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横田大造・クリアル社長「不動産投資のわかりにくいところをわかりやすく、非効率な部分を効率的にするのが我々の使命」

財界オンライン 2024年8月27日 7時0分

「不動産をITで小口化し、オンラインで気軽に投資できるように」─横田氏はこう話す。必要な資金が大きく、専門用語も多く情報も分かりにくい不動産投資は、長い間プロのための資産運用手段だと考えられてきた。それを一般個人に開放すべく「クラウドファンディング」を活用しているのがクリアル。アベノミクスを経て株価の上昇局面を経験している世代は投資に前向きで、クリアルのメイン顧客層になっている。今後の国内外での展開は─。


若い世代が不動産投資に関心

 ─ 2022年の上場で、産業界は厳しい時期でしたが、業績の拡大を続けてきましたね。振り返っていかがですか。

 横田 我々は現在、「不動産クラウドファンディング」で、専らプロ向けのものだった不動産投資の門戸を、一般の方々に開放しようと取り組んでいます。ITを使って小口化し、情報を分かりやすく開示することでオンラインで気軽に投資できるようにしています。

 マーケット的にも新しい投資の仕組みですし、運営会社が聞いたことがないところだと、なかなか普及が難しいと思います。その意味で、我々が上場した最大の目的は、当社の知名度と信用度を向上させることでした。

 ─ 成果は出ていますか。

 横田 その狙いが当たりました。上場以降の投資家数は大きく伸びていますし、当社の不動産クラウドファンディングに集まる資金やファンド組成数も飛躍的に向上しています。

 当社は主にBtoCで事業を行っている会社です。不動産ファンドを事業展開する会社としては様々な企業がありますが、彼らは主に機関投資家の資金を集めています。しかし、成熟したマーケットで新参者の我々がそのような資金を集めるのは難しいと考えて、ITをフル活用した個人向け不動産ファンド事業、不動産クラウドファンディング事業を始めたのです。

 この領域は当時ブルーオーシャンでした。かつては多くの方から小口の資金を集めるのには手間がかかりましたが、そこをITの活用で効率的に集めようというのが我々の戦略で、それがうまくいきました。

 ─ 新市場が開拓できたと。

 横田 かつ嬉しい誤算は、知名度が上がったことで、当初我々の参入が難しいと考えていたBtoBマーケットである機関投資家様にも認知していただくことができ、プロ向け不動産ファンド事業が伸びていることです。売上高や利益は、まだBtoCの不動産クラウドファンディング事業の方が大きいですが、目覚ましい成長を遂げています。

 ─ 若い世代が資産運用に関心を強く持ち始めていますが、不動産クラウドファンディングに関しても手応えはありますか。

 横田 当社の投資家さんの年齢層の分布は特徴的で、30代〜50代の方々が約7割を占めています。不動産投資商品であるREIT(不動産投資信託)に投資している層を見ると50代〜70代の方々がメインですが、我々の層は非常に若い。ネットを使った投資に前向きな方、忙しい方など、現役世代の方々にご支持いただけるサービスなのではないかと思います。

 投資家数も伸びており、若い方々の投資に対する前向きな姿勢は強く伝わってきます。アベノミクスを経て株価の上昇局面を経験している世代の方々は、投資に対してポジティブな印象を持っているのだと思います。

 デフレ時代は株価上昇も見えにくく、投資の成功体験を得ることも難しかったですが、不動産で気軽に利回り4%程度で自身の資産を運用することで、小さな成功体験が積み重なって、投資に前向きになると考えます。

 ─ 今後、事業の姿をどう持って行こうと考えていますか。

 横田 国の「資産運用立国プラン」の中で、新NISAも始まるなど資産運用が国策となっていると思います。その中で国民に浸透し、国を代表するような資産運用手段の1つになりたいと思って取り組んでいます。

 ─ SBIホールディングスと資本業務提携をしていますが、この狙いは?

 横田 非常に密に連携させていただいています。我々は不動産を活用した資産運用×ITで事業をやっていますが、資産運用×IT、ネット活用という点では、ネット証券、ネット銀行が大先輩です。そのトップランナーであるSBIさんと資本業務提携をさせていただいたことは、今後の我々の成長のドライブになると確信しています。

 具体的には、SBI証券さんのユーザーを当社に送客いただいています。ネット証券のユーザーさんはネットでの投資に慣れていますし、新しい動きに敏感ですから親和性も高い。

 ─ クラウドファンディングの可能性が広がると。

 横田 ええ。総務省のデータによると、不動産投資の経験がある個人の方は2.6%程度しかいません。それに対して株式投資は5人に1人、20%の方が経験されている。この違いはオンライン化しているかどうかと思うんです。今まで不動産投資をオンラインで気軽に行う手段はありませんでしたから、それを可能にする不動産クラウドファンディングは、これまで敷居が高かった不動産投資を一気に普及させる手段になる可能性は高いのではないかと思います。

 ─ 新たな提携戦略は常に検討していますか。

 横田 当社の不動産クラウドファンディング事業はまさしくファンド事業であり、金融商品としての性格が強いですから、証券会社や銀行など、金融機関との連携は常に模索しています。直近は24年3月にオリックス銀行さんとサービス案内に関する連携を開始しました。


高齢化社会を踏まえて投資対象を拡大

 ─ 徐々に金利が付く世界が戻りつつあります。この状況にはどう対応していきますか。

 横田 一般的に不動産業界では、金利が上がると購入のための資金調達コストが上がり、その分不動産の購入目線が低くなるため、マーケット的には不利な状況になると思います。

 しかし、当社の不動産クラウドファンディング事業における不動産の仕入れ、ファンド組成では、銀行の金利に頼らず、一般個人の皆様からの直接金融を活用する仕組みになっています。つまり、ファンドで不動産を購入する時の資金調達において金利上昇の影響は原則受けません。ただし、ファンドから物件の売却時には、次の買い手さんが銀行借り入れに過度に依存している場合には、売却価格が下がってしまう可能性はあります。もっとも、一般的な不動産会社に比較すると金利上昇の影響はかなり低いと思います。

 また、今は金利が上がりつつあるとはいえ、マイルドに上がっている状況ですし、市場のコンセンサスとしても問題視されるレベルではありません。むしろ「適温相場」といいますか、バブルにならない状態で締まっている金利状況だと思います。

 ─ むしろ、脱デフレ、金利が正常化に向かっていると。

 横田 そうですね。一般的には金利が上がる状況は経済がインフレ局面に突入しているということで、次にインフレヘッジをどのようにして行うかが多くの皆さんの関心事になってくると思います。インフレヘッジとして不動産投資は有用な手段だというのは、昔からの定説で、その点においてもこれからのインフレ局面は我々の事業にもうまく作用するのではないかと見ています。

 ─ クリアルの使命をどう考えていますか。

 横田 敷居の高かった不動産投資を、1万円からオンラインで投資できる形にし、資産運用の対象として身近にすることが、社会を変えることにつながるのではないかと思っています。

 また、我々の不動産クラウドファンディング事業は、機関投資家ではなく、個人の方々の資金を集めて投資するわけですが、個人だからこそできる投資があります。例えば老人ホームやホスピスといったヘルスケア関連、保育所や地方再生に資する施設など、機関投資家が効率性の問題で投資が難しい中小規模のアセットの中には、日本が直面している社会課題の解決に必要な不動産が沢山あります。そのような従来のキャピタルマーケットでは資金調達が難しいアセットへ個人のお金を供給する、そんな役割を当社の不動産クラウドファンディング事業は担っていると考えます。

 そして個人投資家さんにとっては、経済的リターンと社会的リターンの両立を図るような、これまでにない新しい資産運用手段をご提供するというのが、我々の使命だと考えています。

 ─ 介護やヘルスケアへの投資は強めていきますか?

 横田 まさに今、老人ホームやホスピスといったヘルスケア施設の取得を進めており、クラウドファンディングで投資を募っていきます。こうした日本の社会課題解決に必要ないわゆるESG不動産分野に対しても、我々のクラウドファンディングを活用して、多くの資金を供給していきたいと思っています。

 この分野は次の商機、オポチュニティだと考えています。例えばアメリカでは、元気なご高齢の方々が集合して住むような老人ホームも一般的です。日本では介護付き有料老人ホームやホスピスが重点的に進められていますが、長期的目線では自立型の老人ホームも見据えておく必要があると考えます。

 ─ インバウンドが増加していますが、ホテルにはどのように取り組んでいますか。

 横田 24年5月に、ホテル運営事業への参入を発表しました。旅行客の5人に1人がインバウンドという状況にあって、そうした方々の需要に応える施設の供給がまだまだ不足しています。クラウドファンディングで物件を供給すると同時に、新たな部門を立ち上げ、運営事業者としても注力していきます。

 当社はエンジニアやマーケターなどITチームを自前で抱えており、ITを活用した効率的なオペレーションで、高収益モデルを築きたいと考えています。

 ─ どのエリアで展開をしていこうと?

 横田 インバウンドの傾向として東京、大阪などを起点として長期の連泊をされる方々が多いため、まずは大都市を中心に展開していきます。

 地方に関してはこれからですが、クラウドファンディングを活用して地方創生に役立つようなアセットにも資金が集まるようにしていきたいと思います。

 ─ 海外にも可能性があると思いますが。

 横田 23年11月、アジアを拠点にしたグローバル展開を見据え、シンガポールに子会社を設立しました。今、日本への投資に興味を持つ海外投資家が増えています。中でも富裕層が多いシンガポールをまずターゲットにして子会社を設立しました。

 施策は大きく2つあります。1つはアジアで日本不動産への投資に興味のある中小規模の会社さんはまだ日本に拠点や提携先のないところが多いですから、そうした会社を地道に掘り起こして、パートナーシップを組んでいきたいと考えています。

 もう1つは海外の優良投資案件の情報を収集し、日本でクラウドファンディングで資金を集めて投資していくというモデルを築いていきたいと思います。

 ─ 国内外に事業の可能性が広がっていると。

 横田 ええ。これまで日本では不動産投資は低く評価されがちだったと考えています。大きな資金が必要な上に情報が複雑で、プロの人しか入り込めない世界とも言えます。一方、不動産投資はいわゆるミドルリスク・ミドルリターンの魅力的な資産運用手段でありオルタナティブ投資の代表格です。その証拠に多くの機関投資家や年金基金は不動産を資産運用のポートフォリオに入れている状況です。

 しかし、先ほどお話したように、個人で不動産投資の経験割合は約2.6%程度しかいない。ということは、そこには個人が入り込めない大きな参入障壁があるということです。その障壁、ギャップを解消するのが我々の使命です。不動産投資のわかりにくいところをわかりやすく、非効率な部分を効率的にすることこそ当社のミッションです。

 我々の社名クリアルは「クリアなリアルエステート」から由来しており、不動産投資の大きな障害の一つになっていた「情報の非対称性」を解消しようという思いから名付けています。

 ─ 日本の個人金融資産約2200兆円ありながら、約1100兆円が現預金という現状は変わっていませんね。

 横田 確かに米国と比較しても現預金で滞留しているお金の割合が多いですが、それは今まで日本がデフレ局面にありましたから、仕方がない面もあるかなと思っています。デフレは現金で持っておく方が安心ですから。

 しかし、今後はインフレ局面にシフトしつつあります。まさしくゲームチェンジの局面で、多くの皆様が資産運用しなければ損だと感じる状況になっていくと思います。いよいよ個人の資産運用は一気に動いてくると思いますから、まさに時代は変わっていくと感じています。

 時代の変わり目に上場できたというのが、我々にとって1つのターニングポイントになっています。今までやってきたことが市場に出て評価されるようになりました。今後さらに、多くの方々に知っていただけるように活動していきたいと思います。

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