「瞬間風速経営」の 限界が見えてきた
― 最近、カナダ企業がセブン&アイ・ホールディングスに買収提案を持ちかけたり、一方で日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画が反対されるなど、企業活動にも新しい動きが出ています。これはどう考えていけばいいですか。
寺島 良いか悪いかは別として、今は物言う株主(アクティビスト)に振り回される日本企業という構図になっています。
【論考】セブン&アイがカナダ企業から買収提案 本来あるべき企業経営のかじ取りとは?
企業は瞬間的に利益を上げて株価を上げるなど、株主への配当金を払うために3カ月決算を最大化する経営にどんどん向かっています。要するに、株主還元だけを期待する株主に立ち向かっているうちに息切れがきて、いわゆる「瞬間風速経営」の限界が見えてきました。
それは、「瞬間風速」で業績を良く見せて、自分が利益を手にしたらすぐに手放す、いわば「売り抜く資本主義」で、「育てる資本主義」ではありません。そういうことをやっている間にどんどん状況が悪化していった例の一つが東芝の事例だと思います。
─ 日本を代表する東芝がアクティビスト対応、トップ同士の対立などでおかしくなったのは本当に残念です。
寺島 東芝はそうした企業の典型だと思います。瞬間利益最大化経営のような形になって、高く売れる事業をどんどん切り離し、従業員も適正規模に減らしていく。そうやって株価を吊り上げ、株主が喜ぶ方向に持っていったわけです。東芝は最たる例ですが、大なり小なり、多くの日本企業は株主価値最大化経営に陥っています。
日本の中から、いつの間にか産業人という言葉が無くなり、マネーゲーム資本主義の中の気の利いた投資家のようになって、自分で事業をクリエイトしている人が非常に少なくなってしまいました。しかも、このことに気づいている日本人がどれだけいるのでしょうか。
─ マネーゲーム資本主義に陥っているというのは、どういうところで感じますか。
寺島 最近、わたしにとっては非常に不可解な出来事がありました。9月10日から15日にかけて、仏リヨンで技能オリンピック(技能五輪国際大会)が開催され、日本は金メダル5個を獲得しました。銀メダルは5個、銅メダルは4個。合計14のメダルを獲得した日本の青年がいるわけです。それでも、わたしは全紙チェックしましたが、一般紙でそれを報道したところは1つもありませんでした。
一方で同じく、この夏に行われたパリ・オリンピックでは連日、皆が興奮してメダルの獲得を報道していました。わたしが言いたいことは、スポーツのオリンピックと技能オリンピックの世界一というのは価値が違うのか、ということです。
技能オリンピックというと、旋盤工などの技術を競い合っているようなイメージを持っている人が多いかもしれません。ところが、競技職種をよく見てみると、そういったものだけでなく、看護・介護から美容・理容、ビューティーセラピーやレストランサービスなど、様々な競技職種があるのです。
─ 社会を支える各分野から参加して、技能を競っているということですね。
寺島 そうなのです。これらは分かりやすく言うと、「現場力」の象徴です。産業の現場力を支えるために、若い人たちが頑張って、世界で金メダルを取ったことをなぜメディアは報道しないのか? ということです。
野球選手が米メジャーリーグで活躍して1面トップに載るのであれば、産業の現場を支えて歯を食いしばって、世界大会で金メダルをとった人だって、同じように評価してもいいのではないでしょうか?
なぜ、このような差が出てきたのか、というのが、日本の資本主義や日本経済の現状を象徴していると思います。
前回のインタビューで、わたしは「真っ当な資本主義を取り戻せ」と言いました。今はマネーゲームなどの手法ではなく、地道に現場力を鍛えていくことによって、日本の産業力を培っていくことが大事なのだと思います。
続きは本誌で
― 最近、カナダ企業がセブン&アイ・ホールディングスに買収提案を持ちかけたり、一方で日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画が反対されるなど、企業活動にも新しい動きが出ています。これはどう考えていけばいいですか。
寺島 良いか悪いかは別として、今は物言う株主(アクティビスト)に振り回される日本企業という構図になっています。
【論考】セブン&アイがカナダ企業から買収提案 本来あるべき企業経営のかじ取りとは?
企業は瞬間的に利益を上げて株価を上げるなど、株主への配当金を払うために3カ月決算を最大化する経営にどんどん向かっています。要するに、株主還元だけを期待する株主に立ち向かっているうちに息切れがきて、いわゆる「瞬間風速経営」の限界が見えてきました。
それは、「瞬間風速」で業績を良く見せて、自分が利益を手にしたらすぐに手放す、いわば「売り抜く資本主義」で、「育てる資本主義」ではありません。そういうことをやっている間にどんどん状況が悪化していった例の一つが東芝の事例だと思います。
─ 日本を代表する東芝がアクティビスト対応、トップ同士の対立などでおかしくなったのは本当に残念です。
寺島 東芝はそうした企業の典型だと思います。瞬間利益最大化経営のような形になって、高く売れる事業をどんどん切り離し、従業員も適正規模に減らしていく。そうやって株価を吊り上げ、株主が喜ぶ方向に持っていったわけです。東芝は最たる例ですが、大なり小なり、多くの日本企業は株主価値最大化経営に陥っています。
日本の中から、いつの間にか産業人という言葉が無くなり、マネーゲーム資本主義の中の気の利いた投資家のようになって、自分で事業をクリエイトしている人が非常に少なくなってしまいました。しかも、このことに気づいている日本人がどれだけいるのでしょうか。
─ マネーゲーム資本主義に陥っているというのは、どういうところで感じますか。
寺島 最近、わたしにとっては非常に不可解な出来事がありました。9月10日から15日にかけて、仏リヨンで技能オリンピック(技能五輪国際大会)が開催され、日本は金メダル5個を獲得しました。銀メダルは5個、銅メダルは4個。合計14のメダルを獲得した日本の青年がいるわけです。それでも、わたしは全紙チェックしましたが、一般紙でそれを報道したところは1つもありませんでした。
一方で同じく、この夏に行われたパリ・オリンピックでは連日、皆が興奮してメダルの獲得を報道していました。わたしが言いたいことは、スポーツのオリンピックと技能オリンピックの世界一というのは価値が違うのか、ということです。
技能オリンピックというと、旋盤工などの技術を競い合っているようなイメージを持っている人が多いかもしれません。ところが、競技職種をよく見てみると、そういったものだけでなく、看護・介護から美容・理容、ビューティーセラピーやレストランサービスなど、様々な競技職種があるのです。
─ 社会を支える各分野から参加して、技能を競っているということですね。
寺島 そうなのです。これらは分かりやすく言うと、「現場力」の象徴です。産業の現場力を支えるために、若い人たちが頑張って、世界で金メダルを取ったことをなぜメディアは報道しないのか? ということです。
野球選手が米メジャーリーグで活躍して1面トップに載るのであれば、産業の現場を支えて歯を食いしばって、世界大会で金メダルをとった人だって、同じように評価してもいいのではないでしょうか?
なぜ、このような差が出てきたのか、というのが、日本の資本主義や日本経済の現状を象徴していると思います。
前回のインタビューで、わたしは「真っ当な資本主義を取り戻せ」と言いました。今はマネーゲームなどの手法ではなく、地道に現場力を鍛えていくことによって、日本の産業力を培っていくことが大事なのだと思います。
続きは本誌で