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逆境をいかに生き抜くか?日本が迎えた正念場【私の雑記帳】

財界オンライン 2024年8月7日 11時30分

逆境を生き抜く覚悟

 逆境を生き抜く─。こう言うと、いかにも高みから見下ろすような感じを与えるかもしれないが、今は世界全体が混沌とする中、こうした気構えが求められるのではないだろうか。

 実際、世界全体に政治も不安定で、ロシアによるウクライナ侵攻は続き、イスラエルとイスラム軍事組織ハマスとの戦闘で、幼い命を含む多くの人々の命が連日失われているという現実。

 世界最大の経済大国・米国も国力低下で、『米国ファースト(第一主義)』を掲げるD・トランプ氏の再選が取り沙汰される。

 トランプ氏は言う。「自分が大統領選に当選したら、ただちにウクライナ支援は止める」と。とても他の国を支援する余裕はないというトランプ氏の考えに同調する保守層は多い。

 米中対立の反動で、中国とロシアが急接近し、そこに北朝鮮が加わり、〝中・ロ・北〟の3カ国の連携も気がかりだ。

 グローバル・サウスといわれるインド、ブラジル、南アフリカなどの新興国群も、それこそしたたかに生き抜こうとしていて、日本のカジ取りは実に難しい。


円安を利用した成長を!

 そうした状況にあっても、企業人は生き抜かなくてはならない。

「円安、円安と言われますが、逆にこれを利用しての成長を考える時だと思いますよ」とは、某経済人の述懐。

 確かに、円安で輸出がしやすくなり、円による手取りが増えるといった一昔前の経済構造ではない。

 企業はこの〝失われた30年〟の間に、需要のある海外市場の開拓に注力。海外に生産拠点や開発拠点を設け、収益を上げ、利益を蓄積する態勢を整えてきた。ドルなり、ユーロなり、現地の通貨で活動し、現地の通貨で決済を済ませるという経営の仕組みを構築。

 個人は、〝VUCAの時代(先行き不安な時代)〟にあって、資産運用を図る動きが強まっている。

 日本の個人金融資産は約2200兆円にのぼる。うち現預金は1100兆円。株式や投資信託での運用も増えてきたが、株式は個人金融資産の約15%、投信は約5%にしか過ぎない。しかし、若い世代は新NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などを利用して、資産運用にも積極的。

 さらに、外国の債券や株式にも関心を持つ若い世代も多く、自らの資産(円預金)を海外での資産運用に振り向ける動きが強まれば、円をドルなどに替えるため、これは円安の要因となる。

 こうした経済構造がこれから定着するとなると、円安はそう容易に解消しそうにない。

 わたしたちは円安という与件の下で、いかに生き抜くか─という命題である。

 結局、日本全体の生産性をいかに高め、内外の投資家からも投資先としていかに日本に魅力を感じて貰えるかが大事になってくる。

 日本は今、国、企業、個人共に正念場を迎えている。


旭化成の積極投資

 日本の経済人も覚悟を持って新しいステージに臨もうとしている。

 人口減、少子化・高齢化という流れの中で国内市場は縮小、いわば逆境の下にあって、どう生き抜くかという命題。経済人の士気はすこぶる高い。

 EV(電気自動車)に必要なリチウムイオン電池で重要な役割を担うセパレーター。そのセパレーター領域に強い旭化成は今回、カナダの生産拠点で、1800億円の投資を決定。車のEV化が進む中で、ポジション強化に乗り出している。

 成長戦略の中で、自分たちの得意分野をどう生かしてくか─。

「旭化成グループとして、自分たちの技術を生かして、ニッチな事業領域の中で収益性を高めていくのは、旭化成のDNA(遺伝子)に近いと思っています」

 同社社長の工藤幸四郎さんは、DNAという言葉を使いながら、「われわれは電池とセパレーターについて非常に先駆的でもあるし、ファーストランナーでやって来ました。車載向けで爆発的な需要増になってきているし、勝負していきたい」と非常に前向きだ。


日本の存在感発揮を!

 日本の企業は、個々に優れた技術を持っているのに、なぜグローバル市場で存在感を高められなかったのか?

「日本の製造メーカーによくあることなんですが、逐次増設でやってきたんです。半導体なんかもそういう所がありますが、すなわち需要が伸びるだろうということが分かっていて、一気に投資をして待ち伏せして、世界で必ず勝つという戦法を戦略的にやれてこなかった。それは覚悟がなかったとも言えます」(インタビュー欄参照)

 工藤さんが続ける。

「多角化経営ということで、1つのバスケットに全部の球を入れることをしないという形でやっているから、ニッチで育っている時はいいんですけど、勝負を賭けるような投資をしてこなかった」

 日本の製造業は、半導体にしろ、韓国勢、台湾勢、中国勢に抜かれていった。〝失われた30年〟にはそうした苦い経験も味わった。では、これからどうするか?

「過去の反省を生かして、新しい形で旭化成の中で成長させる。あるいはニッチ戦略から卒業させた形のものを創っていきたい」と工藤さんは経営変革を語る。

 新しいステージでの、日本の経済人の存在感発揮を期待したい。


日本のイチゴをNYで栽培

 スタートアップ育成にも尽力する東京大学総長・藤井輝夫さんは、「日本にはすばらしい起業家が育ってきています。そうした人たちが自分の潜在力をもっと発揮できるように東大も応援したいし、提携もしていきたい」と語る。

 実際、取材していると、活力のある起業家ともよく出くわす。

 米ニューヨークで、イチゴの栽培工場経営に乗り出し、注目されているOishii Farms社長の古賀大貴さん(1986年生まれ)もその1人。

 社名のOishiiは、日本語の『おいしい』から来ているのだが、日本のおいしいイチゴを世界の消費者に届ける─という使命を背負っての創業だ。

「いま農業を取り巻く環境は激変。このまま行くと、みんなが思っている以上に早く崩壊して、持続可能じゃなくなる」と古賀さん。

「農業には安定した気候、安い労働力、安い水、安い土地、農薬が使える」の5つの大前提があるが、それが特に米国などの先進国で難しくなっているという。

 そこで、他の人たちがあまり真似できず、技術優位性があり、かつブランド力がある事などを考えてイチゴ栽培に着目。

「日本の技術、日本の品種を使って、世界最大の農業生産者を目指す」─。慶應義塾大学を経て、カリフォルニア大バークレー校でMBA(経営学修士号)を取得した後の古賀さんの起業。その挑戦に注目したい。

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