これからの日本の生業は何なのか?
─ 石破茂政権が誕生し、衆議院の解散で国民に信を問う衆院選が始まりました。寺島さんは現状をどのように受け止めていますか。
寺島 この1カ月間で、われわれが眼にしたことを追っていくと、まず自民党総裁選が行われました。ここで最初に出たキーワードは〝刷新感〟です。自民党というコップの中の嵐に過ぎないのですが、この中にいる人たちは、例えば小泉進次郎氏というカードを切れば、刷新感を国民にアピールできると考えました。
ところが、9人の候補者が登場し、議論をしたところ、たちまち不安がよぎり始めました。様々な世論調査でもその傾向が出始めたのです。
ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト・矢嶋康次の提言「岸田政権が残した光と影」
─ ストレートに言えば、小泉さんには任せられない、荷が重いと判断したわけですね。
寺島 今年の政治関連の動きでよく名前が挙がった、小泉氏や都知事選に出馬した石丸伸二氏、そして兵庫県前知事の斎藤元彦氏ですが、実は皆さん40代です。年齢的にも、彼らは日本の次のリーダーを担おうとしている人たちです。
決して世代論だけで決めつけるわけではありませんが、わたしは彼らの親世代なのでよく思うことがあります。それは、一般的に40代から50代に差し掛かろうという人たちというのは、現場で20年近く鍛えられて、そろそろ大人としての識見や責任、次の世代に関する構想を持っているものです。しかし、彼らが発するメッセージによく耳を傾けてみましたが、正直ため息が出る思いでした。
─ それは話の中身がないということですか。
寺島 つまり、次の時代を創造できるポテンシャルや構想力がほとんど感じられません。これは残念なことですし、なぜなのかと思いました。
ただし、このことは彼らの世代に限った話ではなく、わたしの同世代においても、政治などのリーダーであるにもかかわらず、自分のことしか考えず、あまりにも稚拙な行動をとって失脚をしていったケースも決して少なくありません。もっと責任をもった大人として、将来この国をどうしたいのかを語ることのできるリーダーはいないのか、という思いです。
─ 将来展望を語る人がいなくなったということですね。これは野党も同じですね。
寺島 立憲民主党も野田佳彦代表が就任しましたが、自民党が保守化したと言われる中で、第二保守党のような存在になってしまったと言えます。
特に思うのは、立憲民主党も日本維新の会も同じですが、どこの政党も「分配」ばかりを議論して、日本のモノづくり産業をどう立て直すのか、これからの日本の生業をどうするのか、などという経済・産業政策についての議論が見えてきません。
─ これはどう考えればいいんですか。日本人に考える力が無いということですか。
寺島 われわれ戦後生まれの団塊世代というのは、日本人として初めて、「君は自由に生きて良い」というチャンスを与えられた世代なのです。徴兵制があるわけでもない、兵隊検査で殴り倒されるわけでもない、自分たちで好きに生きて良いと言われた初めての世代です。
その結果、われわれの世代が身に付けたことは「私生活主義」です。誰にも干渉されたくないし、干渉する気もない。自分の私生活を守りたいという価値観の中で生きることが許されてきた世代です。
これはわたしも忸怩たる思いがありますが、自分たちも子どもに対して、君たちは好きなことをやったらいいではないかということを言い続けてきました。好きなことにチャレンジしろ、ということを教育的なメッセージとして発してきたわけです。
ところが、今の40代、それもリーダーになりたいという人たちを見て感じますが、やはり、若いうちに不条理だと思うことも受け止めて、耐えながら、組織を支え、這いつくばって考えた意見だなと思えるような経験を積み、発言をする人がほとんどいないということが実状だと思います。
大和総研副理事長・熊谷亮丸氏の視点「岸田政権の成果と積み残された課題」
アベノミクスの総括が必要
─ では、今、リーダーが考えるべきことは何だと考えますか。
寺島 まずは本質を見据えた総括をすることが大事です。真剣に今の日本に何が問われているかを考えた時に、われわれは次元の低いアベノミクス批判ではなく、安倍政権が何を残したのかを冷静に考えるべきです。
続きは本誌で
─ 石破茂政権が誕生し、衆議院の解散で国民に信を問う衆院選が始まりました。寺島さんは現状をどのように受け止めていますか。
寺島 この1カ月間で、われわれが眼にしたことを追っていくと、まず自民党総裁選が行われました。ここで最初に出たキーワードは〝刷新感〟です。自民党というコップの中の嵐に過ぎないのですが、この中にいる人たちは、例えば小泉進次郎氏というカードを切れば、刷新感を国民にアピールできると考えました。
ところが、9人の候補者が登場し、議論をしたところ、たちまち不安がよぎり始めました。様々な世論調査でもその傾向が出始めたのです。
ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト・矢嶋康次の提言「岸田政権が残した光と影」
─ ストレートに言えば、小泉さんには任せられない、荷が重いと判断したわけですね。
寺島 今年の政治関連の動きでよく名前が挙がった、小泉氏や都知事選に出馬した石丸伸二氏、そして兵庫県前知事の斎藤元彦氏ですが、実は皆さん40代です。年齢的にも、彼らは日本の次のリーダーを担おうとしている人たちです。
決して世代論だけで決めつけるわけではありませんが、わたしは彼らの親世代なのでよく思うことがあります。それは、一般的に40代から50代に差し掛かろうという人たちというのは、現場で20年近く鍛えられて、そろそろ大人としての識見や責任、次の世代に関する構想を持っているものです。しかし、彼らが発するメッセージによく耳を傾けてみましたが、正直ため息が出る思いでした。
─ それは話の中身がないということですか。
寺島 つまり、次の時代を創造できるポテンシャルや構想力がほとんど感じられません。これは残念なことですし、なぜなのかと思いました。
ただし、このことは彼らの世代に限った話ではなく、わたしの同世代においても、政治などのリーダーであるにもかかわらず、自分のことしか考えず、あまりにも稚拙な行動をとって失脚をしていったケースも決して少なくありません。もっと責任をもった大人として、将来この国をどうしたいのかを語ることのできるリーダーはいないのか、という思いです。
─ 将来展望を語る人がいなくなったということですね。これは野党も同じですね。
寺島 立憲民主党も野田佳彦代表が就任しましたが、自民党が保守化したと言われる中で、第二保守党のような存在になってしまったと言えます。
特に思うのは、立憲民主党も日本維新の会も同じですが、どこの政党も「分配」ばかりを議論して、日本のモノづくり産業をどう立て直すのか、これからの日本の生業をどうするのか、などという経済・産業政策についての議論が見えてきません。
─ これはどう考えればいいんですか。日本人に考える力が無いということですか。
寺島 われわれ戦後生まれの団塊世代というのは、日本人として初めて、「君は自由に生きて良い」というチャンスを与えられた世代なのです。徴兵制があるわけでもない、兵隊検査で殴り倒されるわけでもない、自分たちで好きに生きて良いと言われた初めての世代です。
その結果、われわれの世代が身に付けたことは「私生活主義」です。誰にも干渉されたくないし、干渉する気もない。自分の私生活を守りたいという価値観の中で生きることが許されてきた世代です。
これはわたしも忸怩たる思いがありますが、自分たちも子どもに対して、君たちは好きなことをやったらいいではないかということを言い続けてきました。好きなことにチャレンジしろ、ということを教育的なメッセージとして発してきたわけです。
ところが、今の40代、それもリーダーになりたいという人たちを見て感じますが、やはり、若いうちに不条理だと思うことも受け止めて、耐えながら、組織を支え、這いつくばって考えた意見だなと思えるような経験を積み、発言をする人がほとんどいないということが実状だと思います。
大和総研副理事長・熊谷亮丸氏の視点「岸田政権の成果と積み残された課題」
アベノミクスの総括が必要
─ では、今、リーダーが考えるべきことは何だと考えますか。
寺島 まずは本質を見据えた総括をすることが大事です。真剣に今の日本に何が問われているかを考えた時に、われわれは次元の低いアベノミクス批判ではなく、安倍政権が何を残したのかを冷静に考えるべきです。
続きは本誌で