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西武HDが進める〝第4の柱〟ビジネス 「駅にあるロッカーを物流ハブにする!」

財界オンライン 2024年9月30日 11時30分

鉄道の駅にあるロッカー。あまり日の目を見ないロッカーを社会解決の課題につなげようとする動きが出てきた。発案者は西武ホールディングス(HD)。ロッカーに預けた荷物がその日のうちに首都圏のホテルに届くサービスの実証実験を始めた。鉄道・ホテル・不動産に次ぐ〝第4の柱〟の育成を目指す同社。新事業の芽を求めるために自社の経営資源の掘り起こしを模索している。


当日に宿泊先に荷物を配送

「コロナ禍を経て駅のリデザイン(再設計)を考えるようになった。その中で、駅の各所にあるロッカーに注目した。鉄道業界の中でも、このロッカーの有用性を生かしたサービスの実用化にいち早く取り組むなど〝ファーストペンギン〟の姿勢を大事にしていきたい」─。このように語るのは西武ホールディングス(HD)経営企画本部西武ラボ課長補佐の青木啓史氏である。

 円安の追い風を受けてインバウンドが急増。有名な観光地では宿泊施設などの人手不足が原因で運営が回らないオーバーツーリズムが社会問題となっているが、鉄道業界でのオーバーツーリズムは大きなスーツケースを引きずりながら混雑している電車に乗り込んだり、駅のホーム上で広いスペースを占領したりしているケースだ。

 新幹線などの指定席がある列車であれば、専用のスペースを車内に設置して、大型の荷物を収納できるようにしているが、西武鉄道では特急を除けば、通常の通勤・通学列車内でスペースを確保することは難しい。

 そこで同社が目を付けたのがロッカーだ。西武鉄道の駅構内のロッカーに預けた荷物を首都圏にある約500カ所のホテルに届ける手荷物配送サービス「ピクラクポーターin東京」の実証実験を開始した。正式にスタートすれば電車内の混雑緩和はもちろん、国内外の利用客は手ぶらで観光を楽しめる。

 西武HDは通信機能を搭載し、物理的な鍵の代わりに、QRコードなどの電子鍵を使用して解錠できるスマートロッカーを導入。これを活用した手荷物配送サービスでは、西武鉄道の基幹駅である池袋駅、西武新宿駅、豊島園駅を対象とする。

 池袋と西武新宿はそれぞれ終着駅。インバウンドの利用客も多い。また、豊島園では近隣に映画「ハリー・ポッター」のテーマパークが開業。国内各地はもちろん、海外からも観光客を集めている。その3駅にスマートロッカーを設置。利用客はロッカーに午後2時までに荷物を預けると、新宿や銀座、更には東京ディズニーリゾートのある舞浜エリアなど、首都圏約500ホテル(他社も含む)の中から指定した宿泊先に原則午後7時までに手荷物を配送する。

「宅配便は荷物1個あたりの費用がかかるが、ロッカーは1口あたりの費用。何個預けても料金が変わらないため、友人や家族と共有して預けることができる点が特徴だ」(同)

 利用客は3駅のいずれかにあるロッカーに荷物を入れ、所定の手続きをすれば大きな荷物を持たずに、そのまま観光に出かけることが可能となり、宿泊施設のホテルに到着すれば、既に自分の荷物が届いている。荷物を持ちながら観光するという煩わしさから解放されるわけだ。

 実は同様のサービスは西日本で展開されている。JR西日本が大阪エリアと尾道エリアで3月から提供しており、今回は首都圏で西武HDが始めたという形だ。いずれもスマートロッカーを展開するSPACERが開発したもの。21年から西武鉄道は同社と協業し、インターネットで購入した商品を西武鉄道の駅にあるスマートロッカーで受け取ったり、荷物を預け入れしたりできるようにしている。配送する配達スタッフはSPACERの協力会社になる。



第4の柱の育成を目指して

「スマートロッカーを物流のハブにする」─。青木氏はこう強調する。ロッカーを活用したサービスは鉄道会社間の垣根も超える。課題が同じだからだ。昨今、通販などの需要が高まる物流業界において労働時間の上限を定める「2024年問題」やCO2排出量増加などの社会課題が顕在化。そこで西武鉄道は京王電鉄と期間限定で会員制大型スーパー・コストコの人気商品を京王駅で受け取れるようにした。

 そんな青木氏が所属する西武ラボの使命は「鉄道、ホテル、不動産に次ぐ第4の柱を育成すること」。2024年3月期の西武HDの売上高は鉄道やバスなどの都市交通・沿線事業が全体の約3割で、ホテル・レジャー事業が4割超。不動産事業は15%だ。営業利益では都市交通・沿線事業が132億円、ホテル・レジャー事業が194億円、不動産事業が127億円と同事業の収益力が高い。

 社長の西山隆一郎氏は「当社には高輪・品川などの都心一等地から軽井沢や箱根、富良野といったリゾート地など全国に約1億平方メートルに上る資産がある」と語っており、不動産事業の可能性を訴える。そのための原資に充てるため、保有するホテルの所有と運営を切り離し、運営受託に特化する戦略もとった。

 その中で将来の事業の種を見つけようと動いているのが西武ラボだ。例えば、音楽関連ビジネスへの参入を発案。グループにはベルーナドームや横浜アリーナ、プリンスホテルなどの音楽イベント会場があり、鉄道やホテルなどで多くのファミリー顧客を抱えている。ペットビジネスにも乗り出し、ペットケアサービスやペット共生型マンションなども展開している。

 様々な業種・業界で新規事業を模索する動きは出てきている。その中で公共インフラの役割を果たす鉄道会社には消費者との直接の接点を数多く持つ。「当たり前にある経営資源をどう次のビジネスにアップデートするかがポイントになる」(アナリスト)。鉄道会社の中でも中堅に位置する西武HDがその先頭集団に名を連ねていけるか。西武ラボの役割は大きい。

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