東電福島原発と同じ炉型の 原発が再稼働するのは初めて
「女川原子力発電所2号機(宮城県)の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)への貢献の観点からも、大きな意義がある」
こう語るのは、東北電力社長の樋口康二郎氏。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・熊野英生の見方「石破茂首相の経済政策」
10月29日、東北電力の女川原発2号機が再稼働した。2011年の東日本大震災で被災した地域で原発が再稼働するのは初めてだ。
女川原発を巡っては、2020年に地元自治体が再稼働に同意。同社は安全対策にこれまで合計5700億円を投じ、今年5月に工事を完了した。2号機の出力は82万5千㌔㍗で、電力の安定供給が期待されている。
ただ、11月3日に原子炉内の中性子を計測する機器を原子炉内に入れる作業中、途中で動かなくなる事象が発生し、作業を中断。原因を調査するため、翌4日に原子炉を停止した。
同社によると、原子炉停止による発電所周辺への放射能の影響はないそうで、「引き続き、安全確保を最優先に、しっかりと対応していく」としている。
発電再開は延期となったものの、女川2号機が再稼働したことの意味は大きい。
東京電力福島第1原発の事故後、国内の原発は全て停止。当時54基あった原発は、これまで21基が廃炉となっている。
【著者に聞く】『エネルギーの地政学』 日本エネルギー経済研究所 専務理事・小山 堅
この間、原子力規制委員会の審査に合格し、再稼働したのは関西電力、九州電力、四国電力の6原発12基。いずれも西日本にある加圧水型軽水炉(PWR)と呼ばれるタイプの原発で、東電福島原発と同じBWRが再稼働するのは今回の女川が初。東日本でも初めてとなる。
経済産業大臣の武藤容治氏は記者会見で、女川原発の再稼働について「東日本における電力供給構造の脆弱性などの観点から非常に重要」と強調した。
日本原子力産業協会理事長の増井秀企氏は「電力の安定供給、カーボンニュートラルの実現、そして、サプライチェーン(供給網)の維持につながると考えている。BWRとPWRでは必ずしも共通のサプライチェーンを持っているわけではないので、BWR側のサプライチェーンの維持・強化という観点からも、女川再稼働の意義はとても大きい」と指摘する。
女川原発は三陸海岸の南端、宮城県の女川町と石巻市に立地している。
東日本大震災時、震源に一番近く、高さ13メートルの津波に襲われた女川原発が無事だったのは、津波の想定を超える14.8メートルの高さに原発を建てたこと。東電の福島原発はそこまでの津波対策は講じておらず、明暗を分けた。東電がコストを重視し、安全対策を疎かにしたと今も批判がつきないのは、そのためだ。
BWRは女川2号機に続いて、中国電力の島根原発2号機(松江市)が2基目の再稼働となる見込み。今後の焦点となるのは、東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原発(新潟県)の行方である。
柏崎刈羽は2017年にBWRとして事故後初めて規制委の審査に合格したが、未だに地元同意を得られていない。
国民の多くが原発に対する不安や電力会社に対する不信感を抱えている中、新潟県知事の花角英世氏は慎重な姿勢。また、先の衆議院選挙では、新潟県の5区全てで原発再稼働に慎重な立憲民主党の候補者が当選しており、地元の同意を得るにはまだ時間がかかりそうだ。
データセンター向けの電力をどう確保するか
2022年度の日本のエネルギー自給率はわずか12.6%。エネルギーの大半を輸入に頼っている。そこへ来て、昨今の資源価格高騰や円安が重荷となり、この2年間で化石燃料の輸入額は22兆円以上も増加。日本は22年度に年間20兆円を超える過去最大の貿易赤字となった。エネルギー自給率を向上させない限り、日本は今後もリスクがつきまとう。
現在、政府ではエネルギー政策の方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」の策定が進んでいる。火力、原子力、再生可能エネルギー、それぞれに長所・短所がある状況下、企業活動や日々の生活に欠かせないエネルギーをどう確保していくか。
前述の増井氏は「(原発を動かすのであれば)長期見通しを明確にしないと、各企業の経営判断に直結する。2050年までに英国では最大24ギガワット、フランスも最大14基の原発を導入することを明記しており、いつまでに、どれくらい必要なのか、基数と時間軸を示してほしい」と、具体的な注文を付けた。
足元では、生成AI(人工知能)の普及によって、世界でデータセンター向けの電力需要は高まるばかり。すでに海外では、発電時にCO2(二酸化炭素)を排出せず、安定した電力供給が可能な原子力に再注目。マイクロソフトやグーグルなどの米IT大手が原子力発電企業と独自にPPA(電力購入契約)を締結する動きも出ている。
日本ではまだこうした動きはないものの、ただでさえ脆弱なエネルギー供給体制をどう構築するかや、急増するデータセンター向けの電力をどう確保するかは、大きな課題だ。
全国の大手電力会社でつくる電気事業連合会会長(中部電力社長)の林欣吾氏は「安定供給、脱炭素、経済安全保障と、多元方程式を解くつもりで解決にあたる。可能性のあるエネルギーは全部確保するくらいの覚悟で取り組む」と語る。
複雑な問題が絡む中での女川原発の再稼働。資源のない日本にとっては再エネも大事、原子力も大事、総合的なエネルギー戦略が求められる。
電事連会長(中部電力社長)・林 欣吾「電力の安定供給と将来的な脱炭素の両立へ、多元方程式を解くつもりであらゆる手段を尽くす!」
「女川原子力発電所2号機(宮城県)の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)への貢献の観点からも、大きな意義がある」
こう語るのは、東北電力社長の樋口康二郎氏。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・熊野英生の見方「石破茂首相の経済政策」
10月29日、東北電力の女川原発2号機が再稼働した。2011年の東日本大震災で被災した地域で原発が再稼働するのは初めてだ。
女川原発を巡っては、2020年に地元自治体が再稼働に同意。同社は安全対策にこれまで合計5700億円を投じ、今年5月に工事を完了した。2号機の出力は82万5千㌔㍗で、電力の安定供給が期待されている。
ただ、11月3日に原子炉内の中性子を計測する機器を原子炉内に入れる作業中、途中で動かなくなる事象が発生し、作業を中断。原因を調査するため、翌4日に原子炉を停止した。
同社によると、原子炉停止による発電所周辺への放射能の影響はないそうで、「引き続き、安全確保を最優先に、しっかりと対応していく」としている。
発電再開は延期となったものの、女川2号機が再稼働したことの意味は大きい。
東京電力福島第1原発の事故後、国内の原発は全て停止。当時54基あった原発は、これまで21基が廃炉となっている。
【著者に聞く】『エネルギーの地政学』 日本エネルギー経済研究所 専務理事・小山 堅
この間、原子力規制委員会の審査に合格し、再稼働したのは関西電力、九州電力、四国電力の6原発12基。いずれも西日本にある加圧水型軽水炉(PWR)と呼ばれるタイプの原発で、東電福島原発と同じBWRが再稼働するのは今回の女川が初。東日本でも初めてとなる。
経済産業大臣の武藤容治氏は記者会見で、女川原発の再稼働について「東日本における電力供給構造の脆弱性などの観点から非常に重要」と強調した。
日本原子力産業協会理事長の増井秀企氏は「電力の安定供給、カーボンニュートラルの実現、そして、サプライチェーン(供給網)の維持につながると考えている。BWRとPWRでは必ずしも共通のサプライチェーンを持っているわけではないので、BWR側のサプライチェーンの維持・強化という観点からも、女川再稼働の意義はとても大きい」と指摘する。
女川原発は三陸海岸の南端、宮城県の女川町と石巻市に立地している。
東日本大震災時、震源に一番近く、高さ13メートルの津波に襲われた女川原発が無事だったのは、津波の想定を超える14.8メートルの高さに原発を建てたこと。東電の福島原発はそこまでの津波対策は講じておらず、明暗を分けた。東電がコストを重視し、安全対策を疎かにしたと今も批判がつきないのは、そのためだ。
BWRは女川2号機に続いて、中国電力の島根原発2号機(松江市)が2基目の再稼働となる見込み。今後の焦点となるのは、東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原発(新潟県)の行方である。
柏崎刈羽は2017年にBWRとして事故後初めて規制委の審査に合格したが、未だに地元同意を得られていない。
国民の多くが原発に対する不安や電力会社に対する不信感を抱えている中、新潟県知事の花角英世氏は慎重な姿勢。また、先の衆議院選挙では、新潟県の5区全てで原発再稼働に慎重な立憲民主党の候補者が当選しており、地元の同意を得るにはまだ時間がかかりそうだ。
データセンター向けの電力をどう確保するか
2022年度の日本のエネルギー自給率はわずか12.6%。エネルギーの大半を輸入に頼っている。そこへ来て、昨今の資源価格高騰や円安が重荷となり、この2年間で化石燃料の輸入額は22兆円以上も増加。日本は22年度に年間20兆円を超える過去最大の貿易赤字となった。エネルギー自給率を向上させない限り、日本は今後もリスクがつきまとう。
現在、政府ではエネルギー政策の方向性を示す「第7次エネルギー基本計画」の策定が進んでいる。火力、原子力、再生可能エネルギー、それぞれに長所・短所がある状況下、企業活動や日々の生活に欠かせないエネルギーをどう確保していくか。
前述の増井氏は「(原発を動かすのであれば)長期見通しを明確にしないと、各企業の経営判断に直結する。2050年までに英国では最大24ギガワット、フランスも最大14基の原発を導入することを明記しており、いつまでに、どれくらい必要なのか、基数と時間軸を示してほしい」と、具体的な注文を付けた。
足元では、生成AI(人工知能)の普及によって、世界でデータセンター向けの電力需要は高まるばかり。すでに海外では、発電時にCO2(二酸化炭素)を排出せず、安定した電力供給が可能な原子力に再注目。マイクロソフトやグーグルなどの米IT大手が原子力発電企業と独自にPPA(電力購入契約)を締結する動きも出ている。
日本ではまだこうした動きはないものの、ただでさえ脆弱なエネルギー供給体制をどう構築するかや、急増するデータセンター向けの電力をどう確保するかは、大きな課題だ。
全国の大手電力会社でつくる電気事業連合会会長(中部電力社長)の林欣吾氏は「安定供給、脱炭素、経済安全保障と、多元方程式を解くつもりで解決にあたる。可能性のあるエネルギーは全部確保するくらいの覚悟で取り組む」と語る。
複雑な問題が絡む中での女川原発の再稼働。資源のない日本にとっては再エネも大事、原子力も大事、総合的なエネルギー戦略が求められる。
電事連会長(中部電力社長)・林 欣吾「電力の安定供給と将来的な脱炭素の両立へ、多元方程式を解くつもりであらゆる手段を尽くす!」