生まれ変わる年に
2025年(令和7年)は巳年。干支で言う巳はヘビであり、"脱皮の年"。古い皮、古い殻を脱ぎ捨て、新しい成長を遂げる年に、ぜひ持っていきたいものだ。
ヘビの生き方を連想してか、巳年生まれの人は執着心が強く、一度決めた事は粘り強くやり続けるとされる。
ヘビは知恵の象徴ともされ、新年は沈着冷静、かつ激しい環境の変化にも臨機応変に生き抜くことを大事にしていきたいものだ。
ウクライナ戦争は続き、ロシアが侵攻を開始して3年目を迎える。憎しみ合いは、簡単には消えない。
イスラエルとイスラム軍事組織ヒズボラとの停戦が2024年11月下旬に当事者間で合意がされたが、イスラエル南部のガザ地区では、同じくイスラム軍事組織ハマスとの戦闘が今なお続く。
先行き不透明で、いつ何が起きるか分からない緊張感と同時に、不安感が漂う。
しかし、先日、弊誌恒例の新年ワイド座談会を開催したところ、各領域の経営トップは、「経営の原点に立ち返って、自分たちの使命とは何かを考えて、仕事の付加価値を高めていきたい」と意気軒昂な声が多く聞かれた。
筆者(村田)も司会をしながら、その士気の高さに啓発され、「本当に頼もしい」と感じた。
モノづくりの真髄を…
「モノづくりの真髄を極めていく」と付加価値の高い事業構築を語るのは、東レ会長の日覺昭廣さん。素材産業の雄として、ナノ(1メートルの10億分の1の単位)レベルでの製品づくりの追求が続く。研究開発者も生産現場も、夢や希望を持って、決して諦めず、「社会のために役立つモノづくりを」ーという姿勢である。
三菱総合研究所理事長の小宮山宏さん(東京大学元総長)からは、「日本は強いモノづくりを志向し続けることが大事」という話をいただいた。
DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)領域を支える半導体づくりで、日本は後塵を拝する結果を招いたが、「レジストなど、半導体製造に欠かせない基盤素材は、日本の得意分野。他国が真似できない水準のモノづくりをだし、自信を持って臨むべきです」と小宮山さんは語る。
レジストー。樹脂(ポリマー)や感光剤、添加剤、溶剤を主成分とする混合物で、半導体関連の基盤素材づくりで日本企業の存在感は高い。
不確定要素が多く、環境変化が激しい中を生き抜くには、企業、個人とも、自らの基本軸を固め、自らの存在意義とは何かを追求し続けることが大事だ。
使命感と覚悟が…
米国では、D・トランプ氏が新年1月に大統領に就任する。米国第一主義を掲げ、他国からの輸入品に対する関税を引き上げることを打ち出しており、その政策は保護貿易主義に近い。
関税引き上げ合戦になると、貿易は縮小し、コストや価格の高い国産品の使用比率が高まれば、インフレが進むことにもなる。
トランプ氏は、国内の不平・不満を持つ層の思いを引き受ける形で、再び大統領に就任するわけだが、インフレが高進し、結果的に雇用が失われるような事態を招きかねない。
そうした場合、トランプ氏の支持層の間で、氏に対する失望が生まれる可能性もある。そうなれば、「トランプ氏も合理的に動かざるを得ないと悟る場面も出てくるだろう」という予測もある。
もっとも、持論を貫き通すという氏の性格からして、甘い状況は生まれにくいという予測のほうが強い。リーダーには、波乱の中を生き抜く覚悟と使命が求められるのだと思う。
ユニクロ・柳井さんの信念
『ユニクロ』のファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんは、米中対立の時代にあって、「米国の事業にも、中国の事業にも、共に力を入れていく」と語る。
敵か味方かと世界を二分するのではなく、両者をつなぐ発想や生き方が今、求められているのだと思う。経済人にも、つなぐ役割が求められる。
柳井さんは、日本の"失われた30年"という逆境の中、『ユニクロ』を成長させてきた。
繊維産業は一般的に衰退産業とされてきたが、デフレ下にあって事業を成長・発展させてきた。 本誌の『新年ワイド座談会』でも、『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』という創業からの基本姿勢を「追求し続けます」と力説しておられた。
基本軸のしっかりした企業は、逆境下でも、しぶとく、かつ強い。
1984年(昭和59年)、広島に『ユニクロ』1号店をオープンして40年余。自らの事業で『製造小売業』(SPA)を創り出し、DX・AI時代を迎えて『情報製造小売業』に進化させてこられた。
先行き不透明で、激しく変わる環境下で事業の進化が続く。
三井化学の事業構造改革
社会と共に生き、社会にどう貢献していくかーという命題はいつの時代でも求められること。
混沌とした状況下、経営の基礎体力を付けていこうと、事業構造改革を進めている三井化学社長の橋本修さん(1963年10月生まれ)。これまで主要業務だったBGM(石油化学関連を含むベーシック&グリーン・マテリアルズ)領域の構造改革を進めてきた結果、ROE(自己資本利益率)の向上など、成果が出始めた。
成長領域のモビリティ(自動車関連)、ICT(情報通信技術)、ライフ&ヘルスケアの3つの分野で、「今後、収益力を加速させていきたい」と橋本さん。自分たちの得意技を磨きながら、パートナーとの提携で、「社会に役立つ仕事を進めていきたい」とする。
キーワードは、企業と企業、人と人を"つなぐ"ということだ。
慶應義塾の人づくり
人材育成(人づくり)を担う大学もまた、変革の時を迎えている。2021年春、慶應義塾長に就任した伊藤公平さん(1965年=昭和40年生まれ)は、コロナ禍3年半の経験を踏まえて、「学生たちが前向きになり、生き生きとしている姿を見るのが一番嬉しい」と語る。
中教審(中央教育審議会)や日本私学連盟などの活動を通じて、日本全体の教育の質の向上のために、さまざまな課題に向き合い変革気運を巻き起こす行動をされておられる。
開学の祖・福澤諭吉が義塾を開いたのは江戸末期(1858)で、以来166年が経つ。
『躬行実践』ー。福澤は、1人ひとりが身をもって努力し、目的遂行に向けて実践していくことが大事と説いた。「基本になるのはやはり独立自尊です」と伊藤さん。社会全体が幸せになれるような行動をしていく人材づくりが大事という考えである。
2025年(令和7年)は巳年。干支で言う巳はヘビであり、"脱皮の年"。古い皮、古い殻を脱ぎ捨て、新しい成長を遂げる年に、ぜひ持っていきたいものだ。
ヘビの生き方を連想してか、巳年生まれの人は執着心が強く、一度決めた事は粘り強くやり続けるとされる。
ヘビは知恵の象徴ともされ、新年は沈着冷静、かつ激しい環境の変化にも臨機応変に生き抜くことを大事にしていきたいものだ。
ウクライナ戦争は続き、ロシアが侵攻を開始して3年目を迎える。憎しみ合いは、簡単には消えない。
イスラエルとイスラム軍事組織ヒズボラとの停戦が2024年11月下旬に当事者間で合意がされたが、イスラエル南部のガザ地区では、同じくイスラム軍事組織ハマスとの戦闘が今なお続く。
先行き不透明で、いつ何が起きるか分からない緊張感と同時に、不安感が漂う。
しかし、先日、弊誌恒例の新年ワイド座談会を開催したところ、各領域の経営トップは、「経営の原点に立ち返って、自分たちの使命とは何かを考えて、仕事の付加価値を高めていきたい」と意気軒昂な声が多く聞かれた。
筆者(村田)も司会をしながら、その士気の高さに啓発され、「本当に頼もしい」と感じた。
モノづくりの真髄を…
「モノづくりの真髄を極めていく」と付加価値の高い事業構築を語るのは、東レ会長の日覺昭廣さん。素材産業の雄として、ナノ(1メートルの10億分の1の単位)レベルでの製品づくりの追求が続く。研究開発者も生産現場も、夢や希望を持って、決して諦めず、「社会のために役立つモノづくりを」ーという姿勢である。
三菱総合研究所理事長の小宮山宏さん(東京大学元総長)からは、「日本は強いモノづくりを志向し続けることが大事」という話をいただいた。
DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人工知能)領域を支える半導体づくりで、日本は後塵を拝する結果を招いたが、「レジストなど、半導体製造に欠かせない基盤素材は、日本の得意分野。他国が真似できない水準のモノづくりをだし、自信を持って臨むべきです」と小宮山さんは語る。
レジストー。樹脂(ポリマー)や感光剤、添加剤、溶剤を主成分とする混合物で、半導体関連の基盤素材づくりで日本企業の存在感は高い。
不確定要素が多く、環境変化が激しい中を生き抜くには、企業、個人とも、自らの基本軸を固め、自らの存在意義とは何かを追求し続けることが大事だ。
使命感と覚悟が…
米国では、D・トランプ氏が新年1月に大統領に就任する。米国第一主義を掲げ、他国からの輸入品に対する関税を引き上げることを打ち出しており、その政策は保護貿易主義に近い。
関税引き上げ合戦になると、貿易は縮小し、コストや価格の高い国産品の使用比率が高まれば、インフレが進むことにもなる。
トランプ氏は、国内の不平・不満を持つ層の思いを引き受ける形で、再び大統領に就任するわけだが、インフレが高進し、結果的に雇用が失われるような事態を招きかねない。
そうした場合、トランプ氏の支持層の間で、氏に対する失望が生まれる可能性もある。そうなれば、「トランプ氏も合理的に動かざるを得ないと悟る場面も出てくるだろう」という予測もある。
もっとも、持論を貫き通すという氏の性格からして、甘い状況は生まれにくいという予測のほうが強い。リーダーには、波乱の中を生き抜く覚悟と使命が求められるのだと思う。
ユニクロ・柳井さんの信念
『ユニクロ』のファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さんは、米中対立の時代にあって、「米国の事業にも、中国の事業にも、共に力を入れていく」と語る。
敵か味方かと世界を二分するのではなく、両者をつなぐ発想や生き方が今、求められているのだと思う。経済人にも、つなぐ役割が求められる。
柳井さんは、日本の"失われた30年"という逆境の中、『ユニクロ』を成長させてきた。
繊維産業は一般的に衰退産業とされてきたが、デフレ下にあって事業を成長・発展させてきた。 本誌の『新年ワイド座談会』でも、『服を変え、常識を変え、世界を変えていく』という創業からの基本姿勢を「追求し続けます」と力説しておられた。
基本軸のしっかりした企業は、逆境下でも、しぶとく、かつ強い。
1984年(昭和59年)、広島に『ユニクロ』1号店をオープンして40年余。自らの事業で『製造小売業』(SPA)を創り出し、DX・AI時代を迎えて『情報製造小売業』に進化させてこられた。
先行き不透明で、激しく変わる環境下で事業の進化が続く。
三井化学の事業構造改革
社会と共に生き、社会にどう貢献していくかーという命題はいつの時代でも求められること。
混沌とした状況下、経営の基礎体力を付けていこうと、事業構造改革を進めている三井化学社長の橋本修さん(1963年10月生まれ)。これまで主要業務だったBGM(石油化学関連を含むベーシック&グリーン・マテリアルズ)領域の構造改革を進めてきた結果、ROE(自己資本利益率)の向上など、成果が出始めた。
成長領域のモビリティ(自動車関連)、ICT(情報通信技術)、ライフ&ヘルスケアの3つの分野で、「今後、収益力を加速させていきたい」と橋本さん。自分たちの得意技を磨きながら、パートナーとの提携で、「社会に役立つ仕事を進めていきたい」とする。
キーワードは、企業と企業、人と人を"つなぐ"ということだ。
慶應義塾の人づくり
人材育成(人づくり)を担う大学もまた、変革の時を迎えている。2021年春、慶應義塾長に就任した伊藤公平さん(1965年=昭和40年生まれ)は、コロナ禍3年半の経験を踏まえて、「学生たちが前向きになり、生き生きとしている姿を見るのが一番嬉しい」と語る。
中教審(中央教育審議会)や日本私学連盟などの活動を通じて、日本全体の教育の質の向上のために、さまざまな課題に向き合い変革気運を巻き起こす行動をされておられる。
開学の祖・福澤諭吉が義塾を開いたのは江戸末期(1858)で、以来166年が経つ。
『躬行実践』ー。福澤は、1人ひとりが身をもって努力し、目的遂行に向けて実践していくことが大事と説いた。「基本になるのはやはり独立自尊です」と伊藤さん。社会全体が幸せになれるような行動をしていく人材づくりが大事という考えである。