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アズパートナーズ社長兼CEO・植村健志「人手不足のウルトラCはない。テクノロジーを使って介護業界の魅力を高めたい」

財界オンライン 2024年10月31日 7時0分

要介護高齢者増加と現役世代減少が見込まれる中、介護業界の生産性向上が叫ばれる。「入居者様の状態把握や介護の記録、ナースコールの受電など、全ての作業をスマホ1台で対応することができる」─。こう強調するのは1都4県を中心に介護付き有料老人ホームを運営するアズパートナーズ社長兼CEOの植村健志氏。今でこそ28施設を運営しているが、当初は失敗も体験した。現場の生産性向上策は現場からの声をすくい上げて構築してきた同社。成長の秘訣とは何か。


住宅から「高齢者の住まい」へ

 ─ 介護付き有料老人ホームなどのシニア事業が主力ですが、社名「アズパートナーズ」の由来から聞かせてください。

 植村 私のスタートは不動産デベロッパーのリクルートコスモス(当時)でした。1989年に新入社員として入社し、土地の仕入れや開発に従事。同社には10年いました。その後、マンション分譲のタカラレーベン(当時、現MIRARTHホールディングス)に転職し、東京・板橋の地元デベロッパーのような存在からジャスダックに上場し、東証2部、1部と階段を上がるところで常務を経験しました。

 ─ 創業が2004年です。このときは何歳でしたか。

 植村 37歳です。リクルートコスモスやタカラレーベンにいた頃は、住宅づくりを担当していたのですが、少子高齢社会の到来を見据え、これからは住宅を作り続ける時代ではないと感じ始めていました。ただ、高齢者は増えるので、高齢者の住まいが求められてくるだろうと思ったのです。最初は介護という考えはありませんでした。

 ─ 介護施設というよりは高齢者の住まいを提供したいと。

 植村 ええ。15年間、会社員生活を送ったことを振り返り、起業するときの企業風土を考えると、いろいろな方々のパートナーになれる会社でありたいなと。それで「アズ(~として)」と「パートナー」をくっつけて今の社名にしたという経緯です。

 ─ 高齢者の住宅づくりは通常の住宅とは違うのですか。

 植村 はい。高齢者の住まいはハードを作るだけではなく、家の中での生活のサポートが必要になります。ですから、結果として介護を手掛けることになったわけです。ただ、やってみると、介護業界は時代の流れにとても遅れていると感じました。

 このままでは業界が成り立たなくなる。そう感じましたね。それで自ら介護付きの老人ホームをメイン事業に据えていこうと動き出しました。同時に、介護施設の開発などを担う不動産事業もスタートさせたのです。

 ─ それでは当初はゼロからの手探り状態だったと。

 植村 そうですね。介護保険法が施行されたのが2000年。まだ民間がどういう立ち位置で、どういう役割を担うか明確になっていないときでした。もともと介護は福祉に組み込まれ、社会福祉法人がやるものだという組み立てでしたが、同法の施行を通じて、国が民間に運営を任せるという流れになっていったのです。ただ、当時の訪問介護最大手のコムスンの事件で業界は少しバタバタしていましたね。


2・3棟目で失敗した経験

 ─ 第1号の施設をつくった場所はどこだったのですか。

 植村 神奈川県・横浜市鶴見区の「アズハイム横浜東寺尾」です。当時はバブル崩壊後という時代背景もあって、企業の寮や社宅が余り、たくさんの施設が地主に返納されていました。そこで当社は日立製作所の社員寮を借り受け、それをリノベーションして老人ホームにしたのです。企業の寮には大きい食堂やお風呂があり、小さい部屋がたくさんある。老人ホームにうってつけだったのです。

 当社は建築が得意だったので、洒落たリノベーションも施しましたので、何とか全室埋めることができました。ところが2棟目、3棟目と棟数を増やしていくとうまくいかない。なぜなら我々は住宅の感覚でお客様を集めようとしたのですが、要介護の高齢者はマンション販売のチラシや広告宣伝で集まるものではなかったからです。

 ─ すぐに壁にぶつかったということですね。

 植村 ええ。要介護の高齢者を集めるためには、病院や地域のケアマネージャーなどと接点を持たないといけなかったのです。ですから苦しい時期が続きました。毎月、資金繰りでひいひい言っていましたね(笑)。ただ、既に不動産事業も行っていたので、何とか会社の存続は守ることができました。

 ─ それをどう教訓にして手を打っていきましたか。

 植村 当初、高齢者が喜ぶと思ってひのき風呂にしたのですが、掃除はしにくいし、滑りやすい。スタッフからは大批判で、すぐに取り替えました。コンセントの位置も通常の位置だと高齢者にとっては低すぎるので、高さを40センチから60センチに変え、毛足の長いカーペットを敷いていたのを、車椅子が押しにくくて仕方がないし、お客様が失禁された時に取り換えるのが大変だということでやめました。学ぶことがたくさんありましたね。

 もともと現場の声をしっかり聞く経営をしたいと思っていたので、現場の声をどんどん取り入れていきました。その過程で特別養護老人ホームの入所待機者問題が起き、ニーズを強く感じることができたのです。ですから、ここから15年~20年は高齢者や後期高齢者が増え続けるので、必ず需要があるなと。



入居者の呼吸や心拍などを把握

 ─ その中で強みとは。

 植村 当社はデータに基づいたケアを強みとしています。一人ひとりに合ったケアを提供できるからです。当社は2017年から「EGAO link(アガオリンク)」というシステムを導入し、ご入居様のベッド上での状態把握や呼吸、心拍、介護の記録などをスマートフォン1台で管理しています。

 このシステムによって入居者様の睡眠や薬、病気といった個人のデータを蓄積し、その人に合ったケアを提供できるようになります。科学的介護という表現が使われたりしますが、当社はおそらくこの分野で最先端を走っていると思います。

 ─ 現場スタッフの業務負荷の軽減につながりますね。

 植村 はい。ベッドの下に敷くセンサーはパラマウントベッド社の「眠りSCAN」という呼吸と心拍でお客様の健康状態が分かる技術を活用しているのですが、通常ならパソコンを立ち上げないとデータが分からない。それでは当社のオペレーションは変わりません。そこでデータをスマホに飛ばしてチェックできるようにしました。

 それに加えて、介護の記録もスマホで確認できるようにして、センサーで歩行が不安定な方が夜間に目を覚まされたらスマホにコールが鳴るようにしています。また、ナースコールもスマホで受けることができるようにしていますので、当社のケアスタッフはスマホ1台あれば、全てのオペレーションをこなすことができるわけです。

 ─ 生産性向上につながる取り組みですね。他の介護事業者からも声がかかりませんか。

 植村 そうですね。今後は介護DXのサポート事業でコンサルティングフィーをいただくビジネスも伸ばしていきたいなと考えています。やっと国も介護保険の中で、ITを導入した事業者には加算を付けるようにしましたからね。他の介護事業者もデジタル化に動き出すと思います。

 そこで当社はどうしたら夜勤を4人から2人に減らせるかといったオペレーションの改善をサポートするコンサルを提案していきたいと。エガオリンクも1事業所当たり2500~3000万円ほどのコストがかかります。ただ、これを導入すれば、人件費は1事業所当たり正社員2~3人減らせる可能性があります。そうすると、2年で投資額を回収することができます。

 ─ 全産業で人手不足が大きな課題です。特に医療や介護は深刻だと言われています。

 植村 これを解決するウルトラCはないと思っています。やはり当社自身が魅力的な会社になるしかありません。当社としては、介護という仕事、アズパートナーズで働くことが魅力的だと思ってもらうことが大事だと思うのです。ですから、企業風土や文化も大事ですし、先ほどの現場の声に耳を傾けることが重要になると思います。

 ─ 社員数はどのくらいで、男女の比率はどれくらいですか。

 植村 従業員数は約1700人で、パートも含めて男女比率で言えば、男性が1に女性が2です。新卒でいうと、ここ3年間、174人、178人、190人を採っています。ありがたいことで、業界でもこれほどの規模の新卒を採ることができている会社はないと思います。

 ─ 新卒は、大卒という意味ですか。

 植村 そうです。この4月に入社する190人、ほとんどが大卒になります。15%程度は大学時代から福祉系の学部で勉強してきた学生になりますが、残る8割以上は文学部や経済学部といった就活をきっかけに介護の仕事に出会った学生になります。当社と出会って、当社に魅力を感じて介護の世界に来たという学生もいます。


意思決定のスピードを強みに

 ─ 2024年4月に東証スタンダードに上場したわけですが、上場の理由は何でしたか。

 植村 創業して16年目にコロナ禍が起きました。もともと私はこの会社の企業風土や文化をどう残すかをずっと考えていたのです。私自身、あと2年で還暦を迎えます。私が社長をずっと務めていなくても生き残っていく会社であって欲しい。

 様々な方面から会社を売りませんかという声をかけてもらったこともありますが、会社を売ってしまえば当然、企業風土や文化は変わってしまう。企業風土や文化を残しながら、次の世代に経営のバトンを渡したいと思ったときに、IPOをするしかないなと考えました。

 ─ 介護分野は大手の保険会社や損害保険会社、出版会社など参入が多岐にわたりますが。

 植村 先ほどのIoTやICTなども含めたデジタル機器の導入や、それを通じたオペレーション改善は当社のような規模の会社と大企業とはスピード感が全く違うと思います。投資を決断する意思決定のスピードも違うでしょうし、現場からの声が経営に伝わるまでにも時間がかかるでしょう。現場と経営の近さは当社の強みだと思います。

 ─ 業績では25年3月期も増収増益が続く見込みですね。

 植村 事業所を作って満室にしていくことが当社の事業モデルですが、1事業所当たりの部屋数を今後は増やしていく予定です。これまでは1事業所当たり60~70室が多かったのですが、今は90室や100室と大型化しています。満室にするまで時間はかかりますが、満室になったときの利益額が圧倒的に良くなるからです。その分、エガオリンクなどのシステムを活用して人件費を抑えていくと。

 それから不動産事業で言えば、当社が比較的得意な開発関連を伸ばしていきたい。介護付き有料老人ホームを自社で開発し、土地と建物のアセットをヘルスケアのリートに売却したりする。この事業も軌道に乗ってきました。当社の強みである不動産の開発と運営の両方の強みを生かした事業で成長していきます。

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