自由貿易、規制緩和など「政治はなるべく経済に口を出さない」時代は過ぎ去り、「政治とビジネスが融合する時代だという認識を持たなくてはならない」と指摘する鈴木氏。米大統領選の結果にかかわらず米中対立は続くとみられる中、「中国だけではなく〝米国リスク〟にも備えなければならない」と語る鈴木氏に、米中対立の構造や日本企業にはどういう備えが必要なのかを聞いた。(収録は8月中旬)
米中対立の本質は「経済の武器化」
─ 前回は米大統領選の情勢分析をお聞きしましたが、結果にかかわらず米中対立は深まるように思われます。日本は米国と同盟を結んでいるので協調していくのですが、一方で中国は最大貿易相手国でもあります。日本はどういう立場を取れば良いとお考えですか。
鈴木 政治と経済は分かれた領域だと捉えられていますが、もう融合が起きているんだという認識がまず必要です。
これまでは自由貿易とか規制緩和など、政治はなるべく経済に口を出さないということが良いことだとされてきたわけですが、たとえば米国は、これから関税を上げたり輸出規制をかけてくるようになるでしょう。つまり政治がどんどん経済に口を出す時代になっていく。
中国はもともと「国家資本主義」で国が経済を仕切っているので、経済に口を出す。つまり、これまである種当たり前だった規制緩和とか国は経済に関与するなとか、そういう国と企業の関係、政治と経済の関係がどんどん変わってきている。それに拍車をかけているのが米中対立なのだと思います。
─ 鈴木さんは「経済の武器化」という言葉を使って米中対立を説明していますね。
鈴木 はい。米中はそれぞれに大国で、まともに安全保障でやり合ってしまうと大変なことが起こる。このままいけば、究極的には核戦争にまでいってしまうので、それはどうしても避けたい。でも米国からすれば、自分の覇権に挑戦してくる中国を放っておくと、負けてしまうかもしれない。そうなるわけにはいかないので、中国を何とか抑え込み、自分たちの優位性を維持しようとするのです。
中国経済は米国に相当依存していますから、中国をサプライチェーンから遮断することによって経済成長にブレーキをかけ、成長を押しとどめる。その間に米国は経済成長して、現状の差を維持する。こうした構造が「経済の武器化」であり、米中対立の本質なのです。
この米中対立というのは、米国が追いかけてくる中国を引き離すため、さまざまな手段を取っている、その中で主役になっているのが経済であるということです。
─ 一方で、米国経済も中国に相当依存していますね。
鈴木 その通りです。米国も中国に依存しているし、もっと言うと米国は世界中に依存しているので、一国だけでできることは限られているのです。だから例えば、日本や欧州など同盟国を巻き込むかたちで半導体製造装置の輸出規制を求めているのです。米国が自国の優位性を保つために、西側諸国全体でまとまって中国の脅威を押しとどめるという考えです。
─ これからもこの米中対立は続くとみて良いのでしょうか。
鈴木 そう思います。私はこの構図は、程度の差はありますが、1980年代から90年代の日米貿易摩擦に似ていると思っています。当時は日本が経済的に台頭し、米国に対するチャレンジャーとして見ていたのです。ですので、日本を押さえつけようということで、自主輸出規制だとか、いろいろなことを要求してきました。
─ 自動車、半導体分野などを標的に、数値目標も求めてきましたね。
鈴木 はい。さらに日米構造協議を通じて、日本の市場を開放しろとか、内需を拡大しろとか、そういうことも要求してきたわけです。
日本と米国は同盟国なので、日本は言うことを聞かざるを得ない立場にありました。ですから米国としては比較的交渉しやすかったのです。
ところが、米国と中国は同盟国ではありません。中国は米国の言うことを聞く義理はないわけです。そうなると、中国に対して自主輸出規制しろだの、やれ内需拡大だということを押しつけられません。
つまり、日米は何だかんだ言っても収まるところに収まったわけですが、米中は収まる地点が見えないんですね。したがって対立はこれからも続くと思います。
─ そうだとすると、世界経済にとって非常に不安定な状況がまだまだ続きますね。
鈴木 そうですね。私は米中対立が終わるのは、中国経済が弱っていく、技術的に米国を追い越すことをギブアップするか、経済的に破綻するような事態になった時だと思います。結果的に言えば、日米摩擦も日本のバブル崩壊というのがあって、落ち着いていったわけです。
中国も今の不動産市不況が続き、経済成長自体も鈍化し、ある種バブルの崩壊とは言いませんけれども、経済的な停滞が続けば米国の優位性は維持される。そうなると、どこかで収束地点が見えてくるかもしれません。
─ 今、中国では、経済減速に直面しています。国を統括する中国共産党は試練を迎えると見ていいですか。
鈴木 はい。中国共産党というのは何度か甦ってきた党だと私は思っていて、1950年代の大躍進、60年代から70年代の文化大革命、二度ほど苦境から立て直してきました。
その後、1978年の改革開放路線を取った最大の立役者は鄧小平だと思います。改革開放を実行して、要するに「自分の生活が良くなっているうちは、政治体制が気に入らなくても大きな抵抗は生まれてこない」という状況を作ったのです。
ひるがえって今の中国は、経済減速に加えて、3期目に入った習近平氏の、かなり抑圧的な政治になってきている。批判の矛先が共産党に向かいかねない状況だと言えるでしょう。
大学生が一生懸命頑張っても就職できるのは半分くらい、少子高齢化が進んでいるのにもかかわらず仕事がないとか、だんだん社会の矛盾に納得がいかない層が増えてきているのは間違いありません。
ただ、反腐敗運動として特権階級を叩いて国民の不満をそらしているので、今この体制を倒さなくてはならないという大きな運動には、まだつながっていません。そういう意味では今の習氏はポピュリスト的だとも言えるでしょう。
世界を困らせる中国の「オーバーキャパシティ」問題
─ 米国、中国ともに問題を抱え込んでいるということですね。
鈴木 はい。今、中国の「オーバーキャパシティ」といわれている過剰生産が非常に問題視されています。
生産能力は変わらないのに需要が減ると、当然製品は余るわけですね。この余った分が過剰生産として輸出に回される。
安く売ることによって、市場に大きく影響を与えてしまう。中国の安い製品に淘汰されるかたちで先進国の企業が苦境に追い込まれることになります。
そうすると、当然ながら中国けしからんという論調が出てくる。このオーバーキャパシティ問題というのを中国が解決しない限り、この摩擦はもっと厳しくなると思います。
─ 関係国にとって非常に迷惑な話ですね。
鈴木 本当にそうです。本来この問題を解決するのは中国の内需の問題なんですね。内需が伸びない以上、生産をシュリンク(縮小)して産業構造を転換するか、内需を拡大して生産と需要のバランスを取るかしかありません。
生産をシュリンクさせるのは、当然雇用などいろいろ問題が出てくるので、本来ならば内需を拡大するという方向にいかなければならないんだけど、経済減速で内需による成長ができないということで、結果的に余ったその製品をどんどん輸出しています。
中国としては、これは正常な経済活動であって、輸出入というのは常にありますから、輸出する分を作って何が悪いというのが言い分なわけですね。
ですから批判に対して言い訳もしないかわりに、外から圧力をかけても言うことを聞かない。
─ ここが問題ですね。
鈴木 そうですね。ここが日米貿易摩擦と大きく違うところで、日本は何だかんだいっても言うことを聞いたわけです。でも中国は聞く耳を持たない。そこが難しいところなのです。
中国だけでなく、〝米国リスク〟にも備えが必要
─ では、日本の経済人は中国に対してどう向き合っていけば良いのでしょうか。
鈴木 私は別に中国とのビジネスをやめる必要もなければ、日本経済が中国抜きに成立するとも思ってないんです。やはり巨大な市場ですし、レアアースも含めいろいろなものを輸入しています。それが止まってしまえばわれわれも困るわけですから、中国とはうまく付き合っていく必要がある。
ただし、中国というのは政治的に非常に不透明であって、ある日突然、輸出管理が強化されて、ガリウム、ゲルマニウムが入ってこなくなる、ということが起きました。同様に、ある日突然、外資に対して嫌がらせをして、外資を追い出して国産化を進めようとすることだってあるでしょう。
つまり、これから中国はパラダイスではないんだと。リスクのあるところなんだと認識しながら、一方でビジネスはしなきゃいけない。ビジネスが突如止められたり、何か突然、財産の国有化みたいなことが始まる可能性すらあるという覚悟をもってやるべきでしょう。
簡単に言うと、72年の国交回復時は日本のビジネスが中国市場に入りたかった。今は中国でビジネスを続けたいのだけど、中国が一方的に自らの判断で経済関係を断とうとする可能性がある。
日本企業は、そうなった時でも損切りができるようにしておくべきだと思います。つまり中国ビジネスを失ったとしても、自分たちの会社は生き残るんだという構えが必要だと思います。
─ 日本企業で米中対立のあおりを受けた企業もありました。
鈴木 そうですね。新疆ウイグル産の綿を使った衣料品の輸出をアメリカに止められたことがありました。
注意しなくてはならないのは、日本は中国リスクを警戒するのと同様に〝米国リスク〟にも警戒しなくてはならない、ということです。先ほどお話したように、米中の対立というのは経済を武器に、経済を手段として起きていますから、この米中戦争に巻き込まれる可能性がいくらでもあるわけです。
その要因は中国だけじゃなくて、米国にもあるわけです。われわれは中国のことばかり言いますけど、米国だって十分リスクのある市場なのです。ある日突然米国で製造した製品が輸出できなくなるとか、ある日突然、中国の素材を使ったものを米国に輸出できなくなるとか、そういったことはこれからもあり得ます。
米国、中国、両方の市場を失うわけにはいきません。米国の場合は少なくともわれわれが国としてシャットアウトされることはないので、米国の規制とかいろいろな社会的風土も含めて、状況に合わせて売れる製品、こういう製品はリスクがあるから米国には売らないでおこう、というような判断をしていくことが求められるわけです。
─ こうした経済安全保障の時代に、日本の経済人に対するアドバイスを聞かせてください。
鈴木 これからグローバル化する中で、自由貿易が当たり前で、中国に投資しようがミャンマーに投資しようが、「どこでやってもビジネスはビジネスだ」と言い切れた時代というのがあったわけですけれども、今やそれは通用しない。「ビジネスは政治なんだ、政治はビジネスなんだ」という、この融合が起きているということを認識しなくてはなりません。それがいいとか悪いとかじゃなくてそういう時代なので、それとどう付き合うかという段階になってきているということです。(了)
米中対立の本質は「経済の武器化」
─ 前回は米大統領選の情勢分析をお聞きしましたが、結果にかかわらず米中対立は深まるように思われます。日本は米国と同盟を結んでいるので協調していくのですが、一方で中国は最大貿易相手国でもあります。日本はどういう立場を取れば良いとお考えですか。
鈴木 政治と経済は分かれた領域だと捉えられていますが、もう融合が起きているんだという認識がまず必要です。
これまでは自由貿易とか規制緩和など、政治はなるべく経済に口を出さないということが良いことだとされてきたわけですが、たとえば米国は、これから関税を上げたり輸出規制をかけてくるようになるでしょう。つまり政治がどんどん経済に口を出す時代になっていく。
中国はもともと「国家資本主義」で国が経済を仕切っているので、経済に口を出す。つまり、これまである種当たり前だった規制緩和とか国は経済に関与するなとか、そういう国と企業の関係、政治と経済の関係がどんどん変わってきている。それに拍車をかけているのが米中対立なのだと思います。
─ 鈴木さんは「経済の武器化」という言葉を使って米中対立を説明していますね。
鈴木 はい。米中はそれぞれに大国で、まともに安全保障でやり合ってしまうと大変なことが起こる。このままいけば、究極的には核戦争にまでいってしまうので、それはどうしても避けたい。でも米国からすれば、自分の覇権に挑戦してくる中国を放っておくと、負けてしまうかもしれない。そうなるわけにはいかないので、中国を何とか抑え込み、自分たちの優位性を維持しようとするのです。
中国経済は米国に相当依存していますから、中国をサプライチェーンから遮断することによって経済成長にブレーキをかけ、成長を押しとどめる。その間に米国は経済成長して、現状の差を維持する。こうした構造が「経済の武器化」であり、米中対立の本質なのです。
この米中対立というのは、米国が追いかけてくる中国を引き離すため、さまざまな手段を取っている、その中で主役になっているのが経済であるということです。
─ 一方で、米国経済も中国に相当依存していますね。
鈴木 その通りです。米国も中国に依存しているし、もっと言うと米国は世界中に依存しているので、一国だけでできることは限られているのです。だから例えば、日本や欧州など同盟国を巻き込むかたちで半導体製造装置の輸出規制を求めているのです。米国が自国の優位性を保つために、西側諸国全体でまとまって中国の脅威を押しとどめるという考えです。
─ これからもこの米中対立は続くとみて良いのでしょうか。
鈴木 そう思います。私はこの構図は、程度の差はありますが、1980年代から90年代の日米貿易摩擦に似ていると思っています。当時は日本が経済的に台頭し、米国に対するチャレンジャーとして見ていたのです。ですので、日本を押さえつけようということで、自主輸出規制だとか、いろいろなことを要求してきました。
─ 自動車、半導体分野などを標的に、数値目標も求めてきましたね。
鈴木 はい。さらに日米構造協議を通じて、日本の市場を開放しろとか、内需を拡大しろとか、そういうことも要求してきたわけです。
日本と米国は同盟国なので、日本は言うことを聞かざるを得ない立場にありました。ですから米国としては比較的交渉しやすかったのです。
ところが、米国と中国は同盟国ではありません。中国は米国の言うことを聞く義理はないわけです。そうなると、中国に対して自主輸出規制しろだの、やれ内需拡大だということを押しつけられません。
つまり、日米は何だかんだ言っても収まるところに収まったわけですが、米中は収まる地点が見えないんですね。したがって対立はこれからも続くと思います。
─ そうだとすると、世界経済にとって非常に不安定な状況がまだまだ続きますね。
鈴木 そうですね。私は米中対立が終わるのは、中国経済が弱っていく、技術的に米国を追い越すことをギブアップするか、経済的に破綻するような事態になった時だと思います。結果的に言えば、日米摩擦も日本のバブル崩壊というのがあって、落ち着いていったわけです。
中国も今の不動産市不況が続き、経済成長自体も鈍化し、ある種バブルの崩壊とは言いませんけれども、経済的な停滞が続けば米国の優位性は維持される。そうなると、どこかで収束地点が見えてくるかもしれません。
─ 今、中国では、経済減速に直面しています。国を統括する中国共産党は試練を迎えると見ていいですか。
鈴木 はい。中国共産党というのは何度か甦ってきた党だと私は思っていて、1950年代の大躍進、60年代から70年代の文化大革命、二度ほど苦境から立て直してきました。
その後、1978年の改革開放路線を取った最大の立役者は鄧小平だと思います。改革開放を実行して、要するに「自分の生活が良くなっているうちは、政治体制が気に入らなくても大きな抵抗は生まれてこない」という状況を作ったのです。
ひるがえって今の中国は、経済減速に加えて、3期目に入った習近平氏の、かなり抑圧的な政治になってきている。批判の矛先が共産党に向かいかねない状況だと言えるでしょう。
大学生が一生懸命頑張っても就職できるのは半分くらい、少子高齢化が進んでいるのにもかかわらず仕事がないとか、だんだん社会の矛盾に納得がいかない層が増えてきているのは間違いありません。
ただ、反腐敗運動として特権階級を叩いて国民の不満をそらしているので、今この体制を倒さなくてはならないという大きな運動には、まだつながっていません。そういう意味では今の習氏はポピュリスト的だとも言えるでしょう。
世界を困らせる中国の「オーバーキャパシティ」問題
─ 米国、中国ともに問題を抱え込んでいるということですね。
鈴木 はい。今、中国の「オーバーキャパシティ」といわれている過剰生産が非常に問題視されています。
生産能力は変わらないのに需要が減ると、当然製品は余るわけですね。この余った分が過剰生産として輸出に回される。
安く売ることによって、市場に大きく影響を与えてしまう。中国の安い製品に淘汰されるかたちで先進国の企業が苦境に追い込まれることになります。
そうすると、当然ながら中国けしからんという論調が出てくる。このオーバーキャパシティ問題というのを中国が解決しない限り、この摩擦はもっと厳しくなると思います。
─ 関係国にとって非常に迷惑な話ですね。
鈴木 本当にそうです。本来この問題を解決するのは中国の内需の問題なんですね。内需が伸びない以上、生産をシュリンク(縮小)して産業構造を転換するか、内需を拡大して生産と需要のバランスを取るかしかありません。
生産をシュリンクさせるのは、当然雇用などいろいろ問題が出てくるので、本来ならば内需を拡大するという方向にいかなければならないんだけど、経済減速で内需による成長ができないということで、結果的に余ったその製品をどんどん輸出しています。
中国としては、これは正常な経済活動であって、輸出入というのは常にありますから、輸出する分を作って何が悪いというのが言い分なわけですね。
ですから批判に対して言い訳もしないかわりに、外から圧力をかけても言うことを聞かない。
─ ここが問題ですね。
鈴木 そうですね。ここが日米貿易摩擦と大きく違うところで、日本は何だかんだいっても言うことを聞いたわけです。でも中国は聞く耳を持たない。そこが難しいところなのです。
中国だけでなく、〝米国リスク〟にも備えが必要
─ では、日本の経済人は中国に対してどう向き合っていけば良いのでしょうか。
鈴木 私は別に中国とのビジネスをやめる必要もなければ、日本経済が中国抜きに成立するとも思ってないんです。やはり巨大な市場ですし、レアアースも含めいろいろなものを輸入しています。それが止まってしまえばわれわれも困るわけですから、中国とはうまく付き合っていく必要がある。
ただし、中国というのは政治的に非常に不透明であって、ある日突然、輸出管理が強化されて、ガリウム、ゲルマニウムが入ってこなくなる、ということが起きました。同様に、ある日突然、外資に対して嫌がらせをして、外資を追い出して国産化を進めようとすることだってあるでしょう。
つまり、これから中国はパラダイスではないんだと。リスクのあるところなんだと認識しながら、一方でビジネスはしなきゃいけない。ビジネスが突如止められたり、何か突然、財産の国有化みたいなことが始まる可能性すらあるという覚悟をもってやるべきでしょう。
簡単に言うと、72年の国交回復時は日本のビジネスが中国市場に入りたかった。今は中国でビジネスを続けたいのだけど、中国が一方的に自らの判断で経済関係を断とうとする可能性がある。
日本企業は、そうなった時でも損切りができるようにしておくべきだと思います。つまり中国ビジネスを失ったとしても、自分たちの会社は生き残るんだという構えが必要だと思います。
─ 日本企業で米中対立のあおりを受けた企業もありました。
鈴木 そうですね。新疆ウイグル産の綿を使った衣料品の輸出をアメリカに止められたことがありました。
注意しなくてはならないのは、日本は中国リスクを警戒するのと同様に〝米国リスク〟にも警戒しなくてはならない、ということです。先ほどお話したように、米中の対立というのは経済を武器に、経済を手段として起きていますから、この米中戦争に巻き込まれる可能性がいくらでもあるわけです。
その要因は中国だけじゃなくて、米国にもあるわけです。われわれは中国のことばかり言いますけど、米国だって十分リスクのある市場なのです。ある日突然米国で製造した製品が輸出できなくなるとか、ある日突然、中国の素材を使ったものを米国に輸出できなくなるとか、そういったことはこれからもあり得ます。
米国、中国、両方の市場を失うわけにはいきません。米国の場合は少なくともわれわれが国としてシャットアウトされることはないので、米国の規制とかいろいろな社会的風土も含めて、状況に合わせて売れる製品、こういう製品はリスクがあるから米国には売らないでおこう、というような判断をしていくことが求められるわけです。
─ こうした経済安全保障の時代に、日本の経済人に対するアドバイスを聞かせてください。
鈴木 これからグローバル化する中で、自由貿易が当たり前で、中国に投資しようがミャンマーに投資しようが、「どこでやってもビジネスはビジネスだ」と言い切れた時代というのがあったわけですけれども、今やそれは通用しない。「ビジネスは政治なんだ、政治はビジネスなんだ」という、この融合が起きているということを認識しなくてはなりません。それがいいとか悪いとかじゃなくてそういう時代なので、それとどう付き合うかという段階になってきているということです。(了)