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【JR九州】空から桜島や阿蘇山を観る! 2026年にも「空飛ぶクルマ」運用へ

財界オンライン 2024年7月30日 18時0分

九州の空が変わるかもしれない。九州旅客鉄道(JR九州)が「空飛ぶクルマ」を開発する新興企業のSkyDrive(スカイドライブ)と連携協定を結んだ。実現すればJR九州の駅や商業施設から観光地などの目的地へと短時間で移動することができるようになる。コロナ禍で厳しい環境下に置かれた同社だったが、経営改革を経て黒字化を達成。そして、次なる成長戦略に向けて2026年にも空飛ぶクルマの実用化を目指す。


ビジネスや観光の移動手段に

「JR九州は鉄道と船を運営しているが、空から見る景色は、これまでとは違う体験が得られる」─。このように語るのはJR九州社長の古宮洋二氏だ。同社はスカイドライブと九州で「空飛ぶクルマ」を実用化するための連携協定を締結した。

 同社が持つ駅や商業施設、ホテルといった鉄道資産やまちづくりのノウハウを生かし、ビジネスや観光での利用のほか、日常生活での移動手段として2026年以降の実用化を目指す。空飛ぶクルマといえば、次世代の乗り物として各国企業が開発競争で鎬を削っている。中でもスカイドライブが開発中の空飛ぶクルマは電動垂直離着陸機(eVTOL)というものだ。

 同社の機体は12基のプロペラを異なる回転数で制御し、垂直に離着陸できるため、滑走路は必要なく、ビルの屋上にある既存のヘリポートも利用可能だ。電動のためCO2は排出せず、静粛性も高い。最高巡航速度は時速100キロ、満充電での航続距離は15〜40キロ。機体は日本や米国での型式証明を申請中で製造は提携するスズキが担う。年産100機を生産する予定だ。

 この空飛ぶクルマに興味を示したのがJR九州。古宮氏は「観光から日常的な利用まで、いろいろな可能性を探りながら挑戦したい」と意気込む。実用化は先になるが、連携協定の中身は「展開地域」「ビジネスモデル」「オペレーションの概要」「ビジネスモデルにおける各事業者の役割」「想定される需要と収益予測」の5点となる。

 運航ルートは様々なケースが想定される。例えば、温泉で有名な鹿児島県の霧島。鹿児島駅からでも電車やバスでの移動時間は1時間を超える。しかし、空飛ぶクルマなら30分を切るという。「鉄道やバスで何時間もかかるところを数十分で移動できるようになる」と古宮氏。

 地理的な条件で直線距離では近くても、駅や空港などから鉄道や車では移動時間が大幅にかかる宿泊施設などへの送迎や遊覧飛行はもちろん、離島への物流なども可能になる。桜島や湯布院、阿蘇山など、もともと九州一円には雄大な自然があり、「鉄道や船とは違う角度で九州の魅力を空から見ることができる」と古宮氏も期待する。



140億円の固定費削減を実現

 そんなJR九州もコロナ禍の3年間は存続の危機に直面していた。緊急事態宣言が発令され、外出自粛要請が全国に広がった21年3月期の同社の鉄道事業は366億円の営業赤字に陥った。輸送人員が3割近く減ったからだ。鉄道事業は人件費や保守・点検費用、車両や駅設備の減価償却費など固定費の塊。これは乗車人数に関係なく、一定額発生し続けるものでもある。

 そこで同社はこの固定費を削減するために「BPR(業務プロセス改革)プロジェクト」を実行。年間約1400億円かかる鉄道事業の費用のうちの約1割に当たる140億円の削減を、24年3月期を目途に実現することを目標に掲げた。そして同社はこれを1年前倒しで達成。

 具体策の1つがダイヤ改正だ。福岡都市圏を中心に鹿児島本線では計17本を減便。ただ、輸送力の低下を最小限に留めるために対面式だった車両の座席を転用し、ロングシートに改造した。

 人件費では車両の安全確認用のカメラを設置し、ワンマン区間を拡大。西九州新幹線の運転士が車両担当者と共に車両検査するマルチタスク化を実施。スマートフォンアプリを使って切符の窓口販売を縮小したり、列車の折り返し時の車内清掃の回数も綺麗な状態を維持できると判断した場合は、回数を減らした。

 更には受付の生け花を造花に置き換え、社内報を電子化して印刷費を削減。「些細なことからコツコツと現場レベルで積み重ねた」と同社関係者は振り返る。23年3月期連結決算では純利益を311億円にまで高めた。24年3月期も増収増益だ。

 JR九州は1987年の国鉄分割民営化時からJR東日本やJR東海などと違ってドル箱路線も新幹線も持っていなかった。鉄道事業も赤字が続き、駅ビルやマンション、外食といった非鉄道事業に活路を見出し、売上高の約5割を占めるまでに成長させた。そして豪華寝台列車「ななつ星in九州」も始めている。

 鉄道事業に依存しない多角化や豪華寝台列車は今でこそJR東や西が追随している。17年に『財界』誌の取材に答えたJR九州会長の唐池恒二氏は「他のJRは黒字の基となる、しっかりした屋台骨があった。しかし、我々は背水の陣。もうやるしかない。しかも本気でやるしかなかった」と語っている。

 今回の空飛ぶクルマとの連携もJRでは九州が初めてとなる。古宮氏の「観光、ビジネス、全てに可能性がある。山間地や離島などへの移動だけでなく物流や通勤・通学もあり得るかもしれない」という発言からも期待の高さがうかがえる。

 ただ、「機体自体が完成していない」(前出関係者)といった技術的な問題をはじめ、どの高度を飛行するかといった法整備、上空を新たなモビリティが飛行することに対する社会的受容性などクリアすべき課題も多い。

 旧国鉄と新興企業のタッグで九州の空を一変させられれば、九州の存在感は世界から注目されることになりそうだ。

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