人口減少の日本で、成長をするために何が必要か─。この命題に向けて、積水ハウスが動き始めた。スタートアップや研究者など外部の知恵を生かして「オープンイノベーション」を進めようとしている。そのための新会社、新施設も用意。新会社の代表取締役を務める辰井伸洋氏は「社内の技術、人材、顧客基盤だけを活用するのではなく、広く外の技術を取り入れ、人材と協力していく」と力を込める。同社の戦略とは─。
広く外の技術、人材と連携を進める
「オープンイノベーションを推進していくためのエンジンであり、ハブ」と話すのは、積水ハウス イノベーション&コミュニケーション(イノコム社)代表取締役の辰井伸洋氏。
住宅大手の積水ハウスが、外部の知恵も活用しながら、新たな事業づくりを本格化している。2024年2月にはイノコム社を設立。グループの技術や顧客基盤、データ、人を活用したオープンイノベーションの推進と、それに向けたグループ全体の人材育成を担う会社。
「社内の技術、人材、顧客基盤だけを活用するのではなく、広く外の技術を取り入れ、人材と協力しながらオープンイノベーションを進めていく」と辰井氏は強調する。
では、どのようにオープンイノベーションを進めようとしているのか。辰井氏は大きく2つのやり方を示す。
1つは「リバースピッチ」。通常、スタートアップ企業が大企業などに事業アイデアを提案することを「ピッチ」と呼ぶが、逆に、大企業側が課題などを提案し、スタートアップ企業からソリューションを募ることをリバースピッチという。
積水ハウスでは「この指とまれ方式」と呼んでいるが、同社が掲げるテーマに関心を持つスタートアップや既存企業、あるいは研究者など〝仲間〟を集め、事業化を目指していく。
24年10月から12月にかけて、このリバースピッチの開催や、事業提案、関連のセミナーなどを立て続けに実施する計画。
もう1つが「CVC」(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)。事業会社が自己資金でファンドを組成し、主にスタートアップ企業に出身や支援を行う組織のことを言う。
積水ハウスは24年4月、積水ハウス投資事業有限責任組合を設立。ファンドの総額は10年間で50億円。「積極的に、有望なスタートアップに対して投資活動をしていく」(辰井氏)
このCVCファンドでは、第1号案件として、すでに3社のスタートアップに出資している。
1社目がAtomis社。京都大学発のベンチャーで「多孔性配位高分子」という基盤技術で、二酸化炭素を吸着、分離し、別の物質に変換していく技術を開発している。将来的には積水ハウスの建材への応用を期待しているという。
2社目がlog build社。以前から積水ハウスと協業している企業で、AI(人工知能)やVR(仮想現実)技術を活用して建設現場の施工管理ロボットや、クラウドによる現場管理プラットフォームを開発している。「人手不足」などの社会課題解決につながる可能性を持つ企業と言える。
3社目がRePlayce社。学生向けのオンラインスクールや教材開発、教育サポートアプリ開発を手掛ける企業。NTTドコモ出身者が設立した会社で、新しい教育のあり方を模索している。一見、積水ハウスの事業とは遠く見えるが、同社が20年に発表した「グローバルビジョン」の中で〝住〟に関して追求するテーマとして「健康・つながり・学び」を掲げており、その「学び」に関連する企業ということで出資。
ここまでの間、積水ハウスは自分達で探すだけでなく、銀行などの金融機関、ベンチャーキャピタルなどとも連携して有望な投資先を探索。500社近くの企業との対話などを通じてシナジーを探り、前述の3社への出資に至った。
これらの活動を進めていくために、新たな拠点を設けた。24年9月5日にオープンイノベーション施設「イノコム・スクエア」を開業。場所は、積水ハウスと日本生命保険が共同開発し、東京・港区に24年5月に竣工した「赤坂グリーンクロス」の中。
旧国際赤坂ビル(日商岩井ビル)の跡地に建つ、地上28階、高さ150メートルの高層ビル。東京メトロ・溜池山王駅、国会議事堂前駅に直結する利便性の高さも売り。
この利便性の高い立地に拠点を置くことで、スタートアップの他、産・官・学から幅広くパートナーを集める。イベントや会議の他、イノコム社の社員を始め積水ハウスグループの社員が常駐しており、日常的なコミュニケーションの場としても活用していく考え。
積水ハウスが、オープンイノベーションを進める背景には、国内市場の縮小も大きい。同社はグローバルビジョンの中で「国内の〝安定成長〟と海外の〝積極的成長〟」を掲げる。海外では24年1月に米国の上場企業で戸建て事業を手掛けるM.D.C.ホールディングス(MDC)を約7200億円で買収することを発表。これによって米国の戸建て供給戸数で31位から5位に躍進。
一方、人口減少の国内で「安定成長」を進めるには、既存事業以外の新たな柱づくりが求められる。イノコム社の活動はその点でも重要な意味を持つ。さらには「まずは国内からスタートするが、その技術が米国でも通用するものだとわかれば、米国の事業者との対話も始まっていくことになる」(辰井氏)と海外への展開も見据える。
これまで積水ハウスは業界内で「自社技術、自前主義へのこだわりが強い会社」(業界関係者)と見られてきた。その意味で今回のオープンイノベーションへの取り組みは、同社の変化の表れとも言える。イノコム社の辰井氏もコンサルティング会社を経て23年に入社した人物で、外部出身人材の活用も進む。
まずは1つでも具体的成果を形にすることが求められる。
広く外の技術、人材と連携を進める
「オープンイノベーションを推進していくためのエンジンであり、ハブ」と話すのは、積水ハウス イノベーション&コミュニケーション(イノコム社)代表取締役の辰井伸洋氏。
住宅大手の積水ハウスが、外部の知恵も活用しながら、新たな事業づくりを本格化している。2024年2月にはイノコム社を設立。グループの技術や顧客基盤、データ、人を活用したオープンイノベーションの推進と、それに向けたグループ全体の人材育成を担う会社。
「社内の技術、人材、顧客基盤だけを活用するのではなく、広く外の技術を取り入れ、人材と協力しながらオープンイノベーションを進めていく」と辰井氏は強調する。
では、どのようにオープンイノベーションを進めようとしているのか。辰井氏は大きく2つのやり方を示す。
1つは「リバースピッチ」。通常、スタートアップ企業が大企業などに事業アイデアを提案することを「ピッチ」と呼ぶが、逆に、大企業側が課題などを提案し、スタートアップ企業からソリューションを募ることをリバースピッチという。
積水ハウスでは「この指とまれ方式」と呼んでいるが、同社が掲げるテーマに関心を持つスタートアップや既存企業、あるいは研究者など〝仲間〟を集め、事業化を目指していく。
24年10月から12月にかけて、このリバースピッチの開催や、事業提案、関連のセミナーなどを立て続けに実施する計画。
もう1つが「CVC」(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)。事業会社が自己資金でファンドを組成し、主にスタートアップ企業に出身や支援を行う組織のことを言う。
積水ハウスは24年4月、積水ハウス投資事業有限責任組合を設立。ファンドの総額は10年間で50億円。「積極的に、有望なスタートアップに対して投資活動をしていく」(辰井氏)
このCVCファンドでは、第1号案件として、すでに3社のスタートアップに出資している。
1社目がAtomis社。京都大学発のベンチャーで「多孔性配位高分子」という基盤技術で、二酸化炭素を吸着、分離し、別の物質に変換していく技術を開発している。将来的には積水ハウスの建材への応用を期待しているという。
2社目がlog build社。以前から積水ハウスと協業している企業で、AI(人工知能)やVR(仮想現実)技術を活用して建設現場の施工管理ロボットや、クラウドによる現場管理プラットフォームを開発している。「人手不足」などの社会課題解決につながる可能性を持つ企業と言える。
3社目がRePlayce社。学生向けのオンラインスクールや教材開発、教育サポートアプリ開発を手掛ける企業。NTTドコモ出身者が設立した会社で、新しい教育のあり方を模索している。一見、積水ハウスの事業とは遠く見えるが、同社が20年に発表した「グローバルビジョン」の中で〝住〟に関して追求するテーマとして「健康・つながり・学び」を掲げており、その「学び」に関連する企業ということで出資。
ここまでの間、積水ハウスは自分達で探すだけでなく、銀行などの金融機関、ベンチャーキャピタルなどとも連携して有望な投資先を探索。500社近くの企業との対話などを通じてシナジーを探り、前述の3社への出資に至った。
これらの活動を進めていくために、新たな拠点を設けた。24年9月5日にオープンイノベーション施設「イノコム・スクエア」を開業。場所は、積水ハウスと日本生命保険が共同開発し、東京・港区に24年5月に竣工した「赤坂グリーンクロス」の中。
旧国際赤坂ビル(日商岩井ビル)の跡地に建つ、地上28階、高さ150メートルの高層ビル。東京メトロ・溜池山王駅、国会議事堂前駅に直結する利便性の高さも売り。
この利便性の高い立地に拠点を置くことで、スタートアップの他、産・官・学から幅広くパートナーを集める。イベントや会議の他、イノコム社の社員を始め積水ハウスグループの社員が常駐しており、日常的なコミュニケーションの場としても活用していく考え。
積水ハウスが、オープンイノベーションを進める背景には、国内市場の縮小も大きい。同社はグローバルビジョンの中で「国内の〝安定成長〟と海外の〝積極的成長〟」を掲げる。海外では24年1月に米国の上場企業で戸建て事業を手掛けるM.D.C.ホールディングス(MDC)を約7200億円で買収することを発表。これによって米国の戸建て供給戸数で31位から5位に躍進。
一方、人口減少の国内で「安定成長」を進めるには、既存事業以外の新たな柱づくりが求められる。イノコム社の活動はその点でも重要な意味を持つ。さらには「まずは国内からスタートするが、その技術が米国でも通用するものだとわかれば、米国の事業者との対話も始まっていくことになる」(辰井氏)と海外への展開も見据える。
これまで積水ハウスは業界内で「自社技術、自前主義へのこだわりが強い会社」(業界関係者)と見られてきた。その意味で今回のオープンイノベーションへの取り組みは、同社の変化の表れとも言える。イノコム社の辰井氏もコンサルティング会社を経て23年に入社した人物で、外部出身人材の活用も進む。
まずは1つでも具体的成果を形にすることが求められる。