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陶芸家・池端寛「『現代の化石』をテーマに陶芸の新たな可能性を追求」

財界オンライン 2024年12月21日 11時30分

私は1974年に長野県小海町に穴窯を築いて以来、陶芸に打ち込んできました。ただ、ある時期から、伝統的な焼き物、陶芸を続けることに疑問を抱き始めたのです。どうしても伝統的技法のコピーになりがちでしたが、もっとオリジナリティを持った焼き物ができないか?と考えるようになったのです。

 そんなことを考えていた時、新たな作風の焼き物を1999年にイタリアで開催された第51回国際現代陶芸展に出品したところ、大統領賞を受賞することができました。「これならば行ける」と考えて、作風を変えることにしました。

 導入したのは「研磨」です。作成にはレーザーカッターも使うようになるなど、今までにない陶芸のアプローチを展開するようになったのです。そうして作品をつくっていると、改めて陶芸が面白くなってきました。

 陶芸だけに限りませんが、世の中のものは全て、新陳代謝をしていかなければ変わりません。伝統を守ることも大事ですが、少しでもいいので、変化を求めていくことも、また大事だと思うのです。

 陶芸の技法は16世紀の中国でほぼ完成しており、現在の陶芸作品は、そのバリエーションが展開されていると言っていい状況です。ですから私は、そうした世界にあって「21世紀の焼き物」を目指したいという思いを持ち、作品づくりに取り組んできました。

 研磨を取り入れたのは、焼き物が「石」とオーバーラップすると考えたからです。レーザーカッターの導入で、作品によりシャープな線を出せるようになりました。

 作品に掲げたテーマが「現代の化石」です。私は現代の化石として今、つくることができるのは陶芸しかないのではないかと考えています。当たり前ですが、金属は化石にはなりません。

 焼き物は、釜で焼くことで火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)のようなものになります。そこに現代のものを印字していくことを思いつきました。DNAの二重らせんや、アインシュタインの相対性理論の方程式、フィボナッチ数列(1から始めて前の数字を加算していく数列)などを印字しています。何十万年か先の人々が土の中から、これらの化石を掘り出した時、発見してどう感じるだろうか?と考えながら制作していると楽しくなります。

 私は元々、青山学院大学理工学部物理科学科を卒業して、ある商社に勤めたのですが、サラリーマンは性に合わないと感じて退社しました。「伊賀焼」の焼き物に出会って感激したことで、陶芸の道で生きていくことを決めたのです。

 ただ、私の作品はありがたいことに海外では高い評価を得ることができた一方、国内では不思議なくらい反応がありませんでした。長年、陶芸に打ち込んできましたが、自分の作品に対して確信めいたものを持ったことはありません。私の作品を評価して下さる方々に支えていただいて今があります。
 新しい時代には新しい作品が必要です。経営者の方々にもぜひ、作品に触れていただけるとありがたいですね。

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