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山本明弘・広島市信用組合理事長「他行の真似をせず、経営の軸をブラさない。『中小・零細企業のために』という存在意義を意識して取り組む」

財界オンライン 2024年10月23日 11時30分

「われわれのような地域金融機関がなければ、中小・零細企業やスタートアップ企業は、もうそこで終わりとなる先も多い。彼らのために生きていきます」─広島市信用組合の山本氏はこう強調する。信用組合にあって、地銀に伍するような利益を上げ、高格付を維持する要因は「中小・零細企業のための金融機関」として預金・貸金に特化した経営を進めていること。「メガバンクや地銀と同じやり方では駄目」と山本氏。その経営哲学とは─。


地域になくてはならない金融機関として

 ─ 日銀が利上げを行ったことで、少しではありますが「金利のある世界」が戻ってきました。世界の金融動向も揺れ動く中ですが、今意識していることについて聞かせて下さい。

 山本 メガバンクや地方銀行と同じやり方をしていては駄目だと思っています。今後、人口減少とともに、地域金融機関としてどうやって生きていくかをはっきり認識する必要があります。それができている金融機関とできていない金融機関とでは、今後の存在価値、成長が全く違ってくるのだと思います。

 ─ 国も企業も個人もリスクのある中でどう生きるか、本業をいかに磨くかが問われます。

 山本 われわれは「ミドルリスク・ミドルリターン」の貸出をしています。中小・零細企業やスタートアップ企業など、担保などの裏付けをしっかり持っていらっしゃらない方々も含め、ある程度のリスクテイクをしています。他の金融機関がなかなか取り組んでいない分野です。

 そして、私どもはバルクセール(多数の不良債権をパッケージ化して、サービサーや投資ファンドに一括して売却する手法)を活用して、収益の中で不良債権を処理してきました。

 今は、地域になくてはならない、存在意義のある金融機関であるかどうかの分岐点だと思います。環境の変化が激しく、株価の大幅下落という局面もあるなど、どの金融機関も右往左往しがちで、それをどう生き抜くか、考え方によっては面白い時代だと思います。

 その中で経営の軸がブレてはいけません。私達は預金・貸金の本業一筋でやっていきます。「これでいける」ということを徹底してやっていくならば、今後も業績が上がっていくというところに直結します。

 ─ 社内でも、それを強く訴えておられますね。

 山本 そうです。こうした本業一筋の取り組みによってお客様も安心して取引をすることができますし、支店長も職員も安心して働くことができます。

 今は多くの金融機関が預金・貸金以外に投資信託や保険の販売を手掛けています。環境変化でお客様への説明も大変だと思います。グラグラせずに、腰を据えてやっていくことが大事です。

 私は理事長に就任して20年近くになりますが、絶対に方針は変えません。あくまでも預金貸金に集中し、金融商品には手を出しません。多くの金融機関が手数料ビジネスの話をしている中、シシンヨー(広島市信用組合の通称)は手数料のことは言わない。ですから、お客様にも安心して取引していただけるのです。

 そして大事なのは「スピード」です。例えば融資は3日以内に決裁しています。こうした取り組みによって、お客様から本当に頼りにされる金融機関になってきています。「スピード」、「フットワーク」、「フェイス・トゥ・フェイス」などは他行に負けない。これは差別化につながっています。

 他行の真似をして、右に行ったり左に行ったりしたら大変なことになります。そのためにはわれわれ経営陣が、自分達の存在価値、何で生きていくかを意識することが、一番大事だと思っています。


女性の活躍がなければ生きていけない時代

 ─ 近年は国を挙げて「働き方改革」や「人への投資」が推進されています。山本さんはどう取り組んでいますか。

 山本 例えば賃上げは、かなり以前から意識的に進めてきました。2024年3月の四大卒の初任給は24万5000円でした。足元で、地域内の大手金融機関よりも高いのですが、さらに10月から1万円高くします。よって2025年3月卒の初任給は25万5000円に決めました。

 ─ 賃上げへの思いを聞かせて下さい。

 山本 私はとにかく職員と、その家族の幸せを考えています。

 私の考えは、第1に広島県内の中小・零細企業、そして県民を豊かにすること、第2に職員、家族を幸せにすることです。これがブレてはいけません。

 実際には、2025年4月に上げようと思っていましたが、物価も高くなっていますから。もちろん、半年間の人件費は高いのですが、実行することによって職員にも経営陣の思いが伝わるのではないかと。経営陣が、ただ優しいことを言っただけでは駄目なのです。

 私はよく、支店長に「仕事は厳しくてもいいけれど、絶対に思いやりを持たないと駄目だよ」と言うんです。思いやりがあれば、部下は仕事が厳しくともついてきてくれます。

 変に優しくすればいいかというととんでもありません。何が本人のためになるかを考えたら、仕事を教える、指導する、それを愛情を持ってやることです。そして、経営陣、上司はしつこかったらいけません。スカッとしていることが大事です。

 私も厳しいことをバッといいますが、一度言ったらあとは言いません。ですから、みんながついてきてくれているのだと思います。

 ─ 女性活躍も課題ですが、どう取り組んでいますか。

 山本 全女性職員のうち役付者の割合は今年10月1日現在で54.4%となっています。

 役付者の数を見ても、12年度に代理5名、係長29名の計34名だったものが、24年度10月1日現在で課長54名、代理21名、係長28名の計103名となっています。私はこの間、女性の登用について、常に考えてきました。ここでも徹底しているのはスピードですし、女性に活躍してもらわなければならないという時代の流れを、経営陣が読めているかが大事です。

 ─ 女性ですと妊娠、出産といったライフイベントもあります。ここからの復職はどう考えていますか。

 山本 それは大事な話です。14年度から現在まで累計で82名が育児休業を取得していますが、復職が63名、退職が2名、取得中が17名となっています。育児休業からの復職率は96.9%となっており、女性が復職しやすい環境であることが、数字からもおわかりいただけると思います。 

 おおよそ2年間休む人が多いのですが、その期間休んだとしても、われわれの仕事は預金貸金で変わりませんから、復職しても仕事がやりにくいということはありません。これもわれわれの強みとなっています。

 そして女性についてもう1つ、ほとんどの金融機関で、融資担当は男性が務めるという固定概念があると思いますが、われわれの店舗が35カ店あるうち、9割以上の店舗で融資担当を女性が務めています。女性に活躍してもらわねば、これからの時代は生きていけないと私は判断しています。

 ─ 山本さんから見て、伸びている人材はどういうタイプですか。

 山本 マインドが前向きの人間ですね。やはり受け身ではいけません。そして自分で考え、物事を想像しながら取り組んでいく人間でなければいけないと思います。現状維持、与えられた仕事だけでは人間は伸びていかないと思うんです。

 前向きに物事を考えて、自分の発想に基づいて対応していく。そういう人間が成長しますし、これからのシシンヨーを背負って立つことができる人材になっていくのではないかと思います。


「融資はロマンだ」という言葉が持つ意味

 ─ 改めて、金融機関にはメガバンクから地方銀行、信用金庫など様々ありますが、広島市信用組合の存在意義をどう捉えていますか。

 山本 「何のために広島市信用組合があるのか」、その存在意義を改めてお話すると、広島県内の中小・零細企業のためにわれわれはあるという考えです。

 中小・零細企業の中には、メガバンクや大手地銀の顧客よりも、財務内容が脆弱なところもあり、相対的にリスクは高い。けれども、そうした中小・零細企業に、どの金融機関が対応するのか。

 もしわれわれ、広島市信用組合のような地域金融機関がなければ、そうした中小・零細企業やスタートアップは、もうそこで終わりなんです。新しい仕事に取り組むこともできません。もちろん、担保能力、保証能力も、大企業や中堅企業に比べればないかもしれません。しかし、日本では99%が中小・零細企業です。彼らのために、われわれは生きていくのだと。

 ─ 取引相手の担保能力、保証能力に限りがあるということは、こちらにリスクがあるということですね。

 山本 そうです。中小・零細企業を支援、応援する上ではリスクはつきまといます。ですから私にはリスクテイクをしながら取り組まなければ、われわれの存在意義はないのだという考えがあります。われわれは目線を中小・零細企業に向けていく。このことを常々、支店長会議、外交会議で話しているんです。

 裏返して言えば、そうした中小・零細企業はメガバンク、地銀では取り扱ってもらえず、そうした企業や個人事業主の支援にわれわれがリスクを取って取り組んでいるのだということを、中小・零細企業の方々もよくご存知なのです。

 ですから「あの時、シシンヨーに助けてもらった」というお声をいただくことも多いんです。例えば、融資金額は500万円、2000万円だったかもしれませんが、「おかげで私達はこれだけ成長できました」ということを言っていただけるんです。

 そこで私は「融資はロマンだ」と申し上げています。リスクを取りながら融資をした、そうした企業の従業員が2、3人から5人、10人になり、50人になり、100人になって、ついには上場までしてくれるということになると、われわれの仕事冥利に尽きます。それが「融資はロマンだ」と言う意味です。

 私はいつも全職員に「お金は貸してやるんじゃないぞ、お金は使っていただくものだ」ということを、常々言っています。「お金を貸してやる」というような上から目線の経営は、金融機関として絶対あってはなりません。ですから私は融資について、その性根、本音のところを魂を込めてやってきています。それが私の生き様です。


自ら現場に出て顧客の声を聞く

 ─ 多くの金融機関が不良債権にどう向き合うかに知恵を絞っています。山本さんは先ほどのお話のように、その処理を徹底して進めてきましたね。

 山本 24年3月末で不良債権比率は1.95%と低い水準となっています。ただ、01年3月末からのバルクセールにより不良債権を処理してきた金額は累計で約918億円となっています。非常に大きな金額です。この規模は地銀でもなかなか処理できないのではないかと思います。

 私は、シシンヨーの将来を考えた時に、不良債権を徹底的にオフバランス化することを常に考えてきました。これは本当に、どこの地銀にも負けないスピード感を持って、徹底的に取り組んできました。この間の取り組みについては、金融庁さんからもご注目いただいています。

 ─ 本業を徹底し、顧客を大事にする。預金貸金だけで他の金融商品を扱わない。これが今、不良債権処理にも活きているわけですね。

 山本 そう思っています。なぜ、私は預金貸金以外に投資信託や生命保険の販売を手掛けないかというと、現場を大事にしているからです。私は「現場力」を非常に重要視し、私自身も毎日外に出かけて、お客様のところに行っています。

 ─ 山本理事長も今でも、1日5軒から10軒の顧客を訪問しておられるとか。

 山本 はい。だいたいですね。いろいろな用事がある時は3軒、多い時で10軒です。しかも、多くの場合、アポなしでお伺いします。そうして現場を見て歩いた経験上、投資信託や生命保険を取り扱って欲しいというお客様からの声は、限りなくゼロです。これがわれわれが金融商品を取り扱わない理由です。

 同時に、これだけお客様のところに行くのは、現場を見ないと融資はできないからです。そのお客様の現場を見て、今は財務内容は悪くとも、経営者の方の人間性、哲学、成長性、技術力などを見て、融資の判断をしていく。これが地域金融機関の使命ではないか、その1点に尽きると思っています。




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