"記憶に残る"ブランドづくり
食品の原材料高が止まらないー。気候変動による異常気象や紛争等の世界情勢により、米や油を始めとした水産・農作物全ての価格が上がり、外食業界は価格転嫁なしには経営が立ち行かない状況が続いた。価格転嫁で売上高は過去最高益でも、客数は減少している企業も少なくない。上がり続ける物価上昇に賃上げが追い付かず、価格転嫁についていけていない顧客が一定数いるということを意味する。その状況下で経営を続けていくには、固定客やリピーター客をいかに多く持てるかが重要な要素だ。
「大切な人を連れて再来店したくなる店をつくりたかった。今回の企画はずっと温めてきた挑戦」と話すのは、ガストなどのファミリーレストランを運営するすかいらーくグループの子会社ニラックス前社長・崎田晴義氏。同社は8月末、青梅街道駅(東京都小平市)から徒歩1分の場所にイタリアンレストラン『ペルティカ』をオープンした。開店後2カ月経過した今、平日昼も110席を埋め尽くし、ドア外には20組以上の行列が並び話題を呼んでいる。
店内はリゾートホテルのような内装で、お手洗いには綿棒などの女性用アメニティも完備、ホテルのような居心地の良さを演出。非日常感のあるお店で平日のお昼はママ友会議にも多く使われている様子だ。
「パスタやピザが食べられる店はどこにでもある。そうではなく店での体験を柱にしたイタリアンをつくった」と崎田氏。同社はこの店で2つの体験を目玉にしている。その体験の中身とは何か。
1つは、最大級12メートルの「インペリアルドリンクバー」。ドリンクバーというシステムは、1992年にすかいらーくのガスト1号店が日本初の導入を開始し、その後多くの飲食店に普及してきた。崎田氏は「ドリンクバーで再びイノベーションを起こしたい」とし、カフェ専門店に負けない食材を使った最上級のドリンクバーを装備。100%ジュースに、コーヒーはこだわりの豆を数種用意し、ペーパーフィルターで淹れる特殊な機械を使用。紅茶も10種類の茶葉が置かれ、全部で45種類以上のドリンクを楽しめる。
しかし経営視点で見れば、原価率が高く、食材の原料高が続いている今、完全に採算が合わないように見える。崎田氏は「そこは食材調達のグループシナジーでカバーする。お客様の記憶に強く残る体験価値を第一に考えている」と話す。
2つ目は、顧客のテーブルで行う体験と、ワゴンサービスだ。顧客が自身のテーブルでジェノベーゼパスタのバジルのすりおろしソースをつくり、キッチンで再調理するという体験や、店員を呼びハンバーグの残ったソースに米とチーズを入れその場でリゾットをつくるサービスを行う。
こうした店での料理への参加を通して顧客の五感を刺激し、より記憶に残る体験を顧客にしてもらうことをねらいとしている。外食企業では人手不足が蔓延しているが、「全体の負荷はそこまで高くない。グループではコロナ禍にタッチパネルオーダーや配膳ロボットの全店配置などDX化を積極的に進めてきた。ここで捻出したスタッフの時間を顧客に再投資する」(同氏)ということだ。同社は価格とのバランスの中で、許される限り顧客の体験価値を最大化させ、リピーターを生むことに注力する戦略を採用していこうとしている。
"お値打ち感"ある価格設計
新業態イタリアン・ペルティカはメニューと価格の設計がガスト等とは異なる。メニューは先述のインペリアルドリンクバーがついた3つのコースから選択制で税込1649円(平日)〜となり、メインとサラダ、フォカッチャ、スープ(おかわり自由)が基本。価格ごとに食べ放題のものや品数などが増えグレードアップされる。店内オペレーション効率化の面でメニューを絞り、働く側のスタッフに余裕を生む仕組みを構築している。
ガストのドリンクバーは食事とセットで頼む場合、税込270円〜370円。サイゼリヤで180円、ロイヤルホストで308円〜440円、一般的なファミレスタイプのドリンクバーは400円前後が平均である。今回ペルティカでのドリンクバーはコース料金に内包されているが、単品価格では税込1100円と高い設定。国内では最高級のドリンクバーである。コースに加えて店頭に並んでいるデザートを頼む客が多いということから、客単価はおおよそ2000円を超えると予想され、すかいらーくグループの中では高単価帯の部類に入るブランドとなる。「日本にあるイタリアンレストランはパスタを500円で出す店もあれば2000円で出す店もある。その中で、われわれは高品質の食事を提供する店として市場価格の半値で提供する価格設定をした」(同氏)と、2000円程度でドリンク込のコース料理が食べられる中価格帯で勝負する戦略。
今後の出店は、ロードサイドの店で経営基盤を固めてから2025年以降徐々に増やしていく計画で、同グループのガストやジョナサンが混み合っているエリアで他業態のイタリアンを投入し、カニバリを解消したい考え。
長らく続く物価高で節約志向は根強く安いものを求める層もある一方で、価格が高くても価値あるものにはお金を惜しまない層もある。二極化が進む中で改めて"中間層"を狙うニラックスの戦略に注目が集まる。
食品の原材料高が止まらないー。気候変動による異常気象や紛争等の世界情勢により、米や油を始めとした水産・農作物全ての価格が上がり、外食業界は価格転嫁なしには経営が立ち行かない状況が続いた。価格転嫁で売上高は過去最高益でも、客数は減少している企業も少なくない。上がり続ける物価上昇に賃上げが追い付かず、価格転嫁についていけていない顧客が一定数いるということを意味する。その状況下で経営を続けていくには、固定客やリピーター客をいかに多く持てるかが重要な要素だ。
「大切な人を連れて再来店したくなる店をつくりたかった。今回の企画はずっと温めてきた挑戦」と話すのは、ガストなどのファミリーレストランを運営するすかいらーくグループの子会社ニラックス前社長・崎田晴義氏。同社は8月末、青梅街道駅(東京都小平市)から徒歩1分の場所にイタリアンレストラン『ペルティカ』をオープンした。開店後2カ月経過した今、平日昼も110席を埋め尽くし、ドア外には20組以上の行列が並び話題を呼んでいる。
店内はリゾートホテルのような内装で、お手洗いには綿棒などの女性用アメニティも完備、ホテルのような居心地の良さを演出。非日常感のあるお店で平日のお昼はママ友会議にも多く使われている様子だ。
「パスタやピザが食べられる店はどこにでもある。そうではなく店での体験を柱にしたイタリアンをつくった」と崎田氏。同社はこの店で2つの体験を目玉にしている。その体験の中身とは何か。
1つは、最大級12メートルの「インペリアルドリンクバー」。ドリンクバーというシステムは、1992年にすかいらーくのガスト1号店が日本初の導入を開始し、その後多くの飲食店に普及してきた。崎田氏は「ドリンクバーで再びイノベーションを起こしたい」とし、カフェ専門店に負けない食材を使った最上級のドリンクバーを装備。100%ジュースに、コーヒーはこだわりの豆を数種用意し、ペーパーフィルターで淹れる特殊な機械を使用。紅茶も10種類の茶葉が置かれ、全部で45種類以上のドリンクを楽しめる。
しかし経営視点で見れば、原価率が高く、食材の原料高が続いている今、完全に採算が合わないように見える。崎田氏は「そこは食材調達のグループシナジーでカバーする。お客様の記憶に強く残る体験価値を第一に考えている」と話す。
2つ目は、顧客のテーブルで行う体験と、ワゴンサービスだ。顧客が自身のテーブルでジェノベーゼパスタのバジルのすりおろしソースをつくり、キッチンで再調理するという体験や、店員を呼びハンバーグの残ったソースに米とチーズを入れその場でリゾットをつくるサービスを行う。
こうした店での料理への参加を通して顧客の五感を刺激し、より記憶に残る体験を顧客にしてもらうことをねらいとしている。外食企業では人手不足が蔓延しているが、「全体の負荷はそこまで高くない。グループではコロナ禍にタッチパネルオーダーや配膳ロボットの全店配置などDX化を積極的に進めてきた。ここで捻出したスタッフの時間を顧客に再投資する」(同氏)ということだ。同社は価格とのバランスの中で、許される限り顧客の体験価値を最大化させ、リピーターを生むことに注力する戦略を採用していこうとしている。
"お値打ち感"ある価格設計
新業態イタリアン・ペルティカはメニューと価格の設計がガスト等とは異なる。メニューは先述のインペリアルドリンクバーがついた3つのコースから選択制で税込1649円(平日)〜となり、メインとサラダ、フォカッチャ、スープ(おかわり自由)が基本。価格ごとに食べ放題のものや品数などが増えグレードアップされる。店内オペレーション効率化の面でメニューを絞り、働く側のスタッフに余裕を生む仕組みを構築している。
ガストのドリンクバーは食事とセットで頼む場合、税込270円〜370円。サイゼリヤで180円、ロイヤルホストで308円〜440円、一般的なファミレスタイプのドリンクバーは400円前後が平均である。今回ペルティカでのドリンクバーはコース料金に内包されているが、単品価格では税込1100円と高い設定。国内では最高級のドリンクバーである。コースに加えて店頭に並んでいるデザートを頼む客が多いということから、客単価はおおよそ2000円を超えると予想され、すかいらーくグループの中では高単価帯の部類に入るブランドとなる。「日本にあるイタリアンレストランはパスタを500円で出す店もあれば2000円で出す店もある。その中で、われわれは高品質の食事を提供する店として市場価格の半値で提供する価格設定をした」(同氏)と、2000円程度でドリンク込のコース料理が食べられる中価格帯で勝負する戦略。
今後の出店は、ロードサイドの店で経営基盤を固めてから2025年以降徐々に増やしていく計画で、同グループのガストやジョナサンが混み合っているエリアで他業態のイタリアンを投入し、カニバリを解消したい考え。
長らく続く物価高で節約志向は根強く安いものを求める層もある一方で、価格が高くても価値あるものにはお金を惜しまない層もある。二極化が進む中で改めて"中間層"を狙うニラックスの戦略に注目が集まる。