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山本考伸・Cocolive社長「デジタル技術を使って、住宅・不動産会社に対し『日本一お節介なサポート』を提供する」

財界オンライン 2024年7月8日 19時0分

「住宅購入はやはり最後は「人」。しかし、最初から最後まで人が担うのは非効率」と話すのはCocolive社長の山本氏。同社は住宅、不動産企業向けに、営業支援ツール『KASIKA』を提供し、営業の効率化、省力化を進めている。「皆さんは自社の強みをわかっておられる。しかし、それが顧客に届いていないことがある」として、デジタル技術を活用してサポート。山本氏は楽天トラベル社長などを経て起業。その根底には何があったのか。


顧客に伴走して運用を支援する

 ─ Cocoliveは2017年の創業で、24年に東証グロース市場に上場しましたね。上場後の手応えは?

 山本 弊社は住宅施工会社や不動産売買の仲介会社、新築マンションデベロッパー向けの営業支援ツール『KASIKA』を提供していますが、お客様の事業が我々のツールを使うことで伸び、営業の効率化につながっているという手応えを感じて上場申請をし、上場をすることができました。

 審査の過程で、事業の説明をさせていただく中でも「それは面白い事業だね」と思っていただくことができた。これは我々が手応えを感じているだけでなく第三者視点でご評価いただけたというのは、私達経営陣にとって以上に、社員にとっても自信になったと思います。

 ─ 住宅、不動産会社向けの営業支援ツールということで、同業はいるんですか。

 山本 我々のビジネスモデルは、広い意味で言えばセールスフォース・ドットコムさんに代表されるような顧客管理は元からあった世界です。

 ただし、住宅・不動産に特化した顧客管理システムという意味では、私達が事業を始めた時には競合と認識している企業はなく、その後、何社かが出てきているというところです。

 当社の特徴は運用の部分です。「カスタマーサクセス」と呼んでいるお客様の運用をサポートする部隊には全社員の70%以上が所属していますが、泥臭く、お客様に伴走して運用を支援していくモデルは少ないのではないかと思います。

 ─ それ以外に、Cocoliveの他社にはない強み、得意技をどう認識していますか。

 山本 他社との差別化ポイントは、ツールの機能面では様々あると思っています。ただ、お客様から見ると、「顧客管理システムなら他にもあるよね」という風に見えがちだと思うんです。

 ソフトウェアの機能差分は、我々もつくろうとしていますが、それだけではなく、ご利用料金の中で、無償でサポートの人材が付き、問い合わせをしなくても月1回の定例ミーティングをまず行い、その中でお互いに宿題をつくって……というところから関係を始めています。

 我々は「日本一お節介なサポートを目指そう」と言っています。「もっと成果が出せるはずなので、こういう取り組みをしましょう」、「当社のツールの、この機能は、御社にとってこんな使い方ができますよ」といったお声がけをする仕組みができています。お客様から聞かれてから動くのではなく、我々から提案するようにしているんです。


顧客が商談の場につく回数を増やす

 ─ 提案型のソリューション営業をしていると。

 山本 そうです。当社の「KASIKA」の活用法に関しての提案を同時に行っています。

 一方で、お客様のご担当者の中にすでに課題解決の方法がありながら、実行できていないケースがあります。我々は、お客様が持つ「解」を聞き出し、整理して、行動するきっかけもつくっているんです。

 ─ 顧客は住宅、不動産の専門家として解決能力を持っていると。その実行の背中を押してあげるということですね。

 山本 ええ。長年にわたって住宅、不動産のお仕事をされているわけですから、自社の強みはわかっておられます。しかし、それがきちんと顧客に伝わっていないことがある。それを伝えるためのお手伝いをする。我々は家の建て方を教えられるわけではありません。あくまでも一緒に伴走してサポートする。

 例えば、お客様の最終的な商談の場があります。それに対して我々は、その「場」をセットアップするんです。優秀な営業担当であればあるほど、見込み顧客を追いかけられていないケースがあります。

 それに対して、事前に来場の促進をしておけば、しっかりと「場」が設定でき、席についていただけます。我々の仕事は、その商談の席につく回数を増やすことに貢献することです。

 我々のお客様方は20年、30年の暮らしを形成する、一生ものの住まいを提供することに、誇りを持って取り組まれています。それをサポートするということで、我々の仕事も大事なものだと考えています。我々のお客様の数は1000社を超えたところですが、多数は地域密着の中小規模の企業様です。


人手不足の中、「人」の役割を見直す

 ─ 日本の産業界全体に人手不足の問題があります。住宅、不動産も例外ではないと思いますが、このことはCocoliveのソリューションを導入するきっかけになっていますか。

 山本 おっしゃる通りで、人手不足と残業時間の適正化は導入のきっかけとなる部分です。かつては、新しい物件が出たら、その情報を見込み客全員に送って、その後電話のフォローをしてということができていましたが、今は難しい面があります。

「人」の価値は商談で発揮されます。また、実際に家の設計や場所選びをどうするかということは「人」がやらなければならない重要な部分です。

 我々は、その前段階で住宅会社さんが持たれている施工事例、デザインへの思いといった情報を自動で配信する機能を担っています。こうした自動的なコミュニケーションの部分を我々にお任せいただく。

 その過程でメールを読み、ホームページを見ているなど見込み度が高いお客様が絞り込まれます。それによって面談の機会を増やすことができますから、営業の方々は、その面談に集中していただく。

 見込み顧客を分析し、増やしていく部分と、省力化という2つの観点で、我々にご期待いただいていることを実感します。

 ─ その意味でCocoliveにとってデジタル技術の強化は重要ですね。

 山本 そうですね。我々が創業した時は、まだDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がなかったくらいだと思います。その後、RPA(Robotic Process Automation=ロボットによる業務自動化)などが出てきました。我々は人間の仕事を補うDXが仕事になります。

 ただ、日常の買い物などはデジタルに置き換わるものだと思いますが、住宅購入はやはり最後は「人」だと思っています。最初から最後まで人が担うのは非効率ですから、分析や情報提供をデジタルに置き換えてサポートするのが我々の役目です。


社会的意義を感じて2017年に起業

 ─ ところで、山本さんは京都大学大学院を卒業後、NTTドコモに入社しますね。どんな仕事をしていましたか。

 山本 サービス開発、技術開発の両面に携わっていました。今でこそ、シムチップのようなものが様々な機器に入ってコントロールするのが当たり前の時代になっていますが、その走りのようなサービスの開発が最初の仕事でした。

 ─ その後、1社を経て07年にオンライン旅行会社のエクスペディアに転じましたね。

 山本 06年にオーバーチュア(現LINEヤフー)という検索連動型広告の会社を経て、エクスペディアに入社し、日本語サービスの立ち上げ、プロダクトの責任者を務めました。

 08年に当時はエクスペディアのグループだったトリップアドバイザーの日本サービス立ち上げに携わった後、楽天(現楽天グループ)に入社し、楽天トラベルの社長に就きました。

 ─ 楽天トラベルでのご自身の経営者としての仕事として印象に残るものは?

 山本 自分の中ではトライできたこと、できなかったことも含めて、本当に勉強になりました。トリップアドバイザーの時は、技術的に優れたサービスをつくるという要素が大きかったですが、楽天トラベルは組織としてはより大きい会社でしたから、組織としてどう戦うか、チームの力をどう生かすかを常に考えていました。

 楽天トラベルは、順調に業績が伸びていましたから、そのうまくいっている会社を、さらによくしていくために採用いただいた形でした。

 楽天には三木谷浩史さんだけでなく、それぞれのビジネスの規模が大きく、各社にユニークで優秀な経営者がいました。そうした方々から、チームマネジメントの考え方、消費者に届くメッセージの伝え方などを学ばせていただきました。本当にいい経験ができましたね。

 ─ 17年にCocoliveを創業したわけですが、この動機は何でしたか。

 山本 事業の社会的インパクトが大きいのではないかと感じたのが一番の動機です。その時に感じた内容はほぼ「KASIKA」の中に盛り込んでいます。

 これは楽天トラベルでの経験が大きく影響しています。楽天トラベルはホテルを予約するサービスですが、三木谷さんから影響を受けていたのは予約できることはコモディティだということです。単に予約ができるだけでなく、お客様が出会ったことがないホテルや旅館に出会う、マッチングの要素が重要だということでした。

 利用者の口コミや行動データなど履歴を分析し、リコメンデーションやパーソナライズをすることで、楽天トラベルで選ぶと単に安いだけでなく、いいホテル、旅館に泊まれるという体験を提供できる。

 ─ 出会いや発見を提供することが大事だと。

 山本 ええ。また当時、民泊サービスのAirbnb(エアービーアンドビー)がアメリカで流行していました。居住用につくった住宅を、宿泊用に使うというサービスで利益を出していたのです。

 部屋は長い期間住めば賃貸や購入、短い期間であれば旅行と言われる。いずれにせよ、部屋を探しているという点では同じです。住宅探しもホテルの部屋探しも本質的なものは変わらないのではないかと思ったのです。

 例えば私が住宅を買った際の経験なども、私用に提案を受けていたかというとそうではありません。とにかく、今ある物件全てから探す中で、私が探しているポイントが絞られているのにもかかわらず、必ず最初の検索条件が提案されているような状態でした。

 その時に、住宅、不動産業界はまだ、1人ひとりの顧客に合わせるという形では、テクロノジーを使いこなせていないのではないかと感じました。営業担当者の力が強いがゆえに、彼らに全て背負わせてしまっている面があるのではないかと。

 ─ まだまだニーズを掘り起こせる余地があると考えたわけですね。

 山本 そうです。そして、自分が考えていることがビジネスになった時に、社会的インパクトがあるのではないかと考えました。私自身、旅行が好きで、新たな旅を発見するのが好きでした。それを住宅で実現したいと考えたのです。

 旅行は1週間楽しく過ごせば幸せになりますが住宅、不動産の賃貸、購入が成功すれば数年から数十年の幸せが得られる。この家を買ってよかった、建ててよかったと思えるものの出会いをお手伝いできれば、社会にインパクトを与えられると考えました。

 ─ 事業を通じて社会に貢献できるということですね。

 山本 起業当初は、そこまで大きく考えていたというよりは、パブリックの一部、人の住まい探しに少しでも貢献できればという思いでした。

 実際には、最後は「人」が出ていくサービスですから、その「人」が一番いい提案をできるための情報提供と分析のツールを住宅、不動産会社さんに提供することで価値を出せるのではないかと思ったのです。

 住宅、不動産会社さん側に立って、彼らがよりよい提案を出す、ご自身のいい面を提供しやすい、営業の方々が顧客とのコミュニケーションに十分時間を取ってもらうためのサポートを、今後も進めていきます。

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