世界で分断・分裂が進む中、「つなぐ」をキーワードにソリューションを求める動きが始まっている。社会課題をいかに解決するかという命題に向けて取り組む、三菱UFJフィナンシャル・グループ、明治安田生命保険。そして2社をサポートしているのが、SDGs、ESGの専門家が集った金融ベンチャー・SDGインパクトジャパン。決して解決が容易ではない課題だが、今具体的に何に取り組んでいるのか、3社が語り合った。
【あわせて読みたい】三菱UFJフィナンシャル・グループ社長・亀澤宏規「金融とデジタルの力で、分断の時代に『つなぐ』存在になっていく!」
なぜ今、「パーパス経営」なのか
─ 世界的にサステナビリティ、ESG(環境・社会・ガバナンス)は重要なテーマです。金融業界に属する皆さんに、サステナビリティをどう考えるか、なぜ今「パーパス」(存在意義)が問われているのか、具体的な取り組みをお聞きします。
まず、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の亀澤宏規さんは2021年4月に「世界が進むチカラになる。」というパーパスを制定しましたね。この背景から聞かせて下さい。
亀澤 コロナ禍で様々なことを考えさせられる時間がありました。その中で、世の中が分散、多様化の時代になる中、社内で様々な意見を出し合えるようにならなければ生き残れないと考えました。そのための雰囲気づくりをしたいと考えたのです。
その時にパーパス、拠り所がないと議論が分散し続けてしまいますから、戻る場所をつくりたいと。そして我々は何者なのか、存在意義は何なのかを考える中で「世界が進むチカラになる。」が出てきました。
この「世界」にはお客様、地域・社会、未来世代、株主等が入っていますが、多くの人が進むチカラになるのが我々の存在意義だと定義しました。これをベースに社内で様々な議論をしています。
その後、21年5月に邦銀で初めて「カーボンニュートラル宣言」を行いました。当時は「早すぎるのではないか」という議論もありましたが、我々のパーパスからすると宣言しないわけにはいかない、必要だという雰囲気に自然となっていきました。
─ 明治安田生命保険社長の永島英器さん、17年に新たな企業理念「明治安田フィロソフィー」を定めていますが、今の時代のパーパスの必要性は?
永島 パーパス経営が注目されるのは世界的に格差の拡大、分断が進み、地球も人類も持続的ではなくなるのではないかという危機感の中、株主資本主義から、ステークホルダー資本主義へと転換しつつあることが背景にあるのだと思います。
昔の経営者は「How」、つまりどう利益を上げるかを問われても「Who」、つまり「あなたは何者なのか?」という問いは突きつけられていなかったと思いますが、今は企業の存在意義であるパーパスが問われる時代になりました。
生命保険は偶発性や不条理に満ちた人生の中で、ささやかだけどもかけがえのない幸せを持続可能たらしめようとする相互扶助の人間らしい営みで、まさにサステナビリティそのものだと考えています。
当社は「確かな安心を、いつまでも」を経営理念として掲げ、お客様、地域社会、未来世代、働く仲間を大事にすると宣言しています。「相互会社」として、ステークホルダーと長期的に関係を築いていけるというありがたみを感じると同時に、社会課題の解決に全力で取り組んでいく責任があると考えています。
─ SDGインパクトジャパン(SIJ)会長の谷家衛さん、会社設立は21年で、金融の力で気候変動など社会課題解決を目指していますね。今の状況下で会社を立ち上げた背景について聞かせて下さい。
谷家 私は元々、外資系証券会社で働き、投資責任者を務めた他、自分でヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドを運営するなど、どちらかと言えば「お金儲けの権化」の側にいたのかもしれません。
若い頃は資本の適正配分を通じて、社会を進展させるのに貢献していると信じて仕事してきました。しかし15年ほど前から、投資を目的とするお金の量が増え過ぎ、動くスピードが速くなり過ぎて、社会を進展させるどころか、市場を不安定化させる原因になっていると強く感じるようになりました。
それ以降、学校を設立したり、NPO・NGOを支援する仕事をしてきたのですが、そんな時にSIJ共同創業者の小木曽麻里から「SDGsが世界中から注目される中、金融が大きな役割を果たせるかもしれない。一緒に会社を設立しましょう」と誘ってもらったのです。
気候変動、分断など社会課題を解決する方向にお金を回すことができれば、改めて適正な資金配分で社会をよくすることに貢献できるのではないかと考えて会社を始めました。
なぜ、連携して取り組みを進めているのか?
─ 明治安田生命、MUFGは、それぞれSIJと提携していますね。まず永島さん、提携の理由は?
永島 谷家さんの持続可能な未来社会を実現していきたいという志の高さや、温かい目線に非常に共感をしています。グローバルなネットワークを活かし、世界最先端の人材を引き付けておられます。
先ほどお話したように生命保険自体がサステナビリティそのものだと考えていますが、同時に我々には時代の潮流を捉えた幅広い視点での知見が不足していると感じていました。その点において、SIJさんから得られる情報はありがたく、様々なアドバイスをいただいてきた結果、例えば23年には国際的な非営利団体CDPにより、気候変動分野における取組みと情報開示が評価され、最高評価となる「Aリスト」企業に選定されました。
─ 亀澤さん、MUFGがSIJと提携した理由は?
亀澤 前中期経営計画の大きなテーマの1つに「環境・社会課題への貢献」がありました。その時に社内に言っていたのは「順番を逆にしよう」ということです。我々の事業が社会課題に影響を与えているのではなく、社会課題が先にあり、解決のために我々が事業をやっていくという順番でなければいけないと。社会課題解決と我々の戦略の一体化を進めてきたのです。
SDGsやESGがキーワードになり、何かできることがないかを探す中で、カーボンクレジットの活用に着目しました。
日本の技術で途上国の環境対策を行い、成果を途上国と日本で分け合う「二国間クレジット制度」(JCM)の発展に貢献したいと考えていたところ、環境省のJCM資金支援事業に採択されるなど、具体的な案件を持つSIJさんをご紹介いただきました。
谷家さんはスタートアップとのネットワークが広いですから、SDGs周りのエコシステムと、我々の既存のお客様のネットワークをつなげることで化学反応が起きることも期待しています。
さらに、こうした新たな取り組みではルールづくりが非常に重要ですから、政府にも提言し、議論していくこともできるのではないかと考えています。
─ 逆に谷家さんはなぜ、MUFG、明治安田生命と取り組もうと考えましたか。
谷家 個人的なことで言えば、大学卒業時に三菱銀行に内定をいただいていたのですが留年し(笑)、翌年には外資系証券会社に行くか、明治生命に行くかで悩んだ結果、外資系に行ったという経緯があります。その意味で昔から、両社の文化、社風が好きだったんです。
今の言葉で言えば、まさにサステナビリティに合致する2社だと思っています。企業として収益を上げることはもちろん、社会貢献にも取り組んでおられ、組めるのならば、この2社と組みたいと思っていました。
我々はスタートアップで、自分達だけでできることは限られますが、サステナビリティに資金を回す取り組みをしたいという優秀な人達が世界から集まってきてくれています。2社には我々を「出島」のように使っていただき、一緒に新しい分野をつくっていければと思います。(続く)
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なぜ今、「パーパス経営」なのか
─ 世界的にサステナビリティ、ESG(環境・社会・ガバナンス)は重要なテーマです。金融業界に属する皆さんに、サステナビリティをどう考えるか、なぜ今「パーパス」(存在意義)が問われているのか、具体的な取り組みをお聞きします。
まず、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)社長の亀澤宏規さんは2021年4月に「世界が進むチカラになる。」というパーパスを制定しましたね。この背景から聞かせて下さい。
亀澤 コロナ禍で様々なことを考えさせられる時間がありました。その中で、世の中が分散、多様化の時代になる中、社内で様々な意見を出し合えるようにならなければ生き残れないと考えました。そのための雰囲気づくりをしたいと考えたのです。
その時にパーパス、拠り所がないと議論が分散し続けてしまいますから、戻る場所をつくりたいと。そして我々は何者なのか、存在意義は何なのかを考える中で「世界が進むチカラになる。」が出てきました。
この「世界」にはお客様、地域・社会、未来世代、株主等が入っていますが、多くの人が進むチカラになるのが我々の存在意義だと定義しました。これをベースに社内で様々な議論をしています。
その後、21年5月に邦銀で初めて「カーボンニュートラル宣言」を行いました。当時は「早すぎるのではないか」という議論もありましたが、我々のパーパスからすると宣言しないわけにはいかない、必要だという雰囲気に自然となっていきました。
─ 明治安田生命保険社長の永島英器さん、17年に新たな企業理念「明治安田フィロソフィー」を定めていますが、今の時代のパーパスの必要性は?
永島 パーパス経営が注目されるのは世界的に格差の拡大、分断が進み、地球も人類も持続的ではなくなるのではないかという危機感の中、株主資本主義から、ステークホルダー資本主義へと転換しつつあることが背景にあるのだと思います。
昔の経営者は「How」、つまりどう利益を上げるかを問われても「Who」、つまり「あなたは何者なのか?」という問いは突きつけられていなかったと思いますが、今は企業の存在意義であるパーパスが問われる時代になりました。
生命保険は偶発性や不条理に満ちた人生の中で、ささやかだけどもかけがえのない幸せを持続可能たらしめようとする相互扶助の人間らしい営みで、まさにサステナビリティそのものだと考えています。
当社は「確かな安心を、いつまでも」を経営理念として掲げ、お客様、地域社会、未来世代、働く仲間を大事にすると宣言しています。「相互会社」として、ステークホルダーと長期的に関係を築いていけるというありがたみを感じると同時に、社会課題の解決に全力で取り組んでいく責任があると考えています。
─ SDGインパクトジャパン(SIJ)会長の谷家衛さん、会社設立は21年で、金融の力で気候変動など社会課題解決を目指していますね。今の状況下で会社を立ち上げた背景について聞かせて下さい。
谷家 私は元々、外資系証券会社で働き、投資責任者を務めた他、自分でヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドを運営するなど、どちらかと言えば「お金儲けの権化」の側にいたのかもしれません。
若い頃は資本の適正配分を通じて、社会を進展させるのに貢献していると信じて仕事してきました。しかし15年ほど前から、投資を目的とするお金の量が増え過ぎ、動くスピードが速くなり過ぎて、社会を進展させるどころか、市場を不安定化させる原因になっていると強く感じるようになりました。
それ以降、学校を設立したり、NPO・NGOを支援する仕事をしてきたのですが、そんな時にSIJ共同創業者の小木曽麻里から「SDGsが世界中から注目される中、金融が大きな役割を果たせるかもしれない。一緒に会社を設立しましょう」と誘ってもらったのです。
気候変動、分断など社会課題を解決する方向にお金を回すことができれば、改めて適正な資金配分で社会をよくすることに貢献できるのではないかと考えて会社を始めました。
なぜ、連携して取り組みを進めているのか?
─ 明治安田生命、MUFGは、それぞれSIJと提携していますね。まず永島さん、提携の理由は?
永島 谷家さんの持続可能な未来社会を実現していきたいという志の高さや、温かい目線に非常に共感をしています。グローバルなネットワークを活かし、世界最先端の人材を引き付けておられます。
先ほどお話したように生命保険自体がサステナビリティそのものだと考えていますが、同時に我々には時代の潮流を捉えた幅広い視点での知見が不足していると感じていました。その点において、SIJさんから得られる情報はありがたく、様々なアドバイスをいただいてきた結果、例えば23年には国際的な非営利団体CDPにより、気候変動分野における取組みと情報開示が評価され、最高評価となる「Aリスト」企業に選定されました。
─ 亀澤さん、MUFGがSIJと提携した理由は?
亀澤 前中期経営計画の大きなテーマの1つに「環境・社会課題への貢献」がありました。その時に社内に言っていたのは「順番を逆にしよう」ということです。我々の事業が社会課題に影響を与えているのではなく、社会課題が先にあり、解決のために我々が事業をやっていくという順番でなければいけないと。社会課題解決と我々の戦略の一体化を進めてきたのです。
SDGsやESGがキーワードになり、何かできることがないかを探す中で、カーボンクレジットの活用に着目しました。
日本の技術で途上国の環境対策を行い、成果を途上国と日本で分け合う「二国間クレジット制度」(JCM)の発展に貢献したいと考えていたところ、環境省のJCM資金支援事業に採択されるなど、具体的な案件を持つSIJさんをご紹介いただきました。
谷家さんはスタートアップとのネットワークが広いですから、SDGs周りのエコシステムと、我々の既存のお客様のネットワークをつなげることで化学反応が起きることも期待しています。
さらに、こうした新たな取り組みではルールづくりが非常に重要ですから、政府にも提言し、議論していくこともできるのではないかと考えています。
─ 逆に谷家さんはなぜ、MUFG、明治安田生命と取り組もうと考えましたか。
谷家 個人的なことで言えば、大学卒業時に三菱銀行に内定をいただいていたのですが留年し(笑)、翌年には外資系証券会社に行くか、明治生命に行くかで悩んだ結果、外資系に行ったという経緯があります。その意味で昔から、両社の文化、社風が好きだったんです。
今の言葉で言えば、まさにサステナビリティに合致する2社だと思っています。企業として収益を上げることはもちろん、社会貢献にも取り組んでおられ、組めるのならば、この2社と組みたいと思っていました。
我々はスタートアップで、自分達だけでできることは限られますが、サステナビリティに資金を回す取り組みをしたいという優秀な人達が世界から集まってきてくれています。2社には我々を「出島」のように使っていただき、一緒に新しい分野をつくっていければと思います。(続く)