星野リゾートが米国本土に進出する。同社代表の星野佳路氏がかねてより次なる成長のステージに掲げていたのが米国進出だった。中でも本土に進出することには思い入れがある。
「1980年代にシカゴのホテルで開発を担当していた。当時はバブルの真っ只中。日本のホテル会社は西洋ホテルで米国に進出したが、ことごとく失敗した」と同氏が振り返るように、米国人にとって西洋ホテルは差別化の要素になっていなかった。
それ以来、星野氏の頭の中には「いつか日本の温泉旅館で勝負したい」という思いが芽生えた。それから約40年が経ち、同社は28年に米ニューヨーク州に温泉旅館を開業する。場所はマンハッタンから車で約3時間半の温泉地「シャロン・スプリングス」。日本のホテル会社による温泉旅館の開業は米国初だ。
そもそもシャロン・スプリングスは1800年代中盤にアメリカ先住民が鉱泉を利用したリゾート地として開発された場所でもある。しかも、シャロン・スプリングスの気候は日本と似ており、「冬には雪見の露天風呂、秋には紅葉、春は新緑、夏はかき氷が提供できる」(同)など日本旅館らしさを打ち出せる。
同社が狙う客層は米国を訪問する日本人ではない。現地の米国人だ。北米在住で可処分所得の高い層を視野に入れており、ニューヨークやボストンから車で訪れて2~3泊の滞在をしてもらいたい考えだ。
コロナ禍で厳しい時期を抜け出した日本のホテル会社が海外への展開に力を入れている。西武・プリンスホテルズワールドワイドは米ニューヨークの老舗日系ホテル「ザ・キタノ・ニューヨーク」のオーナーから運営を受託して「ザ・プリンス キタノ ニューヨーク」として再出発。アパグループも米フレンドウェルグループと戦略的業務提携契約を締結するなど、カナダと米国に合計43のホテルをネットワークとして持つ。 星野氏は「当社の強みは(1人が複数の業務をこなす)マルチタスクだ」と強調する。インバウンドが急増し、温泉旅館を体験した米国人が多いのも事実。日本独自の温泉旅館の可能性を追求するためには、ハード面だけでなくソフトの面での独自性も求められることになる。
鳥取三津子・日本航空社長・グループCEO「安全とサービスの2つが私のキャリアそのもの。その中心には常にお客さまがいます」