運動施設がありますし。また、国際キャンパスということもありますので、キャンパスの中に学生寮がいま4つあるんですよね。カレッジハウス扶桑には400人入る寮や外国人を対象にした留学生用の寮、運動部の学生が入るような体育寮が2つある状況です。
いま拓大では、全体では留学生が13%ぐらいいるんです。
─ 多いですね。留学生だけで約900人ですか。
岡戸 はい。いわゆる日本在住の外国籍の方も含めると、14%を超えます。ですから、日本にいながらにして国際感覚というのが育成できる環境があります。
─ どこの国の学生が一番多いですか。
岡戸 やはり昔から中国大陸との繋がりもあるので、中国が一番多いですね。去年の12月に、40年近く提携校の、東呉大学(台湾)に行ってきました。そこではもう既に400人近い拓大の学生が留学先として勉強の機会をいただいています。いろいろなところで支部総会などが開かれているのですが、そこではまず校歌で始まり皆がひとつにまとまるというか、その縦横の繋がりは素晴らしいなと。
留学生は本当に真面目で向学心が高く、一生懸命になんでも取り組みますし、日本人にない積極性もあります。
一緒にグループワークやプロジェクト活動をやることで、留学生からまた刺激を受けて、日本人学生の積極性を伸ばすというところも凄くあるのではと思います。
スポーツを通じての人格教育
─ いまの現役学生で、スポーツの名選手がたくさんいますね。
岡戸 3年生のDF関根大輝さんがJ1リーグの柏レイソル、MF日野翔太さんがサガン鳥栖に2025シーズンから加入することになりました。二人は大学の学業と両立して1年前倒し、今シーズンからプロへの道へ進むことになりました。
─ J1に二人も輩出されたんですね。
岡戸 いま、サッカー部の学生は400人以上いて、凄く人気なんですよ。
─ サッカーの強豪高校から集められているんですか。
岡戸 監督の方針もありますが、人間性のところも大事にしています。
他大学の強いところだと、体育推薦でだいたいセレクションをして入って来るのですが、うちは一般学生からでも受け付けている点も人気の理由です。
練習は一度に一緒にはできないので、8つぐらいのグループに分けて練習しています。
─ 八王子国際キャンパスには総勢400人が練習できる環境があるわけですね。
岡戸 朝7時ぐらいから時間をずらしてやっています。もちろんそれぞれにコーチがついて指導しています。
─ 陸上の駅伝も注目されていますが、来期は期待できますか。
岡戸 監督、コーチ、指導体制がガラッと変わりましたので期待はしています。去年の箱根駅伝の予選会では16位でしたが、前年度と比べるとスコアも10分ぐらい短くなっています。全部で12人走りましたが、半分以上が自己ベストを出していましたね。
井上浩監督に代わって、言葉での精神的な指導にも力を入れていますから、学生たちもモチベーションを上げて、自ら練習に励むことが増えています。
スポーツ以外でも学生たちの社会貢献意識というものは高まっているのを感じます。
─ 例えばどのような活動がありますか。
岡戸 東日本の復興や今回の能登半島地震でも、学生たちが積極的に募金活動をしています。これからも人のために自ら動くという学生を育てていきたいです。大学での活動を通して利他的な考え方というか。公のためにとか、社会のために尽くしたいという社会貢献意識が少しずつ高まることを期待しています。
─ 就職に向けてのキャリア支援はどうですか。
岡戸 やはり就職に関しては、今後アジアとの関係というのが、日本の産業界にとって凄く重要になってくると思います。そういう意味では、真の国際人を育成して、拓大の伝統のアジアとの関係、あるいは海外との関係が太いという特徴を、就職にもつなげていきたいですね。
─ 海外の情勢がかなり不安定で混乱している中、日本の力でつなぐという役割ができるといいですね。
岡戸 そうなんです。そういうところに貢献できるようなものを持っていると思いますので。
私が好きな言葉で「自己滅却」という言葉があるのですが、自分を主張しすぎないという考え方であり精神であり、自分なりに世のため、人のため、地域のためということを大事にしたいと思っています。
─ 基本的には和ですよね。
岡戸 ええ。共に生きる共通意識を持って、コミュニケーションで相手を理解するという姿勢が大切です。相手をまず理解して、共生するんだという、それが本来のグローバル意識だと思います。
単なるグローバル人材ではなく真の国際人育成を
─ 1900年に学校が創設されてから今年125周年を迎えますね。今時代の変化の中で拓殖大学の建学の理念を教えてくれませんか。
岡戸 仰る通り、長い歴史と伝統がある学校です。創立100周年のときには上皇、上皇后両陛下に足を運んでいただきました。大変名誉なことであると思っております。
創立者桂太郎(第2代台湾総督、第11代、13代、15代内閣総理大臣)が国のために、社会のために動く人材を輩出するという目的で創立した大学です。
─ 混沌とした世界情勢が続いていますが、拓殖大学のビジョン、理念を聞かせてください。
岡戸 125年という長い歴史と伝統の中で建学の理念が形づくられてきました。校歌にもいろいろな形で拓大スピリッツや生き方が脈々と歌われています。
もちろん、国際大学のパイオニアとして求められているのは、国際人を育成するということはあります。ただ、われわれとしては単なるグローバル人材ではなく、やはりそこには拓大としての拓大スピリッツを兼ね備えた真の国際人育成を目指し、それを拓殖人材と呼んでいます。
そこには、建学の理念でうたっているような積極進取の気概を持って、積極的に開拓していく力を持った人材づくりに力を入れています。
─ 創立期に学長をつとめた後藤新平、新渡戸稲造(学監)という教育者がおられましたね。
岡戸 はい。この積極進取という理念は、もともと1900年に台湾協会学校としてスタートしたこともあり、海外で活躍できる人材の教育が根付いています。国際人養成という意味では、これからも先頭を切って続けていかなければいけないと思います。特に、拓殖大学の場合は台湾問題から始まったということもありますので、やはりアジアとの交流がまず、一つの大きなターゲットになっています。
─ 拓大の歴史から見ても、世のため公のためという意識がとても強いですよね。
岡戸 ええ。拓大の本当に凄いなと思う点は、1919年にできた校歌です。校歌といっても、他の大学にある校歌とはちょっと違って、拓大生はこうあるべきだというところを自分で歌うような内容の歌なのです。
一番から『嗚呼輝ける雄渾の姿ぞ 我の精神なる』と。これはアジアを謳った歌ですが、やはり雄々しく、凛々しい使命感みたいなものも含んだものです。我々はそういった拓大生なんだぞという気概を示しています。
三番で『人種の色と地の境我が立つ前に差別無し』と出てくるのですが、これはやはり1919年当時、第一次世界大戦が終わった時で世界は欧米列強による全盛期でした。そしてアジアの国々が植民地として苦しんでおりました。いわゆるヨーロッパの帝国主義、植民地政策があった中で、われわれはそうではなくアジア各地の人々を幸せにしたいんだと。
拓大の意識としては、人種差別はなく自律を目指しているのが特徴だといって、現地の人たちと一緒になってアジアの自立と繁栄、そういうものを築き上げていくんだと。一緒になって汗を流すんだと。そういう内容の校歌ですので、本当に素晴らしいものです。
─ 『膏雨ひとしく湿さば磽确やがて花咲かむ』という歌詞がその部分を表している歌詞ですね。
岡戸 そうなんです。じっくり一生懸命に物事に取り組めば、どんな不毛の地であっても、ここには花が咲く、立派な土地になっていくんだという思いですね。その次に『使命は崇し青年の力あふるる海の外』と続きますので、自分たちの力で開拓していくのだという気概ですね。
─ 『人種の色と知の境 我が立つ前に差別無し』には新渡戸先生が言われた思想を反映しているのですね。
岡戸 ええ。先が見えない中で、自分で考えて、自分で行動を起こす。で、新しいものをどんどん作っていくというような気概がいま求められていると思っています。
─ 岡戸理事長自身もスペインに10年留学して、柔道を教えられていましたね。
岡戸 はい。柔道を教えながら、オビエド大学に留学していました。学生時代にも、たまたまシンガポール研修会というのがあって。それまでは日本のことしかわからなかったわけですが、海外に出て、その時にシンガポール、マレーシア、香港に寄ったのですが、やはり文化、人の考え方、言語、食べ物、環境の違いを経験して、凄くショックを受けました。これからの世界というのは、国際的な視野を持たないとやっていけないなというのは、その時に凄く感じました。
─ 今、拓大は5学部と大学院を抱えて、茗荷谷と八王子に2つキャンパスがありますね。
岡戸 文京キャンパスには政経学部と商学部2つの学部、八王子国際キャンパスには、外国語学部、国際学部、工学部の3つの学部があります。
特徴としては、文京キャンパスは都心型で、八王子のほうは国際キャンパスという形で、32万坪、東京ドーム23個分の広大な土地があるというそれぞれのキャンパスの特徴があります。
あれだけのゆったりとした環境がありますから、スポーツ施設ですとか、凄く充実した運動施設がありますし。また、国際キャンパスということもありますので、キャンパスの中に学生寮がいま4つあるんですよね。カレッジハウス扶桑には400人入る寮や外国人を対象にした留学生用の寮、運動部の学生が入るような体育寮が2つある状況です。
いま拓大では、全体では留学生が13%ぐらいいるんです。
─ 多いですね。留学生だけで約900人ですか。
岡戸 はい。いわゆる日本在住の外国籍の方も含めると、14%を超えます。ですから、日本にいながらにして国際感覚というのが育成できる環境があります。
─ どこの国の学生が一番多いですか。
岡戸 やはり昔から中国大陸との繋がりもあるので、中国が一番多いですね。去年の12月に、40年近く提携校の、東呉大学(台湾)に行ってきました。そこではもう既に400人近い拓大の学生が留学先として勉強の機会をいただいています。いろいろなところで支部総会などが開かれているのですが、そこではまず校歌で始まり皆がひとつにまとまるというか、その縦横の繋がりは素晴らしいなと。
留学生は本当に真面目で向学心が高く、一生懸命になんでも取り組みますし、日本人にない積極性もあります。
一緒にグループワークやプロジェクト活動をやることで、留学生からまた刺激を受けて、日本人学生の積極性を伸ばすというところも凄くあるのではと思います。
スポーツを通じての人格教育
─ いまの現役学生で、スポーツの名選手がたくさんいますね。
岡戸 3年生のDF関根大輝さんがJ1リーグの柏レイソル、MF日野翔太さんがサガン鳥栖に2025シーズンから加入することになりました。二人は大学の学業と両立して1年前倒し、今シーズンからプロへの道へ進むことになりました。
─ J1に二人も輩出されたんですね。
岡戸 いま、サッカー部の学生は400人以上いて、凄く人気なんですよ。
─ サッカーの強豪高校から集められているんですか。
岡戸 監督の方針もありますが、人間性のところも大事にしています。
他大学の強いところだと、体育推薦でだいたいセレクションをして入って来るのですが、うちは一般学生からでも受け付けている点も人気の理由です。
練習は一度に一緒にはできないので、8つぐらいのグループに分けて練習しています。
─ 八王子国際キャンパスには総勢400人が練習できる環境があるわけですね。
岡戸 朝7時ぐらいから時間をずらしてやっています。もちろんそれぞれにコーチがついて指導しています。
─ 陸上の駅伝も注目されていますが、来期は期待できますか。
岡戸 監督、コーチ、指導体制がガラッと変わりましたので期待はしています。去年の箱根駅伝の予選会では16位でしたが、前年度と比べるとスコアも10分ぐらい短くなっています。全部で12人走りましたが、半分以上が自己ベストを出していましたね。
井上浩監督に代わって、言葉での精神的な指導にも力を入れていますから、学生たちもモチベーションを上げて、自ら練習に励むことが増えています。
スポーツ以外でも学生たちの社会貢献意識というものは高まっているのを感じます。
─ 例えばどのような活動がありますか。
岡戸 東日本の復興や今回の能登半島地震でも、学生たちが積極的に募金活動をしています。これからも人のために自ら動くという学生を育てていきたいです。大学での活動を通して利他的な考え方というか。公のためにとか、社会のために尽くしたいという社会貢献意識が少しずつ高まることを期待しています。
─ 就職に向けてのキャリア支援はどうですか。
岡戸 やはり就職に関しては、今後アジアとの関係というのが、日本の産業界にとって凄く重要になってくると思います。そういう意味では、真の国際人を育成して、拓大の伝統のアジアとの関係、あるいは海外との関係が太いという特徴を、就職にもつなげていきたいですね。
─ 海外の情勢がかなり不安定で混乱している中、日本の力でつなぐという役割ができるといいですね。
岡戸 そうなんです。そういうところに貢献できるようなものを持っていると思いますので。
私が好きな言葉で「自己滅却」という言葉があるのですが、自分を主張しすぎないという考え方であり精神であり、自分なりに世のため、人のため、地域のためということを大事にしたいと思っています。
─ 基本的には和ですよね。
岡戸 ええ。共に生きる共通意識を持って、コミュニケーションで相手を理解するという姿勢が大切です。相手をまず理解して、共生するんだという、それが本来のグローバル意識だと思います。