新総裁・新首相に望むこと
強きリーダー不在の時代─。今回の自由民主党総裁選は、第1回の投票で過半数を獲得する候補者がおらず、2回目の決選投票で石破茂氏が勝利した。
世界が混沌として、日本の国としてのあり方、安全保障問題、人口減、少子化・高齢化などのマイナス条件下での日本経済の成長をどう実現していくかといった骨太のビジョン・政策が石破氏には求められる。
文字通り、課題は山積。それだけに、石破氏は覚悟と使命感を持って、日本の新しい基本骨格づくりに邁進しなければならない。
「日本を安心で安全な国にしていく」という石破氏の第一声。安全保障は最優先政策の一つだ。戦後79年が経ち、日本を取り巻く環境はガラリと変わった。
2022年にロシアがウクライナに侵攻して始まった戦争は、2年余りが経った今なお、終戦の見通しもつかないまま。ウクライナは、ロシアによる不条理な侵略には決して屈しないと、厳しい戦況ながら、独立国家としての存在意義をかけた戦いを続けている。
自らの国は自らの手で守る─ということだが、ロシアとの軍事力の差は歴然。EU(欧州連合)や米国はウクライナ支援に動いてきたが、米国大統領候補のトランプ氏はこれに懐疑的な目を向ける。世界情勢は誠に流動的だ。
自然災害にどう備えるか
加えて、自然災害の多発にどう備えるかという防災面での安全保障がクローズアップされる。
能登地方は、今年1月の大地震に加え、9月には集中豪雨に見舞われた。貴重な人命が失われ、家屋が流されたり倒壊するなど、被災地に追い打ちをかけるような大きな被害をもたらした。
被災の凄まじい光景、茫然と立ちすくむ地元の人たちの姿に何とも言えない気持ちになる。
災害が起きた時、他の自治体や民間ボランティアが被災地に駆けつけ、救出や復旧作業に当たる。共助の精神は健在で救われる。「防災省をつくる」という石破氏のセキュリティ政策にも関心が集まる。
東京と地方の共存共栄を
東京の一極集中が進む中、大地震などの大規模自然災害に見舞われた場合、日本の諸機能がマヒすることも考えられる。
停電や上下水道の破損、高速道路を含む道路や鉄道といったインフラ基盤が機能しなくなった場合、約1400万人の都民の生活が脅かされる。
神奈川、千葉、埼玉を含む首都圏の人口に至っては約4400万人で、日本全体の4割近くを占める。
首都圏のみに人が集中し、繁栄しているが、一方でヒズミが随所に現れ始めた。
〝タワマン〟と称される超高層マンションがあちこちに建てられ、人々の人気を呼ぶが、停電、上下水道の破損となった場合、高層階に住む人たち、特に高齢者は完全に孤立する。
便利さ、快適さのみを追求してきた首都圏はまた、極度の惨状を生み出す可能がある。
今後、国土の健全な発展を考える時、〝東京と地方の共存〟を真剣に模索する時が来ている。
地方創生を含むレジリエンス(耐性)のある国土づくりが必要不可欠であると思う。
小林寿太郎の覚悟に…
そうした意味でも、『リーダーと国民の関係』もまた問われる。
リーダーの責任が重いことはもちろんだが、リーダーの行動は国民の問題意識に依る所が大きい。
リーダーは自分たちの社会が将来どうあるべきかを示す時、場合によっては耳の痛い事を言い、信念に基づいて行動しなければならない事もある。
鎖国を解き、「西洋に追い付き、追い越せ」と近代化を図った明治期。日清、日露両役に勝ち、日露戦争終結後のポーツマス会議に日本の全権大使として向かった小村寿太郎外相(当時)は、その時、厳しい状況に追い込まれた。
国民は『勝った、勝った』の戦勝気分だが、勝ったのは日本海海戦だけであって、当時のロシア帝国相手に大陸で再び会戦すれば、勝利できるかどうか日本には不安があったと言われる。
そうした事を踏まえて、日本側は樺太(今のサハリン)の南半分を獲得するが、大方の国民は「不十分」として、猛反発。これが日比谷焼打事件にまで発展し、小村の自宅も焼かれてしまう。
時の政界の実力者、伊藤博文はポーツマスに出かける小村に、「小村君、苦労をかけるな」とねぎらったそうだが、小村はリーダーの一人として、その労苦に耐え、仕事を成し遂げてきた。
世間に自分の仕事や成果を認められなくとも、「やるべき事をやる」という覚悟がリーダーには求められる。
本人が生きている間には認められなくとも、死後、その事績が認められる。歴史がその事を証明するという事例は少なくない。
そうした試練にも耐えられる構想力、ビジョンを国民に示し得るかどうかもリーダーの条件の一つで、決断力と、実行力が問われる。
人の力を掘り起こす!
日本の国力をどう掘り起こしていくかという命題を今、わたしたちは抱えている。
さいわい、企業人の士気はすこぶる高い。ゲーム、ネット広告で大企業に成長した50代のトップは、「若い人の力をどんどん掘り起こしていきたい」と後継者づくりに入った。時代はどんどん変化していく。
創業者の域を越えるのは容易ではないが、「会社を持続させられる人を選びたい」と本人は語る。
経済のソフト化、デジタル化が進む中で、経営のあり方もどんどん変わっていく。時代の変化にどう対応していくかで、企業の命題も変わる。事業の中身は変化していくわけだが、経営のカジ取りの基本は変わらない。「はい。基本軸はしっかりしていかないと」と件の創業者は語る。
基本軸のある企業ほど強い。
日航社長・鳥取さんの対話
「経営と現場の対話を大切にしたい」─。日本航空社長・鳥取三津子さん(1964年12月生まれ)の社長就任時の第一声。
鳥取さんは、同社初の女性社長。客室乗務員(キャビンアテンダント)の出身。旧東亜国内航空に入社し、その後、同社は日本エアシステムになり、2002年、同社は日本航空と合併。航空再編の嵐の中を生き抜いてきた人だけに、「芯の強い人」という評価もある。
「本当に、現場で働いている時は幸せでした」と鳥取さん。顧客への対応も大変な仕事だと思うが、「本当に楽しかったです」と振り返る。
再編成の時も、とかく摩擦が懸念されるが、「対話を徹底してきました」と鳥取さん。経営の基本軸も、経営陣と現場の対話にあるとするのも、この時の体験が大きいのだと思う。価値観や信条の違いを乗り越えて、前へ進むことの大事さである。
強きリーダー不在の時代─。今回の自由民主党総裁選は、第1回の投票で過半数を獲得する候補者がおらず、2回目の決選投票で石破茂氏が勝利した。
世界が混沌として、日本の国としてのあり方、安全保障問題、人口減、少子化・高齢化などのマイナス条件下での日本経済の成長をどう実現していくかといった骨太のビジョン・政策が石破氏には求められる。
文字通り、課題は山積。それだけに、石破氏は覚悟と使命感を持って、日本の新しい基本骨格づくりに邁進しなければならない。
「日本を安心で安全な国にしていく」という石破氏の第一声。安全保障は最優先政策の一つだ。戦後79年が経ち、日本を取り巻く環境はガラリと変わった。
2022年にロシアがウクライナに侵攻して始まった戦争は、2年余りが経った今なお、終戦の見通しもつかないまま。ウクライナは、ロシアによる不条理な侵略には決して屈しないと、厳しい戦況ながら、独立国家としての存在意義をかけた戦いを続けている。
自らの国は自らの手で守る─ということだが、ロシアとの軍事力の差は歴然。EU(欧州連合)や米国はウクライナ支援に動いてきたが、米国大統領候補のトランプ氏はこれに懐疑的な目を向ける。世界情勢は誠に流動的だ。
自然災害にどう備えるか
加えて、自然災害の多発にどう備えるかという防災面での安全保障がクローズアップされる。
能登地方は、今年1月の大地震に加え、9月には集中豪雨に見舞われた。貴重な人命が失われ、家屋が流されたり倒壊するなど、被災地に追い打ちをかけるような大きな被害をもたらした。
被災の凄まじい光景、茫然と立ちすくむ地元の人たちの姿に何とも言えない気持ちになる。
災害が起きた時、他の自治体や民間ボランティアが被災地に駆けつけ、救出や復旧作業に当たる。共助の精神は健在で救われる。「防災省をつくる」という石破氏のセキュリティ政策にも関心が集まる。
東京と地方の共存共栄を
東京の一極集中が進む中、大地震などの大規模自然災害に見舞われた場合、日本の諸機能がマヒすることも考えられる。
停電や上下水道の破損、高速道路を含む道路や鉄道といったインフラ基盤が機能しなくなった場合、約1400万人の都民の生活が脅かされる。
神奈川、千葉、埼玉を含む首都圏の人口に至っては約4400万人で、日本全体の4割近くを占める。
首都圏のみに人が集中し、繁栄しているが、一方でヒズミが随所に現れ始めた。
〝タワマン〟と称される超高層マンションがあちこちに建てられ、人々の人気を呼ぶが、停電、上下水道の破損となった場合、高層階に住む人たち、特に高齢者は完全に孤立する。
便利さ、快適さのみを追求してきた首都圏はまた、極度の惨状を生み出す可能がある。
今後、国土の健全な発展を考える時、〝東京と地方の共存〟を真剣に模索する時が来ている。
地方創生を含むレジリエンス(耐性)のある国土づくりが必要不可欠であると思う。
小林寿太郎の覚悟に…
そうした意味でも、『リーダーと国民の関係』もまた問われる。
リーダーの責任が重いことはもちろんだが、リーダーの行動は国民の問題意識に依る所が大きい。
リーダーは自分たちの社会が将来どうあるべきかを示す時、場合によっては耳の痛い事を言い、信念に基づいて行動しなければならない事もある。
鎖国を解き、「西洋に追い付き、追い越せ」と近代化を図った明治期。日清、日露両役に勝ち、日露戦争終結後のポーツマス会議に日本の全権大使として向かった小村寿太郎外相(当時)は、その時、厳しい状況に追い込まれた。
国民は『勝った、勝った』の戦勝気分だが、勝ったのは日本海海戦だけであって、当時のロシア帝国相手に大陸で再び会戦すれば、勝利できるかどうか日本には不安があったと言われる。
そうした事を踏まえて、日本側は樺太(今のサハリン)の南半分を獲得するが、大方の国民は「不十分」として、猛反発。これが日比谷焼打事件にまで発展し、小村の自宅も焼かれてしまう。
時の政界の実力者、伊藤博文はポーツマスに出かける小村に、「小村君、苦労をかけるな」とねぎらったそうだが、小村はリーダーの一人として、その労苦に耐え、仕事を成し遂げてきた。
世間に自分の仕事や成果を認められなくとも、「やるべき事をやる」という覚悟がリーダーには求められる。
本人が生きている間には認められなくとも、死後、その事績が認められる。歴史がその事を証明するという事例は少なくない。
そうした試練にも耐えられる構想力、ビジョンを国民に示し得るかどうかもリーダーの条件の一つで、決断力と、実行力が問われる。
人の力を掘り起こす!
日本の国力をどう掘り起こしていくかという命題を今、わたしたちは抱えている。
さいわい、企業人の士気はすこぶる高い。ゲーム、ネット広告で大企業に成長した50代のトップは、「若い人の力をどんどん掘り起こしていきたい」と後継者づくりに入った。時代はどんどん変化していく。
創業者の域を越えるのは容易ではないが、「会社を持続させられる人を選びたい」と本人は語る。
経済のソフト化、デジタル化が進む中で、経営のあり方もどんどん変わっていく。時代の変化にどう対応していくかで、企業の命題も変わる。事業の中身は変化していくわけだが、経営のカジ取りの基本は変わらない。「はい。基本軸はしっかりしていかないと」と件の創業者は語る。
基本軸のある企業ほど強い。
日航社長・鳥取さんの対話
「経営と現場の対話を大切にしたい」─。日本航空社長・鳥取三津子さん(1964年12月生まれ)の社長就任時の第一声。
鳥取さんは、同社初の女性社長。客室乗務員(キャビンアテンダント)の出身。旧東亜国内航空に入社し、その後、同社は日本エアシステムになり、2002年、同社は日本航空と合併。航空再編の嵐の中を生き抜いてきた人だけに、「芯の強い人」という評価もある。
「本当に、現場で働いている時は幸せでした」と鳥取さん。顧客への対応も大変な仕事だと思うが、「本当に楽しかったです」と振り返る。
再編成の時も、とかく摩擦が懸念されるが、「対話を徹底してきました」と鳥取さん。経営の基本軸も、経営陣と現場の対話にあるとするのも、この時の体験が大きいのだと思う。価値観や信条の違いを乗り越えて、前へ進むことの大事さである。