「世界初であろう腸内細菌キャラクターブランドで『可愛い』『美味しそう』『体に良さそう』という食品を広め、日本人の社会課題解決に貢献したい」こう話すのはミツカン専務の石垣浩司氏。独身世帯の増加、女性の社会進出による共働き、晩婚化など、様々な外部環境の変化によって家庭での料理の担い手が減少。各世帯での料理は簡便化している中、調味料離れは今後も進むとみられる。そんな状況下、220年続く調味料メーカーが更なる成長を睨み発酵性食物繊維を軸とした〝即食〟ブランドを立ち上げる。
食事にもタイパ、コスパが重視される中で
1804年(文化元年)から220年続く調味料メーカーのミツカンが、新たな食品ブランドを立ち上げた。その名は〝Fibee〟(ファイビー)。発酵性食物繊維を軸としたブランドで、商品の種類はワッフル、グラノーラ、カレー、玄米ごはんなど様々なジャンルで今後も幅広い横展開を見据えている。調味料メーカー・ミツカン発ブランドで即食食品を出すことは、同社の長い歴史の中では今回初の試み。
現在同社の売上高は2700億円(2022年度)、うち国内とアジア事業売上高が1125億円、欧州事業売上高が175億円、北米事業が残り約半分を占める。国内家庭用の売上セグメント別に見ると、食酢・ポン酢が42%、納豆が28%、つゆ鍋つゆ20%となり、調味料以外での主力食品は納豆のみ。
今回の横展開を前提とした大きな枠組みとしてのブランド立ち上げについて、ミツカン専務の石垣浩司氏は「中期計画で次の成長戦略の柱。将来的には売上高100億円以上のブランドを目指していきたい」と語る。
現在食品業界全体では、女性の社会進出により家庭での調理時間が減っているという流れを受け、「簡単」「時短」「美味しい」の3拍子が揃う商品開発が主流だ。
2022年には全5500世帯のうち専業主婦世帯は539万世帯で10世帯に1世帯の割合しかおらず、かつて各家庭で調理の担い手であった専業主婦が減少。近年の物価高で家計を支えるため、40〜50代の専業主婦層が労働市場に進出、若い世代は独身が増え晩婚化、あるいは結婚しても共働きの世帯が当たり前になってきているため、それに連動して家庭で調理をするという機会は今後もますます減少傾向が進むという未来が予測されている。調味料メーカーにとっては各世帯の〝調味料離れ〟にどう対応していくかが死活問題である。
さらに日本の人口ピラミッドではボリュームゾーンである40歳以上の団塊ジュニア世代の抱える課題を見ると、体のどこかしらに不調が出てくる年代でもある。2023年度の国の一般会計予算では医療費は41.6兆円。高齢化が進めばこれが増えることは明白だとすると、病気になったら病院に行けばいいという考えでは、国の医療制度も社会保障も破綻してしまう。一人一人の健康に対する意識と行動を変えていかなければ、最終的に税負担の増加で苦しむのは国民である。
しかしながら、日本の平均所得は中央値世帯収入423万円(2022年)で、食事で健康にお金をかけることもなかなか難しい現実もある。人の体づくりや健康に携わる食品メーカーミツカンにとって、この大きな社会課題に対する提案として出したのが今回のブランド立ち上げということである。
機能性価値よりも情緒的価値を重視
ブランドの軸となる発酵性食物繊維は腸内環境を整える善玉菌の餌となり、善玉菌を増やすサポートをする働きがある。食物繊維摂取量が多いほど、糖尿病や直腸がんの発生率を抑制したり、要介護認知症発生リスクを低下させる。
また、腸を整えれば脳も整うという「腸脳相関」の研究が全世界で盛んに行われている。最初の細胞分裂の際に腸と脳の臓器が同じ場所からできていることや、腸は単なる便を固めて排出する臓器ではないという見方が通説になっている。さらにいえば、腸内細菌を調べればその人の寿命がわかると言われるほど、腸の状態が人の状態に大きく影響することも研究でわかってきている。
ファイビーはその腸内細菌に注目したブランドだが、ユニークなのは、そういった健康機能を全面的に打ち出すのではなく、「可愛い」「美味しそう」「体に良さそう」の順番で消費者にアプローチする戦略だ。これは今までのミツカンが健康への機能性を前面に出した酢や納豆とは、真逆の方向性のアプローチである。
というのも、現在健康食品は巷に溢れているが、味の面で美味しくないという理由で続かない人が4割。つまりアクションを取ろうとしている人はいるが、なかなか続かないのが健康食品全般の課題。そこでミツカンは習慣化を最優先し、あえて前述の「可愛い、美味しい」といった情緒的価値を全面に打ち出す。「商品を見て可愛くて楽しいなと買いたくなることが大事。継続することで結果的に健康になることが理想」と石垣氏。
腸内細菌をモチーフとしたカラフルな複数のブランドキャラクターはそれぞれ名前があり、人が良いものを食べるとファイビーたちが喜ぶという世界をポップなデザインで可視化。消費者の間で楽しみながら健康な食運動を広めたいとする狙い。キャラクターのぬいぐるみや書籍、お弁当箱などのグッズ化も視野に入れている。
今回のプロジェクトは石垣氏をトップとしたイノベーション開発部の20代半ばから〜30代前半の女性社員たちが中心となって考案された。
手頃感も重視し、価格帯は一つ100円台からマネジメントできるよう設定。「国民全体で楽しく美味しく食べて健康になるという運動を広く普及させていきたいので、かなり頑張った価格設定です」と石垣氏。
これまでとは全く違う世界観を体現し、パッケージだけ見るとミツカンだとはわからないブランド戦略。生き方働き方に合わせた調味料の老舗メーカーの挑戦である。
食事にもタイパ、コスパが重視される中で
1804年(文化元年)から220年続く調味料メーカーのミツカンが、新たな食品ブランドを立ち上げた。その名は〝Fibee〟(ファイビー)。発酵性食物繊維を軸としたブランドで、商品の種類はワッフル、グラノーラ、カレー、玄米ごはんなど様々なジャンルで今後も幅広い横展開を見据えている。調味料メーカー・ミツカン発ブランドで即食食品を出すことは、同社の長い歴史の中では今回初の試み。
現在同社の売上高は2700億円(2022年度)、うち国内とアジア事業売上高が1125億円、欧州事業売上高が175億円、北米事業が残り約半分を占める。国内家庭用の売上セグメント別に見ると、食酢・ポン酢が42%、納豆が28%、つゆ鍋つゆ20%となり、調味料以外での主力食品は納豆のみ。
今回の横展開を前提とした大きな枠組みとしてのブランド立ち上げについて、ミツカン専務の石垣浩司氏は「中期計画で次の成長戦略の柱。将来的には売上高100億円以上のブランドを目指していきたい」と語る。
現在食品業界全体では、女性の社会進出により家庭での調理時間が減っているという流れを受け、「簡単」「時短」「美味しい」の3拍子が揃う商品開発が主流だ。
2022年には全5500世帯のうち専業主婦世帯は539万世帯で10世帯に1世帯の割合しかおらず、かつて各家庭で調理の担い手であった専業主婦が減少。近年の物価高で家計を支えるため、40〜50代の専業主婦層が労働市場に進出、若い世代は独身が増え晩婚化、あるいは結婚しても共働きの世帯が当たり前になってきているため、それに連動して家庭で調理をするという機会は今後もますます減少傾向が進むという未来が予測されている。調味料メーカーにとっては各世帯の〝調味料離れ〟にどう対応していくかが死活問題である。
さらに日本の人口ピラミッドではボリュームゾーンである40歳以上の団塊ジュニア世代の抱える課題を見ると、体のどこかしらに不調が出てくる年代でもある。2023年度の国の一般会計予算では医療費は41.6兆円。高齢化が進めばこれが増えることは明白だとすると、病気になったら病院に行けばいいという考えでは、国の医療制度も社会保障も破綻してしまう。一人一人の健康に対する意識と行動を変えていかなければ、最終的に税負担の増加で苦しむのは国民である。
しかしながら、日本の平均所得は中央値世帯収入423万円(2022年)で、食事で健康にお金をかけることもなかなか難しい現実もある。人の体づくりや健康に携わる食品メーカーミツカンにとって、この大きな社会課題に対する提案として出したのが今回のブランド立ち上げということである。
機能性価値よりも情緒的価値を重視
ブランドの軸となる発酵性食物繊維は腸内環境を整える善玉菌の餌となり、善玉菌を増やすサポートをする働きがある。食物繊維摂取量が多いほど、糖尿病や直腸がんの発生率を抑制したり、要介護認知症発生リスクを低下させる。
また、腸を整えれば脳も整うという「腸脳相関」の研究が全世界で盛んに行われている。最初の細胞分裂の際に腸と脳の臓器が同じ場所からできていることや、腸は単なる便を固めて排出する臓器ではないという見方が通説になっている。さらにいえば、腸内細菌を調べればその人の寿命がわかると言われるほど、腸の状態が人の状態に大きく影響することも研究でわかってきている。
ファイビーはその腸内細菌に注目したブランドだが、ユニークなのは、そういった健康機能を全面的に打ち出すのではなく、「可愛い」「美味しそう」「体に良さそう」の順番で消費者にアプローチする戦略だ。これは今までのミツカンが健康への機能性を前面に出した酢や納豆とは、真逆の方向性のアプローチである。
というのも、現在健康食品は巷に溢れているが、味の面で美味しくないという理由で続かない人が4割。つまりアクションを取ろうとしている人はいるが、なかなか続かないのが健康食品全般の課題。そこでミツカンは習慣化を最優先し、あえて前述の「可愛い、美味しい」といった情緒的価値を全面に打ち出す。「商品を見て可愛くて楽しいなと買いたくなることが大事。継続することで結果的に健康になることが理想」と石垣氏。
腸内細菌をモチーフとしたカラフルな複数のブランドキャラクターはそれぞれ名前があり、人が良いものを食べるとファイビーたちが喜ぶという世界をポップなデザインで可視化。消費者の間で楽しみながら健康な食運動を広めたいとする狙い。キャラクターのぬいぐるみや書籍、お弁当箱などのグッズ化も視野に入れている。
今回のプロジェクトは石垣氏をトップとしたイノベーション開発部の20代半ばから〜30代前半の女性社員たちが中心となって考案された。
手頃感も重視し、価格帯は一つ100円台からマネジメントできるよう設定。「国民全体で楽しく美味しく食べて健康になるという運動を広く普及させていきたいので、かなり頑張った価格設定です」と石垣氏。
これまでとは全く違う世界観を体現し、パッケージだけ見るとミツカンだとはわからないブランド戦略。生き方働き方に合わせた調味料の老舗メーカーの挑戦である。