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河原田岩夫・ヤマタネ社長「産地と一緒に社会課題を解決し、儲かる農業をつくる!」

財界オンライン 2024年11月28日 11時30分

「儲かる農業にするために必要なのは経営の近代化─」こう語るのは今年創業100周年を迎えるヤマタネ社長・河原田岩夫氏。ヤマタネは、倉庫業を中心とする物流事業などを展開するほか、祖業としてコメ卸売事業を100年の間続けてきた。原料高などでコメ価格が高騰する中、今年のコメ価格は40%増の価格で市場に出回る。これまでのコメ価格は安すぎたという側面もあり生産者の収入は上がらず、後継者不足という問題も抱える。日本の農業の伸展にも関わるヤマタネの将来の経営ビジョンとは─。


創業家からバトンタッチ

 ─ 今年の6月に社長就任されましたが、まずは抱負から聞かせてくれませんか。

 河原田 前任の社長は山﨑元裕(現・会長)という創業者の孫です。創業100周年というタイミングで社長のバトンを受けましたので、ヤマタネグループは第2の創業期に入ったと考えています。社員には私が社長を引き受けた理由を、大きく分けて三つのワクワクすることがあるからだ、と説明しています。

 一つは、ヤマタネグループが持っているポテンシャルの高さです。例えば、当社は愚直で、真面目に仕事に取り組む社員が本当に多い。当たり前といえば当たり前ですが、人を受け入れる非常に優しい社員がたくさんいる。象徴的な事例ですが、ヤマタネグループに中途採用で入社した社員が辞めることはほとんどありません。

 また、「信は万事の本を為す」という理念で築いた信用ネットワークもポテンシャルです。

 物流事業でいえば、大手のメーカーなど荷主様から長年にわたるお付き合いをいただいていて、ヤマタネさんに任せておけば大丈夫だねというような声も多くいただいています。

 あるいはコメ卸売事業においても、産地からの絶大な信頼があります。ある意味では商売下手だということもあるかもしれませんが、産地との約束事は必ず守っています。

 ─ 信頼でつないできていると。

 河原田 はい。後ほどお話するように、われわれは外国人人材を派遣する会社とも資本業務提携をしていますが、そういったベンチャー企業が東北の生産地に行って特定技能外国人の案内を行うとします。人が足りないという現実はあるのですが、生産地は、初対面で急に外国人人材を派遣すると言われても、なかなか受け入れるのは難しいと思います。

 そこでヤマタネグループが資本業務提携をして、一緒に産地に入ると、ヤマタネさんが手伝ってくれるなら、と安心してくださいます。これは一つの事例ですが、産地から信頼されているという自負がありますし、わたし自身もヤマタネに入社してから多くの産地の方と会ってきて、この信頼というネットワークは大きなポテンシャルだと思っています。また、本社近隣の越中島地区を始め、非常に優良なアセットを多数保有していることもポテンシャルですね。

 二つ目のワクワクは、この変化の時代に社長に就任できることです。そういう意味では今までどおりのやり方は通じません。

 三つ目のワクワクは、もともと物流、コメ卸という社会インフラを支えている企業グループであり、社員と一緒に社会課題解決型企業を目指せることです。この三つのワクワクがあるので、社長を引き受けました。

「企業文化は戦略に勝る」というドラッカーの言葉があるのですが、わたしの仕事はチャレンジ精神溢れる企業文化をつくることです。社内活性化を徹底して推進すると宣言しています。


コメがあるのは当たり前の時代ではなくなっていく

 ─ 今年の春から夏にかけては、コメがスーパーの棚からなくなり、令和の米騒動だと言われていましたが、コメ卸事業での社会課題をどう考えますか。

 河原田 一つ大きく挙げているのは産地の問題です。コメは、一時を除くと常に供給過剰です。言ってみればいつでも仕入れられる状態がずっと続いてきました。われわれは余るほどたくさんあるコメを仕入れて、いかに実需に売るかという商売をしてきているのですが、いつでもあるというコメがそうではなくなってきています。

 稲作人口も現在70万人いるのが、2040年には30万人を切ると言われています。これは人口データですから防ぎようがない事実。そうすると需要と供給のバランスは早晩崩れます。もしそうなれば、今までの立場と異なり、今度は生産者の方がコメの売り先を選ぶという立場に変わります。

 ですから産地の信頼を得なければ、われわれはコメを売ってもらえない。当然産地の課題を解決していかなければ信頼も得られません。ビジネスパートナーとして一緒に課題を解決していかなければわれわれも生き残ることができないのです。

 ─ その課題解決のポイントは何でしょうか。

 河原田 現在、産地が抱える課題はたくさんあります。例えば、後継者不足と人手不足。人手不足に対しては、特定技能外国人を1次産業に特化して派遣する人材派遣会社YUIMEと資本業務提携しています。

 あるいは、稲作だけでは儲からないというところもありますので、日本農業という農業系ベンチャーにも出資をしています。リンゴなどの果樹栽培で、単位あたりの収穫量を上げる技術を持っています。この会社と組んで稲作農家に複合農業を提案することで、儲かる農業をつくるということにチャレンジしています。

 ─ ベンチャー企業との提携を多くされていると。

 河原田 増やしています。今年の6月には、農業のデータをセンシングして、それを農業経営に生かしていく「e-kakashi(イーカカシ)」というソリューションを提供する、農業系IoTのグリーンという会社にも出資をしました。また、9月には、新潟県の生産者と組んで農業生産法人「株式会社ブルーシード新潟」を立ち上げました。

 ─ これには、農業生産法人を立ち上げないと企業は農業事業ができないという規制が関わっていますよね。

 河原田 はい。農業関係者の方が51%以上出資しないと、農地所有適格法人の要件を満たすことができません。信頼できる生産者と組んで儲かる農業をいかにつくっていくかということで、当社では研究開発投資という位置付けで取り組んでいます。

 例えば大規模農業の稲作のノウハウを持っている農家は全国にいます。そういう方々のコンサルティングを受けて、より経営体制を強化しようとすると、コンサル料だけで500万円かかるかもしれません。当然いまの稲作農家の経営収支では現実的ではありません。

 ですから当社が農業生産法人を設立し、経営のリスクはヤマタネが請け負います。3年後、5年後の儲かる農業に向けて、新しい生産手法やコンサルティングを全部入れましょうということで、今スタートしています。

 ─ 農業の在り方を変える可能性がありますね。

 河原田 先の食糧安全保障の問題もありますし、稲作人口はどんどん減っています。その理由は端的に言って儲からないからです。結局、儲けようと思うと広い土地と農機具などへの初期投資に何千万円という金額が必要になります。若い人が農業をやるべく新規参入したいと思っても、何千万円も投資できないので参入障壁が高いのです。

 ところが園芸や果樹は、比較的市場相場なので、工夫次第で儲けられます。今農業をやりたい若者は実は多いのですが、稲作には人が集まっていないのが実態です。


企業の農業参入は…

 ─ 稲作を儲かる農業にするということが大きな課題だと。企業の農業参入を進めていくべきという意見もありますが、どう考えますか。

 河原田 そうですね。本格的にコメの生産に参入している企業は少ないと思います。ですからコメにフォーカスを当てるのはわれわれの使命だと思っています。

 今まで卸機能を果たしていた当社が生産に入るというのは一種のタブーです。生産者からすると私たちの領域に入ってくるのかということなので、これまで敬遠されていたと思います。われわれ自身もそこに踏み込むのはどうかという懸念もありましたが、生産側もそうは言っていられないという状況になってきました。

 ─ これは既存の農業団体や長年の慣習も絡まってきますよね。

 河原田 そのビジネスをやるからと言ってこれまでの関係を壊すということではなく、われわれの調達ルートのメインは全農さん、JAさんですから、そこは当然一緒にやっていきます。

 結局稲作の大きな問題の一つは、経営です。農業法人は全国にたくさんありますが、家族経営がほとんどです。原価管理をきちんとせずに営んでいるところも多いので、収支が不透明な場合が多い。でも何とか食っていけるし、足りなかったら補助金の支援がある、こういったことがずっと続いています。

 ですからここに経営の観点を入れてきちんと利益を出していく。いろいろな規制があり簡単ではありませんが、信頼できる産地と組んでできることからやっていきます。

 ─ 日本の食糧自給率は38%で何かの危機があった際には非常に弱い立場になる状況です。この辺りはどう考えますか。

 河原田 これは全く私見ですが、食糧自給率を維持しようと思うと、コストがかかります。例えば今、コメの値段が急騰したと騒がれています。

 でも、生産者からするとその価格はやっと再生産を維持できる価格なのです。5㌕2000円になると、もう作り手はいなくなるかもしれません。

 今まで国民は、国産米はいつでもあって、安い方がいいということで、5㌕1980円くらいのものを求めてきた。これからもずっとそれを求めながらコメ自給率100%を維持するというのは難しい話です。

 ですから作り手側もコスト意識を持って原価を下げる努力をしなくてはいけませんが、今まで消費者はそれを当たり前のように享受してきているわけです。

 本当にコメ自給率100%を維持するのであれば、消費者側も生産者側もお互いの状況を理解していくかたちにしなければ続かないと思います。今まではそれを補助金で埋めていたのです。そうすると、当然それはひずみになる訳です。

 ─ 適正な販売価格を模索しなくてはいけないですね。

 河原田 スイスの事例で言えば国産品を優遇しています。永世中立国で自国を守る防衛意識が高く、国民もそれは当然だと。

 農業に対するリスペクトがまるで違います。

 ─ そのあたりが日本は反省点ですね。

 河原田 ええ。ですからコメ自給率100%の維持を掲げるのであれば、前提として農業に対してのリスペクトが必須です。農業で働くことがかっこいいことなのだと。社会に貢献し日本を支えているのだということをもっと伝えるべきだし、重要な仕事をしているのであれば当然経済的にも報酬を高くしなければいけません。

 ボランティア精神や社会貢献への想いだけでは現実的に人間は生きていけません。それを実現する仕組みが必要だと考えています。


海外市場も視野に

 ─ 今回インバウンド(訪日観光客)におにぎりが人気だという声も多いですよね。

 河原田 はい。実際海外のおにぎり屋は今ブレークしていると聞きますね。出ていく市場でいえば欧米ですよね。グルテンフリーということもありますし、これから恐らく注目を浴びるのは日本の有機米です。これは欧米からすると付加価値が高く、高く売れます。

 ─ それから儲かる農業にしていくためには他業界の人も含め協力が必要ですよね。

 河原田 はい。そこは本当に産地のことを考えている経営者と、言葉は悪いですが、自社の儲けだけを考えている経営者がいますよね。

 例えば安いコメを仕入れて、付加価値を付けて高く売る。でもそのビジネスモデルの原点は安いコメです。それで産地は喜ぶのかということですよね。われわれはこの付加価値をしっかりと産地に還元するということを考えられる経営者と組みたいと思っています。

 そこはやはり誰とでも組めばいいわけではなくて、いわゆる理念やビジョンが合う人たちと協力していきたいです。

 ─ そういう人たちは意外とおられますか。

 河原田 はい。特に若い人たちにいますね。今の若い20代、30代の方は、われわれの世代と違って真剣に社会貢献、社会課題解決を目指して、それをビジネスにしようとしています。その人たちと手を組むのはすごく大事です。われわれの出資先もほとんどそうです。

 これまで述べたことは、私が元銀行マンで、業界の外から来た人間だからこそ言えているということもあるのですが、そうは言いながら、実はわたしは愛媛県のミカン農家の次男坊なのです。大学で外へ出て銀行に就職し、一度農業を離れた人間です。だからこの歳になってヤマタネに来たのもある種、運命だと思っています。

 ─ それは縁、宿命ですね。

 河原田 そういったこともあって、自分のこれまでの経験を全部活かして頑張りたいと思っています。

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