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≪単なる航空券の引き換えから独自の経済圏づくりへ≫日常生活に溶け込むJALの「マイルライフ構想」

財界オンライン 2024年11月5日 18時0分

いかに航空業以外の柱をつくるかー。コロナ禍を経てどの航空会社も直面している課題だ。その中で日本航空(JAL)はかねてより展開していたポイントサービスの「マイレージ」に活路を見出す。日常生活でいかに貯めやすく使いやすくするシーンを増やすか。そして他社との差別化要因として1マイル=1円という戦略とは距離を置き、マイルそのものの付加価値を高めるマイルライフ構想を描く。


電気代や住宅ローン、保険などで貯まる

「フルサービスキャリア(FSC)だけでは、次のパンデミックのような事態が起こると再び利益が出なくなってしまう。FSC以外でも常に安定した利益が出せるような事業をしっかり担保していきたい」ー。こう強調するのはJAL社長・グループCEOの鳥取三津子氏。

 4月に始動した鳥取体制の下、同社は2025年度を最終年度とする「JALグループ中期経営計画」を策定。コロナ禍で航空機の利用がなくなり、収益が全く上がらないという"どん底"を経験したことを受け、同社は利益構造の再構築を図っている。その方策の1つが航空事業からの脱却であり、「マイル」だ。 

 マイルとは各航空会社が提供するポイントプログラムのこと。航空会社のマイレージプログラムに入会した上で、その航空会社の飛行機を利用したり、対象サービスを利用したりすると、フライトの距離や利用金額などの条件に応じてマイルが貯まる。

 このマイルの在り方が大きく変わり始めている。「従来までのマイルを貯めれば特典航空券を入手できるだけでなく、日常生活を送る中でもマイルが貯まり、使えるようにしていく」。マイレージ事業部業務グループの松本誠也氏はこのように語る。

 これまでマイルは飛行機に乗った距離に応じて貯まり、特典航空券との引き換えにしか使えなかった。ところが今は日用品の買い物をした場合をはじめ、毎月の電気代の支払いや通勤・通学、散歩などで歩いた歩数に応じてマイルが貯まったり、住宅ローンや医療保険などでもマイルが貯まるようになった。

 一方、使う場合も日用品の買い物はもちろん、一般席よりグレードの高い座席で演劇を観覧したり、お酒などを嗜みながらスポーツを観戦できる特別な座席に引き換えることができたり、通常であれば百貨店でしか販売していない地域の名産品を手に入れることができたりする。

 さらに松本氏はこのマイルを貯めたり、使いやすくなる環境整備も進めてきたと語る。これまでJALのマイルの会員になるためには、クレジットカードの「JALカード」に入会しなければならなかった。そのため、審査を経て年会費を支払う必要があった。しかし今は年会費無料で誰でもダウンロードが可能なスマートフォン決済サービス「JALペイ」を展開。「マイルと接するためのハードルを下げている」と松本氏は語る。

 累計3800万人の会員数を誇るものの、そのメインとなっている年齢層は40~50代。若年層をいかに取り込むかが課題となっているが、アプリの展開によってスマホ決済ができるようになれば、その敷居は自ずと低くなる。「若いときに大きな買い物はできなくても、年齢を重ねたときにはマイル会員のステータスが上がり、ラウンジを無料に使えるようになったりする」(同)。そうすれば、継続的にJALの航空便に乗ってもらえるわけだ。



他のポイントとの差別化要素 

 大ポイント競争時代ー。いま国内では業種を問わず、様々な企業によるポイントサービスの顧客争奪戦が繰り広げられている。楽天グループによる「楽天ポイント」をはじめ、ソフトバンクグループ系の「PayPayポイント」、TSUTAYAの運営会社が展開してきた「Tポイント」と三井住友フィナンシャルグループのポイントが統合した「Vポイント」、NTTドコモの「dポイント」など、まさに群雄割拠の様相を呈している。

 その中でマイルの立ち位置はどのようなものなのか。松本氏は「1万ポイントと1万マイルの価値は違うものと認識している」と話した上で、1ポイント=1円といった還元率が一般的な中で「1マイル=2円、4円、10円といった具合に価値を高めていく」と同氏は強調する。

 前述の演劇の観覧のように、通常では売り出していない体験型のコト消費をマイルで引き換えることができるようになれば、他のポイントとの差別化が図られる。しかも、JALと提携し、演劇などを提供する企業にとっては、よりハイクオリティを求める顧客に自社のサービスを体験してもらえるという好循環につながる可能性が高い。

 JALが期待するのはここだ。可処分所得の多い層にマイル会員になってもらい、マイルを貯めて使ってもらうことで、本業につながる特典航空券の利用や付加価値の高い他社の商材を買ってもらうことができるからだ。すると、他社もJALとの連携に動き出そうとする。

 JALのマイルへの意気込みは経営目標にも表れている。先の中計では25年度のEBIT(利払い・税引き前利益)は2000億円としているが、その内訳をみると、500億円がマイルを含めたマイル・ライフ・インフラ事業。全体の4分の1を占める計算になる。足元の345億円から約1.5倍の成長だ。

 マイルの歴史を遡れば、1981年に米アメリカン航空などが米国で始めたのがマイルの始まり。JALは83年に米国で展開を開始し、それを日本でも展開するようになった。それから約40年が経過した。

 マイルは航空券と引き換えることができる特典から、人々の行動変容や意識変化をもたらす特典へと変わっている。JALのマイルを他のポイント群と差別化できるかどうかー。それが自社の屋台骨となる事業に育てられるかどうかにつながる。

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