日本の独自性は大事
日本再生をどう図るか─。脱デフレ・経済成長、外交・安全保障、食料・エネルギーの安全保障、そして地方再生と日本は課題を抱える。その日本国のカジ取りを担う新首相に石破茂氏が選ばれた(10月1日)。
その4日前の与党・自由民主党の新総裁選びで、高市早苗氏を破って、石破氏が〝逆転勝利〟を収めた時、「石破ショック」なるものが起きた。
国会議員票、党員票でそれぞれ2位だった石破氏が決選投票で高市氏を逆転。それが自民党関係者のショックとなり、そのことが週明けの株式市場で日経平均株価1900円超の暴落となった。しかし市場は翌日、700円上昇し、落ち着きを取り戻している。
このショックから得られる教訓とは何か?「1つは早期解散を決め、投開票日を10月27日としたことにある」と某閣僚経験者は語る。
それまで、解散時期については党首討論を含め、与野党間での話し合いをオープンにすることで国民に判断材料をつくり出すと言ってきた言葉とは違う印象を国民に与えたからである。
ことの真意はどうあれ、政治家にとって言葉は生命線を握るもの。時代の変化、環境変化で改めるべきは改めるという柔軟性は政治に求められるものだが、基本軸や根幹的な考えを簡単に変えると、国民は信用しなくなる。このことは、石破新首相も肝に銘ずるべきところである。
米中対立に続き、ロシア・ウクライナ戦争、さらにはイスラエルとイスラム教スンニ派のハマス、同シーア派のヒズボラとの戦闘激化など、世界中がきな臭くなっている今、石破氏は安全保障重視の政策を掲げようとしている。「防衛・安全保障に強いのが自分の長所」と言ってきただけに、石破氏の具体的な安全保障政策の真価が問われるところ。
先の大戦から79年が経ち、日本の独自性、主権国家としての力が問われようとしている。日米同盟を基本軸にしながら、またQuad(日・米・印・豪)などの同盟関係の深化が求められている中で、日本が生き抜くための防衛、安全保障策を充実させるのは必須の命題。
そんな折、石破氏は「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の構想を打ち出した。これには既存の日米同盟をさらに深化させようとする人達の間で反発も呼び、「いらぬ摩擦を日米間で生む」という声も巻き起こる。日本の主体性・主権を追求すること自体は正しい政治的選択。一方で、中国、ロシア、北朝鮮などの軍事的挑発が生まれている中で、いたずらに米国と摩擦を生むのはまずいと石破氏に〝自重〟を求める声もある。
ともあれ、世界は今、混沌・混乱の真っ只中。米国・トランプ前大統領に象徴されるように、他国に構っている余裕がないとして『自国第一主義』をとる国は少なくない。欧州でも、右派や左翼政党が躍進し、自国第一主義を訴えて、国民の強い支持を受ける現象も続出。
下手をすれば、第5次中東戦争、さらには第3次世界大戦が勃発しかねない状況。そういう世界状況にどう関わっていくのか。とりわけ日本丸のカジ取りの責任は重い。
今を生きる世代の将来世代への責任
日本の世界における存在意義とは何か─。その日本の安全保障の基本軸は日米同盟にある。その体制の中で日本は1968年(昭和43年)、当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜いて、経済規模(GNP=国民総生産、当時)で米国に次ぐ自由世界第2位の経済大国に成長。経済力を武器に日本はグローバル世界で存在感を増してきた。
しかし、21世紀に入り、2010年(平成22年)、中国にGDP(国内総生産)で抜かれて第3位に転落。さらに2023年にはドイツに抜かれて4位となった。1人当たりGDPでは38位に転落。これはシンガポールや香港のはるか後塵を拝し、台湾、韓国にも抜かれている。
1人当たりGDPではルクセンブルクが1位、2位はアイルランド、3位がスイス、4位がノルウェー、5位シンガポールと小国が続く。小国ほど危機意識が強く、国民が何とか生き抜こうと知恵を出し、努力をするという側面が、この1人当たりGDPのランキングを見てもうかがえる。日本の場合はどうか。
人口減、少子化・高齢化が始まったといっても、現時点で1億2000万人の人口を抱える。さらに食料・エネルギーの自給率が低く、若者達は日本の将来性に不安を抱き、結婚を躊躇し、子供を産まないという現象が続く。今を生きる世代の危機意識が弱いと言われる所以である。
将来の世代の生活に責任があるとすれば、今を生きる世代は何をすべきか、という観点からの改革が論じられるべきだ。
教育、子育て、そして年金、医療、福祉などの制度維持、サステナビリティ(持続性)も考えなければならない。元々日本には自助・共助・公助の精神がある。最も基礎となる自助(自らの身は自ら助く)という自立・自律の精神をどう発揮するべきかという命題。
具体的には『受益と負担』の問題もその1つ。石破氏は就任前、これからの諸政策の財源手当として、金融所得課税や、所得税、法人税への含みも述べており、それが就任直前の石破ショックとなり、株価下げを招いた。国民にとって耳の痛いことを言うのも政治家の務め。しかし、それには中長期の国家ビジョンを見据え、なぜ、そうしなければならないかを、丁寧に国民に説明する必要がある。
基本的には、日本の潜在力や持てる知恵を掘り起こし、何より経済成長を実現し、国民所得を引き上げ、個人消費も活発にしていくという戦略を最優先すべき時だ。「日本には潜在成長力がある」という声は強い。産・官・学あげて挑戦の時である。
日本再生をどう図るか─。脱デフレ・経済成長、外交・安全保障、食料・エネルギーの安全保障、そして地方再生と日本は課題を抱える。その日本国のカジ取りを担う新首相に石破茂氏が選ばれた(10月1日)。
その4日前の与党・自由民主党の新総裁選びで、高市早苗氏を破って、石破氏が〝逆転勝利〟を収めた時、「石破ショック」なるものが起きた。
国会議員票、党員票でそれぞれ2位だった石破氏が決選投票で高市氏を逆転。それが自民党関係者のショックとなり、そのことが週明けの株式市場で日経平均株価1900円超の暴落となった。しかし市場は翌日、700円上昇し、落ち着きを取り戻している。
このショックから得られる教訓とは何か?「1つは早期解散を決め、投開票日を10月27日としたことにある」と某閣僚経験者は語る。
それまで、解散時期については党首討論を含め、与野党間での話し合いをオープンにすることで国民に判断材料をつくり出すと言ってきた言葉とは違う印象を国民に与えたからである。
ことの真意はどうあれ、政治家にとって言葉は生命線を握るもの。時代の変化、環境変化で改めるべきは改めるという柔軟性は政治に求められるものだが、基本軸や根幹的な考えを簡単に変えると、国民は信用しなくなる。このことは、石破新首相も肝に銘ずるべきところである。
米中対立に続き、ロシア・ウクライナ戦争、さらにはイスラエルとイスラム教スンニ派のハマス、同シーア派のヒズボラとの戦闘激化など、世界中がきな臭くなっている今、石破氏は安全保障重視の政策を掲げようとしている。「防衛・安全保障に強いのが自分の長所」と言ってきただけに、石破氏の具体的な安全保障政策の真価が問われるところ。
先の大戦から79年が経ち、日本の独自性、主権国家としての力が問われようとしている。日米同盟を基本軸にしながら、またQuad(日・米・印・豪)などの同盟関係の深化が求められている中で、日本が生き抜くための防衛、安全保障策を充実させるのは必須の命題。
そんな折、石破氏は「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の構想を打ち出した。これには既存の日米同盟をさらに深化させようとする人達の間で反発も呼び、「いらぬ摩擦を日米間で生む」という声も巻き起こる。日本の主体性・主権を追求すること自体は正しい政治的選択。一方で、中国、ロシア、北朝鮮などの軍事的挑発が生まれている中で、いたずらに米国と摩擦を生むのはまずいと石破氏に〝自重〟を求める声もある。
ともあれ、世界は今、混沌・混乱の真っ只中。米国・トランプ前大統領に象徴されるように、他国に構っている余裕がないとして『自国第一主義』をとる国は少なくない。欧州でも、右派や左翼政党が躍進し、自国第一主義を訴えて、国民の強い支持を受ける現象も続出。
下手をすれば、第5次中東戦争、さらには第3次世界大戦が勃発しかねない状況。そういう世界状況にどう関わっていくのか。とりわけ日本丸のカジ取りの責任は重い。
今を生きる世代の将来世代への責任
日本の世界における存在意義とは何か─。その日本の安全保障の基本軸は日米同盟にある。その体制の中で日本は1968年(昭和43年)、当時の西ドイツ(現ドイツ)を抜いて、経済規模(GNP=国民総生産、当時)で米国に次ぐ自由世界第2位の経済大国に成長。経済力を武器に日本はグローバル世界で存在感を増してきた。
しかし、21世紀に入り、2010年(平成22年)、中国にGDP(国内総生産)で抜かれて第3位に転落。さらに2023年にはドイツに抜かれて4位となった。1人当たりGDPでは38位に転落。これはシンガポールや香港のはるか後塵を拝し、台湾、韓国にも抜かれている。
1人当たりGDPではルクセンブルクが1位、2位はアイルランド、3位がスイス、4位がノルウェー、5位シンガポールと小国が続く。小国ほど危機意識が強く、国民が何とか生き抜こうと知恵を出し、努力をするという側面が、この1人当たりGDPのランキングを見てもうかがえる。日本の場合はどうか。
人口減、少子化・高齢化が始まったといっても、現時点で1億2000万人の人口を抱える。さらに食料・エネルギーの自給率が低く、若者達は日本の将来性に不安を抱き、結婚を躊躇し、子供を産まないという現象が続く。今を生きる世代の危機意識が弱いと言われる所以である。
将来の世代の生活に責任があるとすれば、今を生きる世代は何をすべきか、という観点からの改革が論じられるべきだ。
教育、子育て、そして年金、医療、福祉などの制度維持、サステナビリティ(持続性)も考えなければならない。元々日本には自助・共助・公助の精神がある。最も基礎となる自助(自らの身は自ら助く)という自立・自律の精神をどう発揮するべきかという命題。
具体的には『受益と負担』の問題もその1つ。石破氏は就任前、これからの諸政策の財源手当として、金融所得課税や、所得税、法人税への含みも述べており、それが就任直前の石破ショックとなり、株価下げを招いた。国民にとって耳の痛いことを言うのも政治家の務め。しかし、それには中長期の国家ビジョンを見据え、なぜ、そうしなければならないかを、丁寧に国民に説明する必要がある。
基本的には、日本の潜在力や持てる知恵を掘り起こし、何より経済成長を実現し、国民所得を引き上げ、個人消費も活発にしていくという戦略を最優先すべき時だ。「日本には潜在成長力がある」という声は強い。産・官・学あげて挑戦の時である。