軍事安全保障だけでなく経済安全保障をもっと考えて
─ 日経平均株価が史上最高値をつけ、日銀はマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げることを決めたわけですが、今の日本の現状をどのように受け止めていますか。
【株価はどう動く?】日銀の金融政策変更を睨んで株価は調整、4月から新たな上昇局面か?
柳井 わたしは2012年に『現実を視よ』という本を書きました。今の日本はあの通りか、それ以上に悪くなっています。
完全に中国に追い抜かれ、そのうちインドにも追い抜かれるだろうと。こんなことでいいのでしょうか? 日本は先進国から発展途上国を通り越して、衰退国のようになっていて、欧州の一部の国々のように、「昔の時代は良かった」と懐かしむような状態になっています。
─ 世界の一人当たりGDP(国内総生産)ランキングで、日本は34位まで落ちました。
柳井 最悪ですよ。日本はこの30年成長していないのですから。
そのあたりのことをきちんと理解しなければならないですし、日本は軍事安全保障を考えるのもいいですけど、経済安全保障をもっと考えていかなければならないと思います。
─ もっと日本人一人ひとりの踏ん張りが大事だということですね。
柳井 第2次世界大戦で日本人がどれだけ亡くなったのか考えてください。世界規模で考えたら、何千万人が亡くなったわけです。ウクライナやガザの状況を見ていると、そういうことが今にも起こりそうな状態に陥っています。
国際関係の報道を見ていても、台湾有事だと危機をあおっていますが、誰も戦争に行きたい人などいませんからね。台湾有事と言うのであれば、もっと中国とパイプを持ってきっちりと話をしないとダメだと思いますが、それなのに実際に行こうとする人は少ないですよね。
─ 中国といえば、柳井さんは、スタート当初から中国や華僑との一体感を持ってやってきましたね。
柳井 はい。やはり、これからも中国は発展すると思っていますし、われわれはグレーターチャイナを最重要マーケットの一つと位置づけて事業を行っています。世界の中の中国ととらえて考えることが大切だと思います。
─ これは政治家にも、経済人にも気概がほしいですね。
柳井 そうした気概を持った方々は少ないし、海外に行くのもたいてい集団で行くでしょう。でも、集団で行ってもほとんど何も変わらないと思います。
アメリカの経済人を見てください。ビル・ゲイツ(マイクロソフト共同創業者)やジェフ・ベゾス(アマゾン共同創業者)が寄付を行ったりすれば、自分たちで行って、個人で動いている。しかし、日本はなかなか個人の顔が見えない。そこが一番の問題ですよね。
日本人はもっと学ばないといけない
─ これは人生の生き方とは何か? という根本的な問いかけにつながりますね。
柳井 何かを達成しないと自分が生きた証にならないし、特に大企業に入るような人が将来、上司になる時に今のままでいいのかということですよね。
なぜなら、自分個人だけではほとんど何もできないでしょう。だからこそ、仕事ができるように、成果が出せるように、もっと勉強して実践していかないといけないし、仕事というのは、自ら求めていかないといけない。
でも、実際には求める態度が足りない人が多いと思います。口を開けて待っていても何も始まりませんし、企業経営者の中にもそういう人がいるのが残念です。
典型なのが、アメリカでMBA(経営学修士)を取得してきたという人たちにありがちだと思います。さまざまな知識を知っているだけで、本当にそれらを実践できますか、ということですよ。実際には、実践できないことがほとんどではないでしょうか。
─ 知識の習得だけでなく、実行・実践が大事だと。
柳井 例えば、日本の起業家は上場が目的の人が多いと感じます。上場してお金をつくって、それでおしまいです。でも、お金を手にしただけで、本当に幸福になれるのでしょうか?それだけでは幸福になれないのではないでしょうか。
日本は極東の島国で資源らしい資源はじめ、ほとんど何もない国です。第2次世界大戦や明治維新の時のことを思ったら、そういう何にもないところからつくりあげてきたわけです。そういう危機感は常に持っておかないといけないし、日本で人材がダメになったら、日本は全部ダメになってしまうのではないでしょうか。
わたしはよくゾウの話をするのですが、ゾウの尻尾だけを見ていてはゾウと想像できない。鼻だけを見ても想像できない。全体の姿があって、ゾウというものがあるのです。
それを俯瞰的に、全体観をもって見るのが大事なので、世界とは何か? とか、人間とは何か? 生きるとは何か? 組織とは何か? そういう本質的なことを勉強しない限り、知識だけの単なる専門家にしかならないし、そういう専門家では成果が出ないと思います。
─ 柳井さんが1984年に広島でユニクロ1号店をオープンしてから今年で40年になります。今はどういう思いでいますか。
柳井 そうですね。「生中生無 死中生有(生きようと思って戦えば生きることはできず、死を覚悟して戦えば生きることができる)」という言葉がありますよね。わたしも死に近づいて、そういう気持ちで生きないといけないのではないかと思っています。
それぐらいの緊張感を持って生きているからこそ、生きているんだという気がしていて、これは元気に生きる秘訣の一つなのではないかと思います。
久保利英明の「わたしの一冊」『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』
─ 日経平均株価が史上最高値をつけ、日銀はマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げることを決めたわけですが、今の日本の現状をどのように受け止めていますか。
【株価はどう動く?】日銀の金融政策変更を睨んで株価は調整、4月から新たな上昇局面か?
柳井 わたしは2012年に『現実を視よ』という本を書きました。今の日本はあの通りか、それ以上に悪くなっています。
完全に中国に追い抜かれ、そのうちインドにも追い抜かれるだろうと。こんなことでいいのでしょうか? 日本は先進国から発展途上国を通り越して、衰退国のようになっていて、欧州の一部の国々のように、「昔の時代は良かった」と懐かしむような状態になっています。
─ 世界の一人当たりGDP(国内総生産)ランキングで、日本は34位まで落ちました。
柳井 最悪ですよ。日本はこの30年成長していないのですから。
そのあたりのことをきちんと理解しなければならないですし、日本は軍事安全保障を考えるのもいいですけど、経済安全保障をもっと考えていかなければならないと思います。
─ もっと日本人一人ひとりの踏ん張りが大事だということですね。
柳井 第2次世界大戦で日本人がどれだけ亡くなったのか考えてください。世界規模で考えたら、何千万人が亡くなったわけです。ウクライナやガザの状況を見ていると、そういうことが今にも起こりそうな状態に陥っています。
国際関係の報道を見ていても、台湾有事だと危機をあおっていますが、誰も戦争に行きたい人などいませんからね。台湾有事と言うのであれば、もっと中国とパイプを持ってきっちりと話をしないとダメだと思いますが、それなのに実際に行こうとする人は少ないですよね。
─ 中国といえば、柳井さんは、スタート当初から中国や華僑との一体感を持ってやってきましたね。
柳井 はい。やはり、これからも中国は発展すると思っていますし、われわれはグレーターチャイナを最重要マーケットの一つと位置づけて事業を行っています。世界の中の中国ととらえて考えることが大切だと思います。
─ これは政治家にも、経済人にも気概がほしいですね。
柳井 そうした気概を持った方々は少ないし、海外に行くのもたいてい集団で行くでしょう。でも、集団で行ってもほとんど何も変わらないと思います。
アメリカの経済人を見てください。ビル・ゲイツ(マイクロソフト共同創業者)やジェフ・ベゾス(アマゾン共同創業者)が寄付を行ったりすれば、自分たちで行って、個人で動いている。しかし、日本はなかなか個人の顔が見えない。そこが一番の問題ですよね。
日本人はもっと学ばないといけない
─ これは人生の生き方とは何か? という根本的な問いかけにつながりますね。
柳井 何かを達成しないと自分が生きた証にならないし、特に大企業に入るような人が将来、上司になる時に今のままでいいのかということですよね。
なぜなら、自分個人だけではほとんど何もできないでしょう。だからこそ、仕事ができるように、成果が出せるように、もっと勉強して実践していかないといけないし、仕事というのは、自ら求めていかないといけない。
でも、実際には求める態度が足りない人が多いと思います。口を開けて待っていても何も始まりませんし、企業経営者の中にもそういう人がいるのが残念です。
典型なのが、アメリカでMBA(経営学修士)を取得してきたという人たちにありがちだと思います。さまざまな知識を知っているだけで、本当にそれらを実践できますか、ということですよ。実際には、実践できないことがほとんどではないでしょうか。
─ 知識の習得だけでなく、実行・実践が大事だと。
柳井 例えば、日本の起業家は上場が目的の人が多いと感じます。上場してお金をつくって、それでおしまいです。でも、お金を手にしただけで、本当に幸福になれるのでしょうか?それだけでは幸福になれないのではないでしょうか。
日本は極東の島国で資源らしい資源はじめ、ほとんど何もない国です。第2次世界大戦や明治維新の時のことを思ったら、そういう何にもないところからつくりあげてきたわけです。そういう危機感は常に持っておかないといけないし、日本で人材がダメになったら、日本は全部ダメになってしまうのではないでしょうか。
わたしはよくゾウの話をするのですが、ゾウの尻尾だけを見ていてはゾウと想像できない。鼻だけを見ても想像できない。全体の姿があって、ゾウというものがあるのです。
それを俯瞰的に、全体観をもって見るのが大事なので、世界とは何か? とか、人間とは何か? 生きるとは何か? 組織とは何か? そういう本質的なことを勉強しない限り、知識だけの単なる専門家にしかならないし、そういう専門家では成果が出ないと思います。
─ 柳井さんが1984年に広島でユニクロ1号店をオープンしてから今年で40年になります。今はどういう思いでいますか。
柳井 そうですね。「生中生無 死中生有(生きようと思って戦えば生きることはできず、死を覚悟して戦えば生きることができる)」という言葉がありますよね。わたしも死に近づいて、そういう気持ちで生きないといけないのではないかと思っています。
それぐらいの緊張感を持って生きているからこそ、生きているんだという気がしていて、これは元気に生きる秘訣の一つなのではないかと思います。
久保利英明の「わたしの一冊」『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』